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キラキラヒカル 2(前編)  作者: 大野竹輪
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キラキラヒカル 2 (前編)

「キラキラヒカル 2」


〇もくじ


第1話 ~ 第16話 (前編では第10話まで)

登場人物一覧

MAP


〇配役(次のように決められますとさらに面白くなります。)


明星光・・・あなたの好きな男優

三鳥礼子・・・あなたの好きな女優

マチコ・・・マツコデラックス

今野豊・・・松田翔太

鳥飼麗子・・・江角マキコ

上田ユキ・・・近藤春菜

森本さつき・・・箕輪はるか

山中良男・・・天野ひろゆき

小袋花袋・・・林修

権藤博文・・・やくみつる

清水若菜・・・壇蜜

大野竹輪・・・大野智



原作: 大野竹輪



―― 光からのショートメッセージ


光「この話はオレのサクセスストーリーのはずじゃなかったのかな?」

作者「光を取り巻くクラスの仲間を中心にした人間全体の様々なつながりのお話です。」

光「え、じゃあオレの存在はどうなるの?」

作者「あなたもその仲間に入っています。」

光「うん??・・・じゃあいいのか。」

>>わかってんのかな?



第1話


ここは東京近郊のとある高級住宅地の一つにほぼ近いところである。

そしてここは風光明媚なことでとりわけ人気の高い駿河台地区。


北には小高い自然の山々が一望でき、またその周辺には新緑に満ち溢れた大小さまざな木々があちこちに見え隠れ、東から西へと目を動かすに従ってなだらかなスロープのある道路の白いガードレールがわずかに見ることもできる、そんなとても自然環境の良い、その上景観もみごとな場所でこの街の人々は駿河台緑地公園と呼んでいる。


そして地区のほぼ中央に位置するのがヨーロッパから取り入れ近代風に設計された駿河台公園があり、そしてそこから約2キロメートルほど離れたところにある南高針地区。


中央には南高針小学校と南高針公園があり、そのすぐ西に一際目立つ花園学園大附属中学と高校がある。ここは常に一貫教育を目指し、早くから幼稚園と小学校も併設されていたのであった。



今日は晴天に恵まれた清々しいそんな日和の入学式の当日、高校の門を次々とくぐる親子や教職員を気にもせずに1台のダークブルーのベンツが割り込むようにして入ってきた。


やがてベンツは1階入り口の駐車場にゆっくりと止まり、そこから光と母親が召使2人に続いて車から降りてきた。

母親はかなりの有名女優でこの近所でも知らない人はまずいないだろう。

周りの人たちは一斉に彼女に注目する。


勿論彼女の衣装はこの日だけの特注、年齢には似ても似つかぬピンクのワンピースにフリルが付いていてさらにサマンサタバサのラメの入った少し大きめのバッグ、グッチのブレスにはブランドが何なのかわからないがとにかく宝石がちりばめられている。

説明しだしたらきりが無いがその他いろいろなブランドに全身が包まれていた。


そして母親は気取りながら会場となる講堂に向かってゆっくりとまるでお姫様のように歩いていた。

その後を蝶ネクタイに紺のブレザー、少し大きめのスラックスを身にまとった光が周りを気にしながら、自らは全身固まりながらついて行く。

さらに付き人が2人、左右にぴたりとくっ付いて歩いていたのである。



翌日の授業初日。

A2クラスには、鳥飼麗子、小柳昌子、五十嵐桃子、上田ユキ、森本さつき、三角四郎、西堀源太がいた。

担任の教師が時間丁度にゆっくりとした歩き方で教室に入ってきた。


教師「はい、みなさんそれぞれ席に着いてください。」


ゆっくりとした言い回しが彼の特徴だった。やがて生徒が席に着いた。


教師「私はこのA2クラスを担任する権藤です。よろしく。」


権藤博文教師は中肉中背の縦紺のスーツが似合うもっと若ければけっこうイケメンの紳士だった。

生徒たちは一斉に権藤の顔一点に注目した。


権藤「な、なんだか集中照射を受けてるみたいな・・・」


生徒たちは皆笑い始めた。権藤はクラスを見渡して、


権藤「しかし、このクラスは女子の方がかなり多いな。」


確かにそうだった。

およそ男子の倍くらいの数の女子が座っていた。

権藤は数枚の印刷されたわら半紙を生徒たちに配った。


権藤「今日は皆さんの顔見せくらいで特に何もないので、次のホームルームまでまだ40分以上ありますから、自分の席で静かにしていてください。」


そのとき1人の生徒が、


ユキ「先生トイレに行ってもいいですか?」


権藤はユキの方を見て軽くうなずいて、


権藤「はいどうぞ。」


それを聞いた女子生徒が6、7人ぞろぞろとトイレに行った。



こちらは女子トイレの前の洗面所。ユキとさつきが髪を整えていた。


ユキ「あの先生さ、もうちょっと若いとチョーかっこいいけどね。」

さつき「ほんとね。ネクタイは変えた方がいいわ。完全に流行遅れって感じ・・・」


そんな2人の横に割り込んでやってきたのは麗子だった。


麗子「ちょっといい?」


ユキは振り返って、


ユキ「あ、どうぞ。」


ユキが自分の洗面の場所を空けた。

麗子は手を洗ってすぐに教室に戻って行った。


さつき「何あの気取り方・・・」

ユキ「うーん、ちょっとついていけないね。」

さつき「今日が初対面だよ。まったく。」

ユキ「挨拶くらいしてよね。」


ちなみにこの2人、上田ユキと森本さつきは同じ東園山中学の同級生だった。



一方こちらはA2クラス。

権藤は教室の扉側の壁にB4サイズの大きなクラスの集合写真を壁になじむようにしっかりと貼り付けた。


そして教壇に戻った。

すると多くの生徒たちが、その写真を見るためにその傍にドヤドヤと集まった。


権藤「そんなに集まると・・・まあずっと貼っておきますから。」


生徒たちは写真を見ながら口々に喋っていた。

権藤は教壇横の椅子に座っていた。


麗子が教室に戻ってきて席についた。


麗子「先生。先生はどちらの出身ですか?」


急に麗子が単刀直入に権藤に尋ねた。


権藤「あ、私の紹介は今さっき配った紙にありますので・・・」


権藤はそう言いながら、さっき配ったわら半紙を手に持った。

麗子は面倒くさそうにわら半紙をめくっていた。


桃子「しっかり書いてあるじゃん。」


五十嵐桃子はちょっと嫌味たらしく聞こえるように言った。

それを聞いてた麗子は桃子を眺めながらちょっとムッとした様子だった。


わら半紙には権藤のプロフィールやら、職歴やら、この高校でのこれまでの出来事など、かなり詳しく書いてあった。

そんなとき隣のA1クラスで拍手する音が聞こえた。



やがて1限目が終わり、休憩時間になった。

権藤はひとまず職員室に戻って行った。


するとすぐに隣のクラスから光が、教室の扉をさーっと開けてみんなに向かって一言、


光「よ!」


本人はポーズも決まったと思ったようだ。

が、一瞬A2クラスの生徒は彼を見たのだが、すぐに元の状態に戻り再び誰も彼の方を見ようとしなかった。

A2クラスの生徒はまだそれぞれ名前も知らないはずだったが、光だけは皆に知られていた。


光が中に入ってきた。


桃子「おはよう、光。」


ただ1人返事をしたのは五十嵐桃子だった。

光はすぐに五十嵐のところに近づいて、


光「お、ひさしぶり。」

桃子「ひさしぶりって、中学の卒業式一緒だったじゃん。」

光「その時からだいぶ経つじゃん。」

桃子「1ヶ月も経ってないけど。」


桃子は自分の髪を片手で軽く撫でながら、かなり呆れていた。

五十嵐桃子は光と同じ花園学園附属中学の同級生だった。



やがて2限目になった。

権藤が束になったプリントを小脇に抱えて教室に戻ってきた。

彼はまた数枚のプリントを配った。


権藤「まずプリントの1枚目ですが、これはクラブ紹介です。ここに載せてあるクラブのどれかに1つ入ってください。入部に期限はありません。」

桃子「じゃ、3年生の3月のときでもいいですか?」


数人の生徒が笑った。

権藤は困った様子で、


権藤「うーん・・・」

麗子「まったく常識ってもんがあるだろうが・・・」


悩む権藤であった。

そして麗子の方は下を向きながら小声でつぶやいていたのだった。


権藤「まあ、夏休みまでにはどこかに決めてください。あと、文化部と運動部の掛け持ちは可能です。」


生徒たちは『クラブ紹介』プリントを見ていた。


少し間が空いて、


権藤「では次に皆さん1人1人順番に、自己紹介をしてもらいます。」


こうして自己紹介が始まった。


桃子「五十嵐桃子と言います。趣味は歌を歌うことと、ケーキを食べること。中学の時は体操部でした。できたら将来は歌手になりたいです。」

ユキ「上田ユキです。中学はテニス部でした。趣味は・・・」

昌子「小柳昌子です。趣味は絵を描くことです。コミックをたくさん読んでます。」

麗子「鳥飼麗子です。趣味は・・・」

さつき「森本さつきと言います。中学はテニス部でした。趣味は・・・」

三角「三角四郎と言います。自然が好きで時々駿河台緑地に散歩に出かけたりします。よく見晴台から街を眺めたりもします。将来は高齢者介護施設で働きたいと思っています。」

西堀「西堀源太です。計算が得意です。将来は会計士になりたいと思っています。レモンソーダが好きです。」


女子の数人から笑いが起こった。


・・・・・・


権藤「では次にクラス委員長を決めたいと思います。さっき配ったプリントの中に小さい紙があったと思います。これですね。」


権藤はそう言って、右手に小さな投票用紙を持ってクラスの皆に見せた。


権藤「この紙に1人名前を書いて、この投票箱に入れてください。今から5分でお願いします。」


こうして5分間、少しはざわついたがようやく投票が終わった。

権藤は箱から1枚ずつ出して、黒板に名前を書いて行った。さらに複数票は正の字で書き加えて行った。

権藤が書くたびにクラスに軽いどよめきが起こったのであった。


やがて、


権藤「はいでは投票の結果、クラス委員長には五十嵐桃子さんになってもらいます。」


クラス全員が拍手をした。


権藤「もうひとつお話があります。」

全員「えー!」


生徒たちは早く終わることを願っていた。


権藤「すぐに終わりますよ。」


権藤は生徒に優しく語りかけながら、


権藤「君たちは今自分の約3年後を想像してみましょう。そしてその自分に熱いメッセージを贈ろうと思います。そしてそのメッセージを集めて卒業アルバムとは別に『過去みらいからのメッセージ集』を作ります。」


そう言いながら、見本を手に持って、


権藤「今から見本を回すので、見てください。」


生徒たちはガヤガヤ騒ぎながら、


さつき「なんかおもしろそうね。」

ユキ「表紙は先生の似顔絵じゃん。」

さつき「それチョーうける。」

権藤「自分は卒業の時にはいったいどうなっているんでしょうか?それを想像して、その自分に熱く強い印象に残るようなメッセージを考えましょう。来週の金曜日に集めます。」


やがてチャイムが鳴り、生徒たちは教室扉の横に積まれた教科書の束を1人ずつ順番に持って帰って行ったのである。

なお付け加えるが、昌子は黙々と自分の席で紙にイラストを描き続けていたのであった。




第2話 


翌日(授業2日目)のA2クラスの朝礼でクラスの副委員長にジャンケンで負けた森本さつきが決まった。

>>余計かもしれないが、この高校では副委員長はいつもジャンケンで決めるそうです。


4限目のホームルームでは、これといってすることがなかったのか自習になった。

権藤が教室から出ようとしたとき、


桃子「先生、すいません。」

権藤「どうした五十嵐。」

桃子「この制服のジャケットですが、教室では脱いではだめでしょうか?」

権藤「教室の中なら問題ないと思います。みんなで決めてください。」


こうして桃子の提案は女子生徒全員と多くの男子が賛成して、決まったのである。



この日は授業は昼までだった。

A2クラスの生徒は皆一目散に帰って行った。

そのためか、A1クラスの放送事件(『キラキラヒカル1』参照)を知るものがいなかったのであった。



翌日(授業3日目)のA2クラス。

授業が始まる前、ユキとさつきが教室の後ろにある個人のローカーにジャケットをしまっていた。


隣のA1クラスから、「余計なお世話よ!」という大きな声が聞こえてきた。

ユキと親友のさつきが2人で話していた。


ユキ「何々なんか騒いでいるよ、となりのクラス。」

さつき「あー、昨日さ放課後にちょっとした事件があったのよ。」

ユキ「事件?」

さつき「1クラスの黒木夏美さんが同じクラスの吉永君にお尻を触られたんですって。」

ユキ「へえー、やるじゃん。」

さつき「それがね、実は触ったんじゃ無くて、当たっただけだって吉永君が言ってるらしいわよ。」

ユキ「ややこしい。中途半端に触らずに、しっかり触ってやればいいじゃん!」

さつき「そ、それは・・・おお恐。」

>>ほんと恐いわ。


さつき「放送室での出来事でさ、マイクを通じて校内に流れたのよ。悲鳴がね。」

ユキ「あー、それは聞きたかったなあ。」

さつき「そ、そんなもんかあ・・・」

>>ほんと、どっちの味方じゃ!


