75話 魔人達がいるので案内しました
光輝と才が会議を行っている時、ダンジョンへ招待されたフィロたち魔人一行は街の観光を楽しむ・・・はずなのだが。
「ここが商店街エリアで・・・・ん?どうかされましたか?」
フィロ達魔人一行達を案内をしている人物・・・それは先日戦い、ボコボコにさせられた人物。フロアボスグラムが案内人として彼女たちをダンジョンの街を案内をしていたのだ。加えて誘うはずだったヒュウは本当に昨日の疲れが残っているためアッシュ達に連れて行くことを止められたのだ。
『昨日の敵は今日の友』という言葉を思い出すフィロたちであるがそんな切り替えが簡単にできるわけがない。未だにフィロたちとグラムの間には緊張感が張り巡らされている。
「あ、なんていうか凄いところだねって思って。ここがあのダンジョンの中にあるなんて信じられなくてね。色々と目移りしちゃうの」
「そう言ってくれるとこちらは嬉しいです。この街はまだできてから一年も経っておりません。コウキ様や外の世界を知っている者達はこの街はまだまだ発展すると言っていましたから、我々もまだまだだと思ってはいるのですが」
少し照れたようにに話すグラム・・・建設部門を担当する彼にとってこの街は数少ない彼が自慢できるものでもある。
「え、一年?そんな嘘でしょ?こんなに立派な建物が並ぶ街がまだ一年も経っていないなんて」
「嘘ではありません。素材などは全てダンジョンから調達し、住民たちの持つスキルを活かし建物を次々と建てたのです・・・あんなふうに」
信じられないフィロたちであるが、グラムが建設中の建物に指を指す。そこには3人の巨人たちが巨大な鉄の棒を次々と並べているのが見えた。
「アール、【固定化】の魔法はできているわよ・・・【防音結界】も張ったからいつでもやっちゃいなさい」
「了解したイマジン。ニュートンやるぞ」
「あいよ〜アールの旦那〜」
女性の巨人が突き刺さった鉄の棒にそれぞれ【固定化】の魔法を加え支えると、残りの男性巨人たちが大鎚で鉄の棒を叩き地面に突き刺していく。
「あれは何をしているのですか?」
「建設の基礎である『杭打ち』です。あれで家の土台となる足場を作り、安定した建造物を建てるのです」
ダンジョンの中で地震が起きることはまずないのだが、できるだけ安定した建物を作りたいという光輝の要望で彼の知識を取り入れた建設を行っている。と言ってもプログラマーであるかれが、建設の知識を完全に理会しているわけではないので、曖昧な説明を元にグラムたちが試行錯誤して現在の技術まで上り詰めたのだ。そのおかげもあってか、建設部門のスキルはかなり上昇している。
「凄いあんなにあった鉄の棒があっという間に突き刺されていく」
その光景に圧倒されるアッシュたち、しかしグラムは涼しい顔で彼らの作業を見ている。そして全ての杭が打ち終わると、三人の巨人たちは本来の姿へ戻りグラムの元へ走ってきた。
「親方、来ていたのでしたら声をかけてくださいよ」
「ああ、お前たちの仕事を客人に見せようかと思ってな・・・フィロ殿、こちらが儂の部下であるイマジン、アールにニュートンです」
「魔人族・巨人種のイマジンです。先日の戦いは見事でした。親方を吹き飛ばすその実力、いつか手合わせを願いたいものです」
「私はアールと申します。同じく魔人族・巨人種で建設部門の副監督を任されています」
「魔人族・巨人種のニュートンだよ〜。よろしくね〜」
イマジンという女性は興味津々にフィロを見、アールと名乗る壮年の男性は紳士的に挨拶、ニュートンは軽い口調で挨拶をする。全員が2メートルを超える長身であるため見下ろすように見ている。
「あと、ここにはおりませんがテスラという部下がおります。現在彼女は外の世界で修行中の身です」
グラムがそう説明し、建設部門の巨人種たちの自己紹介を済ませた。
「ところで親方、今の作業を見て何か問題はありませんでしたか?新しい技法を色々と試行錯誤してやってみているのですが」
「ふむ、確かに杭を打ち込むスピードは以前より上がっているがこれでは巨人種であるお前たちしかできなくないか?」
『あ・・・』
グラムがそう指摘すると三人がハッとした顔で声を揃えた。
「そのことをすっかり忘れていました」
「あちゃー、それじゃあもう一回考えないといけないわね」
「テスラ姐さんからの資料をもう一度確認してやり直しだね〜。とりあえずこの家だけは俺達で完成させようか〜」
三人がそれぞれ反省するとすぐに作業に戻る。
「あの方たちはいつもあんな風に作業をしているのですか?」
「ん?まあ私語は多いが仕事は真面目ですから文句はいうつもりはありません」
そういう意味ではないのだが、アッシュたちはそれ以上言わずただ黙々と作業をしている三人の後ろ姿を眺めていた。魔国ゼノにも巨人種の魔人はいる。しかし本来、巨人種は知能がそこまで高い部類で戦いを好む者が多いのだ。そのため彼らのように技術を持ちさらに磨くための試行錯誤している姿は別の種族を見ているかのように思えたのだ。
