第一章 高齢者対策室 - 18 - コカトリス復活
第一章 高齢者対策室 - 18 - コカトリス復活
名刺を確認した警官の態度は幾分軟化したものの、結局同じことであった。
もちろんそんなことくらいで諦めるわけにはいかない。
「そこを、なんとか。同じ公務員のよしみということで、お力をお貸しいただけないでしょうか? 僕もこんなことはやりたくはないんですが、市民の安全を考えるとどうしても対応する必要があるんです。お願いです、この通り」
一縷目は情に訴えてみる。
公務員というのは、基本的に決められた仕事しかやらない。マニュアル通りにこなす公務員こそが、最高の公務員なのだ。
警察官といっても、公務員。それも、県警のトップは県知事である。
市と県の違いはあっても、どちらも地方公務員には違いない。
そのこあたりの仲間意識はあるはずだと思っていた。
いや、思いたかった。
「うーん。本当は、こいうのはダメなんですけどねぇ。あなたも毎日市民のために大変そうですし。わかりました、ここはひとまずその話にお付き合いしましょう」
名刺を受け取った警官は、みごとに一縷目の同情作戦にドハマリしてくれた。
「ありがとうございます。では、コカトリスを取り出す方法なんです……って、いきなりやってる!」
名刺を受け取った警官とやるやらないの受け答えをしている間に、もう一人の警官はヤブを両手でかき分けていた。
「ちょっ、ちょっと何やってるんですかぁ! 僕の話聞いてませんでしたかぁ!?」
ひっくり返りそうになりながら、焦りまくって一縷目がツッコミを入れたが。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。やっぱコカトリスなんていないよ。ほら、元気そうなニワトリが、こっちを見て……」
警官が言いかけたところで言葉が止まり、そのまま糸の切れた操り人形のように地面にパタンと倒れた。
隣にいた警官が、思わず駆け寄る。
「どうした、今野!」
一縷目はその警官に向かって警告を発する。
「近寄ったらダメです! 今すぐ離れてください!」
だが、警官は止まろうとはせずに、そのまま同僚の警官の下にいった。
そのタイミングで、それまで静かにしていたコカトリスが、コケコケ鳴き叫び派手に暴れ始める。
「どうしたんだ、おい今野!」
駆け寄った警官が同僚の体を揺すぶりながら起こそうとするが、まったく反応がない。
「し、死んでる……ってことは、本当にコカトリスはいるのか?」
同僚の死体を前にして、ようやく事態の深刻さに気づいた警官は、震えながら腰の拳銃を取り出そうとする。