ユキ「さっそく有名カップル誕生ってか!」

さつき「ちょっとついていけない・・・私。」


さつきはユキのひょうきんさにいささか困っていた。

さつきは登校した朝、トイレの前の洗面所でA1クラスの女子が事件のうわさをしているのを聞いていたのであった。



1限目はクラス担任の数学だった。


権藤「あらあら、皆カラフルですねぇ。」


確かにそうだった。

女子が多いのもさることながら、皆見せたがりのような、まるでブラウスのファッションショーかとも思われた。

権藤は昨日クラスで決めた桃子の提案を許した事を、ちょっとながら後悔していた。

特に目立ったのが麗子だった。

制服のブラウスの前のボタンを平気で3つ開けて、まるでVカットのドレス張りだったのである。

まあ、男子生徒たちは皆喜んでいたのだが・・・



休憩時間になった。

するとすぐに隣のクラスから光が、教室の扉をさーっと開けてみんなに向かって一言、


光「よ!」


本人はポーズも決まったと思ったようだ。

が、A2クラスの生徒は一瞬彼を見たのだが、すぐに元の状態に戻りもうそれからは誰も彼の方を見ようとしなかった。


桃子「おはよう、光。」


ただ1人返事をしたのは今日も桃子だった。

光はすぐに桃子のところに近づいて、


光「お、ひさしぶり。」

桃子「あのさあ、昨日も会ってるんですけど・・・」


桃子は呆れた素振りで言った。


光「いやあ、なんか別人かと思って・・・」


光は桃子がベージュの薄いカーディガンを羽織っているのをじっと見て言った。


桃子「どう?似合うでしょ。」


桃子がカーディガンの襟元を触りながら言った。


光「いいねぇ、いいよいいよ。」

>>わかってんのかあ・・・


こうして休憩時間になる度に、光はA2クラスに顔を出していた。

やがて麗子のブラウスにも目がいった。

桃子はそれに気づいて、


桃子「おいおい、どこを見てるのかな。このスケベ・・・」

光「いやあ、桃子の方が可愛いよ。」

桃子「ありがとう。早く自分のクラスに戻ってね。」


引きつった顔の桃子だった。



さてお昼の休憩時間のことである。

トイレ近くで麗子と権藤がすれ違った。


権藤「鳥飼、ちょっとそれは見せ過ぎじゃないのか?」

麗子「あ、先生が近づいてきたから、ちょっとボタンを外したんです。」

>>それ、ヤバくない・・・


権藤「教室の中だけにしてくださいね。」

麗子「は~い(^^♪」


ニコニコしながら麗子の声が何故か甘い声になっていた。

そして麗子は教室に戻って行った。

が、権藤はすれ違うときにわずかばかりの香水のような香りを感じていた。


続いてトイレから桃子が出てきて、


桃子「あ、先生。」

権藤「やあ。」


権藤はどうもわずかばかりの香りが気になったようだ。


桃子「どうかしたんですか?」

権藤「なんか、香水のような香りがしないかい?」

桃子「うーん・・・」


桃子は周りを鼻で嗅ぐような素振りをしながら、


桃子「別にそんな香りはしないですけど。」

権藤「そうう、じゃ。」


そう言って権藤は去って行った。

桃子はこのときすでにトイレにいた時から、麗子の香水には気づいていたのだった。


桃子「よおし、あいつがそう来るなら、私も。」


どうも麗子の香水が気になったようだった。



翌日(授業4日目)。

この日は早朝だけは晴れていたのだが、朝から急に天気が崩れてしまい授業が始まる頃は雨だった。


1限目は美術だった。

生徒は全員美術室に移動して講義を受けていた。

美術の講師は非常勤の鳥畑先生。小柄な体だが声はかなりでかい。黒のジャケットにグレーのズボンと何故か薄い紫の蝶ネクタイだが、何故か妙に似合っていた。


鳥畑「始めまして、私が美術担当の鳥畑元気です。」

ユキ「なんか声でかい・・・」

さつき「ほんとだ。」

鳥畑「そこの君、何か言ったか?」


鳥畑は声のするユキの方を指差した。


さつき「いえ別になんでもありません。」

鳥畑「今日はさっそくデッサンを皆に描いてもらいます。」


鳥畑はケント紙を1人に1枚ずつ配って回った。

そして題材を言ってからさっさと教室を出て行った。


やがて30分程して鳥畑は教室に戻ってきた。


鳥畑「どうかな、進んでいるかな・・・」


そう言いながら教室の中をゆっくりと回って生徒のできばえを見て歩いた。

やがて昌子の前に来たところで急に立ち止まった。

昌子は絵を描くことが大好きだった。


鳥畑「ほお、なかなか良く描けているねぇ。」


鳥畑はかなり関心した様子で、少しの間その絵を眺めていた。

そしてその後教壇に戻った。


やがて授業終了のチャイムが鳴り始めた。


鳥畑「はい今日はここまで。なおできなかった者は宿題です。来週持って来て下さい。」


雨が少し落ち着いて、しばらく止んだ。



2限目の国語は、A1クラス担任の山中良男だった。

彼は右手で敬礼をするようなスタイルで挨拶をした。

地味なダークグレーの背広に紺色の斜めストライプが入ったネクタイさらには黒の皮ベルト、かなり流行遅れのスタイルだった。


山中「ん???」


山中は何か妙な香りが教室中にしていたのを感じて、もともと半開きだった窓を3つばかり大きく開けた。


麗子「やはり気づくよなあ・・・」


麗子は僅かな小声で言った。

同じ事を桃子も思っていたのだった。


山中「では今日は鳥の種類の漢字をやります。まずは、簡単なカモ、スズメ、ツバメ、ワシ、タカ、トンビ、フクロウ、ガン、サギ、アホウドリ。」


山中は喋りながら、黒板に書いていった。


山中「ではノートに書いてみてください。」


授業中、ユキとさつきが丁度隣の席だったので、2人で小さなメモを伝書鳩のように行き来させていた。


ユキ「あの先生ってさ、確か『いたっく100』」

さつき「そうだよ、商店街の100均」

ユキ「あの店だよね (^^)V」

さつき「着けてるものが皆100均に見えるけど(笑)」

ユキ「同じ!」

さつき「せめて1つくらいブランドもんにはならんのかあ」

ユキ「同じ!あのベルトも皮に見えるけど、じつは100円じゃないの(笑)」

さつき「同じ!」


山中「では、答えあわせをしましょう。」


山中は黒板に漢字で書き始めた。


「鴨、雀、燕、鷲、鷹、鳶、梟、雁と鴈、鷺、信天翁」


山中「せっかくなのでついでに英単語も書いておきます。」


「wild duck、sparrow、swallow、eagle、hawk、cloak、owl、wild goose、heron、albatros」


山中「イーグルやアルバトロスはゴルフでよく使われます。あとオマケにインコとオウムを書いておきます。」


山中は黒板に漢字と英語で書き始めた。


「鸚哥、鸚鵡」

「macaw、parrot」


授業が終わるまで2人のメモはずっと行ったり来たりしていた。

後半になってまた雨が降り出した。

雨が窓から入りそうだったのか、授業の後半からは全ての窓を生徒たちが閉めたのであった。



この日から女子のトイレでは、毎日のように何かわからないが、爽やかな香りがするのであった。

そしてその香りも日によっていろいろな種類の香りになっていたのである。




第3話


翌週(授業5日目)のA2クラス。

1限目は音楽だった。

生徒は音楽教室に移動した。講師の清水若菜先生はブラウンのボブがとても似合う品のある女性なのだ。

クラスの女生徒の間でもそのヘアスタイルに注目をする子が多かった。


今日は臙脂色のブラウスにグレーのスカートで決まっていた。


清水「ではみんなで合唱します。」


こうして合唱が始まった。

外から爽やかな風が少し吹いて教室の中に流れてきているのが、壁際にある数枚の資料がめくれたり、閉じたりするのでわかった。

そうして、その風に乗って、何だろうこの香りは?・・・清水は気になったのだが、自分も香水を使っているため、何が何だかわからなくなっていた。


音楽の授業が終わって、清水はトイレに立ち寄ってから職員室に戻った。


ここは職員室。

椅子に座っていた権藤が、


権藤「清水先生、香水変えましたね。」

清水「え!??」


清水はちょっと納得がいかない様子だったが、しかし言われた事は別に変な事でもなかったので、


清水「ええ、ちょっと1ランク上げました。」


そう言って微笑んだ。

職員室の他の先生もそれを聞いて皆穏やかな気持ちになったのであった。



一方こちらは2と3時限の間の休憩時間。

女子トイレです。


麗子「くそ、シャネルなんて激古い。何考えてんだか・・・」


麗子が微かな声でぼやいていた。

そして彼女が使用したトイレの横の壁に小さく、「シャネルは終わった」と鉛筆で書いたのであった。


麗子「ふん。」


こうしてトイレから麗子は出てきたのだが、実はこのトイレ麗子と桃子の2人の性格からなのか、2人共いつも同じ一番隅のトイレを使っていたのだった。



次の3と4時限の間の休憩時間。

今度は同じトイレに桃子が入ったのであった。


桃子「ん?・・・何だこれ?」


桃子はしっかりと麗子の落書きを見落とさなかった。

何故なら今日の1時限前には書いてなかったからである。


桃子「私のシャネルの事かな???・・・まさかね・・・」


だが、意外と自分の事とは知らずにトイレから出たのであった。



翌日(授業6日目)のここは女子のトイレ。


麗子「ふん、今日もシャネルかい・・・」


麗子は1時限目が始まる前にもトイレで桃子の香水のチェックをしていたのだった。

そしてしっかり自分の持ってきた香水をトイレ全体にかけておいたのであった。


1時限が終わるまでの間に清水先生がそのトイレに入っていた。


清水「ん・・・?何だろうこれは、知らない香り?昨日は私のシャネルだったけど。私じゃないな。」


実は清水先生はシャネルが大好きだったのだが、たまたま桃子の香水と同じだった。

この日は清水先生は疑問を抱きながら職員室に戻って行った。



A2クラス1限目は社会科担当の小袋花袋だった。


小袋「はい今日は2回目なので地図の見方を勉強しましょう。地図帳を開いてください。それと教科書も見てくださいね。」

西堀「先生、前回もそう言いながら一度も教科書見なかったんですけど。」

小袋「そうだったの?じゃあいいです。」

麗子「なんだそれ・・・」


麗子は小さな声でつぶやいた。


小袋「えーと、この地図帳の真ん中の2つの地図ですが・・・あーと、ちょっと小さくて見にくいかな?」


生徒はそれぞれ地図帳を開いて問題の地図を探していた。


桃子「先生、教科書に同じ地図ありますよ。」

小袋「え?どれどれ・・・あー、ほんとですね。教科書の方が大きいですね。」

西堀「どっち見るんですか?」

小袋「教科書の方がベターやね。(^^)/」

麗子「ベター??英語・・・」


数人の笑い声がした。


やがて授業も終わりに近づいてきた。


小袋「最後に連絡です。来週は校内の競技大会があります。そのためいつものカリキュラムを少し変更して、しばらく体育が増えます。」

生徒全員「やったー!」


生徒全員の声が揃った。


この日は2限目が音楽の予定だったが、急遽2~4限目が体育に変更となった。

体育は隣のA1クラスと合同になり、男子と女子が別れて授業を受けることになっていた。


さつきとユキが女子更衣室に入っていった。


さつき「音楽の清水先生さ、いっつもシャネルつけてるよね。」

ユキ「そうよね、私も気になってたんだよ。最初わからなくて、家でお母さんのを調べたらわかったの。」

さつき「へえー、ユキのお母さんってシャネルなんだ。」

ユキ「違うよ。古い化粧箱にあったから。今は使ってないみたい。」

さつき「だよね。最近シャネル使う子っていないし。」


ユキ「さつきって何使ってるの?」

さつき「私はクロエ。ユキは?」

ユキ「私はランバン。」

さつき「あー、もしかしてマリーミー?」

ユキ「そうそう。」

さつき「あれってオレンジだよね。」

ユキ「そうなんだ。柑橘系が好きなの。」

さつき「なるほど。」

ユキ「いろいろ試したけど、柑橘系の方がベターやね。(^^)/」


さつきが笑っていた。


2人は着替え終わったので更衣室を出て行った。

代わりに桃子と麗子が入ってきた。

しかし麗子は桃子と並んで着替えるのがいやだったので、わざわざとなりのコーナーに移ったのであった。


そこにはA1クラスの黒木夏美と軽辺マキが着替えていた。


体操服に着替えていたマキの腕が反対隣の麗子の腰に当たった。


マキ「あっ、ごめんね。」

麗子「いいよ。」

夏美「ん・・・?」


夏美はふと鼻に何かの香りが漂ったのを感じた。

しばらくはマキは麗子をじっと見ていた。

けっこう美人でロンゲの鳥飼麗子だった。


やがて夏美とマキは更衣室を出て行った。




校内の競技大会の当日。

空はけっこう晴れ渡って風もなく穏やかだった。

生徒たちは全員グラウンドに集合し、整列していた。


ユキ「あー気持ち良い日だよね。」


ユキは大きく背伸びをして深呼吸をしていた。


さつき「ほんとだよね。」


さつきはそう言いながら首を左右に軽く振っていた。


すると光がどこから来たのか急に割り込んできて、


光「ほーんとだよね~♪」

ユキ「何よ!」

光「そんなにびっくりしなくても・・・」

ユキ「あっちに行ってよ!」


光は笑いながらスキップをして男子のグループの方へ去って行った。


さつき「しかしここの高校って、男子のレベル低いよね。」

ユキ「ほんとよね。」


ユキは大きくため息をついた。


麗子、ユキ、さつきは3人共中学時代にテニス部だったのでやはりテニスに参加した。

桃子は卓球に参加したのだった。桃子はもともと中学時代は体操部に入っていた。そのためか球技はそれほど上手くは無かった。やはり1回戦で1点も取れずにすぐに負けてしまったのであった。