「ところで、彼らは何を建てているの?なんかものすごく広い敷地を使うみたいだけど」
フィロが眺めるように見ると、広い範囲で杭が打ち込まれている。広さで言うならコテージの数十倍の広さはある。
「ええ、コウキ様が住民たちへ公衆浴場を建設する計画を建てたのでそのための建物を建てているところです」
「え?ってことはあの範囲全部が風呂場になるの?」
「まあ、流石に全てではないですが。ダンジョンの名物の一つにする予定です」
「あの!完成したら呼んで!絶対入るから」
「ははは、そうですね。その時は是非いらしてください」
・・・・・・・・・・・・・・・
「これください!あ、あれも!これも!うー!何ここ!凄いじゃない!」
服というものは女性であれば種族問わず誰もが目を輝かせるものなのだろうか。フィロは仕立て屋『ガラゼ』に立ち寄り、服を次々と買い込んでいく。
「あの姫様?もうすでにここに来て一時間も経過しているのですが・・・」
服を選ぶ女子を待つ男性にとってこれほど退屈なものは無い。まだ終わらないのかという気持ちでフィロに言うもの。
「え~?まだ一時間でしょ?あ・・・あれ、試着しても良いですか?」
全く耳を傾ける気配を見せないフィロに呆れながら諦めるしかないと思っていたアッシュたちの後ろからある女性が店に入ってくるのが見えた。
「あれ?アッシュたちじゃない、あなた達もここで買い物?」
アッシュたちが振り向くとそこには大量の魔法具が入った箱を軽々を持ち上げているケイトとマヤの姿があった。
「ケイト殿、おはようございます。凄い荷物ですね・・・重くないのですか?」
「あ、大丈夫よ。この箱、【重力魔法】の刻印が刻まれていて殆ど重さが無いのよ」
そう自慢するケイトを見るアッシュたち。普段はクールで落ち着いた彼女しか知らない彼らたちは嬉しそうに魔法具を抱えている彼女の笑顔に釘付けになっていた。
「あ・・そうでしたか。ところで、ケイト殿はどうしてここに?」
「昨日仕立ててもらった服を引き取りにね。ついでにマヤの服も作ってもらおうかと思って」
「にゃ?マヤ別に今の服で十分にゃよ?パーティ用のドレスももうあるし」
「駄目よ。女の子はおしゃれをしないと・・・それにサイに見せてビックリさせてたいでしょ?」
まるで我儘を言う妹を躾ける姉のように言いくるめ、マヤは納得したかのように頷く。
「ところでフィロ様はまだお買い物をお楽しみ中なのかしら?」
「ええ、すでに一時間も経過しているのですが。まだ買い物するみたいで・・・」
少し困ったように言うアッシュ。別に彼らは待つのは構わないのだが店の外ではグラムがスクワットしながら待機しているのが見える。
「あ、あれあなた達を待っていたのね・・・じゃあフィロ様のことは私に任せて。あなた達は観光を楽しんできたらどう?」
「よろしいのですか?」
「ええ、私ももう少しここで買い物を楽しむ予定だし。あのグラムを待たせるのはまずいわ」
「では、よろしくお願いします」
『ケイト殿!ありがとうございます!』
ケイトが変わりにフィロの相手をすることになり、やっと開放されたアッシュたちはすぐに外へ出てグラムに事情を説明し別の場所を案内してもらうことになった。
・・・・・・・・・・・・・・・
「グラム殿次はどこへ案内してくれるのですか?」
「うむ、お主達昨日の戦闘での疲れはまだ取れていないだろ?」
「え?・・・コテージで休ませてもらったのでだいぶ回復はしたのですが」
「遠慮するな。ダンジョンでの戦闘では傷は完治しても疲労は溜まった状態になるからな。ヒュウも未だコテージで休んでいるだろ?」
そう説明され納得するアッシュたち。
「だから、そういった疲労を回復するための場所へ案内しようと思う」
そう言ってグラムが案内した場所はどこか怪しげな雰囲気を醸し出す建物だった。ピンクや紫などやや卑猥なイメージを出すこの建物・・・・
「あ、あの。グラム殿・・・ここ『あら、グラム様!いらっしゃい!』」
建物から出てきたのは3人の妖美な美女と1人のイケメン男性がやってきた。魔人であるアッシュたちはすぐに彼女達の種を理解した。妖美な美貌、どこか惹きよせられるその魅惑の美貌は、魔国でも数少ない夢魔種であることに。
「やあ、ミリー、メリー、モリー、ムーノ。今日は客人を用意してきた。しっかりと疲れを取ってやれ」
「「「はーい」」」
「ぐ、グラム殿!ま、まさかここは・・駄目です、こんな早朝からそんな卑猥な!」
必死にするアッシュ達、だがその顔は否定する口とは裏腹に少しにやけているのがバレバレであった。
「ん?何を言っている。ここは夢魔種が営業する『整骨院』だぞ?」
『はい?』
