82話 祭りが終わったので日常がやって来ました
才からの挑戦状を受け取った後、リズアの住民たちは宴モードに突入する。
なんというか、才たちが来てからずっと騒いでばっかりだが、いいのかこれ?
「・・・・・」
まだ不機嫌そうなカーツは座り込んだまま肘をついていた。
まったく、見た目は大人なのに性格は子供だなこいつは。
「ほら、カーツ。次戦えばいいだろ?この経験を次に活かせ」
「・・・はい」
その後カーツも宴に参加し、好物である魚料理を食べて少しは機嫌が良くなった
え?魚人族に魚料理っていいのかって?気にしたら負け。実際、他の有隣族・魚種の人たちも美味しそうに食べているし。
今日は魚パーティということで、テーブルに並べられているのは新鮮な海の幸。リズア定番のバーベキューで焼いた貝類やウニ、【冷凍】の刻印魔法が施された大皿に載せられた刺身、ゆでた巨大蟹などが並べられている。
「ほぉ、もしかしてこれもここで育てた魚なのか?」
関心した様子で料理を見る才。というか、才がこのダンジョンで興味持っているのってほとんど食材関係ばかりじゃないか?
「はい、魚などはカーツ様の担当されているフロアで放しており独自の生態系を作っています」
「改めて思うが、この国で手に入らないものはないんじゃないのか?」
才が少し引きつった様子で俺を見たが、まあその気持ちは分からないでもない。正直、俺だって逆位の立場だったら同じ感想だからな。
「あ、そういえば才。お前に報酬を渡すのを忘れていたな」
俺はふと思い出しモニターを操作した。
非公式とは言えカーツを倒した?んだし報酬は渡さないとな。
俺の手元に出現したのは大きめのライフル。カーツが所持していた武器と同型であるが性能はやや劣る。
「これって、カーツが持っていた武器か?」
「ああ、『覇者の魔銃』って武器だ。使い方は、才ならわかるよな」
「ああ、だけどいいのか?一応俺も死んだことなんだが」
「構わないさ、それにカーツと引き分けたって話を広めるなら報酬がないと説得力無いだろ?」
俺がそう説明すると才も納得したようにライフルを受け取った。ヒュウとケイトは羨ましそうにライフルを見ている。
欲しければカーツに勝つことだな
「なあ、光輝・・・お前のフロアボスのことなんだが・・・」
「ん?カーツたちがどうかしたのか?」
ライフルを大事そうに握る才・・・何か気まずそうな顔をしていた
「いや・・・頼むからあいつらがダンジョンの外で暴れるようなことをさせないでくれよ。俺は二度死ぬのはごめんだ」
「なんだよそれ・・・ってか、させないよ」
カーツとの闘いで才はカーツの情報を見てしまった。それは光輝もカーツ本人も知らない情報。それは伝えるべきことなのか迷った才は、今はその時じゃないと言い聞かせ伝えることに踏みとどまった。
「・・・エイミィ。なんでお前はフロアボスを生み出したんだ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「コウキ、少しいい?」
食事をしていると、俺の後ろから話しかけてきたのはゼノの姫、フィロだった。
「どうした?魚料理は口に合わなかった?」
俺はわざと答えの分かっている質問をした。彼女の手には大量の握り寿司が積み上げられている皿が見える。
「そんなわけないわ!おいしいわよ・・・テオとの交流パーティで食べた料理と同じくらいの衝撃を受けたわ」
おそらく、才が浸透させた地球の料理なのだろう。やはり、料理に関してはテオが先手を打っているか。
「姫さま、あまり他国と比較するのはよくないかと思います」
後ろに控えていたアッシュがそう言う・・そしてその手にはやはり寿司皿があった。
「構いませんよ。テオの料理レベルが高いのはよく知っていますし。むしろテオと同じくらいと言ってくれて光栄です」
「申し訳ございませんコウキ殿・・・どの料理も素晴らしいものばかりです」
アッシュがそうほめてくれて俺はニッコリ笑って返す
「ところで、フィロは何か言いたいことがあったんだよね?」
「あ・・・そうだった、忘れるところだったわ。セレナから聞いたんだけど、ここオリジンはテオプア王国と交易を結ぶそうね」
「ああ、一応まだ表立って発表とかはできないけど、今後はお互いの特産品とかを輸入輸出を行うつもりだ」
「だったら、是非ゼノとも交易を結びましょう!」
満面の笑みでいきなり交易を持ち掛けてきたフィロ。その目の輝きは国の発展を見越したセレナと異なり、新しいおもちゃを見つけた無邪気な子供みたいな瞳だった。
まあ、ゼノとの交流を持てるのはこちらとしてもうれしいし、五大国のうち2国も交易を持てるならこちらとしてうれしいものだ。ゼノの国民は特にエイミィを狙うような人たちじゃないみたいだし、結構この人たちのことは気に入ってしまっている。
「それは無理です、姫様」
だが、彼女の期待に反してアッシュが断った。
「何でよ、アッシュ!あたしはゼノの姫よ」
「確かに、姫様個人が購入する場合でしたら問題ありません。しかしこれは国同士での交易。姫様には貿易交渉の権利がありません」
「じゃあ、今すぐお父様に連絡を入れて交渉を!」
「その場合は予算などを大臣たちと話し合い、こちらが何を求めるかをしっかりと決める必要があります」
フィロがいろいろと考えるもことごとくアッシュによって看破される。
「ええと、一応、予約って形でどうかな?こちらの品を一通り購入して、ゆっくり考えればいいさ」
「わかったわ・・・でも絶対に交易を結んでもらうからね!」
「ちなみに、ゼノは何が有名なんだ?」
こちらもいずれ輸入するんだし色々と聞いておきたい。
「そうね。魔国ゼノは五大国の中で一番魔素が濃い国だから魔物が大量にいるわ。だから、素材や食材とかは結構豊富にあるわね」
その辺はダンジョンの環境とよく似ているな・・・見たこともない魔物以外だったら特に必要なものはなさそうだが。
「あとは料理とか武器なんかもいろいろと種類があるわね。武力だけなら五大国でもトップの自信はあるわね」
料理は興味深いかな。こっちも魔物の料理はいろいろとやっているけど、新しい調理方法とか見つかりそうだ。今のところ有力なのはその辺かな。
「あとは・・・最近、研究所の開発で生み出した合成魔石とか」
・・・なんか、今すごい情報が投げ出されなかったか?