その後麗子のことが気になったのか、桃子はテニスの女子の試合を見に行くことにした。

麗子はテニス部だけあってかなり上手かった。1年でありながら3年生を次々と倒し、決勝戦まで進んだ。


その試合の光景の1つ1つが桃子の目に焼きついていったのだ。

麗子の鋭いレシーブや俊敏な動き、汗だくでもまったくひるむ事の無い、そんなガッツが頭から離れる事がなかったのである。


ユキ「さすが麗子さん。最後までいきそうだわ。」

さつき「これはいずれキャプテン間違いなしだよね。」

ユキ「うん、私もそう思うわ。」


ユキは周りを見回して、


ユキ「あれれ?けっこう応援に来ているの男子が多いよね。女子はどこに行ったのかな?」

さつき「きっとバレーボールじゃない。西城君だよ。」

ユキ「ああ、A1クラスの・・・」

さつき「そうそう、彼かっこいいからね。」


さつきの言う通りだった。

バレーボールの試合の場所ではたくさんの女子生徒とミニ応援団が応援と叫び声でみんなが興奮状態になっていたのだった。



次の日、桃子は思い切ってテニス部に入ったのである。

予想通りテニス部の部室は毎日かなり強い香りが漂っていたのであった。



翌日の部活動の時間。ここはテニス部の部室。

麗子は桃子のロッカーの傍で鼻を少し近づけていた。


麗子「意識して換えてきたな。くそ、私にもわからん種類だわ・・・」


麗子はどうも桃子の香水が何なのかわからなかったようである。



次の日曜日麗子は都心に出かけるという母親の雅子について行った。

雅子はかなりオシャレで麗子とお揃い柄のデニムのワンピとスキニーのジーンズで、それぞれ色違いだった。


麗子「お母さん、この店に入ってもいい?」

雅子「え、いいけど。まだ香水は早いんじゃないの。」

麗子「いいじゃん。お母さんだって・・・」

雅子「まあいいけど。私も高校のとき、そう言えば付けてたわ。」

麗子「やっぱり・・・」


麗子は親と一緒であったことから、嬉しいような悲しいような変な気持ちになったのだった。


麗子「お母さん、香水今何をつけてるの?」

雅子「ジェニロペ。」


まあ母はともかく、麗子は最近の香水がただ見たかったのだが。


その後2人は有名なカジュアルの専門店、「ユニークローバ」の本店に寄ってチュニックとスカートを買っていた。


やがて帰りの電車の中。2人は手荷物を膝の上に置きながら長シートに並んで座っていた。


麗子「お母さん。」

雅子「何。」

麗子「お母さんって、高校のときクラブに入ってた?」

雅子「ああ、テニス。」

麗子「え!私と一緒。」

雅子「そうだね。」


麗子「上手かったの?」

雅子「ああ、全然ダメ。応援ばっかりだったよ。」

麗子「そうっかぁ・・・じゃお父さんは?」

雅子「あの人は・・・確かバスケットボールだったかな?」

麗子「そうなんだ。」

雅子「父さんの事、気になるのかい。」

麗子「ん・・・昔はね。・・・今はもういい。」


雅子「父さんの事話したことあったかな?」

麗子「うん。私が小学校3年の時。外国に行ってるって・・・」

雅子「そうだよ。出張が長すぎて、母さん待ちきれなかったんだよ。」

麗子「帰ってこなかったの?父さん・・・」

雅子「そうだよ、結局外国で生活するって連絡があったので、仕方なく麗子を私1人で育てるって伝えたんだよ。」

麗子「それじゃ、お母さんずっとお父さんに会ってなかったんだ。」


雅子「そう。もう思い出したくないけどね。」

麗子「ごめんね。」

雅子「いいんだよ。これも運命なのかもしれないから。」


そして電車が中野に近づいた。


雅子「そうだ、明日は早く行かなきゃ。」

麗子「仕事?」

雅子「ああ、予約が50ほど入っていて、仕込みしないと間に合わないんだよ。」

麗子「そうなの。私手伝えるかな?」

雅子「いいんだよ。麗子はしっかり勉強してくれれば。」


母は駿河台にあるコンビニ弁当屋で働いていたのであった。




第4話


翌日学校のここはいつもの女子のトイレ。


麗子「ふん、今日はグロウバイジェイローかい・・・」


麗子は1時限目が始まる前にトイレで桃子の香水のチェックをしていたのだった。

そしてしっかり自分の持ってきた香水を昼までの休みの間にトイレ全体にかけておいたのであった。

1時限が終わるまでの間に清水先生がそのトイレに入っていた。


清水「何々、これって??」


清水はほのかな石鹸の香りを嗅ぎながら、トイレの壁に小さく書かれた「シャネルは終わった」を見つけた。


清水「あー、これってジェニファーロペスだな。しかし誰だこんな香水付けてるのは?ははん、私のシャネルに焼きもちを焼く生徒がいるな・・・」


清水はポケットからウェットティッシュを取り出して、とりあえずはそのラクガキを消しておいたのであった。

そして清水は香りが気にはなったが、それを職員室でおおっぴらには話せなかった。

と言うのは、香水は校則で校内使用禁止になっていたからである。

ただ、多くの男性教師はわかっていながら清水先生のそれを黙認していたのであった。



昼休みの同じ女子トイレ。


桃子「ん?これはエクラド・・・」


桃子は毎日変わるトイレの香水が、最初は清水先生だとばかり思っていたのだった。



数日後の土曜日、桃子はたまたまスーパー「ゲキヤス」に立ち寄ったとき、清水先生と偶然出会った。


桃子「先生。」

清水「ああ、A2クラスの五十嵐さんね。」


清水はひと目で桃子とわかったようだ。


桃子「え、覚えてもらってありがとうございます。」

清水「それはそうでしょ。A2クラスでは五十嵐さんが一番音楽ができると私は思ってるんです。」

桃子「え!ほんとですか?」

清水「うそじゃないわよ。どう、時間があるならそこのカラオケでも入らない?」

桃子「えーいいんですか?」


桃子はとっても上機嫌になって、まるで小犬が飼い主の周りをはしゃぎまわるかのような光景であった。


2人はカラオケの店に入った。


狭い部屋では清水の香水が漂っていた。


桃子「先生、いい香りですね。」

清水「え!これシャネルの5番。」

桃子「へえー、そうなんだ。」


桃子は知っていたが、知らんふりをしていた。

当然自分は校則で付ける事ができなかったからである。


清水「昔っからシャネルが好きでさ。他は使わないのよ。」

桃子「え・・・」


桃子はそれを聞いて驚いてしまった。

学校のトイレの香りは日々変わっているのに、彼女はこれまで清水先生が同じ香水をずっと付けていたとは思っていなかった。


えー・・・、これまでずっと清水先生が付けていたと思っていたのに・・・


歌のほうは清水先生に合わせながらも、香水の事が気になって仕方がなかった桃子であった。



このあと桃子は、実は麗子が香水を付けていた事を知るまでそう時間はかからなかった。

こうして2人の香水戦争が始まったのであった。



何日か過ぎてある日。学校のここは同じ女子のトイレ。


麗子「ふん、今日はサムライウーマンかい・・・」


麗子は1時限目が始まる前にトイレで桃子の香水のチェックをしていたのだった。

そしてしっかり自分の持ってきた香水をまたトイレにかけておいたのであった。

1時限が終わるまでの間に清水先生がそのトイレに入っていた。


清水「何々、これって??・・・まあ、どうでもいいけど。」


清水はおそらくは女子生徒が香水を付けていることを悟ったが、自分が付けていることもあるしついに諦めてしまった。


昼休みの同じ女子トイレ。


桃子「ん?これはドルチェ・・・」


桃子は毎日変わるトイレの香水がいつの間にか楽しみになってきていたのであった。



この日のクラブ活動の時間。

体育館の横でたまたま麗子がA1クラスの西城五郎とすれ違った。


西城「ん???」


西城はピタリと止まった。

どうも香水が気になったようだ。

ハンカチを取り出して2回くしゃみをした。


麗子は体育館の角の陰に回りこんで、その様子をじっと見ていたのであった。

そこに光が現れた。


光「よ、どうかしたのか?」

西城「たいした事じゃないけど。たぶん香水の香りに弱いんだよ。」

光「なんだ、香水ぐらいで?」

西城「ああ、鼻水が出てきてしまう。」


西城はハンカチで鼻を押さえた。


光「それは大変だね。花粉症?」

西城「香水の匂いだけだよ。」

光「ふうん・・・そんな病気あったっけ?」


光はそう言いながら去って行った。そして、


麗子「ん・・・やっぱり嫌いかあ・・・」


麗子はこんなところで西城が香水が苦手である事に気づいたのである。



次の日学校のここは同じ女子のトイレ。


麗子「ふん、今日はパシャかい・・・」


麗子は1時限目が始まる前にトイレで桃子の香水のチェックをしていたのだった。

そしていつもならしっかり自分の持ってきた香水をまたトイレにかけておくはずだったが、今日はしなかった。

というか、この日から香水を持ってくるのを止めたのである。


1時限が終わるまでの間に清水先生がそのトイレに入っていた。


清水「何々、これって??・・・まあ、どうでもいいけど。」


昼休みの同じ女子トイレ。


桃子「ん?これは・・・」


桃子はいつもと違って変わっていない香水が不安になってきた。


桃子「な、何が起こったんだ・・・」


しばらく放心状態になっていた。

そこに清水が通りかかった。


清水「あら、五十嵐さん。どうしたの?」

桃子「い、いえ・・な、何でもないんです。」

清水「体どこか悪いんじゃない?」

桃子「え、いや、単なるアレですから・・・」


桃子はそう言って、その場を逃げたのであった。

>>そうそう、その方がベターやね。



次の土曜日、学校でテニスの練習試合が行われた。

麗子とユキ、さつきと桃子のペアのダブルスで組まれた試合だったが、結局麗子とユキのペアは1位、さつきと桃子のペアは最下位になってしまった。


この日4人は学校近くの「リトル・キッチン」で打ち上げをしていた。

ゴキゲンだったのは麗子だった。

麗子はウーロン茶を飲みながら、


麗子「まあ、何とかいけそうだね。」


麗子はユキの方を見て言った。

ユキとさつきはオレンジジュースを飲んでいた。


ユキ「でも、麗子さんと組んだからですよ。」


ユキは持ち上げるのが上手だった。


さつき「2年生が全然調子悪かったみたいですね。」

麗子「だってさ、練習けっこういい加減だし、よくサボるしね。」


付け加える麗子。

そこに話に割り込んで、


桃子「ごめんね、足ひっぱっちゃって・・・」


桃子は決まり悪そうな状況にあった。


麗子「そんなことないよ、桃子だって頑張ったじゃん。私たち中学からテニスやってるし、全然初めてにしてはめっちゃ上手だったよ。」


麗子は半分本心ではなかったが、皆の手前上うまく話をまとめたのであった。


桃子「あ、ありがとう。次頑張るわ。」


桃子はこのときは麗子が優しく思えた。



ある日の学校の昼休み時間。ここはA2クラスです。


ユキ「ねえ、さつき。」

さつき「何?」

ユキ「あの三角君ってさ・・・」


急に小さな声になったユキ。


ユキ「授業中も休憩中も同じ姿勢じゃない。」

さつき「そう言えば、そうよね。」


さつきはちょっと考え込んでから言った。


ユキ「何か変わってない?」

さつき「授業中もまったくノート一つ出さないで、教科書広げてるだけよね。」

ユキ「それよ。筆記具すら出さずにさ。でさあ、時々目を閉じてるしさぁ・・・」

さつき「ユキ、よく見てるわねぇ・・・」

ユキ「だって気持ち悪いんだもん。」


さつき「まあ座っているお地蔵さんみたいよね。」

ユキ「そうそう、そんな感じ・・・」

さつき「この学校の男子、変なやつ多いわ。」

ユキ「ほんとだね。1クラの光もチョーきもいし・・・」


光「呼んだかなァー・・・」

ユキ「わ!な、何でここにいるの?」

光「いたら悪いかな?」

さつき「ここA2だよ。」

光「知ってます。」

ユキ「早く自分のクラスへ戻んなきゃ。」


光「いや、名前を呼ばれるとついつい飛んできてしまうんで・・・」

ユキ「やっぱり・・・変なやつ・・・」


左肘を机に乗せ、さらに手のひらに顎を乗せながらつぶやくユキ。


光「何か言いましたか?」

ユキ「何、何でもないわよ。」


急に声が大きくなるユキ。


さつき「はい昼休み終了。シッシッシッ!」


さつきは右手でゴミを払うような素振りで光を机のそばから追い払おうとした。


光「じゃ、またね。」


スマイルの光。


さつき「来なくていいから・・・」


すでに光の方を見ないで話すさつき。


ユキ「まったくもう・・・」


光は右手でバイバイのポーズをしながら教室から出て行った。




