第一章 高齢者対策室 - 11 - 対峙
第一章 高齢者対策室 - 11 - 対峙
よりいっそう羽をバタつかせながら、全力で敵と認識した一縷目に向かってコカトリスは突進を開始した。
間違いなく、標的は一縷目である。
さすがに今から警察を呼ぶわけにもいかず、かといって逃げ出すこともできない。
逃げようとしても逃げられないというだけではなく、もし仮にコカトリスが外にでてしまったら、さすがに市民に犠牲者が出てしまうことになる。
それだけはなんとしてでも避けなくてはならなかった。
小役人ではあっても、一縷目誠は市役所職員なのである。
逃げ出せるわけがなかった。
スマートフォンを取り出す。
こいつが、コカトリスに対抗できる唯一の武器だ。
自作の魔法アプリを起動すると、登録してある魔法をまとめて選択する。
『暗闇』『重圧』『突風』『成長』の四つである。
次にスマートフォンのカメラを向けると選択可能な対象物に緑の枠が表示される。
その中にコカトリスがいた。
すぐにタップすると実行の許可を求めてきたので、OKをタップする。
その直後に選択した魔法が同時に発動した。
『暗闇』がコカトリスの頭を覆い、最大の武器である死の視線を無効化する。
『重圧』によって何倍もの体重になったコカトリスは立っているだけでもやっとの状態になった。
『突風』が真横からコカトリスの体を茂みに押し付ける。
『成長』によってコカトリスの体が押し付けられていた茂みが急速に成長して、コカトリスの体を取り込んでしまった。
コカトリスは閉じ込められた茂みの中で、コケコケ言いながら暴れていいたが、すぐにおとなしくなる。疲れたのだろう。
当面はこれで無力化できるはずだ。
いったんコカトリスのことはおいといて、ディおばぁさんを助けにいかなくてはならない。
「大丈夫? ディおばぁさん?」
転んだままになっているディおばぁさんを助け起こしながら一縷目が聞くと。
「あいたたた。足をひねったよ。あたしゃこれじゃ歩けない。おぶっとくれ」
いきなり命令口調で言われてしまった。
金髪美少女をおぶることにはやぶさかではないが、正直いってそういうのは本来市役所の仕事ではない。
それになにより、もうすっかり陽は落ちてしまい、東の空には星が輝いている。
西の空に微かに残っている太陽の光も、すぐに星空へと変わるだろう。
こんな時間に、いい年をした男が、見た目少女を連れ歩くというのは、十分に職質対象となりかねない危険性があった。




