第一章 高齢者対策室 - 10 - コカトリス
第一章 高齢者対策室 - 10 - コカトリス
走り出してから一分も経たないうちに、一縷目の息があがり始めた。
最近雑用は多いが、とくに歩いているとか走っているとかいうことはないので、体力がかなり落ちている。
ひょうたん池を半周ほど走った時には、もうほとんど歩くような感じになってしまっていた。
しかも、太陽はほとんど沈みかけていて、夕闇に包まれるのは秒読み段階だ。
幸いなことに、これまで見たのはいつもの光景で、どこにも危険な様子は見られなかった。
もちろん、コカトリスを見つけたら一瞬で状況は変わるわけだが。
歩くのと同じ速度で走っているうちに、一縷目はやはり何かの見間違いだったんだと思うようになっていた。
見た目は単なる美少女だが、なんと言っても超高齢者だ。ああして美少女しているが、ずいぶんと目が弱っている可能性は極めて高い。
夕焼けの中に見えるおむすび公園の風景は、とてものどかなものであった。
今ひょうたん池の横を、ポニーテールでタンクトップ姿のジョギング中であろう健康的な女性が走り抜けていく。
さらに、とおり過ぎた後ろから、ちょっと風変わりなニワトリがひょっこりと顔を出す。
その反対側からは、待っといてと言っていたにもかかわらず、ディおばぁさんがトコトコとかけてきていた。
まったく困ったおばぁさんだなぁ、と一縷目は歩く速さで走りながら眺めていた。
逢魔が刻とも言ったこの時間帯にしては、なんとも微笑ましい風景ではないか……と思いかけて、急に足が止まった。
「ええっ。マヂでしたか……」
ひょっこり現れたニワトリの尾が、ヘビのシッポだった。
直接見るのはこれが初めてだが、そんな特徴を持った生き物が他にいるわけがない。
間違いなくあれはコカトリスである。
よくいままで、誰も犠牲者が出なかったと関心する前に、この状況をなんとかしなくてはならなかった。
コカトリスの背後から、なぜかディおばぁさんが駆け寄ってくる。
非常に危険な状況だ。
なのに、ディおばぁさんは突然コロンとすっころんだ。
右手に握っていた杖が宙を飛んで、コカトリスのすぐ後ろに落ちる。
突然のことに驚いたコカトリスは、コケッケーと鳴きながら羽をバタつかせて騒ぎ出す。
鳥の動き方で周囲を見回したコカトリスは、夕闇の中、鳥目ながらも敵らしき姿を確認したようだ。
「おいおい、そりゃないよ」
思いっきり引き気味に、一縷目は言ってみたがそんなのはなんの役にもたたない。