第5話


夏には毎年恒例の花火大会が東中野商店街近くにある中野北公園で行われた。

公園だけでは場所が狭いので、近くの中野神社の境内や広場も縁日や櫓に利用されていた。

また公園がさほど広くなかったために、花火の打ち上げ場所は公園から北に2キロほど山よりに行ったところで準備された。


小柳昌子は同じ美術部でA1クラスの軽辺マキといっしょに最近流行のカラフルな浴衣姿で花火を見に来ていた。


昌子「マキ、その浴衣可愛いね。」

マキ「昌子も可愛いよ。来年は浴衣お揃いにしようか?」

昌子「それもいいね。」

マキ「ここは毎年人が増えていくように思うよね。ここ数年何かといろんなところでこの街の宣伝するようになってからなのかな?、そのせいで有名になったからだろうかな?」

昌子「ほんと私もそう思うけど。中学違っていたから気づいてないけど、もしかして毎年ここで私たち出会っていたかもねきっと。」


マキは縁日で買った内輪をゆっくりとあおりながら、


マキ「そうだよね、世間は狭いもんだよね。」


急に何やらやかましい一団が昌子たちの近くにゆっくりと近づいていた。


光「いえーい!いえーい!いえーい!おー!おー!おーーー!!」


叫んでいるのは光だけだったが、あまりの大声だったので一緒に来ていた同じクラスの吉永幸夫にとっては迷惑千万だったようだ。


吉永「お前と来るんじゃなかったよ、まったくもう・・・。」


そんな吉永の言葉さえ気にしない光は、通り過ぎる女子中学生や高校生を見つけるたびに話しかけていた。


光「ねえねえ、ちょっとそこのおねえさーん、可愛いねぇ。どこから来たのかな?」


柏木由紀子は急に鳥肌が立ったようで身震いしながら、


由紀子「きゃー!きもい・・・」

光「何それ、オレお化けじゃないよ。」

>>お化けの方がましかも・・・


由紀子のすぐ後ろの方から、


めぐ「ちょっと、何カモってんのよ。私の妹よ!」

光「ひやー!これはこれは・・・」


そこにいたのは同じ高校のバレー部の2年生柏木めぐだった。


めぐ「相手間違えてるんじゃないの?」

光「失礼しました!」


柏木姉妹は関わりたくなかったのでさっさと消えて行った。

呆れているのは一緒に来た吉永だった。

大好きな1リットル入りコーラをまた一気に飲み干していた。


吉永「まったく・・・」


そう言って、近くのゴミ箱にペットボトルを投げ捨てた。


光「コーラ飲み過ぎじゃないか?」

吉永「うるさい。近くでもう1本買うよ。」

光「ギョ!・・・」


少しすると、打ち上げ花火が何発か上がり始めた。

光には花火はどうでもよかった。

また周りの女の子ばかりを眺めてしつこく声をかけていた。


光「ねえねえ、ちょっと君。」

山中「おい光、何やってんだ!」


急に現れたのは担任の山中だった。

何故かジョギング用の深緑色の上下ジャージ姿で、まるで生徒たちを監視するために来たようにも見えた。


光「うーわ!ここまでオレたちを追いかけてきたのかよ。」

吉永「まさかそれはないでしょ。」

山中「何言ってんだか、オレの家はこの近所なんだよ。」

吉永「うわ、最悪・・・」

山中「吉永何か言ったか?」

吉永「いえ別に・・・」


2人は担任から離れるべくさっさと群衆の中に消えて行った。


この様子をうかがっていた昌子とマキも、


マキ「うちの担任じゃん・・・」

昌子「ほんと世間は狭いもんだね。さ、行こう行こう・・・」


この2人も山中から離れるようにさっさと縁日の方に消えて行った。


一方1人で来ていた夏美に綿菓子の店で昌子たちに偶然出会った。


マキ「あ、夏美。」

夏美「あ、マキ。」


2人は目を合わせた。


マキ「1人なの?」

夏美「うん。」


マキは心配そうにして、


マキ「一緒に回ろうよ。」

夏美「いいの?」


マキは昌子に夏美を紹介した。


マキ「私のクラスの夏美。」

昌子「バレー部の?」

マキ「そう。」

昌子「よろしくお願いします。」

夏美「こちらこそよろしくね。」


夏美は手に持っていた綿菓子の残りを食べてしまった。


こうして3人は歩き出した。が、急に・・・


夏美「あ、あれ、あれれ?」

マキ「どうしたの夏美?」


夏美は自分の紺色のブラウスの腰の辺りを両手で触っていた。


夏美「ないわ、ポーチ。」

マキ「ああ、あのショッキングピンクのウエストポーチね。」

夏美「そ、そうなんだけど・・・」

マキ「え?もしかしてサイフ・・・」

夏美「そうなのよ。」

マキ「それは大変だわ。」


マキと夏美が今歩いてきた道を少し戻りながら夏美のポーチを探し始めた。

昌子はその後を少し離れてついて行った。


さてこちらは光と吉永の2人。縁日のお面の店にいた。


光「お前、とっても良く似合うよなあ。」

吉永「それはひどいよ。じゃあ、これ付けてみてよ。」


光がひょっとこのお面を被った。


吉永「ほーら、似合うじゃないかオレよりか。」


それを聞いて調子に乗った光が踊り出した。

周りの客が変な顔で見ていた。


光「なんだかなあ、今ひとつ盛り上がらないけどなあ。」

吉永「踊り方が変なんだよきっと。」

光「そうかなあ?」


そして2人が少し歩き出した時、


吉永「ん?」


吉永は足に何かが当たった気がした。

そして、下を見渡した。

すると、そこに小さなポーチが落ちていた。


吉永「これは?」

光「おいおい、女もんのサイフかな?」


吉永が拾い上げて中を確認してみると、プリクラ写真が2、3枚入っていた。


吉永「誰だこれ?」

光「もっと明るい所に行かないとわからないよ。」


2人は急ぎ足で明るい商店街の方に出た。

そして吉永はもう一度そのプリクラ写真の1枚を見た。


吉永「あ、これはなっちゃん。」

光「は?なっちゃん?・・・」

吉永「うちのクラスの夏美さんだ。」

光「あーあいつかぁ・・、じゃいらないからもらっとけ。」

吉永「そう言う問題じゃないだろう。同じクラスだし。」


吉永は光をちょっとにらみ付ける様な表情をした。


この後光は吉永に渋々説得されて、夏美を一緒に捜すことにした。


吉永「いないなあ・・・」

光「任せろ!女を捜すのは得意だ。」

吉永「どんな性格???」


呆れる吉永だった。

>>私も呆れる


やがて光が3人組を見つけた。


光「やっほ~い!」

夏美「何何、気持ち悪い奴。」

光「失礼だよな。せっかく会えたのに・・」

夏美「それがキモイって言ってるのよ。」

>>やはり声はでかい!


吉永「夏美さん。」


吉永はそう言って、ポーチを夏美に見せた。


夏美「あ!!それ!」


夏美は非常に驚いて一瞬固まってしまったが、


夏美「え、どこにあったの?」

吉永「縁日の端っこかな?落ちてたよ。」

夏美「あ、ありがとう・・・」


吉永が夏美にポーチを手渡した。


このときだけは、周りがシーンとしていた。


マキ「夏美よかったじゃない。」

光「よし、じゃあみんなで花火を見るか。」


3人組はそんな気分ではなかったのだが、夏美のポーチが見つかったことから、仕方なく光に合わせる事にした。


そしてこの日だけは夜遅くまで花火の音が東中野の町全体に響いていた。


やがて5人組が解散する時、


マキ「もしかして夏美は何か運命の糸に・・・」

夏美「やめてよ!」

>>相変わらず大きな声ですね。


ところで麗子とユキとさつきの3人は商店街にあるもんじゃ『ももんが』でもんじゃ焼きを食べていた。


麗子「人ごみはいやだよね。」

ユキ「ほんとですよね。」


ももんがの主人が連続ドラマを観終わったところでTVを消した。


さつき「私もすっごく疲れる。花火さえ見れたらいいわ。こっちの方が」

2人「ベターやね。(^^)/」


ユキとさつきがハモっていた。

続いてももんがの主人は自分の好みの曲を聴きたくなったようだ。

有線でまったく興味の無い昔の懐メロがかかっていたが、3人はまったく気にせず仲良くミックスもんじゃを食べていた。


麗子「あと、どこへいこうか?」

ユキ「32アイス。」

さつき「あっ『ローリィポップ』がいいなあ。」

麗子「あれってさぁ、一番人気じゃなかったっけ?」

ユキ「そうそう、じゃ行こうっか!」


同じ商店街にある靴屋さんでは、店の中で清水先生がサンダルを選んでいた。

そこに丁度小袋先生が店の前を通りかかった。


小袋「あら、これは清水先生。」

清水「あ、小袋先生。」


小袋は店の中に入って行った。


小袋「どうされたんですか?」

清水「さっき神社の境内でサンダルのカカトのところが折れてしまって、とりあえずここで替わりを探してるんですが、なかなか決まらなくて・・・」


清水は足置き台の上に並べた3、4つサンダルを履き替えながら、


小袋「あー、最近は種類が多いから。」

清水「ええ、どうしようかな。小袋先生どっちがいいと思います?」

小袋「え!私が決めて大丈夫ですか?」

清水「ええ、どうせ緊急事態なので。履ければいいんですよ。」

小袋「えーと、そうですね。清水先生だったら・・・こちらの方がベターやね。(^^)/」

>>ベターやね。


こちらは商店街を歩く三角四郎と西堀源太の2人。


三角「しかし、ここの通りゴミだらけだね。」

西堀「すごく汚いよ、まったく。大人がもっとマナーを守らないと・・・」

三角「でも、学生たちもかなりいい加減みたいだよ。ほら・・・」


近くである男子生徒が、ゴミ箱をめがけてゴミの袋を投げた。

その距離およそ6メートル。

しかし、残念ながらゴミ箱には入らなかった。


生徒「チェ!」


残念そうな生徒はそう言って、そのままゴミを見捨てて去って行った。


西堀「誰も注意さえしないからじゃないか。」

三角「うん、でもそれ以前の問題だと思うけどなあ。」


2人は今度はFFバーガーの前に来た。


三角「ここもだよ。紙の袋があちこちに・・・」


そう言って三角は散らかったゴミの紙の袋を拾い集めて近くのゴミ箱に丁寧に捨てた。


西堀「おいおい、わざわざいいんじゃないの。どうせここの店の人が最後に掃除するんじゃない。」

三角「オレ、こういうのがとても気になるんだよ。」


西堀はもうそれ以上三角を追求することはしなかった。




第6話


ある日の商店街にて。

FFバーガーの店では中野高校の男子生徒が4、5人ハンバーガーを立ち食いしていた。

その店の前を若い外人女性らしき3人組が通り過ぎて行った。


生徒たち「ひゅーひゅー!!」


どうも外人女性のスカートの丈が異常に短いのが気になったようである。

そのあとB3クラスの菊池令と五十嵐桃子が歩いてきた。


生徒1「なあーんだ。」

生徒たちは先の女性トリオと比較したので令と桃子の2人のスカートがあまりにもダサく見えたようだ。

そしてその態度が2人にも伝わったようだ。


令「なんかスカートの丈くらいで男って喜ぶんだね。」

桃子「ですね。私たちだって短ければかっこいいに決まってると思うけど。」

令「そりゃそうよ。ようし今度の芸術祭、やったるわー!!」


令と桃子は中学時代に同じ声楽スクールの教習生だった。

そこで仲良くなり、それ以後たまに一緒にカラオケに行ったりしていた。

今日はそんなカラオケの帰りだったのである。



9月に入って最初の授業の日。1限目は経済だった。


小袋「今日は経済の柴田先生がお休みなので、代わりに私がやります。」


生徒が全員席に着いた。


小袋「えーと、今日は『流行』をテーマにお話します。」


生徒は皆教科書を開けることなく、ただ小袋の方を見ていた。

小袋は淡々と話し始めた。


小袋「流行とは作るもので、何かを作らないと流行しません。誰かが作って、それをまた他の誰かが真似をして、そしてさらにまたそれを他の誰かが真似をして、という繰り返しの流れを流行と考えます。」


いつも小袋の授業は静かだった。彼が話を終わらせるまでは生徒たちは無駄口無く、ただただ彼の話を聞いていたのであった。


小袋「ということで、流行すればするほど商品が流通しますし、アイディアもいろんなところに拡散しますので、大きく見ればインフレになると考えていいでしょう。」


小袋はそう言うと教壇の横の椅子に腰掛けた。


西堀「先生、インフレは物価が上がり、デフレは物価が下がるとしたら、物が安いデフレの方がいいんじゃないですか?」

小袋「経済発展のことを考えると、少しずつ上昇するインフレ型がいいのですが、基本は上がり下がりの繰り返し、つまりインフレとデフレの繰り返しをしながら徐々に上がっていくのがいいのでしょうね。デフレは生活には良いように思えますが、産業の発展が遅れてしまい、悪循環を生むことになります。」

