第一章 高齢者対策室 - 20 - 全弾発射
第一章 高齢者対策室 - 20 - 全弾発射
必死で拳銃をもぎ取ろうとするが、よっぽどきつく握りしめていたらしく、拳銃が警官の手からうまく外せない。
必死に一縷目が拳銃と格闘しているうちに、コカトリスが一縷目の気配に気がついた。
逃げ出そうとしいたコカトリスの足が、ピタッと止まる。
ギリギリのところで、拳銃をもぎ取った。
コカトリスの頭が一縷目の方を向く。
焦った一縷目の持つ銃は揺れている。だがそれは予想していたことだ。
なんとなくで銃口をコカトリスに向けて、引き金を立て続けに引いた。
この時の一縷目はニューナンブM60の知識がまったくなく、装弾数五発を一瞬で打ち尽くしてしまった。
しかも、命中弾はなし。銃に関する知識が皆無だった一縷目は、こんなに装弾数が少ないというのは完全に計算外であった。
ドラマの知識くらいしかなかったから、派手に撃ちまくるシーンを想像していたのだ。例えばH&K USPなら装弾数はチェンバー内の弾も含めて16発ある。確かにそれを全弾撃ち尽くすつもりで撃っていたなら、一発くらいは命中しただろう。だが実際には装弾数が五発しかないニューナンブM60だった。確率的に命中する可能性は低く、その通りの結果になった。
さすがにもうここは、覚悟を決めるしかない。
いまこの状況下で一縷目に出来ることは何もなかった。
コカトリスの顔がこちらに向けられた瞬間、一縷目の人生が終わる。
思い残すことは沢山あったが、今更どうしようもなかった。
ただ、その瞬間を迎える覚悟を決める以外には。
とは言っても、覚悟を決めなくても結果は一緒である。
はずだった。
コカトリスのひねった首がこちらに向けられようとした正にその時。上空から銀色の巨大な刃がとてつもない速度で落下してくる。
その刃はコカトリスの体を斬り裂きながら一瞬でミンチにしてしまった。
公園の街灯から届くわずかばかりの明かりの中、一縷目はコカトリスの傍らに立つ巨大な剣を持った人影を見つけた。
自分の身長よりも遥かに長い剣を抜き身で抱えていたのは、信じられないくらいの美少女であった。
コカトリスを一瞬で切り潰してしまうには、それ相応の技量と膂力が必要であるが、この美少女は息をするようにやってのけた。
「まったく、ボクがこなけりゃ死んでたよ。未亡人になるのなんて、死んでもイヤだからね」
話しながら巨大な剣を一振りすると、剣はどこかに消えてしまった。
「ユウナ。なんでここに?」