「姫様!それは国の最高機密ですよ」
「別にいいじゃない・・・それに、これくらいの情報を出さないと向こうが交渉に応じないでしょう?」
まあ、確かに合成魔石とかいうカードを持ち掛けてきたらこちらが食いつくのは間違いないな
「まあ、合成魔石のことはこの際置いておいて、ゼノとの交易はこっちも前向きに検討していきたいと思っているよ」
「本当!じゃあ、また買い物しにいかないと!お父様たちのお土産は何がいいかな?あ、そうだ。これ私の連絡先・・・何かあったら連絡を頂戴」
そう言ってフィロがモニターを操作すると、俺のモニターが出現し『フレンド登録』の申請が来た。俺は承認ボタンを押すとフィロの名前が連絡先に登録されたのを確認した。
「ゼノの準備が整ったら連絡するわ・・・楽しみにしていてね」
そう言って、フィロは嬉しそうに料理が並べられているテーブルへ向かった。
「コウキ殿、申し訳ございません。フィロ様が勝手なことを言ってしまい」
「いや、構いませんよ。ゼノと交流する機会を得られたのですから。こちらこそよろしくお願いします」
「ありがとうございます・・・互いの発展を願っています。正式な交渉の場はこちらで設けさせていただきます。整いましたらご都合の良い日を決めましょう」
まあ、国規模としての交易なら口約束じゃだめだからな。テオとの交易が決まった後ぐらいにやれそうだな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして、翌日両国はオリジンを堪能しそれぞれ自分たちの国へ帰っていった。すぐにでもオリジンとの交易へ向けて準備をするそうだ。
俺は全員をトレスアールへ送った後、久々に作業室に入った。そこにはいつも通りエイミィが学校関係の準備をしていた。祭りが終わればいつもの『日常』が戻る。エイミィは嬉しそうに教材の準備をしている。
「あ、光輝。才たちは帰った?」
「ああ、皆すごく楽しんだそうだ。あのコテージも気に入ったみたいで、それぞれ購入していったよ」
「ふふふ、当然よ。あそこは私と光輝が考えた最高の場所なんだから」
さらに上機嫌になったエイミィは鼻歌を歌いだす。なんの曲なのかは分からない。おそらく彼女の創作なのだろうがとても落ち着く。
「何を作っているんだ?」
「え?新しい教科書・・・光輝からもらった教科書がもうすぐで教え終わりそうなんだよね。だから新しいのをあたしで作ろうかなって思って」
そう言って、彼女は黙々とプログラムを打ち込んでいく。
「カーツやカルラたちに協力してもらって、生物の生態情報をまとめたデータをもらったからそれを教えようかなって。ほかにも、グラムの『健康体操』とか、リンドの『武器の扱い方』、ミーシャの『魔物資料』、ゾアの『魔法具の構造』、エドワードの『魔法知識』とかもあるわよ」
フロアボス全員巻き込んでいるじゃないか!
「お前な、あれだけフロアボスを巻き込むなって言ったじゃないか」
「大丈夫、皆積極的に協力してくれたし・・・たまになら特別講師も頼めるそうよ」
あいつら・・・・
「はぁ・・・なんというか、ものすごい教科書ができそうだな。ほら、俺も手伝うよ」
「え?いいの?」
「お前がやったら、せっかくの資料も台無しになりそうだからな。お前、機械オンチだし」
「っちょ、それ酷くない?」
「酷くないぞ、現にここ!コードタグのミスでエラー起こしているし」
ミスを指摘し顔を真っ赤にしながら俺を叩くエイミィ
・・・ああ楽しい日常だ
更新が遅れてすみません。不定期になりますが今後もちょくちょく更新していく予定です。
次回から新章に突入します、期待はほどほどに。




