86話 闇ギルドに狙われたので潰しました
ゲルドから潰す宣告されてから数日。だがゲルドの刺客らしき者は現れず俺たちは商品を制限した状態でリズアを営業していた。
客足もだいぶ落ち着き、他の商人から殺気を向けられることは無くなったが未だに敵意らしきものは向けられている。なんでもいつかリズアがまた大きな動きを見せるとか、予断はできないとかヒソヒソと話をしているのが聞こえる。
「はぁ・・・こんな状態が続いたらメーガンたちが可哀そうだよな」
メーガンたちは問題ないと言って一生懸命働いてくれているが周りの空気がこんなのじゃさすがに限界が来るだろう。どうしたらいいものやら・・・
「あら、コウキちゃんこんなところでどうしたの?」
声をかけてきたのは町長のオバチャンだった。
「こんにちは。いや、ここ最近市場の空気がなんというか重くて」
「ああ、あれね・・・町長としてもあれはなんとかしてあげたいんだけどね」
「すみません、俺たちのせいでこんなことになってしまって」
「いいのよ。そもそもコウキちゃんの野菜が欲しいって言ったのはあたしだし」
オバチャンは元気づけるように言ってくれたが、やはり自分たちのせいでこんな風になってしまったことには責任がある。
「あコウキちゃん、責任を感じて店を閉めるとか言っちゃダメだよ。そんなことしたら今度は買い物する側の方で悪い空気になるんだから。コウキちゃんの野菜のおかげで毎日おいしいご飯が食べられるようになってこっちはうれしいのよ。うちの旦那なんか『リズアの商品で新メニューが思いつきそうだ』とか言ってジョージちゃんと色々と研究しているみたいだから」
オッチャンとジョージのやつそんなことしているのか。しかし、ゴリランチか最近行っていないな。
「そうですね、後ろ向きでした。ちょっと飯食いに行ってきます」
「うんうん、いってらっしゃい」
そうだよな・・・少し後ろ向きだったかもしれない。オリジンを受け入れてもらう下準備ってことでどこか慎重になりすぎていたかもしれない。
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「へい、いらっしゃい!お、ニイチャンじゃないか。ジョージが仕入れてきた野菜、あれは最高だぞ!」
挨拶をしてきたのは相変わらず立派なトラ髭を持ったオッチャンだ。
「うちの自慢の食材ですからね。ソルト・ゴーレムラーメン、野菜マシマシ、ブラッディーバイソンのチャーシュー乗せで」
「あいよ」
そう言って、すぐに料理に取り掛かる。
「今日はジョージは休みですか?」
「ああ、ワイトの坊主が呼びに来てな何やら用事ができたと言って中抜けしている。一昨日もプラムちゃんが来て同じことがあったな・・・まあ、すぐに帰ってき何事もなかったかのよう働いてくれているが」
ワイトとプラムがここに?
