第一章 高齢者対策室 - 16 - 警官到着
第一章 高齢者対策室 - 16 - 警官到着
あちらの異世界に魔法留学をした経験がなければ、一縷目も知らなかった可能性が高い。
非常に迂遠だが、ここはしっかりとコカトリスの危険性を説明するしかない。
「コカトリスはニワトリの体からヘビのシッポが生えた姿をした怪物です。全身に毒を持ち、それだけでも十分に危険なんですが、一番危険なのは死の視線です。見た相手を即死させる力を持っています。ただ、幸いなことに鳥目なので、夜の間はほとんど役に立ちません。だから、おむすび公園からコカトリスを排除するのは夜の間が一番安全です。できるだけ早い対応をお願いします」
できるだけわかりやすく、要点だけを説明したつもりだったのだが。
「はぁ。わかりました。とりあえず警官をそちらに向かわせますので、今どこにいるのか教えてください」
いまひとつ要領を得ない警官の返事に、内心疲れを感じていたが、口に出しては言われたとおりに対応する。
「おむすび公園の真ん中にあるひょうたん池の東側の茂みの辺りに立っています」
今いる場所を告げた。
なにはともあれ来てくれるならそれに越したことはない。
口でどんなに詳しく説明するより、見て貰えば一瞬で解決するのだ。
「それではいまから警官を向かわせますので、そこから動かないで待っていてください」
警官はそれだけ言うと電話を切った。
その口調に、いくらかの投げやりな感触を感じたのは気の所為などではないだろう。
今の警察官の応対は、一縷目の日常であったからだ。
それから小一時間ほど待った。さすがにもう一度警察に電話を掛けたほうがいいなと一縷目が考えた時、ようやく警察官が二人して公園に姿を見せた。
公園にはいくつか街灯が立っているが、一縷目が今いる場所はかなり暗いので、おそらく警察官からは見えない。
なので、一縷目はスマートフォンのフラッシュライトを付けて頭上で大きく振る。
すると、やってきた警官二人も一縷目の存在に気がついて、こっちのほうへとやってくる。
「私達は久万中央警察署からやってきた長田と今野です。失礼ですが一縷目さんですか?」
警官の一人が一縷目に話しかけてくる。
「ええ、お待ちしてました、一縷目誠です。聞こえますか? 今この茂みの中にコカトリスを閉じ込めています」
すっかり暴れるのを諦めてしまって、今はおとなしくなっているが、コカトリスが立てるコッコという鳴き声は茂みの中から聞こえてきている。