第一章 高齢者対策室 - 13 - 送迎
第一章 高齢者対策室 - 13 - 送迎
できれば降りて拾ってもらいたいところだが、ディおばぁさんにはガンとして降りる気配がない。
しかたないので、ディおばぁさんをおぶったまま、バランスを取りながら杖を拾う。
「拾いましたよ?」
ディおばぁさんに取ったことを一縷目が告げると。
「じゃあ、そのまま家まで持っていってくれればいいよ」
当然のように答えてくれた。
最初から思っていた通りの答えであった。自分で持つという発想は、一縷目におぶさった瞬間に失われたのだろう。
「はいはい」
若干投げやり気味にディが答えると。
また頭をポカリとやられた。
今度は微妙に手加減されていたおかげで、ディおばぁさんを落としそうにならずにすんだが、それでもとても痛い。
「だから、あぶないって、ディおばぁさん!」
さすがにこれは強めに言ってみる。
しかし、
「はい、は一回!」
さらに強めに叱られた。
見た目少女でも、中身は一縷目なんて足元にも及ばない経験値を持った老女なのだ。
結局のところ、一縷目の目から見てディおばぁさんが少女に見える以上に、ディおばぁさんには一縷目がひよっこに見えているのだろう。
それは圧倒的な真実なので、何も言い返すことができなくなった。
とは言っても、どこまでディおばぁさんの要望に対応するのかはまたそれとは別の話だ。
いくらディおばぁさんが人生の先輩であったにしても、社会的な立場として一縷目は市役所の職員なのだ。
その立場を逸脱するようなことがあれば問題になりかねない。特定の個人に便宜を図ることは、公務員としてというより、法的に問題が生じる可能性がある。
今日やったことは、極めてグレーゾーンだがギリセーフというところだろう。
もちろん、始末書的な処分を受けることは覚悟しなくてはならない。
なにしろ緊急避難的な対応ではあったが、本来コカトリス対策なんて『異世界高齢者対策室』が単独でなんとかすることなど許されるはずがないのである。
もちろんあの状況下で対応しなれば、ディおばぁさんも一縷目自身も今頃死んでいたことだろう。
だが、そういう事情があっても形式通りやらなかったということは、十分処罰の対象となる。
果たしてどこまで情状酌量されるかは、出たとこ勝負だろう。
なので、今心配してみてもしかたがない。という話だ。
結局一縷目は、後ろ手に持った杖に腰掛けてもらうような格好で、ディおばぁさんを家まで送り届けた時には、完全に夜になっていた。