87話 成長のため次のステップに入りました
ここは市場エリアの中でも激戦区のAランク商人だけが店を構えることができる地域。その中でも1,2位を争う冒険者専門店『ミューラー商会』。
「オーナー、先週出したの依頼ですがまたも失敗したという報告がありました」
「くそ!またか・・・やはり素性の知らない奴らでは役に立たないか」
ミューラー商会のオーナー、ゲルド・ミューラーは苛立ちを隠そうとせず外に並ぶ客を見ていた。いつもの作り笑いとは打って変わって人を見下したような冷たい顔をしていた。
「あの店を潰し、商品のルートを確保できればあの倍の客は私の店に来ているはずなのに!」
「ですが、あちらは何故か営業を縮小させました、そのおかげもあってあちらの客数はかなり減り、こちらにも少しですが客足が入っています」
「奴らの商品を私の物にしなければ意味がないのだ・・・くそ。やはり手荒だが殺してでも・・・」
そんなことを呟いていると何やら外が騒がしいことに気づいた。
「ん?何が起きている」
すると、大勢のギルド警備兵たちが次々と入っていくのが見えた。そして迫ってくる足音にゲルドたちは入り口の方を見た。
「やあ、ゲルド久々だな」
入ってきたのは普段見せない武装した姿のウィリアム。そして後ろに秘書のカンナと数人の警備兵たちがやってくる。
「ウィリアム・・・これはどういうことだ?」
「どうもこうもない・・・お前が闇ギルドと繋がっている証拠を先ほど手に入れた」
激しい怒りを見せながらカンナが持っていた書類の一枚を手に取りゲルドに見せつける。
「う、嘘だ・・そんなの出鱈目だ!」
「ほう、言っておくが闇ギルドの支部はお前が営んでいたバーだぞ・・・店員がもうすでに吐いた。お前が闇ギルドを匿っていたのも、そこで利益を得ていたこともな」
「っぐ!お前ら!こいつらを始末しろ!」
ゲルドがそう命令し二人の部下がこの店で最高の武器でウィリアムに襲い掛かる!
「さがっていろ」
ウィリアムの指示に従いカンナたちが一斉に下がると、ウィリアムが目に留まらぬ速さでモニターを操作し出現したハルバートを手に取る。
「ふんぬ!」
まさに、海賊と呼ぶにふさわしいその剛腕によって二人の武器は真っ二つに折られ吹き飛ばされる。
「う、嘘だ!彼らはAランクの冒険者だぞ!こんな簡単に負けるはずが!」
「・・・ふむ、この程度でAランクなら一度冒険者ギルドのランク査定を見直す必要があるな」
ゲルドは信じられない光景を見たかのように座り込み、警備兵たちに取り押さえられる。
「お見事でしたギルマス」
「ふむ・・・儂もまだまだ現役ってことだな、フハハハハ」
その後、闇ギルドと関わりのある者たち、特に殺人や強盗など重犯罪に関わった者たちはギルドによって一斉に逮捕されていった。
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それから数日後
「ちょっと!そのトマトは私のよ!」
「うるさい、先に取ったもの勝ちよ!」
「ちょ!お客さん落ち着いてください!カーチェ、品はまだ来ないの?」
「・・・前にレヴィが発注したから届くのにあと200秒ぐらい」
雑貨店リズアは相変わらず商売繁盛であった・・・大手のAランクの商人何名かが闇ギルドに関わっていたことが判明し、現在Aランクの店が置かれている店は営業停止となっている。商人本人には商人ギルド脱退と商権の剥奪を言い渡されるが部下全員も同罪という訳にはいかない。しばらくはギルマスと話し合い、店を再開させるかを決めるらしい。
だがその間、商人ギルドにとって大打撃と言っても過言ではなかった。闇ギルドに関わっていた商人は思ったよりもいたらしくいくつもの店が営業停止状態、当然買い物に来た住民が困ってしまう。
そこで、本来商品の数を減らすはずだった雑貨店リズアは逆に商品を増加するようにとギルドから直接頼まれた。他の店が営業再開するまでの間の繋ぎを任されたのだ。