そう思い俺はモニターを開いてジョージたちの居場所を探した。すると確かにジョージとワイトは同じ場所にいる・・・だが妙だ。なんで二人が市場の裏側にいるんだ?しかも、今日は休みのはずのランカまで一緒だ。
「へい、お待ち!ソルト・ゴーレムラーメン、野菜マシマシ、ブラッディーバイソンのチャーシュー乗せ」
オッチャンが元気よくラーメンを置く。とりあえず飯を食ったらすぐに二人のいるところへ向かうとしよう。
「ずずず・・・・うん、旨い」
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「がは・・・わ、分かった悪かった。もうあそこには手を出さない!」
「ほぉ・・・そのセリフ、他の奴からも一昨日聞いたのだが?」
「ひぃ!」
ジョージたちがいる場所へ向かうとそこには大量の冒険者たちが山積みになっていた。
「おいお前らこれは一体どういうことだ?」
『コ、コウキ様!』
なぜここに!と言いたげな顔をする三人組。
「コウキ様、これは・・・申し訳ございませんでした!」
ランカが物凄く気まずそうな顔をしながら言葉を選ぼうとしているが、結局見つからず瞬足土下座を披露した。
「・・・説明をしてくれ」
「それは僕がします」
名乗り出たのはワイトだった。
あの日、ゲルドが俺の店をつぶすと宣言した時ワイトはゲルドが冒険者たちを雇って妨害工作を仕掛けると予想していた。だから翌日からワイトは別荘組、さらに護衛組とリズア店員たちに刺客のことを話したらしい。
それで、俺には迷惑をかけないように、店員組はいつものように接客、別荘組と護衛組は刺客が現れたら店に工作を仕掛ける前に仕留める行動に出ていたのだ。ワイトのユニークスキル『魂眼』によって雑貨店リズアに対して工作を仕掛けようとする悪意を持つ者で識別していたため、一般人には危害を出していないそうだ。
「お前たちな・・・」
「申し訳ございません・・・勝手なことだと分かっていたのですが。コウキ様には負担をかけたくなくて・・・・僕たちもあの店を守りたかったのです」
泣きそうになるワイトを見て、これ以上叱るにも叱れない気持ちになってしまった。
「はぁ・・・分かった。ありがとうなワイト、店を守ろうとしてくれて。でも、暴力だけで解決するのは間違っているぞ」
「・・・はい」
しかし、ゲルドの奴まさか冒険者たちを雇ってそんなことをしていたとは・・・案外これまでも似たようなことをしていろんな店をつぶしてきたんじゃないのか?ってことは、リズアの変な噂もこいつらの仕業ってことか?
「さて、こいつらはどうしようか?」
「一応妨害工作をしようとした証拠映像はあるので、もし訴えに来ても問題はありません」
え?
そう言ってワイトが見せたのは雇われ冒険者が何やら注射器みたいなもので果実に何か混入させようとする映像や、石ころを店にめがけて投げている証拠映像があった。
「もちろんすべて未然に防いでいます」
いや、こんなことする前に止めろよ。いじめっ子たちがいじめている映像を録画してから助けに行くみたいな感じで少し複雑な気分だ。
「あの~、俺たちはどうなるのでしょうか?」
ランカに首根っこつかまれた状態の冒険者は不安そうに俺に質問してきた。
「一応、証拠写真はあるしギルドに突きつければお前たちのギルド会員剥奪は確定だな、あとはステータスに犯罪歴が追加されるな」
「お、お願いします!それは勘弁してください!俺マジで金欠で良い金額の依頼だったから受けただけなんです!犯罪歴なんかつけられたらマジ職見つけられなくなるじゃん!」
依頼だって?
「それは正規のギルドの依頼なのか?」
「い、いや闇ギルドって場所でこの依頼をみつけて。そこにいるやつらも皆そこで依頼を受けたやつらで・・・」
闇ギルド・・・聞いただけでヤバそうなところだな。
「どうやって受けた・・・話してくれたら、お前の映像だけ削除してやる」
「まじで?」
「まじ・・・あと、今後はまじめに働くことも誓え」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ここはトレスアールの端に建てられているやや大きめなバー。見た目は何の変哲もないこのバーであるが・・・
「マスター『アセ・ライトヴ』を一つ」
「・・・こっちだ。先週から随分と客の数が多いな」
『合言葉』を伝えるとマスターがモニターを操作するとバーカウンターの後ろにある扉が開く。
闇ギルド
