第一章 高齢者対策室 - 09 - 公園突入
第一章 高齢者対策室 - 09 - 公園突入
ちなみに、小学生の女の子がこれをやっているのだから、どう反応していいのか迷う。
とは言っても、それを疑うことなど一縷目には許されていない。
「はぁ、リュウマチですか……。それじゃ確認してくるから、どの辺りだったのかだけ教えてもらえるかな?」
腰を屈め目線を合わせて尋ねる。
「あっちだよ、あっち。早いとこいってきな」
ディおばぁさんはにべもなく、右手をしっしと一縷目のことを追い払うように動かしながら言った。
見た目は少女でも、中身はお年寄りなのだ。こういう質問にまともに答えてくれないことは一応予想していたが、それでもここまで来ても、このアバウトな感じでこられるとは思わなかった。
詳しく聞きたい気持ちは山々であったが、たぶん無駄な時間が流れるだけだ。
暗くなるまでもう時間がないので、出たとこ勝負でいくしかなかった。
「それじゃ、僕が帰ってくるまでここで待っていてね?」
その時の気分しだいで、どこかにフラフラと行ってしまいかねないことを承知の上で、一縷目は一応念押ししておく。
「そんなことはいいから、早くいっといで」
もちろんディおばぁさんは気にも止めていなかった。
納得いかないモヤモヤ感を胸にいだきつつ、一縷目は公園の中へと入っていく。
やはりというか予想通りというか、中の光景はいたって平和だった。
公園の遊具はクレームが来ない子供の身長ほどの滑り台くらいしかない。
面積の大部分を占めるひょうたん池は、落下防止のツツジが育ち過ぎてまともに見ることができない。
さらに予算がないので歩道意外の場所は、ほとんど草むら化している。
おむすび公園とは言っているが、たんなる歩行者専用道路になっていると思っていい。
だから、この場所で立ち止まるような人間はまぁいない。
今も通り過ぎる人間がチラホラといるだけで、日常と変わらぬ風景だった。
とても、危険な生き物がいるようには見えない。
とは言っても、市役所職員としては確認する義務がある。
非常に大雑把とは言っても、まったく手がかりが無いわけではないので、それでなんとかするしかないだろう。
ディおばぁさんは、ひょうたん池のそばの茂みの辺りと言った。
つまり、ひょうたん池の周囲を一周しろということである。
ただし、ゆっくりとしている時間はない。陽が落ちてしまえば、確認することはとても困難になる。
走るしかなかった。