西堀「やっぱりインフレの方がベターですか?」

小袋「ベターやね。(^^)/」


生徒たちが笑い始めた。


さつきがユキに携帯を見せながら、


さつき「ほらこれ。」


さつきが見せたのは小袋先生の『ベターやね~』の動画だった。


ユキ「何これ・・・。チョーおもしろい。」

さつき「でしょ。」


さつきがニコニコしながら携帯をいじっていた。



2限目は英語だった。

イヴ・ローラン先生は非常勤講師で片言の日本語だが生徒には人気。

ロンゲが半端じゃなくすごい、まるでテレビのダイエットのCMに出てきそうな美人だった。


ローラン「はい、で・・は・・はじめま・・すよ・・」


この時間だけは生徒全員がおとなしかった。

そして三角は今日も1日中座っているお地蔵さんであった。



最後のホームルームの時間になった。


桃子「何か議題はありますか?」


急に三角が手を上げた。


桃子「はい、三角君。」

三角「オレ、ボランティア部を創ろうと思うんですが、どうでしょうか。」

桃子「ボランティア部・・・」


教室の中が少しざわめいた。


三角「はい。校内のあちこちでゴミ拾いをしてますが、校内だけでなく街でもゴミ拾いをやって、少しでも街の美化になればいいかなと思います。」

麗子「ふん、所詮そんなことしたってゴミが減るわけでもないし・・・」


麗子は小さくつぶやいていた。その時、


桃子「私は良いと思います。創ったらどうでしょうか?」


2、3人の拍手があった。


桃子「少しの賛同でもいいと思います。反対する人はいませんか?」


桃子は上手な進行だった。

本来なら賛成する人で挙手させるのだが、逆をしたのである。

おかげで誰一人として手を上げる生徒も無く静かな教室だった。

それもそのはず、クラスの皆は早く帰りたい一心だったからである。


桃子「では、今日からボランティア部創設を許可します。」


この日から学校に新しくボランティア部が誕生したのであった。

教頭もそれを大いに歓迎し、ボランティア部だけは特別にクラブの兼任が可能となった。


後に、桃子、昌子、A1のマキもボランティア部に入部したのであった。



放課後になって急に雨になったので運動部のうちグランドを使っていたテニス部とバスケ部は部活が中止になった。

そこで桃子は令先輩と一緒に帰ることにした。

令は軽音楽部に入っていたが今日は部活が休みだったのであった。


校門を出た2人だが、令は急に制服のスカートの膝を持ち上げた。


桃子「ど、どうしたんですか?」

令「なに、学校から出たら自由よ。」


そう言って令がスカートの丈を短くしてピンで留めた。


桃子「先輩、けっこう決まってますよ。」

令「どう、色っぽい?」


令はちょっとセクシーなポーズをして見せた。


桃子「ええ、セクシーです。」


そう言いながら桃子も同じようにスカートの膝を短くしたのであった。

こうして2人はそのままカラオケ店に入って行った。


当然のことながらスカートの丈がかなり短いので、周りの男の目が一点に集中していた。

カラオケ店内でも、店員がずっと2人のスカートばかりを見ていたのであった。


こうして2人のスカートはこの日から、校門を出るとすぐに短くなっていた。



ある日の放課後。

この日も令と桃子がカラオケの店に来ていたが、入るときに清水先生と小袋花袋先生がツーショットで出てくるのを見てしまった。


令「あー、見てはいけないものを見てしまったわ。」

桃子「先輩、あの2人知ってるんですか?」

令「けっこう影で会ってるみたいだよ。小袋は子持ちだよ、知らないぞ・・・」

桃子「ということは不倫ですね。」


そうこう話しているうちに、お互い同士が見つかってしまったのであった。


清水「あ、五十嵐さん。」

桃子「先生・・・」

清水「あー、こ、これは、ちょっと内緒に・・・」

小袋「お、お願いします・・・」


清水は決まり悪そうに、小袋は気まずそうにしていた。


清水「まあ2人のその短いスカートは許してあげるから、こちらも秘密にしておいてね。」

令「交換条件ですね。」

清水「そう、お願い。」

令「はいわかりました。」


いつもと違って素直な令であった。

このあと2人は部屋に入って行った。


令「そう言えば桃子のお父さんって証券会社に勤めているの?」

桃子「違うよ。確か株式をしてるので、きっとそれで行ったんじゃないかな。」

令「へえー・・・」

桃子「パソコン使ってやってるみたい。いつもパソコンの電源入れっぱなしなんで、ママがよく怒ってるわ。」

令「そうなの。」

桃子「ママに聞いたんだけど、マンション経営だとか言ってた。」

令「桃子んち、マンションがあるんだ。」

桃子「でも、今はマンションには住んでないよ。私の小さい時、しばらく住んでたらしいけど。」

令「そうなんだ・・・うちのお父さんね、この前証券会社に行ったんだよ。そうしたら窓口のとなりでさ、桃子の名前が聞こえてきてね。」

桃子「へえー・・・そうか、私の名前で株買ってるみたいなこと言ってたなあ。」

令「すごい。」


桃子「ママがね、いろんなところから商品が送られて来るんで、けっこう喜んでるみたい。」

令「商品?」

桃子「そうだよ、お菓子の詰め合わせとか、ハムやら、化粧品までいろいろだよ。」

令「いいわね。うちのお父さんに話しておこう。」

桃子「ママは買い物にその送られてきた商品券使ってるし。」

令「うらやましいわ。」


こうして令の話から、令の父は桃子の父と知り合いになり、このあと一緒に株式投資の話をお互いするようになったのであった。



数日後の放課後、たまたま令と桃子のあとに麗子が校門から出る順になった。

実はたいていは麗子が先に帰っていたのだった。

この日麗子は2人がスカートを短くしているのを見つけて、後をつけることにした。


すると、いつものカラオケの店に入る2人を見届けて、すぐに自分は帰ろうとした時だった。


光「やっほー!!」

麗子「何だ、光か。」

光「何だはないっしょ。」

麗子「じゃ何ならあるの?」


麗子は少し無愛想だった。


光「そんなややこしいギャグは止めて、どうですか?カラオケ・・・」

麗子「光と2人?」

光「もち・・・ろ~ん♪」

麗子「そんな楽しいもんかい。」


テンションの下がった麗子はやや小声で言った。


光「な、何でしょうか?」

麗子「別に何も・・・」

光「今日はおごりますから・・・」


麗子のテンションがかなり戻った。


麗子「じゃ、入るわ。」


単純な麗子であった。



カラオケの女子トイレでは、令と桃子が交互に出入りしていた。

それもかなりスカートを短くして。トイレに行った光が、


光「や、やるなぁ。」


手を洗いながら、光は一瞬固まってしまった。

>>水出っ放しですよー!!

光はあわててトイレから出た。

>>止めんかい!!・・・・水!!



次の日から麗子は下校の時、桃子と同じようにスカートを短くして帰宅するようになったである。



次の日曜日、学校でテニスの地区大会が行われた。

今回は麗子とさつき、ユキと桃子のペアのダブルスで組まれた試合だったが、結局麗子とさつきのペアは1位、ユキと桃子のペアは3位になった。


この日テニス部の4人は学校近くの「リトル・キッチン」で打ち上げをしていた。

麗子はいつものウーロン茶を、ユキとさつきもオレンジジュースを飲んでいた。


麗子「今日はみんな頑張ったね。」

さつき「1位になったのは麗子さんと組んだからですよ。」

ユキ「2年生が全然調子悪かったみたいですね。」

麗子「いつもの事、練習けっこういい加減だし、よくサボるしね。」

ユキ「桃子、よく頑張ったよね。」

桃子「お役に立てて、良かったです。」


桃子はやっとホッとした様子だった。


麗子「そうだね、桃子頑張ったじゃん。全然初めてにしてはめっちゃ頑張ったよ。」


麗子は今回も半分本心ではなかったが、皆の手前上うまく話をまとめたのであった。

桃子はミルクティーのカップを置いて、


桃子「あ、ありがとう。これからも頑張るわ。」


桃子も体裁を整えただけの言葉であった。



翌週になって、とうとう下校の時女子がスカートを短くするスタイルが学校内で流行し始めた。

一番ライバル視していたのは、やはり麗子と桃子の2人だった。

当然多くの男子生徒が校門に集まる。


三角「いいのかなぁ、こんなんで?」

西堀「いいじゃないか、目の保養になるし・・・」

>>はあ?????


三角「流行してるみたいだよ。」

西堀「だからこのままインフレになればいいじゃん。」

>>理解不能?


吉永「おいおい信じていいのか・・・この景色。」

光「やれやれー!もっと短く!」

吉永「パンツ見えちゃうじゃんか。」

光「見えていいよ。どんどん見せろー!」

吉永「やっぱり、こいつにはついていけないや・・・」


吉永は諦めムードだった。だが、当然先生たちにこの事件がバレない訳は無かった。



2週間後。ここは校長室。


教頭「呼ばれましたか?」

校長「ああ・・・」


校長は立って窓の外を眺めていた。


校長「最近うわさだがミニスカートが女子生徒たちの間で流行しているとか・・・」

教頭「は、はい。そ、そのようです。」

校長「何だ知っていたのか。それならすぐに私の所に相談に来るように。」

教頭「申し訳ありません。」


教頭はただただペコペコしていた。


校長「各先生にしっかり注意喚起をお願いしてください。」

教頭「はい、わかりました。」


そして校長は窓の外を見て、グランド内をある女子生徒がミニスカートで走っているのを見つけた。

校長の目つきが急変したのを見て、教頭も窓の外を見た。


校長「今すぐ校内放送を流したほうが良い。」


校長は窓の外を指差しながら言った。

教頭は急いで校長の傍に来て、


教頭「はっ、確かに。」


教頭はすぐに校長室から出て行った。


校内放送が流れた。


「制服でグランドを走り回らないようにしてください。」

 


こうして学校側がスカートを短くすることをすぐに禁止した。

と言っても、下校時のときだけである。

女子生徒たちはカラオケに入るや否や、スカートを短くしていたのであった。


そうしてこのスカートの流行は、近くの中野高校にまでも及ぶ事になったのである。


で、朝女子トイレに行った清水先生は、


清水「最近香水の匂いがしないなあ・・・まあいいか、所詮私の勝ちってことね。」


勝手に解釈をする清水先生であった。




第7話


さて秋の芸術祭の行事のために美術部が中心となってすでに夏休み頃から準備の計画を進めていた。

A2の昌子とA1のマキはいっしょに組んで大きなアートを校門前に完成させるという計画だった。

材料は廃材中心で、発泡スチロールを土台にして、お菓子の包装袋とか、食品のパックとか、プラスチックやアルミなどさまざまなものを使ってパーツにし、あらかじめ決めておいた場所にそれぞれ貼り付けるというコラージュを計画していたのだった。


昌子とマキは家が近いこともあって、それぞれの家にこもって作品をいっしょに考えたりしていた。

そのためか夏休みが終わる頃には親密な仲になり、お互いの家に泊まることもあったのだが、ともにそれぞれの両親は納得了解していた。

昌子の家は「ルミ美容室」で母親である百恵が経営していたが夏休み以降マキとマキの母はこの店を毎回利用するようになった。



西中野地区に新しいモダンなカフェ『リラックス11』がオープンした。


店員「いらっしゃいませ。」

礼子「やっぱり新しい店はいいわね。」

マチコ「礼子、あそこなんかいいんじゃないの?」

礼子「そうね、そうしよう。」


2人は背丈2メートル50程もある観葉植物が置かれた角のテーブルについた。


礼子「なかなか造りもシャレてるわね。」

マチコ「ほらあそこの壁さ、とってもクラシックじゃない。」

礼子「ほんとね。ローマ建築に近い物があるね。」


2人は内装のシャレたデザインをいろいろ観察して楽しんでいた。


店員「いらっしゃいませ。」

マキ「ほら、あそこがいいと思う。」

昌子「よし、あそこだ。」


2人は入るや否や、場所取りでもするかのように急ぎ足でテーブルについた。


昌子「すっごいね。何か見た事のないデザインの壁。」

マキ「ほんとだ。天井の形も変わってるよ。何だか古代のヨーロッパみたいな。」

昌子「あっ、そう言えばそんな気がする。」

マキ「今度のイラストの背景に使ってみようかな。」

昌子「私も同じ事を考えてた。」


昌子とマキは芸術祭に向けていろいろアイディアを出し合うために、時々変わった店や新しい店を見つけては立ち寄っていたのである。


店員「いらっしゃいませ。」


西堀源太の父源蔵が1人で入って来た。源蔵は窓際の角のテーブルに座った。そこに急ぎ足で店長がやって来た。


店長「これはこれは西堀様。お忙しい中、ようこそいらっしゃいました。」


源蔵は軽く2、3度うなずいて、


源蔵「ま、なかなかの好スタートのようだね。」

店長「はい何とか。今日で1週間ですが、予想の3倍は来られます。」

源蔵「ほう・・・それは良かった。じゃまたリニューアルの時はよろしく。」

店長「はい。ではどうぞ、ごゆっくり。」


店長は挽きたてのコーヒーを置いてから一礼し、戻って行った。


西堀源蔵は西中野で建築会社を経営していた。

今回のカフェの設計では、特にめずらしい洋風のシャレたデザインまで受注し、1年の施工期間を経てこうしてオープンの運びとなったのであった。


さらにこの後に彼はこの街界隈で数件の店をさらに受注し、翌年には市会議員に立候補することになるのである。

なおそれらの店全ての不動産は明星不動産が担当した。

そこで親会社の明星商事は、会社ぐるみで源蔵を支援し、後援会も作り、やがて見事彼を初当選をさせる結果にまでなるのであった。



礼子がトイレに行こうとして源蔵の横を通りかかった時、


礼子「ん・・・あの人どこかで見た事あるなあ??」


思い出せなかった礼子はそのままトイレに入ったのであった。




芸術祭の当日。今年のテーマは『友情』だった。

校門の前には美術部が全員で創り上げた大きなコラージュアートのはりぼてが展示されていた。


そして講堂ではかなりやかましい騒音とも十分とれるくらいの高校生バンドの生演奏が休むことなく午後3時頃まで校内中に響いていた。

ボーカル担当の菊池令はけっこう丈の短いピンクのワンピースと真っ赤なスカーフにポニーテール姿で、黒のキラキラ光るラメの入ったベルトをしていた。


令「おーい!みんな、のってるかー!!」

観客「はーい!!」

令「よっしや、次いくぜ~ぃ!!」

観客「はーい!!」


そして再び演奏が始まった。


菊池令は女性だがとにかく男勝りでグループの中心だった。

同じ軽音楽部のサークル活動でいっしょになった同学年の男子を3人引き連れて入学以来早くからバンドをやっていたのだった。


令「いいよ、乗ってるねェ!!音楽は爆発だーー!!」

観客「イェーイ!!!」


一方こちらの美術室では美術部の個人作品や共同作品の展示物が所狭しと数多く張巡らされたり、並べられたりしていた。

窓もきれいに装飾され、いたるところにポップアートのようなポスターや、ステンドガラスに似せた額の絵など、さまざまな作品が貼られており、教室全体を作品で覆いつくしていたのであった。

