76話 イベントを説明したら英雄に決まりました
才達との会議も終わり俺達はダンジョンの広場へ帰還した。フロアボス達も自分達がすべき仕事に戻り邪神対策を考えておくそうだ。
「才お疲れ様・・・悪いね、会議が思ったより長引いて」
「いや、スケジュールを気にしないで話し合いを出来きたのは久々だしたまにはこういうのもいいな」
過密スケジュールをこなす才にとってこれほど時間に余裕をもった会議をしたのは久しぶりなのだろう。もう少し余裕を持てばいいのに。
「それで?この後はどうするんだ?観光するならまたアルラとかに頼むが」
「いや、俺はコテージに戻って久々に休むことにするよ」
『え?』
「休む」という言葉にセレナたちが反応をした。
「あのサイが『休む』ですって?」
「信じられんでござる・・・」
「そうです!才様はしっかりと休むべきです!」
仲間たちにこれほど言われるとか、才のスケジュールってどうなっているんだ?
「分かった。何か必要な物があったら言ってくれ」
「あいよ。セレナたちはどうする?」
「私は農場エリアに行くわ。サイの言っていたのが気になるし」
「では拙者もセレナ姫と同行するでござる。あの農場の技術は是非カグツチにも利用したいとおもうので」
「じゃあ、アルラに連絡を入れて案内をさせるよ」
さっそくアルラに連絡を入れて馬の用意と案内を任せる。俺は才たちをコテージまで送ることにして一緒に商店街エリアへ向かった。
・・・・・・・・・・・・・
「そういえば光輝、俺達の予定だと三泊することになっていたが俺だけ先に戻っても構わないか?」
「邪神対策のことか?」
「ああ、正直。あんな話を聞いた後だとのんびりしていていいのかって思ってな。だが光輝のせっかくのお持て成しというのもある・・・だからせめて姫やケイトたちは最後まで楽しませてやってくれ」
「はぁ・・・お前な。シンの話を聞いていなかったのか?俺達もしっかりと邪神対策をする、だからお前が背負い込む必要は無いんだよ」
「そうです。それにこれはアルヴラーヴァ全体で対処しなければならない事態。流石にテオのみでは抱えきれません」
スイちゃんの説明で諦めが付いたのか降参のポーズを取る
「分かったよ・・・その代わり光輝にもいろいろと頼ることになるがいいな?」
「ああ、分かっている・・・あれ?あそこにいるのはヒュウじゃないか?」
商店街エリアを抜ける広場に突き刺されている看板を眺めているヒュウの姿があった。
「よう、会議は終わったのか?」
「ああ、お前はだいぶ回復したみたいだな」
「おかげさまで・・・所で光輝、これはなんだ?」
「看板?・・・うげ!」
ヒュウが看板に指を指すとそこには『22階層フロアボス、海の貴公子・カーツvs 英雄のだれか』と書かれていた。
グラムのやつ!建設する敷地の確保と宣伝は任せていたがこんなの置くなよ!っていうか、まだ才たちが戦うとは決まっていないんだぞ!
「何だ?俺達がフロアボスの一人と戦うのか?」
「あ、いや・・・まあ、もし良ければって話で・・・」
「俺はパス。やりたい気持ちはあるがまだ全快じゃない」
だよね・・・昨日のグラムの激戦の後にまたフロアボスとか厳しいよな。
「・・・ふーん、フロアボスか。なあこれ俺が参加していいか?」
『え?』
才の思わぬ言葉に俺と天使兄妹が声をそろえる。
「参加って・・・お前が戦うのか?」
「ああ・・・邪神を倒すならフロアボス並の実力が必要だし。自分の力量を再確認する必要があるからな・・・そうと決まれば万全にしておかないとな」
「は?邪神ってどういうことだ?」
「あ、兄さんはいなかったから知らないんだったね。後で説明するから・・・才様はしっかり休んでくださいね」
そして混乱するヒュウを押しながら三人はコテージへ向かい・・・
「さて、戦う相手は決まったし俺もこれを完成させるか・・・・」
俺は建設予定地の広場を見て作業を開始することにした。
・・・・・・・・・・・・・
「ねぇフィロ様、これなんてどうでしょう?」
「いいわね、あ、マヤこれを着てみたら?」
「にゃ~もう疲れた・・・お腹空いたよ」
フィロとケイトに着せ替え人形させられていたマヤは見も心もクタクタの状態になっていた。
「あれ、もうこんな時間。・・・仕方ない。今日はこの辺にしておこうか。とりあえず、こっちにある服の仕立てをお願いしてもいい?」
