第一章 高齢者対策室 - 12 - おんぶ
第一章 高齢者対策室 - 12 - おんぶ
どうしたものか迷っていると、一縷目はいきなりグーで頭をポカリとやられた。
「あいたたた。なにするの、ディおばぁさん」
さすがに市役所職員と言えども、苦情くらいは言って良いところだ。
だが、答えるより先にディおばぁさんのグーパンが頭頂部に炸裂する。
「早くせんか、あたしゃ足が痛いんだよ」
俺は頭が痛いんだと言いたい気持ちを飲み込むと、一縷目は背中を差し出した。
すると、すぐに少女そのものの肉体が、一縷目の背中にのしかかってくる。
そのうえで、遠慮なしに腕を回してギュッと抱きついてきた。
胸の膨らみがぺったんこなのが唯一の救いで、なんとも言えない柔らかな感触を背中に感じ、とても甘い香りが鼻腔をくすぐる。
これは老女だ、これは老女なんだと頭の中で繰り返すが、感じる感触があまりに生々しすぎてイマイチ効果がない。
「しっかり捕まった?」
少女だろうが老女だろうが、落っことすわけにはいかないので、一縷目は一応確認する。
「ああ、心配しなくていいよ。こう見えてもあたしゃ、冒険者として鳴らしたもんさ。一度だけだけど、勇者様のお手伝いもしたこともあるんだ。落ちたりするようなヘマはしないから、安心していっとくれ」
なんだか自信満々に話すディおばぁさんだったが、どこまでホントのことなのか実際のところ疑問に感じていたりする。なにしろ、怪我する度におぶってもらう冒険者なんて聞いたことがない。勇者の手伝いって言うのが本当だとしても、何を手伝ったのかには疑問がのこる。お茶くみだって立派なお手伝いだろうし。
そんなことを考えたが、口にだして言ったりはしない。
「それじゃいくよ」
声をかけながら立ち上がると、ディおばぁさんは想像していたより遥かに軽かった。
さすがに羽のようにとはいかないが、羽毛布団よりは幾分重い程度の軽さだった。
何歩か歩いた時、とつぜん頭にゴンときた。
ディおばぁさんのコブシが炸裂した瞬間であった。
あやうく、転倒しそうになるのをギリギリ回避しながら、体制を立て直す。
「痛ったいなぁ。あっぶないって、ディおばぁさん」
間髪入れず一縷目は苦情を申し立てる。
「足元、あたしの杖が落ちてるから拾うんだよ。気が利かない子だよ、この子は」
言われて足元を見ると、ディおばぁさんがコケた時に放り投げた杖が、道の上に転がっていた。