「ムーノ、建築部門から言わせて貰うが、このデザインはどうかと思うぞ。すでに何件か苦情の連絡が来ているぞ『子供を連れて店の前を通れない』とか、『真っ直ぐ大通りを歩けない』とか」
「え?マジですか?・・・普通じゃないかな?」
「「「だよね?」」」
夢魔種にとってはこの色が普通なのだろう・・・だが、他の種から見たらある意味別の店と勘違いしてしまいそうだ。ムーノが不思議そうに言うと女性陣も同意している。
「じゃあ、建設部門にリフォームの依頼を出しておきます」
「ああ、そうしてくれ。それよりこいつらを頼む」
『了解しました』
美女達に囲まれて怪しげな店に入っていく魔人たち。傍から見たら、キャバクラに勧誘されているように見えるだろう。
「では、ミリー、メリー、モリーはそちらの三人を。僕は二人を担当しますね」
「あ、あの!自分メリーさんにお願いできないでしょうか!」
「ずるいぞ!あ、俺はミリーさんで!」
「ふざけるな!ミリーさんは俺にやってもらうんだ!」
男達の醜い争いが繰り広げる中、仕方なくくじ引きで決め、女性陣に決まった3名は歓喜、ムーノが担当することになった2名は残念な気持ちで3人を睨む。
「まあ、そんな顔をするな。マッサージの技術はムーノが一番なのは儂が保障する」
「そう言ってくれると光栄です・・・ではアッシュ様、リック様はこちらへ」
ムーノに案内されてそれぞれ別の部屋へ移動し着替える。
「隊長・・・俺、今日ほどあいつらが羨ましいと思ったことはありません」
「それについては同意だが、諦めろ。それに疲れが取れるならそれに越したことは無いだろ?」
あくまで自分達は疲れを取りにここに来たのだ。そう言い聞かせて他の三人を忘れようとしたその時。
「お二人とも、準備は整いましたか?」
着替え部屋から出るとそこは南国をイメージしたかのような落ち着きのある部屋で、川のせせらぎが聞こえる魔法具が設置されている。マッサージをする場所で言えばこれほど良いのは無いだろう、だが、そんな落ち着きをぶち壊しそうな存在が彼らの目の前にいた。ビキニパンツをはいたガチムチ体系のムーノの姿である。
「ム、ムーノ殿。その姿は?」
「これですか?我々夢魔種が作業を行うときはこの格好なのです。ちなみに女性陣はあちら」
2人が興奮した目でムーノが指を指した方向を見るとそこにはマイクロビキニの姿の美女達、そして彼女達の前には前かがみになって幸せそうな顔をする部下達。
「隊長!隊長権限で入れ替わりましょう!俺、あいつらが許せません!」
「落ち着けリック!気持ちは分かるが我慢だ!」
今にも血涙を流しそうなリックの訴えも振り払い、真っ直ぐベッドに横たわるアッシュ。
「さあ、煮るなり、焼くなりしろ!」
「いや、マッサージですから・・・リック殿もそちらのベッドに横たわってください」
「くそ・・・あいつらめ」
羨ましそうに3人を見るリックもしぶしぶベッドに横たわる。
「そんなに力まないでください・・・大丈夫ですよ」
ムーノが2人の背中をさする、自然と力が抜けていく。
「そうですではそのまま深呼吸して・・・」
ムーノに言われるままに深呼吸をした瞬間、ストンと眠りに入ったかのように心地よい気分になっていく。それからしばらくアッシュとリックは心地よい気持ちを堪能したのであった。
※けっして『ムフフ』や『アッー』のような展開はありません。健全なマッサージです。
・・・・・・・・・・・
アッシュ達が目を覚ますとさっきまでの身体の疲れが嘘のように取れていた。
「おお、凄い!身体が凄く軽い」
「隊長、なんか凄く顔色が良いですよ」
隣にいたリックを見ると彼も顔のクマがすっかり取れており、健康そうな顔をしている。
「気分はどうでしたか?」
「ああ、最高です・・・これほどの技量は王宮専属のマッサージ師でもいませんよ」
「そうですか。それは何よりです。お連れ様はすでに外で待っていますよ」
「そうか、ありがとう。是非また利用させてもらうよ」
そう言ってアッシュたちが外に出ると、三人が物凄く幸せそうな顔でソファーに横たわっているのが見えた。正直、魔国の近衛部隊とは思えないくらいだらしない表情をしている。
「お、お前たち。何があった?」
「あ、隊長?・・・いや、俺達も覚えていないのですが、何か素晴らしいことがあったのは確かなのです身も心も清められたというか・・・今から物凄く良いことをしたい気分なのです」
まるで別人といいたくなるくらいの部下の変わりように同様するアッシュたち。
「・・・一体何をされたんだ?」
「・・・次は絶対ミリーちゃんにマッサージを頼もう」
今回新たに登場したグラムの部下である、イマジン、アールとニュートン。名前の由来は単位でグラムとテスラを含めると
g(グラム)
i(イマジナリーナンバー)
a(アール)
N(ニュートン)
T(テスラ)
でgiaNT(巨人)となります。
夢魔族はそのまま、ま行で
マリー
ミリー
ムーノ
メリー
モリー
です。




