第一章 高齢者対策室 - 23 - 帰宅
第一章 高齢者対策室 - 23 - 帰宅
擬音でごまかした上に、無理やり強引に別れの挨拶まで持っていく。
「あっ。それではご協力ありがとうございました」
警官二人が別れの挨拶をするが、一縷目はろくに聞かずにこの場を立ち去った。
逃げるように公園から立ち去った一縷目の後を、ユウナが後ろから追いかけてくる。
一縷目は振り返らずに追いついてきたユウナに向かって話しかける。
「どうしてこっちきたの?」
追いついたユウナは、一縷目の横に並んで歩きながら答える。
「おばぁちゃんがね、早く跡取り作れってうるさいんだ。ボクもほら、いい加減放置されたままっていうのイヤなんだよね。このままじゃ、未亡人と一緒になっちゃうよ」
話しながらユウナは一縷目の腕に自分の腕を絡めてきた。
「まずいよ、ユウナちゃん。誰が見てるかわかんないよ?」
公務員的な心配をする一縷目だったが、ユウナはまったく意に返さない。
「そんなのさせとけばいいじゃん。ボクもう13才なんだよ? 誰に遠慮する必要もないよ。それに、おばぁちゃんじゃないけど、そろそろ子供作らないとボク村の人達になんて言われるかわかんないよ」
ユウナはさらにくっついてきてそんなことを言った。
一縷目がユウナと出会ったのは、異世界へ魔法留学していた時だった。
ハーフリングの村の出身だったユウナは、冒険者として活躍していた時に一縷目と出会い婚姻の儀式を行った。
ただ、こっちの世界に戻ってくる時に、異世界にユウナを残してきた。
というのは、婚姻の儀式を行った時ユウナはまだ6才だったからだ。
異世界ではなんの問題もない普通のことであったが、日本においてその行為は問答無用で犯罪行為になる。
それから七年経ったのだが、問答無用で犯罪行為なのはまったく変わっていない。
これに関しては、向こうの世界とこちらの世界の価値観というよりは、互いの正義の闘いであり、どっちが正解なのかという答えはでるはずもない。
ただ、ユウナはハーフリングであり、子作りというのはとても大切な価値観なので一縷目としてもどうにも否定しようがない。
なので振り払うという行為などできないので、出来る限り急ぎ足で自分のマンションに帰る。
幸いなことに、誰にも見咎められることなく三階にある自宅まで帰ることができた。
マンションのドアを開けるために鍵を差し込んだところで、ドアの鍵が開いていることに気がついた。
この瞬間、一縷目は非常に嫌な予感に囚われる。