ところで花園学園は私立だったので、他校の生徒や一般の大人もこの日だけは特別に許可無く入場できたのであった。

それから流行の短いスカートの女生徒も多く来ていた。


礼子「毎年見に来るけど、なかなか感動する作品ってないなあ。」

マチコ「ふうん・・・私にはすごい作品に思うけどね。」

礼子「大学の方がレベルも高いしやはり専門的でおもしろいわ。」

マチコ「礼子は美大だからね。私とは全然見る目が違うから・・・」

礼子「まあ美大と言えど、好きで入ったような・・・親の後を追っかけてるような・・・」


この美術部の展示には数人の女子生徒と一般の女性しか見に来ないのが通例だったが、何故かこの年はめずらしく西城が1人で見に来ていた。


マキ「西城君。」


呼ばれた西城はマキの方を軽く見て、


西城「ん?」

マキ「来てくれてありがとう。」


マキはにっこりして答えた。


西城「ああ、ん・・・」


西城は小さな声で曖昧な返事をしていた。

そして作品をじっと覗き込むように見て、時々あごに手を当てたりした。

マキはそんな西城がとてもカッコよく見えた。

しかし西城は意外と早く美術室から出て行ったのであった。



さて今度は教室の外を見てみよう。

グラウンドの一角には各運動部のバザーのブースが点在して不自然に並んでいた。


ここはテニス部のブースである。


ユキが手を強く叩きながら、


ユキ「はいはいはい、よかったらもんじゃどうですか!もんじゃどうですか!」


そこへ猟犬のようなすばしっこい駆け足でハーハー言いながら光がやって来て、


光「やっほーい!」

ユキ「何光さん、邪魔しに来たのですか?」

光「まーさかぁー、食べに来たんですよーぉ。」


光はニコニコして答えた。


麗子「ちょっと、自分のブースはほっといていいの?」


そこに割り込んだのは麗子だった。


光「大丈夫大丈夫 V!! オレピザがいいな。」

桃子「ここはもんじゃだけよ!」


桃子がテーブルを叩きながら言った。


光「じゃ、たこ焼き!」

桃子「ふざけてんの。スーパーにあるでしょ、そこに行ったら・・・」


さらに桃子がテーブルを叩きながら言った。


光「じゃ、たい焼き!」

桃子「だからここはもんじゃだけだと言っとるんじゃああああああああああ!!!!!!!!」

光「ひぇー・・・こわ・・・」


さすがに桃子の張り裂ける声にはかなわなかったようだ。


そこに3人組の男女のお客さんが来た。


ユキ「いらっしゃいませ。いかがですか?」

客1「私ミックスにしようかな?」

光「あ、それおいしいですよ~♪スカート短くていいですね。」

>>意味不明??


桃子「光!邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ー!」


桃子はとうとう腕ずくで光をブースから離れさせた。光はついに追い出された。


客2「オレミックスで。」

客3「私も同じ・・・」



この日ばかりは学校内は年に一度の生徒たちの活躍でバザーの方も大盛況だった。


やがて時も夕方4時をまわり、バザーのブースでは完売した店から次々とぼちぼち片付けに入るブースも出てきた。

それにつれて人だかりも徐々に減っていき、そしてブースの周りの掛け声もそれと共に減っていった。

さつきが売れ残ったチケットを持ってブースに戻ってきた。


ユキ「おかえり~♪」

さつき「ただいま~♪」

麗子「お疲れ~♪」


さつきが売れたチケットを数えていた。


さつき「チケットが3枚戻っていません。」

麗子「あれ?全部売れたけどね?」

ユキ「え?誰か食べたのかな?」

麗子「まあいいわ。」


麗子はまったく気にしていなかった。

というのも麗子が数枚焼くのを失敗していたからである。


そしてボランティア部のメンバーが最後にバザー周辺のゴミ掃除をしていた。



芸術祭が終わった後、それぞれの持ち場にいた多くの生徒は芸術祭の打ち上げをするために、スーパー「ゲキヤス」の向かいにある「リトル・キッチン」に集まっていた。

そして彼らは窓際の一角を堂々と占拠していた。


ここはテニス部だけのテーブル。


麗子「はい、みんなお疲れー!」

ユキ「声が枯れてしまったわ。」

さつき「そう言えばユキ、最初から最後までずっと呼び込みしてたもんね。」


テーブルの真ん中にはすでに空になったフライドポテトの大きな皿とソフトドリンクの空の山ができていて、桃子は隅で静かに座っていた。


ちょっと静かで暗いイメージを感じる隣のテーブルでは、


マキ「なんだか今ひとつだったよね。」

昌子「先輩の話だと毎年こんな感じだって話していたよ。」

マキ「そうか、それで打ち上げもしないのかあ。」


これまで美術部は毎年打ち上げはしていなかった。


昌子「そう言ってた。おもしろくないって。うちの学校は美的感覚がまずないらしい。」

マキ「そうそう、それ思った。うちの生徒が見に来るってまずなかったもんね。作品は悪くないと思うけどなあ。」

>>それってマキだけだと思います。


昌子「あ、そういえば西城君。」

マキ「そ、それだよ。彼来てくれてた。めっちゃ嬉しかった。」

昌子「美術に興味あんのかなあ?」


首をかしげる昌子だった。


マキ「そんな風には見えないけど・・・で何頼むの?」


ちょうどいいタイミングでそこに店員が席に来た。


昌子「お子様セット。」

>>普通は頼まないでしょ!


マキは想像もしなかった突然のメニューに驚いて、


マキ「え!」


マキはメニューをもう一度開けて、何にするか迷っていたのであった。



さらに隣の目立ち過ぎてやかましいテーブルでは右手のこぶしを何度も上げながら、


光「イエ~イ!!イエ~イ!!イエ~イ!!」


光はテーブルソファの背もたれの上部分に腰をかけて叫んでいた。


西城「お前ほんとうるさいなぁ・・・ほんとに疲れるわ。」

光「いいじゃん、この日こそはしゃがなきゃいつはしゃぐんだぁ・・・」


急に店員がやってきて、


店員「お客さん、そこから降りてください。ちゃんと座ってください。」


それを聞いた光はしかたなく座るのだった。


西城「お前授業中いっつもはしゃいでるじゃん。」

光「そうかなあ、いつも大人しいけど。」

>>完全に呆れる西城。


西城「それとうちのバザーもっと手伝えよ。焼きそば食ってばっかりで、お前作ったことあんのか?」


西城の鋭い言葉が手裏剣のように光の喉に突き刺さった。


光「焼きそばくらい、作れますよ。・・・じゃ、来年はオレが焼きます!」


まったく西城の手裏剣に動じない光。その上光は自分の胸を左手の拳で軽く叩きながら自信有り気に言った。


西城「その言葉忘れんなよ。」

光「モチ!!」


光はしっかり西城にピースサインをしていた。

>>ここでピースサインですか??


光はバスケ部の他の先輩が打ち上げに参加しない理由がまったくわかっていなかった。

西城は仕方なしに光に付き合っていたのだった。


で、翌週のクラブ活動の時間に西城が先輩から聞いた話なのだが、どうやらバスケ部の先輩たちは別の店で打ち上げをしていたらしい。



やがて時と共にスカートの流行はしだいに消えて行った。

そしてその流れに沿うように、桃子はテニス部に入って初めての公式試合で何とか3位になった達成感に満足して、その後テニスに身が入らないようになっていったのであった。



今年最後の授業の日。クラス皆の注目はやはり三角だった。


ユキ「すごいわ・・・最後までじっとしてる・・・」

さつき「ほんとだね。とても考えられないわ。どういう神経してるんだろ?」

ユキ「いや、まったく血管ないんじゃないの。微動だともしないよ。」

さつき「時々目をつぶっているけど、寝てるのかな?」

ユキ「ま、まっさかァ・・・。あ、あの姿勢のまま・・・」


不思議がるユキ。


さつき「写メ撮っておこう。」


さつきが携帯を三角の方に向けた。


ユキ「おいおい・・・(^。^;;)」


さつきはすっかり三角のファンになっていた。

さつきが写メを撮り終えて、画像をユキに添付メールで送った。


ユキ「いらん、こんなもん!」


ユキはすぐにそのメールを削除した。


さつき「彼、教科書出てないよね。」

ユキ「英語で当てられたときは出してるよ。」

さつき「その時だけか・・・」


さつきの撮影は続いていた。


ユキ「この光景、来年まで持ち越さないで欲しいわ。」


ユキはさつきの方を眺めながら心配そうにして、そして携帯をカバンにしまった。

一方さつきは彼を何度も撮り直しをしている様子だった。





第8話


クリスマスに少し離れた南高針地区を流れる高針川の河川敷で今年からイルミネーションが見られることを知ったユキはさつきと見に行くことにした。


ユキ「わあーすごいわぁ・・・予想以上にすごい。」

さつき「ほんとだ。綺麗だよね。感激しちゃう!」


2人は微動だもせずただただ興奮状態だった。

さらに初めてのイベントとあって、見学客もかなり大勢いた。河川敷はほぼぎっしり、通路も埋まった状態であった。


一方こちらは麗子と母親が2人で見に来ていた。


麗子「お母さん、すごいね。」

雅子「そうだねえ。きっとこれからの時代はこれが毎年のように普通になってくるのよね。」

麗子「私きっと、今日の事を忘れないわ。」

雅子「私も。」

麗子「お母さん・・・」


麗子は少し潤んだ目をしていた。

そして母の香水がこの日からエリザベスアーデンのグリーンティになっていることに気が付いた。


雅子「しかし、最近の女子生徒はスカートが短いわね。」

麗子「短いとダメなの?」

雅子「そういう訳じゃないけど、何がしたいのかしら?」

麗子「男に注目されたいのよ。」

雅子「それなら他にもっといい方法があるでしょうに。」

麗子「どんな方法?」

雅子「それは・・・」


母は答えに困ってしまった。


麗子「ほらあ、他にいい方法がないでしょ。だから短くするのよ。」

雅子「いいえ、きっとありますよ。」


母は突っ切った。


麗子「ふう~ん・・・」


麗子は母のそんな言葉も当てにはしていない様子であった。



こうしてそれぞれの2組は生まれて初めてのイルミネーションを思い思いに楽しんでいた。

さらに川面にも色取り取りのイルミネーションが美しくしとやかに、そしてときに鮮やかに時間と共に写って、まるで大きなキャンバスに描かれた動画のようだった。



女子アナ「は~い皆さん、こんにちは。TV西東京の水曜日は『突撃インタビュー』の時間ですよ。今日は東京近郊南高針地区に昨年から開催されていますイルミネーションにやってまいりました。そしてここは高針川河川敷で~す。」


