91話 英雄が料理したらチートでした
勲章式が終了した後、セレナが俺たちのために料理を用意してくれたらしいからごちそうになることになった。
セレナは重装甲と呼びたくなるドレスから動きやすい軽装・・・もとい身軽なドレスへ着替え、俺たちと一緒に特別室へ向かう。アルラとゾアもすでにそっちに向かわせているらしい。
「そういえば、今更なんだが勲章式の前にまずセレナに挨拶に行くべきだったんじゃないか?それともこの時間しかギルドが集まれる時間がないとか?」
「いやそうじゃない。今お前はギルドの勲章受章者としてここにきているんだ。本来だったら姫は不参加で俺がギルド本部でお前に勲章を渡すはずだったんだが・・・まあ、今回が異例中の異例でな」
まあ確かにこの程度の功績で王族がわざわざ会うことは無いからな。本来であれば表彰式の後に軽く飯を食って終わりなんだろうが、今回は色々と流れが変わっている。
「夜会の時は国賓、重要な交易相手として参加してもらうからその時は事前の挨拶が必要だから他の二人も来てもらう予定だ」
なんというか、少しややこしいな・・・まあ、今後のためにも色々と勉強させてもらうか。
「そういえばワイトとプラムはギルドの要請でテオに来たらしいが、それって才たちが呼んだのか?」
「ええ、ホワイトリーはトーマスの代理人としてサイの考案した武器の制作プロジェクトに参加していただきたくてお呼びしました。そしてプラムは私のドレスをオーダーメイドをお願いしたくギルドに依頼しました」
まじかよ・・・二人共すごいビックプロジェクトじゃないか。特にプラムなんか王族からのオーダーメイドとかすごすぎだろ?
「あ、あの。そんなすごいこと僕たちが携わっていいのでしょうか?」
理由を聞いたワイトは急に不安そうな顔をしており、プラムなんかは無言でものすごいスピードでうなずいている。二人共、呼ばれた理由を深く知らなかったみたいだ。まあ、姫からの依頼だと聞いたら畏縮してしまうだろうし、トーマスさんは・・・・あの人は適当に説明したに違いない。
「あら?『鍛冶神の申し子』と呼ばれているホワイトリーさんならと思い、トーマスの代理を了承したのですよ。それにプラムさんの服は私のお気に入りなんです・・・特にこれとか」
そういって、モニターを操作すると軽装ドレスからカジュアルなファッションにチェンジ。確か雑貨店リズアでも似たデザインの服を販売していたな・・・ってことはあれはプラムの作品なのか?
「まあ、見ての通り姫はすっかりプラム・グローブのファンになってしまったわけなんだ・・・すまないが、あいつの我儘に付き合ってもらえないか?」
「こ、こちらこそ。王族からのオーダーメイドなんて光栄です!全身全霊で臨ませていただきます!」
「僕も新しいことに挑戦できるなら是非やらせていただきたいと思います」
プラムのやる気に触発されたのかワイトも前向きに挑む様子だ・・・あまり本気を出さないでほしいと思ったのは内緒だ。
「ということは、二人はしばらくテオで暮らすことになるのか?」
「一応、二人が暮らす住居はすぐに用意することができるのだが、それより良い案があるのを思い出してな」
「良い案・・・あ!」
才と目が合った瞬間、あの時の約束を思い出した。
「約束していた屋敷・・・あそこにトレスアールを繋げれば済むんじゃないか?もちろん、宿泊代、食費などの予算はちゃんと支払う」
なるほどと思い、俺はうなずいた。ダンジョン化させてしまえば簡単に転移門で繋げられるし、トレスアールともコンタクトが取りやすいからな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
部屋に入るとゾアとアルラがすでにテーブルについて座っていた。
長いテーブルの上に盛り付けられたローストビーフの皿が各椅子の前に置かれていた。
「光輝様、勲章式はもう終わりましたか?」
「ああ、これをもらったよ」
俺がそう言って胸につけたバッヂを二人に見せる。
「とてもお似合いです」
「ありがとう・・・ところでこれはコーススタイルの料理かな?前菜から始まって次々と料理が運ばれてくるやつ」
「え?そうなん?てっきり、料理はこれしか用意されていないのかと思っていましたわ」
ゾア、それは失礼だぞ。
「コウキさんの言う通りです。今日は特別料理長に頼んで作っていただいたので、味には自信がありますよ」
セレナがそう言って席に着く。
俺たちも続いて席に着きさっそく前菜のローストビーフの盛り合わせを食した。
「美味い!何これ・・・すごくおいしい!」
ジョージの料理とか食べていたから舌はかなり肥えていた自信があったがものすごい衝撃を受けた・・・これ、もしかしたらジョージより美味くないか?
ワイトとプラムも驚いた様子でローストビーフを食べる。その後、サラダ、スープ、魚料理、ソルベ、肉料理、デザートと次々とやってくる料理を堪能した。特にデザートであるプリンは大好評だったらしく、プラムとアルラは至福の顔をしていた。
「・・・なんというか、リズアの料理とは違う料理の楽しみ方を学ばせていただきました」
アルラは品良く完食して感想を述べた。
「せやな・・・こっちはどちらかというと量でワイワイ騒ぐ食事が多いからこういう静かな料理ってのは知らないやろうな」
確かにオリジンの住民はなんだかんだで騒ぐのが好きだからこういったコーススタイルはなかなか体験できないだろう。というかゾアの場合、仕事中に栄養バーとかを咥えているイメージが強い。
「ふふ、満足していただけたみたいですね。どうでしたか?ウチの特別料理長の腕は」
「見事です・・・正直自分の知っている最も腕のある住民よりも美味いと感じました」
俺が素直にそう答えるとプラムとワイトも頷いた。ジョージには悪いがこの料理人は明らかに最高レベルといえる。
「そうでしょう・・・なんたって英雄の料理なんですから?」
『え?』
そういうと、最後にドリンクを運んできたのは才だった。そして彼が持っているトレイの上には茶色い液体・・・まさか。
「最後は光輝が懐かしいと思うドリンクにしたぞ」
俺は恐る恐る、グラスに注がれた飲み物を鑑定してみる。
果実炭酸水
と表記されている・・・だがこの見た目と泡の弾ける音、そしてこの甘い匂いは間違いなくコーラ!
俺は一口飲んだ瞬間、口の中で弾ける強烈な炭酸に涙が流れそうになった。前から飲みたいとは思っていたがなかなか作るタイミングがなかったせいでかなり先送りになっていた飲み物。
これだよこれ!この懐かしい味!
「どうだったか、俺の料理は」
「ああ、どれも最高だったよ」
全員がうなずき、才も満足そうな顔をした。
「そう言ってくれると作ったかいがあるものだな」
英雄で、大公で、大企業の社長で、料理の腕もピカ一・・・正直、ゴッドスキル関係なしでこいつの存在がチートなんじゃないかと思ってきた。
才のこれまで獲得した称号:
・異世界人 ・アルヴラーヴァの英雄 ・特別宮廷料理人
・ギルド社長 ・無職の救世主
・万能アニキ ・経済界の魔王 ・アルヴラーヴァの楽聖
・料理コンテスト殿堂入り ・究極の料理人 ・社畜量産マシーン
・宮廷音楽団 名誉指揮者 ・革命家 ・テオプア王国:影の支配者
・スパルタ教師 ・ハーレム王 ・非モテの敵 ・魔王の友
etc.




