第一章 高齢者対策室 - 17 - 説明
第一章 高齢者対策室 - 17 - 説明
「ええ、確かに聞こえていますが……これってニワトリじゃないんですか?」
警官の一人が耳をそばだてて聞いてから感想を言ってくる。
「声は同じですが、確かにコカトリスでした。ほら、奥の方に見えませんか? ヘビのシッポのようなものが」
スマートフォンのフラッシュライトを茂みに当てながら言ってみる。
「うーん、よくわかりませんね。そもそも、コカトリスってなんなんですか?」
警官の声が幾分苛ついて来ているのが感じられる。
もしかしたら、からかわれているのではないかと考え初めているのだ。
だが、それでも必死に説得するしかない。
「コカトリスというのは、ニワトリの体にヘビの尾を持つ怪物です。体に致死性の毒を持ち、その目には即死系の魔法が宿っています。つまり、非常に危険な生物です」
一縷目はできる限りわかりやすく、そして短く説明したつもりだった。
ところが、ここでもう一人の警官が話に割り込んでくる。
「はいはい、そのくらいにしといてください。こう見えても、本官はそういった生物の話をなんとなく聞いたことがあります。それが、空想上の生き物だってことくらいの知識はありますよ。まったく、ニワリトをこんな所に閉じ込めて。あなたも良い大人なんですからこんな手の込んだイタズラをして警察をからかわないでください。公務執行妨害で逮捕しますよ」
いきなり頭からイタズラだと決めつけられてしまった。
気持ちは分からないでもない。
だが、二重の意味で今そんな疑いをかけられたらたまったものではない。
一つは逮捕なんかされたら、職を失いかねない。
そしてもう一つは、コカトリスをこのまま放置したら市民に被害者が出るということである。それも確実に。しかも死人が。
このさい手段を選んでいられない、なんとしてでも説得する必要があった。
「待って下さい。僕はこういう物です。お疑いなのは重々承知してますが、ここは一旦僕を信じていただけませんか?」
そう話しながら、一縷目は役所の名刺を差し出す。
こうなったら始末書は必死だが、最悪の結果を回避するためにはやむを得ない。
警官の一人が一縷目の差し出した名刺を受取り、ハンドライトを名刺に向けた。
「久万市市民相談課異世界高齢者対策室室長、一縷目誠……さん? ということは、市役所の方でしたか。ですがさすがに、空想上の怪物の話をされましても、警察としては簡単に動くわけにはいかないんですよ」