第一章 高齢者対策室 - 07 - 冒険者自慢
第一章 高齢者対策室 - 07 - 冒険者自慢
この格好は美少女が一縷目にキスをせがんでいるようにしか見えない。さすがに長時間このままだと、あらぬ疑いをかけられる可能性がでてくるのでさっさと話を終わらせてしまうことにする。
「わかりました。それでは、この件はこちらの方で対処いたしますので、お引き取りになられてけっこうですよ。わざわざご連絡していただき、ありがとうございました」
これ以上はないというくらい、はっきりとこれで終わりだと告げたつもりだったのだが。
「何いってんの。あたしゃそんなに薄情な女じゃないよ? こう見えても、若い頃はさんざん冒険者として魔物相手に暴れたもんさ。今でもそんなに衰えちゃいないよ。ちゃんとあんたに加勢するから安心しな」
ディおばぁさんはなにやら恐ろしいことを言っている。
慌てて一縷目は周りを見回すが、幸いなことに誰も今の話を聞いていた人間はいなかったようだ。
少し胸をなでおろし気味に、改めてディおばぁさんに説明する。
「あのね、ディおばぁさん。今五時三十分でしょ? 本来市役所の窓口業務は終わってる時間なんだよ? もちろん今聞いた話は、これから関係各所に連絡しておきますから、今日のところはこれで帰ってね?」
一縷目は出来る限りのお役所的対応をした。
時間外の受付対応はもちろんのこと、管轄外のことに関わることなど言語道断と言っていい。
簡単に出来ることでもやってはいけないのが役所という組織なのである。
ディおばぁさんの言っていることは、それをいくつも同時に軽々と踏み越えていた。
「ハン。なんだい、あんた。それじゃ、コカトリスに市民が襲われて死人がでてもいいと言ってんのかい?」
たぶんディおばぁさんならそう言うだろうなぁ、という返答をしてきた。
「そんなことは言ってないよ。然るべき部署がちゃんと対応するということなの。それに、ディおばぁちゃん。もう、若くはないんだから、あんまり危険なことはやっちゃだめだよ。仮にコカトリスが本当にいたとしたらとても危ないから」
話した時には、一縷目は自分のやったミスに気づかなかった。
「仮にって、どういうこと? まさか、あたしの言ってること疑ってるわけじゃないだろうね? それなら、今すぐ行って確かめようじゃないか。あんたがその目で見れば、ホントかウソかすぐにわかるってもんさ。さぁいくよ、今すぐいくよ」