第一章 高齢者対策室 - 05 - アレ?
第一章 高齢者対策室 - 05 - アレ?
普段なら、となり家のネコが自分の家の庭に糞をしたとか、野良猫の声がうるさいとか、市役所ではいかんとも対応しがたい内容なので小一時間ほど話した後説得してお引き取りいただいている。
そのことを知っている周りの職員から一斉に非難するような視線が一縷目に向けられた。
今から話を聞いていたら、就業時間までに終われなくなることは確実だったからだ。
でも、今更後に引けないこともよくわかっている。この状況を解決するためには、早急に話を聞いて早急に説得もしくは解決するしかなかった。
「そうそう、そうなのよ。今朝ここによったじゃない。それから帰りにおむすび公園に寄ったのよ。そしたらね、いたのよ、アレ」
小さくて可愛い顔を近づけて話してくる。毎朝やってることではあるが、金髪美少女にこんなことをされたらさすがにクラクラしてくる。
以前であるが、下手に距離を保とうしたら、例のあれで頭をポカポカされたので二度とそんなことはしたくない。
それに話が長くなるだけなので、いいことは何一つとしてない。
「アレというのはなんでしょう?」
見た目は美少女でも、中身は高齢者なのでアレとかソレとかとにかく代名詞を多用する傾向にある。
文脈から推測できることもあれば、今みたいにまったく想像もつかない場合もある。
その場合、あまりやりたくはないが尋ねるしかない。
「アレって、もちろんそんなのアレに決まってるでしょ」
若干イラついた声でディおばぁさんは答えるが、まったく解決になっていなかった。
とはいえ、このまま同じことを聞いたらまた頭をポカられることになるので、一縷目は別の角度から話を聞くことにする。
「おもすび公園って、けっこう広いですよね。どの辺りでアレをみかたけんです?」
一応アレというのは受け入れておいて、見かけた場所の話を聞いてみる。
「あーそれは……そうそう、ひょうたん池の近くよ。ひょうたん池のそばに茂みがあるでしょ? その茂みのあたりからヒョコヒョコって出てきたのよ」
ひょうたん池というのは、おむすび公園の真ん中にある、けっこう大きな池だ。しかも、その周囲には池に人が落ちないようにツツジを植えて茂みを作ってある。つまり今の話で場所の特定はほぼ不可能だった。
「ヒョコヒョコ……ですか。それじゃ、そのアレはどこに向かったのか見ましたか?」
手がかりが他にないか探るために、一縷目はさらに質問をしてみる。