第一章 高齢者対策室 - 02 - タロ探し
第一章 高齢者対策室 - 02 - タロ探し
だが、ここ久万市では一々気に留める者はいない。それどころか、警察を含めて関わろうとはしない。女子小学生に見える女の子の正体をみんな知っているからだ。
「タロは、ワシの家じゃ」
エルおばぁさんはやっぱり同じことしか話してはくれなかった。
と、おもったのだが、エルおばぁさんは突然立ち上がる。
それと同時に、地震のようなズズンという感じの地響きを感じた。
地震か?
と思って周囲を見回すと、その理由はすぐに分かった。
「タロじゃ、タロがいた」
エルおばぁさんは喜んでいる。彼女が手を伸ばした先には、4足歩行を行う平屋の一軒家がいた。
一軒家のほうもエルおばぁさんを見つけたらしく、こっちに近づいてくる。
「もしかして、あれがタロくんですか?」
地響きに負けないように、さらなる大声を出してエルおばぁさんの耳元で叫ぶと。
「そうぢゃ、あれがわしのタロじゃ」
一縷目は頭を抱える。
確かにタロのことを犬だと決めつけていたのは、一縷目の思い込みだろう。
だが、ペット違いならせいぜネコとかそういったものにして欲しかった。
家がペットだというのは、さすがに想像の範疇を超える。
それに市役所の職員としては、このままほっとくこともできない。
家のペットを放し飼いにしたというのは、一体どこの部署の管轄になるのだろうか? それに、固定資産税はどうなるのだろう? 移動する家の場合でも生活保護は久万市が支払うのか? 軽く考えただけでも頭が痛くなるような問題が満載だった。
ただそれより問題なのは、間違いなく近隣の住民から苦情がくるであろうということである。
そしてそれは、まちがいなく一縷目が所属している『久万市市民相談課異世界高齢者対策室』に回されることになるだろうということだ。
つまり、確実に一縷目の仕事が増えるということである。
ただでさえ、今の状況は完全にオーバーワークである。
なにしろ『高齢者対策室』に所属している職員は一縷目一人しかいないのだから。
とはいえ、役所から連絡が入ってすでに次のロリBBA……じゃなくて、相談者が来ているらしい。できるだけ早くこの現場を、なんとかうまいこと収めなくてはならない。
「エルおばぁさん、聞こえてる? 聞こえてたら、タロを元の場所に戻そうね?」
一縷目はエルおばぁさんの耳元で叫ぶ。
とりあえず、ややこしそうなことはすべてすっとばして、必殺技原状復帰策を取ることにしたのだ。
「ああっ? ご飯ならたべましたよ、おじぃさん」