アナウンサーは歩きながら説明していた。


女子アナ「そして今日のゲストはこちら、大野竹輪さんで~す。」


大野が現れて、


大野「こんばんは、大野竹輪です。よろしく。」

女子アナ「は~い。よろしくお願いします。」


2人は河川敷をゆっくりと歩いて行った。


女子アナ「けっこう冷えますね。」

大野「そうですね。」

女子アナ「ところで突然ですが、大野さんは出身はどちらですか?」

大野「私は京都です。」

女子アナ「え。京都ですか。しかし観光の町とは言っても、この寒い時期はどうなんですか?」

大野「何をおっしゃる、この時期は紅葉がきれいですよ。」


女子アナ「紅葉って秋じゃないんですか?」

大野「京都の紅葉は12月が最高なんですよ。嵐山なんかすごい人ですよ。」

女子アナ「へえー、これは是非行ってみたいですね。」

大野「ははは、向こうでインタビューしてください。」


2人は笑っていた。


大野「そうそう、この間嵐山に行きまして、短歌を一句書きました。」

女子アナ「ほうー、小説だけじゃないんですね。」

大野「たまたま浮かんだだけです。」

女子アナ「で、その句は?」


大野はバッグから1枚の色紙を出してきた。そして、その色紙に書いてある自分の句を読んだ。


『しは走る 映える紅葉に かげ薄く 流れる風に 時を感じる』


女子アナ「大野さん、しわがあるんですか?」

大野「ははは、その通り。この『しは』はしわです。しわができるとその線に沿って薄い影ができるでしょ。」

女子アナ「ああ、なるほど。で、時を感じるんですか?」

大野「紅葉を見ながら、自分も年をとったものだなあと感じるんですよ。」

女子アナ「時じゃなく、年ですか?」

大野「そうです。引っ掛けってやつですな。」

女子アナ「けっこう凝ってますね。」

大野「短歌ってそういうものです。これは嵐山での句なんで、紅葉といっても12月なんです。そこで師走と掛けています。」


女子アナ「え、まだあるんですか?」

大野「昔は友達やら先生をよく見かけたはずなんだけど、時が過ぎて、まったく見かけることもなくなったんですよ。」

女子アナ「そう言えば、私も中学の友達に今は出会うことはないですね。」

大野「でしょ。」



一方こちらは夜のネオン街。小袋と清水両先生がデートしていた。


小袋「ここですよ。」


小袋が指差した店はテナントビルの1Fに入っていたステーキの店だった。


清水「へえー、こんな所にお店があるんですねぇ・・・」

小袋「ええ、他は居酒屋かスナックばかりですけどね。」

清水「Mr.ステーキか・・・」


2人は早速店内に入って行った。


店員「いらっしゃいませ。」


明るい声が店内に響いた。


清水「あら、外から見るよりかは中はけっこう広い感じがする。」

小袋「確かにそうですね。」


店員が席を案内した。2人は窓際ではなく、奥の方の角のテーブルに座った。


店員「メニューを置いておきます。」

小袋「あ、あの、コース、Aコースでお願いします。」


店員はすぐに、


店員「はい、わかりました。Aコースを2つですね。」

小袋はうなずいた。この後クリスマス特別コースの料理が順序良く出てきたのである。



30日には商店街で街中の大掃除が一斉に行われた。

朝から高校のボランティア部のメンバーが商店街の店の人たちと一緒になってゴミ集めやダンボールをまとめて縛ったり、缶とペットボトルの袋詰めなどを手伝っていた。


桃子「けっこう大変だったね。」

昌子「そうですね。思ったよりは疲れました。」

マキ「あー体中がゴキゴキいってる・・・」


マキは体をくねらせながら言ったので、2人は笑っていた。

そこに商店街にいた町内会長の外村さんとの挨拶を終えた三角が戻ってきた。


三角「皆さん、お疲れ様でした。」

3人「お疲れ様でした。」

三角「これで新しい年を迎える事ができると思います。」

桃子「なんか役所の偉いさんみたい・・・」


少し笑いが起こった。


もう一つ付け加えておくと、この後最も大きな笑いが起こったのは高校の教頭だった。

この日のボランティア活動が写真に撮られ、さらにこの街のHPでその写真が紹介されたからであった。

当然高校の名前もさらに知れ渡ることとなり、翌年のこの高校受験者が2倍に増えたという。




翌年の元旦。ここはユキの家。

ユキが玄関前にあるポストに年賀状を取りに来た。


ユキ「えーと・・・」


数十枚の中から自分宛の葉書を仕分けながら玄関に入って、自分以外の分を応接間においておき、そして自分の部屋に戻った。


ユキ「さてと・・・」


ユキはベッドに横になりながら、天井を眺めた。

それから自分宛の年賀状を1枚ずつ見始めた。


ユキ「さつきからだ。」


ユキはその年賀状を裏返してみた。


ユキ「ゲーゲゲー・・・(x。x;;)」


しっかりと三角のお地蔵さんの写真が、それも丁寧にいろいろ手を加えて仕上げてあった。


ユキ「ここまでするか・・・」


ユキは早速さつきにメールを送った。

さつきからの返信は、


『もっとすごいやつもあるんだ。添付しようか?』


ユキはすぐに、


『絶対いらん!!!』


とメールを送った。

そしてさつきからの年賀状がユキの部屋では、翌日からダートの的になっていたのであった。




1月3日。ここは中野神社。

けっこう多くの初詣客が右往左往していた。


小柳昌子の親子が神社から出てきた。


百恵「昌子、マキちゃんと一緒に初詣行かないの?」

昌子「マキを誘ったんだけど、昨日東京の浅草寺に初詣に行って疲れちゃったから、今日は1日中家で休んでるって。」

百恵「そうなの。じゃまた私が来年昌子を東京に連れて行くからね。」

昌子「うん。」


2人はけっこう派手な晴れ着で東中野商店街を歩いていた。

百恵は店を1軒1軒懐かしそうに見ていた。

そして「ももんが」の前を通った時、


昌子「ママ、もんじゃ食べない?」

百恵「あー、ここのもんじゃはちょっと・・・」

昌子「ちょっと?」


百恵はかなり抵抗がある様子で、その表情が昌子には不思議ではあったのだ。


昌子「何かあるのかなぁ・・・」


昌子は心の中で考え込んだ。


百恵「じゃ、違うお店に行こうよ。」


母百恵は急に元気を出して、やや急ぎ足で駅の方に向かった。

昌子もその後をついていった。



月が変わり2月。今日は13日。

スーパー「ゲキヤス」には多くの女性が新設のコーナーを占拠していた。

勿論目当てはチョコ。とくに女子高校生の集まりは多く、押し合いもみ合いながらまるでそこは戦場になっていた。

その人数は特売日か年末の人手のようになっていたのだ。


2人の警備員も必死で対応をしていたが、とてもじゃないが捌ききれなかった。


マキ「すっごいね、人だらけ。」

昌子「ほんとだ。」

マキ「あーあーうちの生徒が多すぎるわ。」

昌子「ほんと、みんな渡す相手同じじゃない。きっと・・・」

マキ「やはり・・・」



昌子の言ったセリフは大当たりだった。

翌日の放課後、西城の下駄箱の中にはたくさんのチョコがはみ出さんばかりにメッセージカードを添えて押し込んであった。

しかし教室では一切バレンタインの話をする女子はいなかったのであった。



春休み。ここは小柳昌子の家。


百恵「最近マキちゃんうちに来ないね。」


昌子は応接室でイラストを描きながら、


昌子「あ、そう言えば今日博物館に行くって言ってた。」

百恵「博物館?」


昌子「そう、中学のときの友だちと絵を観に行くんだって。」

百恵「へえー、昌子は絵を見に行かないの?」

昌子「私どっちかって言うと、美術よりデザインの方が好きだな。」

百恵「じゃあ、うちのお店のデザインを頼もうかな。」


昌子は手を止めて、


昌子「いやだー。でもタダってことはないでしょ。」

百恵「ええ勿論。昌子の大好きなちらし寿司をいっぱい食べさせてあげるわ。」

昌子「えー、それだけなの?」

百恵「そうよ。」

昌子「じゃ、止めた。」


昌子は再びイラストを描き始める。


百恵「あら、残念ねぇ。」


百恵はかなり残念そうにしながらキッチンの方に行った。


昌子「ママ、今日のお昼は何?」

百恵「コロッケとサラダです。」

昌子「う・・・ん。ちらし・・・」


どうやら昌子はちらし寿司が諦め切れなかったようである。

そして再びイラストを描き始めるのであった。





第9話


学年が2年になる。

この高校は1年A1~A4、2年B1~B4、3年C1~C4というようにクラスが分かれていて3年間クラス替えがなかった。


ここはテニス部の部室。麗子と桃子の2人だけだった。


麗子「そうっか、辞めるのか。」


麗子はゆっくりとした口調で言った。


桃子「はい。」


少し間が空いて、やや重苦しい会話になっていた。


麗子「仕方ないね。意志が固いみたいだから。」

桃子「でも競技大会はテニスに参加します。」

麗子「そうね。頑張ってね。」

桃子「いろいろ教えてもらってありがとうございました。」


2人はその後部室を出て帰宅の準備をした。

麗子はいつもならそのまま下駄箱に向かうのだが、どうしたのか足の向かう先は屋上だった。


麗子「はっ・・・どうしたんだろう私・・・」


麗子が気づいた時は、屋上に出る扉の前にいた。


麗子は無造作に扉のかんぬきをはずし、屋上に出た。

そこは下に落ちないように1メートル50ほどの鉄の白い柵で囲ってあった。

麗子は街が見える方角に近寄り、柵に腕を乗せてしばらくその景色を眺めていた。

心地よい風が時折吹くと髪が顔に流れて気持ちよかった。


夏美「麗子さん。」

麗子「え?」


麗子はすぐに振り返った。

そこには夏美が立っていた。


麗子「あ、夏美さん。」

夏美「私有名なのかな?」

麗子「みんな知ってるわよ。放送室の事件・・・」

夏美「もう・・・やめてください。」


2人は笑い合った。


麗子「どうしたんですか?ここになんて・・・」

夏美「麗子さんこそ、どうしてここに?」

麗子「何だろうか・・・気が付いたらここにいたって感じかな・・・」

夏美「あはは、私と同じだわ。」

麗子「そうなの。」

夏美「部活のあと時々ここに来て、新鮮な空気をもらってる。」

麗子「へえー、悩みでもあるの?」

夏美「特にないけど、気晴らしにはいいから。」

麗子「そうだね。私も時々来ようかな。」


少し躊躇していた夏美だったが、


夏美「あのね第一印象がさ、少しケバイ気がしてたんだけど、こうして話してみると普通なんだ。」

麗子「あー、私ってそうとられてたのかァ・・・」

夏美「うん、だって更衣室にいた時さ、何か香りがしてさ・・・」

麗子「香水?」

夏美「たぶん・・・」

麗子「あー、あの頃ね・・・」


麗子は思い出し笑いをし始めた。

そして桃子とのちょっとした香水争いの話をしたのである。


夏美「へえーそうだったんだぁ・・・麗子さん、1人なんだってね。」

麗子「どうして知ってるの?」

夏美「2クラの友だちから聞いたことがあるよ。」

麗子「そう・・・まあ気楽だけどね。そう言う夏美さんは?」

夏美「実は私も1人なんだ。」

麗子「なんだ、そうなんだ。一緒だね。」


この日は何故か気の合う2人だった。

2人は鉄柵に両肘を置きながらしばらく街並みを眺めていた。

時々吹く爽やかな風が2人の乙女心に優しさを届けている様子だった。



そしてこの日から、時々2人が屋上で一緒になることがあった。

やがて2ヶ月も経たないうちに仲良しになっていた。



5月になった。

午後になり体育館では男子バスケ部の練習試合が行われていた。

たくさんの女子生徒が体育館を埋め尽くす中、隅の一角で2年から体操部に変わった桃子が器械体操の練習をしていたのであった。


桃子「まったく・・・うるさすぎる。」


西城がシュートを決めるたびに悲鳴が体育館中に響いた。


桃子「だめだあ、集中できん。」


桃子は時折休んでバスケの試合風景を見ながら、にらんでいた。



麗子はしばらくぶりに屋上に上がってみた。

そこにはグランドの方向を眺める夏美がいた。

麗子はゆっくりと夏美に近づいて行った。

夏美の方は誰か近づいて来るのは気づいてはいたが、まったく気にせず遠くの山の裾野を眺めていた。


麗子は夏美の横に立って、


麗子「今日は良い天気だね。」


その声を聞いて、


夏美「そうだね。空気も綺麗だし。」

麗子「ふう~ん。空気かァ・・・」

夏美「何、何か悩んでいるの?」

麗子「別に何も無いけど・・・」

夏美「何かつっかかるんだけどなァ・・・」


麗子「そうかな?」

夏美「わかるわよ。だって・・・何度も会ってるじゃん。」

麗子「まあね・・・」

夏美「今日は特に重苦しそうに思うんだけどさ。」

麗子「そう見える?」

夏美「見える。」


麗子はしばらくグランドの方に目を向け、ベンチにカバンを置いた数人の男子がサッカーをやっているのを見ていた。


夏美「男かな?」


麗子は含み笑いをしながら夏美の方を見て、


麗子「かも・・・」


麗子は鉄柵を両手で強く握り締めながら、


麗子「そういう夏美はどうよ?」

夏美「何もないわよ。」


麗子「そうかな?」

夏美「ここの男子はまともな奴いないからね。」

麗子「それは私も同感・・・」

夏美「ねえ麗子、1回他の学祭に行ってみない?」

麗子「いいね。そうしようか。」

夏美「うん。じゃ今度決まったらメールするね。」

麗子「わかった。」


夏美は少し体が軽くなったのか、リラックスしながら屋上から降りて行った。


麗子「あれ?あっちにも屋上の扉があったんだ・・・」


麗子は少し1人でいたかったのか、まだ回りの景色を眺めていた。




その2日後。空はやや曇り空ではあったが校内の競技大会が例年通り無事に行われた。

最終的にテニスの試合結果だけをいえば、麗子のチームが優勝し、ユキが3位、桃子が4位、さつきが5位になった。


テニス部の3人は下校後スーパー「ゲキヤス」の向かいにある「リトル・キッチン」に集まった。


麗子「はい、みんなお疲れー!」


麗子がウーロン茶のグラスを持ったまま手を上げて言った。


ユキ「なんかお遊びみたいになっちゃったわ。」

さつき「そう言えばユキ、最初から最後までマイペースだったもんね。」


テーブルの真ん中にはフライドポテトの大きな皿とソフトドリンクの山ができていた。


ユキ「あー、足りない。唐揚追加するわ。」

さつき「私も食べる。」


こうしてテーブルの真ん中は大いに賑わったのであった。




数日後夏美は麗子に学祭の案内メールを送った。


ここは隣町(山手地区)にある某私立高校。学祭が週末の2日にわたって行われた。

夏美と麗子は校門入り口に設営されてあったインフォメーションのところへ近づいた。


夏美「ここでパンフレットをもらおう。」


麗子は軽くうなずいた。


案内係「いらっしゃいませ。どうぞ自由にパンフレットをお取りください。」


2人は長机に積んであるパンフレットを1部ずつ取った。


夏美「ちょっとそこのベンチでパンフを見ようか?」

麗子「そうね。」


2人はすぐ傍にあった白いベンチに座った。

ベンチの隅にはここの男子学生なのか、熱心に本を読んでいた。

2人はパンフレットを見始めた。


そして数分が過ぎた。


麗子「う~ん。ここはどうかな?」

夏美「何々、どこどこ?」


麗子がパンフのあるページを開きそこを指差した。


夏美「占いの館・・・おもしろそうだね。」


そして夏美の方も、


夏美「ねえねえ、ここどうかな?」


夏美もパンフを開いて指を指した。


麗子「エステ?・・・はァ・・・(^^;;)」

夏美「何かおもしろそうじゃん。」

麗子「学生がエステ?」

夏美「そうよ、そこよ。」


麗子は少し考え込んだが、


麗子「よし、行ってみよう。」


こうして2人の意見はまとまり、それぞれのテーマの教室へ順に回る事にしたのである。



半日が過ぎた。


麗子「夏美、ぼちぼち帰ろうか?」

夏美「そうだね。何かうちの学校とはだいぶ雰囲気が違っていたから、かなり面白かったね。」

麗子「そうね。私も同じ。」

夏美「また機会があったら学祭行ってみる?」

麗子「いいよ、夏美と2人なら。」

夏美「ありがとう。」


このあと2人は西中野地区にある『リラックス11』で少しお茶をしたあと、それぞれ自宅に戻ったのであった。



ある日の放課後の下駄箱にて。麗子が帰ろうとしたとき、カバンからピンクの手帳が落ちてしまった。

それを知らずに麗子が帰ろうとしていたとき、ちょうど通りかかった西城がその手帳を見つけて、


西城「鳥飼さん。」


西城はけっこう大きな声で麗子を呼び止めた。


麗子「は、はい。」


麗子はドキッとした様子で答えた。


西城「手帳を落としましたよ。」


西城はそう言って手帳を拾い、麗子に手渡した。


麗子「あ、ありがとう。」


西城はその場をさっさと離れて行ったが、立ち止まったままの麗子は内心喜んでいた。

自分の名前を覚えてもらっていたからだ。

しかしその麗子の手帳の裏側に西城の写真がはさんである事までは彼は気づかなかった。


麗子が校門を出たすぐ後、C1クラスの荒川さおりが下駄箱にやって来ていた。


さおり「ふん、古い手を使う・・・」

>>じゃ新しい手って何?