「かしこまりました・・・いや~こんなに色んな服を着せたのは初めてですよ」
「・・・データの更新が完了しました。皆さんの好みの服を統計し次回のために活用させていただきます」
やりきったかのように爽やかな笑顔を見せる仕立て屋『ガラゼ』の店長レビィと相変わらず無表情の店員カーチェ。
「ではこちらが料金ね」
「「毎度ありがとうございました」」
買い物を終え、大量の衣服を入れた魔法具の箱を持ち上げ店から出ると爽やかな顔をしたアッシュ達がやってくるのが見えた。
「姫様、買い物は楽しまれましたか?」
「ええ、最高!そっちはどうだった?アッシュはなんか顔色が良くなったみたいだね。どこかいったの?」
「え?えーと」
別に不健全なことはしていない。『整骨院でマッサージをしてもらった』と伝えるだけなのだが、彼女にあの店を紹介するのはどうかと悩んでいた。
「ふーん、アッシュもやっぱり男なんだね」
「え?姫様・・・それはどういう」
ジト目で見るフィロ・・・その先には未だ幸せそうな顔をしている3人の部下と羨ましそうに見ているリック。これだけでなんとなく想像はつくだろう。
「ち、違います!けっして疚しい所では!」
「じゃあどこ?私を案内してよ」
「そ、それは・・・・」
「あら?さっきのお兄さん達じゃない。どうしたのこんな所で?」
追い討ちの如くやってきたのは夢魔族の女性たち。仕事帰りなのか私服姿の彼女たちはそのプロポーションを強調するかのような服でアッシュたちの目はもちろん釘付け。
「あ、いや・・・これは・・・」
完全にしどろもどろになっているアッシュ。見た目はイケメンの部類、まじめそうな人物そんな彼の姿がツボに入ったのかミリーが悪戯な顔をしてアッシュの腕を組む。
「あの時は残念だったわ・・・今度着たときは私を指名して」
「あ、ずるいわよミリー。その人は私が」
「あ、なら私が頂こうかしら?・・・そうだこの後一緒に食事でも・・・」
完全のハーレム状態のアッシュ。男性陣から羨ましい、妬ましい視線を向けられ、女性陣からは冷たい視線を浴びせされる。
「姫様!ケイト殿!違うのです、誤解なのです!」
「あーら、酷いわね。凄く気持ちよさそうな顔していたの覚えているわよ」
「「ね~♪」」
オワタ・・・アッシュの中でそんな諦めが出てきた。そんな時彼に救いの手が・・・・
「ほら、君達ウチのお客さんにちょっかいを出さない」
振り向くとそこには爽やか系のイケメン・・・ムーノが歩いてきた。
「アッシュ殿、すみません。ウチの従業員たちが何か変な誤解を植えつけて」
「いえ、そんな」
「アッシュ?その人は?」
「始めまして、お嬢さん方。自分、この街の整骨院を営んでいるムーノと申します。アッシュ殿たちは先ほどこちらを利用されたのです」
「整骨院?ということはマッサージとかそういうの?」
「はい、我々が営む整骨院は健全な場所。こんな見た目ですがけっして疚しいことなどはしていません」
「そ、そう」
いきなりのイケメンの登場でフィロとケイトは少し顔を赤くしている。これが男性夢魔種の魅了なのか、二人ともすっかり怒りの感情が消え失せてしまう。
「ほら、君達も謝りなさい」
「「「はーい、すみませんでした」」」
全く感情の篭っていない謝罪ではあるが、誤解が解けたのならそれで良いとアッシュは思った。
「では、我々はこれで・・・お嬢さん方も是非ウチを利用してみてください」
「「は、はい」」
「それではアッシュ殿、自分達はこれで。今度食事なども用意しますよ」
「ほ、本当にありがとうございます!」
思わず握手をしてしまうアッシュ。そしてニッコリと微笑みながら美女3人を連れて住宅エリアへ向かうムーノ。
その時誰も気付かなかっただろうが、握手をする瞬間ムーノは一度アッシュの手をなぞっていた。
嵐が過ぎ去ったことに安心したアッシュは深いため息をついてフィロたちを見た。完全にイケメンの登場で少し顔を真っ赤にしている。
『あなたにはヒュウ殿がいるでしょ!』
心の中でそう叫びたいアッシュ達であるが、逆の立場だったら同じだったかもしれないと思い、言葉には出さなかった魔人たちであった。
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