他の商人からまた反感を買うのではないかと心配していたのだが、あちらにも客が大勢入ったみたいで十分な利益を出しているみたいだ。少し落ち着いたら、彼らと色々と話し合って提携などを結んでみたいと光輝たちは計画していた。
「ちわーっす!生活部門・調達部隊改め、物資補給部隊ただいま到着しました!」
大量の野菜を運んできた生活部門の獣人お兄さんが挨拶をすると店員たちの目の色を変えすぐに野菜を取り出す。
「コウキ様の嘘つき!品数減らすって言ったじゃないの!」
メーガンがそう呟きながらも必死に接客に勤しむ。
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ダンジョン 地下45階 作業室
『光輝、ウィリアムから聞いたが闇ギルドを見つけたそうじゃないか』
「まあな・・おかげでこっちは色々と大変なことになっているよ」
久々に才から連絡が入り、作業室で雑談をしていた。
『みたいだな・・・闇ギルドってのは俺の真似事をした奴らが勝手に始めた組織なんだ。殺人や強盗とか、とにかく犯罪とかを依頼として出すところでな。こっちも色々と捜査していたんだ』
「へぇ・・・じゃあ俺のおかげで壊滅できそうか?」
『さすがに壊滅まではいかないだろうが・・・だが、奴らのしっぽをつかんだのは事実。後は引っ張ってどこまで引きずりだせるかだな。証拠もいくつか手に入ったからかなりの打撃は与えられそうだ』
才は才で色々と大変な様子だ。
『それでだ、今回お前が闇ギルドを見つけたことで、姫がお前たちに表彰状を与えたいとか言っているんだ』
「え?表彰って・・・俺たち一応テオの人間じゃないんだが」
『分かっている、だから国としてではなくギルドとして感謝状を渡したいんだ』
なるほど、犯人を捕まえて警察から表彰状をもらうみたいなものか。規模的に言えば納得だな。
『それでだ、丁度交易の準備も整ってきたから、せっかくならテオで表彰式を上げないかって提案が出たんだ』
「あ、そっちも準備は整ったのか・・・一応こっちはいつでも出られるから構わないが。俺たちってことは、ワイト達もか?」
『一応、今回の事件に関わったお前の仲間全員に表彰状を渡す予定だが代表者であるお前が来れば問題はない・・・まあ、おそらく別の理由で何人かはこっちに来るだろうが』
最後の言葉が何のことか分からないが、さすがに全員をテオに連れていくのは厳しいな・・・今回の一番の功労者はワイトだから彼は確定だろうけど、他の皆は都合とかあるだろうから分からないな。
「分かった、一応こっちで確認をとってみる」
『ああ、それと表彰式の後に夜会を開く予定なんだ』
「夜会?」
『姫が主催する立食パーティだ。貴族や富豪たちが集まる場所で色々と世話になっている人が多い』
まあ、王族のパーティなんだから来るのはそういう人たちだろうな。
「・・・まさか、そのパーティに俺たちも参加なのか?」
『ああ、姫は招待状を用意しているらしい。そのパーティでお前のことを紹介する予定なんだ・・・お前たちとは懇意な関係であることを見せつけるためのな。正直、見世物みたいで俺はあまり賛成したくないんだが、王族と繋がりがあることを知らしめることでお前たちに変な虫が寄らせないためでもあるらしい』
一応セレナも考えての行動らしい。まあ、余計な貴族たちに浮気させないために俺たちへの牽制なのかもしれないが、少なくともセレナのことは信用しているからあまり心配はしていない。
「その立食パーティには才も参加するのか?」
『忘れているかもしれないが一応俺は大公なんだぞ。こういった行事には半強制的に参加させられる・・・まあ、お前がいるからまだ楽しめる気はするが』
笑いながら才は言うがかなり参加させられているみたいだ。やっぱり貴族とかになると色々と大変なんだろうな。