ここは桃子の家。彼女と父が夕食後TVを見ていた。


父「またか・・・」

桃子「どういう事かよくわからないよ。」

父「国会議員は通信費という経費を給与とは別で無条件に月100万もらっているんだよ。」

桃子「げ!月100万も!」

父「ああ、つまり年間1200万ってことだな。給与を合わせると2000万にもなる。」

桃子「そんなにもらってんの?」

父「そうだよ。それも我々の税金だからなあ・・・」

桃子「経費は何に使うの?」

父「名目は地元の応援者との交流とか理屈を言ってるけど、事実はまったくわからない。誰も調べないからな。」


桃子「そうっかあ、だから外車を買う新人議員がいたんだ。」

父「そうそう、選挙中は自転車で遊説していたくせにね。」

桃子「これが現実なのかァ・・・」

父「残念だけどな。真面目な人ほど損をするようになっているのさ。」

桃子「みんな悪い人ばかりになっていくね。」

父「そう言う事だな。」


桃子はかなりショックを受けてしまった。


父「桃子、しかしうちだけでも真面目に頑張ろうじゃないか。」

桃子「うん、そうだね。」

父「世の中1000人いたら、そのうち2人くらいはまともな人がいるって・・・」


TVのニュースではまた新しい独立法人ができたと、キャスターが台本の棒読みをしていた。


この日、父はいつもより多くの酒を飲んだのであった。



一方こちらは西堀家。夕食後美紀と母親がリビングでTVを観ながら話していた。


美紀「母さん明日の天気は?」

キャスター「晴れです。」

母「晴れだって。」


母がTVを観ながら答えた。


美紀「そうかァ・・・じゃ体育だ。」

母「いやなの?」

美紀「うん。だって嫌いなバスケットボールなんだもん。」

母「ふう~ん。中学の時はそんなにいやがってなかったでしょ。」

美紀「急に嫌いになることもあるの。」

母「よくわかんないわねぇ・・・」


美紀「で、明日の夕食は?」

母「デミグラソースのオムライスとシーフードサラダです。」

美紀「よし、早くお風呂入って寝ようっと。」

母「急に元気が出るのね。」





第10話


夏には毎年恒例の花火大会が東中野商店街近くにある中野北公園で今年も行われた。

公園だけでは場所が狭いので、近くの中野神社の境内や広場も縁日や櫓に利用されていた。

また公園がさほど広くなかったために、花火の打ち上げ場所は公園から北に2キロほど山よりにいったところで今年も準備された。


今年も昌子は同じ美術部で隣のクラスの軽辺マキといっしょに流行のカラフルな浴衣姿で花火を見に来ていた。


昌子「マキその浴衣にして良かったね。可愛いよ。」

マキ「昌子も可愛いよ。やっぱお揃いにしてよかった。」

昌子「ほんとだね。」

マキ「また今年も人が増えているように思うよね。何なのかな?それほど有名になったようには思わないんだけど。」

昌子「ほんと私もそう思うけど。毎年増えている感じはするよね。」

マキは新しく買った内輪をゆっくりとあおりながら、

マキ「そうだよね、いやな連中に会わなければいいけどね。」


急に何やらやかましい一団がマキたちの近くにゆっくりと近づいていた。

>>やっぱり来たか。


光「いえーい!いえーい!いえーい!おー!おー!おーーー!!」


叫んでいるのは光だけだったが、あまりの大声だったので一緒に来ていた吉永にとっては迷惑千万だったようだ。


吉永「お前と来るんじゃなかったよ、まったくもう2年目だぜ・・・。」


そんな吉永の言葉さえ気にしない光は、通り過ぎる女子中学生や高校生を見つけるたびに話しかけていた。


光「ねえねえ、ちょっとそこのおねえさーん、可愛いねぇ。どこから来たのかな?」


由紀子は急に鳥肌が立ったようで身震いしながら、


由紀子「きゃー!きもい・・・」

光「何それ、オレお化けじゃないよお・・・ほらぁ・・・」

>>お化けの方がましかも・・・


由紀子のすぐ後ろの方から、


めぐ「ちょっとちょっとぉ・・・何カモってんのよ、まったく。いい加減にしなさいよ、私の妹よ。早く覚えろっちゅうねん!」

光「ひやー!これはこれは・・・」


そこにいたのは同じ高校のバレー部の3年生柏木めぐだった。


めぐ「相手間違えてるんじゃないの?何なら私が相手しようかぁー!」

光「失礼しました!」


柏木姉妹は関わりたくなかったのでさっさと消えて行った。

呆れているのは一緒に来た吉永だった。

大好きな1リットル入りコーラをいつものごとく一気に飲み干していた。


吉永「まったく・・・昨年とおんなじことしてやがる・・・」


そう言って、近くのゴミ箱にペットボトルを思いっきり投げ捨てた。



少しすると、打ち上げ花火が何発か上がり始めた。

光には花火はどうでもよかった。

また周りの女の子ばかりを眺めてしつこく声をかけていた。


光「ねえねえ、ちょっと君たちさあ・・・」


山中「おい光、何やってんだ!」


急に現れたのは担任の山中だった。昨年と同じジョギング用の深緑色の上下ジャージ姿で、今年も生徒たちを監視するために来たように見えた。


光「うーわ!ここまでオレたちを追いかけてきたのかよ。」

吉永「今年は案外そうかもしれない。」

山中「何言ってんだか、オレの家はこの近所なんだって昨年言っただろうが。」

吉永「うわ、最悪・・・怒ってきたぜ。」

山中「吉永何か言ったか?」

吉永「いえ別に・・・」


2人は担任から離れるべくさっさと群衆の中に消えて行った。


この様子をうかがっていたマキと昌子も、


マキ「またうちの担任じゃん・・・」

昌子「ほんと世間は狭いもんだね。さ、行こう行こう・・・毎年同じことやってるわ。」


この2人も山中から離れるようにさっさと縁日の方に消えて行った。


一方1人で来ていた夏美に綿菓子の店でマキたちに偶然出会った。


マキ「あ、夏美。」

夏美「あ、マキ。」


2人は目を合わせた。


マキ「今年も1人なの?」

夏美「うん。」


マキは心配そうにして、


マキ「一緒に回ろうよ。」

夏美「いいの?」


マキは昌子に夏美を紹介した。


マキ「私のクラスの夏美。」

昌子「覚えているよ。」

マキ「そう。」

昌子「よろしくお願いします。」

夏美「こちらこそよろしくね。」


こうして3人は歩き出した。が、急に・・・


夏美「あ、あれ、あれれ?」

マキ「どうしたの夏美?」


夏美は自分の紺色のブラウスの腰の辺りを両手で触っていた。


夏美「ないわ、ポーチ。」

マキ「ああ、あのショッキングピンクのウエストポーチね。」

夏美「いや、今年は縁起が悪いと思って違うポーチに変えたのよ。そうなんだけど・・・」

マキ「え?もしかしてサイフも・・・」

夏美「いえいえ大丈夫。サイフは別にしたの。ここにあるから。ほらね。」


自信たっぷりの夏美だった。


マキ「じゃポーチは?」

夏美「ハンカチとティッシュしか入ってないからいいわ。」

マキ「そうなの。」


ちょっと安心したマキだった。


夏美「うん。大丈夫。」


そうは言いながら3人は夏美が歩いてきた道を少し戻りながら夏美のポーチを探し始めた。



さてこちらは光と吉永の2人。

縁日のお面の店にいた。


光「お前、やっぱ似合うよなあ。」

吉永「それはひどいよ。じゃあ、これ付けてみてよ。」


光がリニューアルした3Dのひょっとこのお面を被った。


吉永「ほら、よく似合うじゃないかオレよりかずっとさ。」


それを聞いて調子に乗った光が踊り出した。

周りの客が変な顔で見ていた。


光「なんだかなあ、今ひとつ盛り上がらないけどなあ。」

吉永「踊り方が変なんだよきっと。今年の流行で踊らなきゃ。」

光「お前知ってんのか、それを?」

吉永「ん???知らん。」

光「じゃ言うなよ。」



そして2人が少し歩き出した時、


吉永「ん?」


吉永は足に何か物が当たった気がした。

そして、下を見渡した。

すると、そこに小さなポーチが落ちていた。


吉永「これは?」

光「おいおい、女もんのサイフかな?」


吉永が拾い上げて中を確認してみると、ハンカチとティッシュが入っていた。


吉永「何だこれ?」

光「もっと明るい所に行かないとわからないよ。」


2人は明るい商店街の方に出た。吉永はもう一度そのポーチを見た。


吉永「なんだ、ただのハンカチかあ。」

光「くだらん・・・その辺に捨てとけ。」

吉永「しかし・・・」


吉永は近くのベンチのそばの石畳にそっと拾ったそのポーチを置いた。


やがて光が3人組と遭遇した。


光「やっほ~い!」

夏美「何何、気持ち悪い奴。」

光「失礼だよな。せっかく会えたのに・・」

夏美「それがキモイって言ってるのよ。」

>>やはり声はでかい!


吉永「夏美さん。」


吉永はいつもの照れくさそうな表情で言った。夏美は納得したかのように、


夏美「いつも2人一緒なのね。」


急にマキが、


マキ「ねえねえ吉永君、ポーチ見なかった?」

吉永「え!ま、まさか昨年のあのポーチ?」

夏美「ち、違う違う。今年はベージュに変えたのよ。」

光「知らないなあ。そんなの落とした方が悪いんだよ。」

夏美「光に聞いてないし。」


夏美は光を少しにらみつけるようにして言った。


吉永「知らないなあ・・・」

夏美「あ、ありがとう・・・」


マキの手前軽い言葉を吉永に言ったが、特にその気はなかったのだった。



そしてこの日だけは夜遅くまで花火の音が東中野の町全体に響いていた。


やがて5人組が解散する時、


マキ「もしかして夏美は何か・・・」

夏美「やめてよ!」

>>相変わらず大きな声ですね。


昌子が2人を見て笑っていた。



この日ユキとさつきの2人は母親とともに4人でカフェ「リラックス11」で語り合っていた。

母親が話す内容で疑問に思った2人がお互い確かめ合うような感じになっていた。


ユキ「へえー、さつきんちは懸賞にはまってるんだ。」

さつき「そうなの、いっぱいクーポンやシールを集めたり、葉書もたくさん送ってるよ。私よくポストに投函しに行かされるから。」

ユキ「で、当たったの?」

さつき「時々何か送ってくるよ。」

ユキ「へえー。けっこう楽しそうね。」


さつき「私は全然興味ないよ。だって絶対欲しい物でもないんだしさ。まして私の欲しい物は一つもないわ。」

ユキ「あー、そう言えばさ、昨日だっけ。さつきのママがうちに持ってきたよ。」

さつき「どうせいらないものか、余分に当たったからじゃないかな。」

ユキ「でもけっこううちのママは喜んでたみたい。」

さつき「そうう・・・」


ここで話題はユキの方に変わった。


さつき「へえー、ユキんち、ポイントためてるんだ。」

ユキ「ああ、ポイントのカードいっぱい持ってるよ。それに私まで作らされてさ。」

さつき「カード?」

ユキ「そう。まあいい加減にしてって思うわ。500ポイント溜まると500円の商品券になるのよ。」

>>両親の長い話もいい加減にしてください。


このあと4人は近くの32アイスに行った。



<< 前編 終わり >>


この小説は「キラキラヒカル」全集の第2巻(前編)です。


キラキラヒカルは新しいカテゴリ、「4次元小説」の1冊で、これまでにはない新しい読み手の世界を考えて描いてあります。


なお、「もくじ」は配布している冊誌の表紙裏を入れました。


このシリーズでは、「登場人物一覧」以降は「ハンドブック」に記載しています。そちらをご覧ください。



<公開履歴>

2016. 1. 1(2-1)配布

2018. 4.23 yahoo掲示板にて公開(2-2)


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