非通知にはお気を付けを。
「もしもし? 私メリーさん。今〇〇駅にいるの。これからあなたの家に行くね」
ブツリ、プー、プー。
木曜日の午後八時半。バイトを終え、晩飯も食べ終え、××アパートの9号室で漫画を読んでいた俺のスマホにかかってきた非通知の電話は、こんな内容だった。
少し舌足らずな女の子の声で、日常会話のように淡々とした口調。まあ、いたずらだろう。それにしても、こんな時代でまさかメリーさんの都市伝説を聞くことになるとは思わなかった。
「そんなもんよりたまに部屋に出るGとかチューとかのほうがよっぽど怖いつーの。てか嫌」
ぼろいせいか、時々出るんだよなあ。箪笥の後ろからちょこっと覗いてた時もあったし。Gの恐ろしさと、〇キジェットの偉大さを初めて感じた、十九の春。
派手な赤色のスマホを置いて漫画に再び目を落とす。
……さっきの電話、家から自転車で十分くらいの駅だったのは、ただの偶然だよな。
プルルルルル
再びスマホが鳴り出す。画面を見ればまた非通知。また悪戯か、それとも間違い電話か。まあいいや。こちらが掛け合わなきゃじきに諦めるだろう。そう考え、漫画にまたまた目を落とす。
しかし……
プルルルルル
プルルルルル
プルルルルル
プルルルルル……
一分近くスマホは喧しく鳴り続けていた。プルプルうるせえよスライムかお前は。
いくらなんでもしつこいので、文句の一つでも言ってやろうと通話ボタンを押す。
「もしもし、私メリーさん。今△△服屋の隣の、青と白のコンビニの前にいるの」
「おいガキ! いい加減に……切りやがった。」
ブツリ、プー、プー。
スマホの画面には通話終了の文字。なんなんだまったく。
△△服屋の隣の、青と白のコンビニ? このアパートから歩いてすぐの距離のあそこのことか? 悪戯にしては結構現実味を帯びているな。誰だよ、こんな手の込んだことする暇な奴。
俺のスマホは登録してある番号以外はかからない設定にしてるから、犯人は限られてくる。家知ってる友達は何人かいるけど、こんなことするような奴らじゃないし。家族……もないな。両親は最近忙しいって聞いたし、妹は中学だし。
じゃあ、一体誰だ? まさか、本物のメリーさん?
背筋に寒気が走る。首をぶんぶん振って、頭から嫌な考えを追い出す。ありえない。そんなことが現実にあるわけない。ただの偶然だ。そう言い聞かせ、漫画にまた手を伸ばす。
プルルルルル
スマホが鳴り出す。画面を見ればまたしても非通知。こう何度も短時間でしつこくやられると、さすがに嫌になってくる。焦りに突き動かされるように、恐怖を追い払うように、スマホの通話ボタンを叩く。
「もしもし、私メリーさん。今××アパートの9号室の前にいるの」
「待てよ! おまえは誰だ!?」
ブツリ、プー、プー。
焦る俺をあざ笑うかのように通話は切れてしまった。嘘だろ? この短時間で俺の部屋の前だって? 悪い夢でも見ている気分だ。いや、これはきっとあくまで悪戯だ。俺がうろたえる姿を想像して楽しんでいるに違いない。俺の住んでる場所に似た場所がどっかにあるだけ。そう、ただの偶然。きっとそうに違いない。必死に言い聞かせるが、
プルルルルル
「っ!」
もう今日既に何度も聞いた音なのに、声にならない悲鳴をあげてしまう。スマホに表示される非通知の文字。まずい。これはきっと本物だ。ああ、こんなことなら、もっと早く逃げておくべきだった。どうすればいい? いや、考えろ。まだあきらめるな。都市伝説の通りのメリーさんなら、『家の扉の前』にきて、『背後』だったはず。玄関も窓も鍵はかかってる。電話にさえ出なければ、何とかあきらめてくれるんじゃないか。やり過ごせはしないか。
しかし、現実は残酷で、そんな淡い期待はあっけなく、粉微塵に砕かれた。
ガチャリ
玄関からドアの開く音がした。冗談だろ? 全身から嫌な汗が噴き出す。帰ってきた時にチェーンまでしたはずだ。合鍵でもなければ開けられるはずがない。なのに、軽めの足音が近づいてくる。歯ががちがち鳴って、体の震えが止まらない。バクバクと心臓が異常なほど早鐘を打っている。呼吸がうまくできない。怖い。怖い。来るな。来るな。死にたくない。死にたくない……!
無情にドアノブが回り、ドアが開く。そこには
「兄貴お久~。母さんたちから頼まれて色々持ってきたけど……どうしたの?そんな幽霊でも見たような顔して。」
ショートヘアに制服姿、気の強そうな眼で訝しげに俺を見る妹、雛がいた。
「ひ、雛……?」
「他に誰がいんの? てか、ああ、もしかしてさっきの? 母さんが『どうせあの子鍵とかあけっぱにしてるだろうからちょっとおどかしてやれ』って言われたからさっきやったやつ、そんなに効いた? 冗談だから、安心していいよ?」
「~~~お前マジでさあぁ~~~ほんっとにもおぉ~~~~」
一気に全身から力が抜ける。悪気は(そんなに)ないだろうけど、この妹、あくどすぎる。
「頼むから勘弁してくれよ。心臓に悪過ぎる。危うく俺の最後の晩餐が鮭定食になるとこだったぞ?」
あはは、と雛は笑う。対して悪びれた様子もない。くそう。笑いごとじゃないんだぞ? こっちは本気で死を覚悟したってのに。かわいいから許すけど! かわいいから許すけど!!
海より深い(気がする)溜息を吐く。部屋の合鍵も一個は両親に預けていたのだ。落ち着いて考えれば、メリーさんなんているわけない。なんでさっきまであんなにおびえてたんだか。深呼吸を繰り返す俺を見て、雛は言った。
「兄貴って案外ビビりだね。あんなメール一通で、そこまで怖がるなんて」
「……は? メール?」
「うん、メール。ほんとは電話するつもりだったんだけど、兄貴ずっと通話中だったし。もしかして読んでないの?あ、電話きた。ちょっと待ってて」
……今、なんて言った? メリーさんは、お前の悪ふざけじゃないのか? じゃあさっきまでの電話は? 一体メリーさんは今、どこに居る?
「非通知? 誰からだろう。はい、もしもし?」
「! 雛待っ……!」
雛の後ろに黒電話を持った、金髪の女の子がいた。
「「もしもし、私メリーさん。
今、あなたたちの後ろにいるの」」
~BAD END~
どうも、ワカバです。
ここまで読んでくれた人、まずはありがとうございます。
処女作だったのであまり楽しめなかったかもしれませんが、これからも精進していきます。
ハッピーエンドも考えているので、なるべく速く投稿します。
では、お元気で(^∀^)ノシ