『まあ、色んな貴族たちが集まるんだ。お前のことを色々と嗅ぎまわる奴がいるかもしれないから気を付けてくれ。俺はこれから仕事に戻るから、何かあったらまた連絡する』
「ああ、テオに行くのは楽しみにしているよ」
そう言い残し、才との通信が切れる。
「もうすぐ、テオに出発か・・・よし!頑張るぞ!」
エイミィとともに夢見る未来・・・オリジンが発展していく未来を目指し俺は気合を入れなおした。
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トレスアール 鍛冶工房
「それじゃあ、師匠これをリズアに出してきますね」
「おう」
獄炎の熱気と言ってもいい工房の中、汗だくのワイトが完成したいくつかの作品を抱えて出ていくのを見送るトーマス。
「最近いい面構えになってきたじゃないか。リズアと契約してからあいつの武器にさらに魂が入り込んでいくのが分かるぜ」
弟子の成長を実感し喜ぶトーマス。自分も仕事がひと段落終えて、中休憩に入る。そんな時一人の鍛冶師が手紙をもって入ってきた。
「ギルマス、本部から招集の手紙が届いています」
「招集だと?・・・見せてみろ」
手渡された手紙を読んでみると内容は新武器の開発プロジェクトに参加することだった。
「発案者はあのサイ坊か。あいつのだったら面白そうだから参加してもいいが・・・・」
「やや長い期間なのでここをしばらく開けることになりますが」
「・・・よし、ワイトを送ろう」
「え?ワイトさんをですか?しかし、彼はまだ子供ですよ」
「構わん、あいつの技術は儂を含めトレスアールの鍛冶ギルド全員が認めている・・・そろそろあいつには次のステップに入って貰おうかと思っていたからな」
「・・・では本部にはそう伝えます」
「ああ、念のため儂の委任状を用意しておくからそれも送ってくれ」
「ウッス」
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その頃、同じ時間帯、プラムは商人ギルドに呼ばれてギルマスの部屋にやってきていた。
「え?あたしがテオ王国にですか?」
「はい、先ほどプラム・グローブさんご指名でテオでのオーダーメイドをしてもらいたいという依頼が入ってきたのです。もちろん旅費や宿泊費、材料費など必要経費はあちらが負担します。こちらが資料です」
カンナに手渡された依頼内容・・・その報酬金額を見て目を丸くさせた。それは到底子供が・・・仕立てギルドCランクが一つの依頼で手にできる金額ではない。
「今回この依頼を成功した場合、プラムさんをAランクへランクアップするようにと言われています」
「あたしが・・・Aランク」
「もちろん、受けるか受けないかはプラムさん次第です。ですが、分かってください。ご指名の依頼が来ているということはそれだけあなたを評価されているということです」
カンナがそう説明するのをウィリアムがそっと見守っていた。正直、彼自身彼女にこの依頼は荷が重すぎると感じていた。まだ子供にこの報酬の依頼・・・それがどれほどのプレッシャーなのか考えたくもない。だが、そんなウィリアムの心配が杞憂だったかのように、プラムはまっすぐカンナの目を見た
「・・・受けます。やらせてください!」
「本気なのですね」
「はい・・・それにテオに行けばもっと色んなものを学べる気がします」
「・・・分かりました。日時はプラムさんのご都合の良い日で構いません。予定が決まりましたら報告をください」
資料を受け取ったプラムはそのまま、カンナたちにお辞儀をして嬉しそうに出ていく。
「まったく、末恐ろしい子供だよ。儂があの年でこの依頼なんか受けたら腰を抜かしそうだ」
「ですね・・・ですがそれだけ彼女は自分の腕に自信があるということ。そしてそれが彼女の強みなのです」
「随分と彼女のこと買っているじゃないか」
「ええ・・・私、彼女のファンですから」
ワイトとプラム、それぞれが次のステップへ進もうとテオへ向かう準備を整え始めるのであった。