そこは正規のギルドでは申請できないような危険な依頼や犯罪系の依頼が提出される場所。だがその分、成功報酬ははるかに高い。誘拐、強盗、殺人・・・そんな依頼がこのギルドではクエストとして発行されているのだ。
「すみません、この依頼を受けたいのですが」
「ん?『市場エリア、雑貨店リズアの営業妨害』・・・またか。このクエスト簡単そうに見えてかなり報酬がいいせいか受けるやつらが多いんだよな。だが不思議なことに未だにそのクエストを成功させた奴はいない」
受付のスキンヘッドのおやじがつまんなそうにモニターを開き、クエストの受注操作をする。
「へー、しかしこんな依頼。よく裏ギルドで発行されますね」
「珍しいことじゃないさ。特に商人貴族なんかは自分の手を汚さないで済むからこういった依頼はあるものだ・・・殺人とかだったら報酬はさらに高くなるから、妨害程度がちょうどいいんだろう」
「ふーん・・・そういう依頼主は結構いるんだな・・・これの依頼主ゲルド・ミューラーみたいな貴族が」
「お前!なぜその名前を!依頼主の名前はこっちしか知らないはず!」
受付のおっさんが武器を構えようとした瞬間、バーから大勢の足跡が聞こえてきた。
「全員抵抗するな!トレスアール警備隊だ!お前ら全員連行する!」
一斉に押し寄せてくるギルドの警備兵たち、そして次々と連行されていく名もなき冒険者たちや依頼主たち。
「コウキちゃん、ありがとうね。まさかこの街に闇ギルドができていたなんてね・・・しかも、貴族の一人が運営しているバーの地下にあるなんて・・・」
「いえ、俺たちはただ自分たちの店を守ろうとしただけです」
警備兵たちのあとからやってきたオバチャンとウィリアムさん。
「だが、これは大手柄だぞ。闇ギルドは犯罪組織。我々ギルドも彼らの動きを探っていたのだがなかなか見つからなかったのでな」
武装したウィリアムもかなり上機嫌だった。まあ、トレスアールを守る側にとっては町を巣食う犯罪組織を摘発したことは大きいだろう。
「町長、依頼主のリストを発見しました。これで証拠は揃いました」
受付カウンターからやってきたカンナさんは紙束を持ち出しウィリアムに手渡す。
「ふむ・・・まさかこれほどの者たちが闇ギルドに関わっていたとは・・・これは少々国が傾きそうだ」
「・・・そうですね。ですがグランドマスターでしたら容赦なく摘発するかと思います」
「ははは。社長ならそうするだろうな・・・では町長、コウキ儂たちはこの資料を社長とセレナ様へ報告しに行ってまいります」
「ええ、お願い」
ウィリアムさんとカンナさんはそのままギルドへ向かい、残された町長は悲しそうな眼で空っぽになった闇ギルド跡地を見る。
「ねぇ・・・コウキちゃん。こんなところがトレスアールにできていてショックを受けたでしょう?」
「それは・・・」
確かに、初めて来たときは活気あふれる町ですごい場所だと思った。俺が街を作った時もここのようにしたいって気持ちがあった。だけど実際この町にも悪いところが色々と見つかる・・・薄れていても残っている差別意識、階級を見せつける上下関係、そして裏で巣食う犯罪・・・全てが良いなんてものはないのだと思い知らされた気持ちだった。
「元々はこのトレスアールは何もないな町・・・いや、何も無い村だったの。だけど才ちゃんが開拓してくれたおかげで、ここは次第に観光地として有名となりあっという間に町ができた・・・その速さは正直異常と言えたわ」
才によって開拓された町・・・だからここは食文化や建物が俺の知っているものが多かったのか。
「町が完成した時、当時村のまとめ役だった私が町長に選ばれたの。大好きの故郷が立派になることはうれしかったしこれからさらに立派にしたいと思ったわ・・・だけど結果がこの状況・・・私は立派にするどころかちゃんと守れていなかった」
悔しそうに地下から出ていくオバチャン・・・
「だから、コウキちゃん・・・私のようにならないで」
それは、オバチャンの・・・失敗を犯した先輩としての言葉だった。これからオリジンは大きくなる・・・それもトレスアールとは比べものにならないくらいの速さで発展するだろう。そして、異常に発展した国で俺は理想とする国を維持できるか・・・トレスアールのようなことがあって俺はどうするか・・・オバチャンはそれが心配なんだろう。
「大丈夫だよ・・・何かあったら俺はオバチャンに相談するよ。俺はオバチャンの子なんでしょ?」
俺がそう返答すると優しそうな顔で抱きしめてくれた・・・なんというか、懐かしい気持ちにしてくれる・・・母親の温もりのような安らぎを感じだ。
バーに登場した合言葉の『アセ・ライトヴ』は『裏クエスト』の意味です。




