第一章 高齢者対策室 - 08 - やる気MAX
第一章 高齢者対策室 - 08 - やる気MAX
気がついた時には、一縷目はディおばぁちゃんに右腕を捕まれて引っ張られていた。
困ったことに、ディおばぁちゃんのやる気はMAX状態でもう誰にも止めることはできそうにない。
すでに役所に残った市民はディおばぁちゃん一人で誰もおらず、その中でこんな大騒ぎを起こされたらめちゃくちゃ目立つことになる。
一縷目の個人的な感想としては、役所中の注目を浴びているような気になっていた。
いたたまれない気持ちというのは、こういうことを言うのだろう。
一縷目はそのことをつくづくと思い知った。
この状態のままでいることは、とても一縷目のメンタルが持ちそうもない。
なので後々問題になりそうなことは重々承知の上で、あえてディおばぁさんの誘いに乗ることにした。
ようするに、一刻もはやくこの場から逃げ出したかったのである。
ディおばぁさんに腕を引っ張られるまま、一縷目は後をついて役所を出る。
外はまだ陽が高かったが、すでに夕方には違いない。すぐに陽が暮れることになるだろう。
そんな中で魔物探しなんてできるとも思えないのだが、どうやらディおばぁさんにはそんなことは関係ないようだ。
グイグイと勢い良く一縷目を引っ張り続ける。
半ば逃げるように外に出てきてしまったが、とっくに業務は終わっている。
こんなことが知られたら、所内で問題になることは確実だ。
それだけではない。
もしかりにコカトリスがいたとなった場合だと、一縷目のいる『異世界高齢者対策室』は明らかに担当部署とは違ってくる。そもそも害獣駆除はいったいどこの部署が担当するのだろう? よくわからなかった。ただ、警察に知らせなくてはないらいことは確実だろう。
などと内々の対応を考えていたら、おむすび公園の前までやってきていた。
市役所から歩いてすぐの所にある公園なのだ。
ディおばぁさんが毎朝自宅から市役所までの通り道にしている公園でもある。
「さぁついたよ、早く行って確認してきなさいよ」
公園の入り口のところで、ディおばぁさんはそれまでがっしりと握っていた手を離して言った。
「ええっ? 一緒にいくんじゃ?」
思わず一縷目が聞き返すと、ディおばぁさんは急に腰を押さえて言う。
「あいたた、持病のリュウマチが……。ざんねんだねぇ。しかたない、あたしはここでいつでも逃げ出す準備をしとくから、安心していってきな」
とても都合のいいディおばぁさんのリュウマチであった。