<send:01-2>
<answer>
『《あなた》は少女の呼びかけに答えました』
</answer>
雨のようなノイズの音は、もうしない。
無音の天井ばかりをひたすらに映し続けるディスプレイが、漏れる吐息を拾い上げる。
少女の嗚咽が、止まった。
「……うそ」
たたっと駆け寄った少女が画面を再び持ち上げた。
泣き腫らした顔で、少女はじっとこちらを見つめている。
「気の所為じゃない……? 向こうに誰かいるの? わたしが見えるの?」
少女は矢継ぎ早に問い掛ける。だが、答えを待つでもなく端末を胸元へ寄せる。
画面は再び黒で覆われるが、少女の声はすぐ近くから途切れることなく聞こえてくる。
すすり泣くような声が聞こえるが、その音色は先程までとは違った響きをはらんでいた。
「よかった……。ひとりじゃない……、ひとりじゃないんだ……」
少女はしばらくの間、うずくまって泣き続けた。
落ち着くまでの間は、画面が黒に塗りつぶされていたのだった。
<a few minuts later>
涙を拭いた少女はようやく画面を胸から離すと、照れるように顔を赤らめた。
「えへへ、ちょっと泣き過ぎちゃったね。ちょっと心配掛けちゃった? ごめんね?」
少女はもぞもぞと座り直すと改めてこちらへと向き直った。
「まずは自己紹介しよっか。……て言っても、実はわたし、何も覚えてないんだけど」
少女は照れ笑いを浮かべる。
「えっとね、わたし、気がついたらここにいたんだ。周りには誰も居なくてね、すっごく怖かった。……えっと、周り、見えるかな」
少女は画面を持ち上げると、ぐるりと見渡すように周囲へと向ける。
タイルの床。鉄製のロッカー。錆び付いた学習机。所々にヒビが入った窓ガラス。
そこはいわゆる教室だった。
「ね? ここ、学校なんだよ。……でもどう見ても使われてない。廃墟なんだ。……どうしてわたし、こんなところにいたのかな……? って、あなたに言っても分からないか、あはは……」
少女はごまかすように鼻をこすった。
「え……? 急に元気になりすぎじゃないかって? そういえば、なんでかな。ひとりじゃないって気づいて、安心したからかな。それとも、あなたが特別だからかも。……なぁ~んて、顔も知らないのにそれはないか……」
少女は少し楽しそうに学習机に座った。その仕草につられるように、プリーツスカートがダンスを踊るように揺らめいた。
「……変なんだよね。直接声が聞こえるわけじゃないのに、あなたの声が聞こえるんだ。……ううん、声じゃないのかな? 気持ち? 心? 思い……? 良く分からないけど、とにかくそういうの!」
少女は楽しそうに笑みを浮かべながら画面を人差し指でちょんちょんとタップする。まるでほっぺたをつついて悪戯をする子供みたいな仕草だった。
「だからかな、不思議と安心できるの。……ひょっとしてあなたはわたしの知ってる人だったりするのかも?」
少女はそのまま頭上へと画面を持ち上げた。俯瞰から見下ろすと、その身体はやはり中学生相当の子供のものだと分かる。
「……もしそうだとしても、困るかな。だってわたし、何も思い出せないし……。自分が誰なのかも分からないんだ……」
少女の瞳に、影が差す。
「記憶喪失……って言うんでしょ? こういうの、昔どっかで聞いたことあるような気がする。……けど、そっか。そしたら、どうしよっか?」
少女は首を傾げて、おかしそうな顔をする。
「あなたのことはなんて呼んだらいい?」
少女は聞き耳を立てるように沈黙するが、次第に表情は難しいものになってゆく。
「……う~ん、あなたから伝わるのがはっきりした言葉じゃないからかな? よく分かんない。《あなた》は《あなた》で通すしかないかぁ……」
少女は眉毛をへの字に曲げて残念そうにしている。
「あ、じゃあさ! わたしは? なんて呼びたい? ってこれも伝わらないかぁ……。う~ん……」
少女は腕を組んで首をもたげた。やがて、手をぽんっと叩いて破顔する。
「セーラ。セーラー服だからセーラにしようよ! なんか可愛いし! うん、決定!」
少女は楽しそうだ。
<question>
『少女をセーラと呼んであげますか?』
【はい/いいえ】
コンセプトについて。
この作品を作るにあたっていくつかの経緯がありました。
①なんかホラー書きたい。
②シェルノサージュの二次創作やりたい。
③なんか新作書きたい。新規ジャンルで。
とまぁそんな思いがありまして。
それらが合わさったのが本作、ということになります。
知らない人のために一応解説しておくと、シェルノサージュというのはPSVitaで発売されてたゲームの名前です。
7次元先の女の子と端末越しにやりとりをして仲良くなって、その女の子の記憶を解き明かしていく……という内容です。
……つーか丸パクリじゃねーか。
……一応、今後まったくの別物へと進展していく予定ではあります。不快に感じた方がいたら、申し訳ありません。