74話 国ができたので名前を付けました
俺が彼女の目の前に手を差し伸べるとセレナは嬉しそうに握手を交わした。それを見ていたフロアボス達は嬉しそうに拍手をしていた。
「おめでとうございます、コウキ様。ではさっそく国に名前を決めないといけませんね」
『え?』
メリアスが嬉しそうに言うと俺とエイミィが同時に目が点になってアホな声を出してしまった。
「まあとうぜんだな?今までは『ダンジョンの街』で定着していたがこれからは交易が深まるのだからしっかりした名前が必要だろ?」
才がそう説明するとエドとゾアたちが頷きながらなにやら名前を言い出しあっている。『シャイニング帝国』だとか『守護神国・団地恩』とかなんか変な名前まで聞こえてくる。
「名前か・・・」
せっかくならカッコいい名前がいいなと思ったのだが、ふと俺はモニターを見て確認する
「オリジン・・・これでよくないか?」
忘れていたがこのダンジョンの名前は『オリジンダンジョン』という名前だった。
「ダンジョンの国『オリジン』・・・素晴らしいですわ!」
「うむ、我の魂にも響く良い名だ」
「せやな、今後は『オリジン産』と分かる刻印が必要になるな」
フロアボス達も高評価だったのでこの名前ですぐに決定した。ゾアなんかさっそく特殊な刻印を作るアイディアを考えているし。
「後は街の名前だが」
「でしたら『リズア・ヴァプ』はどうでしょう?古代言語で『共存』という意味があります」
街の名前を決めようとしたら予想外にエイミィが提案してきた。リズア・ヴァプか・・・なんというか異世界っぽい名前だな。短くして『リズア』でもありだな。フロアボスやセレナたちも感動したようにエイミィをみていた。
「さすがエイミィ様です!そこに込められた意味!感動しました!」
「古代言語で『共存』ですか・・・我々に相応しい名だと思います」
「エイミィ様に名付けられた街・・・それほど光栄なことはありません」
ここでまさかの女神フェイスのエイミィ・・・コイツ絶対内心では俺に向かってドヤ顔しているな。
「光輝もそれでいいですね?」
「ああ、お前が決めた名前だし。良い名前だと思うよ」
結果、ノフソの森の領地は『ダンジョンの国:オリジン』となり、ダンジョンの街の名前は『リズア・ヴァプ』、通称『リズア』となった。
・・・・・・・・・・・・・・
「では、国と街の名前も決まったことですし、交易について話し合いましょうか?」
まだ正式な決定はしていないものの、セレナは上機嫌で話を進める。
「そうですね・・・まずそちらが望むものはなんでしょうか?」
「やはり、魔法具でしょうか?先日泊まったコテージにある物はどれも素晴らしいものです。是非あれは城に取り入れたいと思いました」
上機嫌で言うセレナ。相当あそこが気に入ったのだろう。専用の別荘として一軒売るのもありかもな。コテージにある魔法具といえばゾアが開発したものばかりだからどれも一級品だし、欲しがる人は多そう。
「ゾア、あそこにある魔法具って量産できるか?」
「出来ますで。新入部員たちの技術力は問題ありまへんし、人員も余裕が出てきたんでそっちに回せるで」
似非関西弁を聞いた才とスイちゃんは驚いた顔でゾアを見る。まあ、異世界で関西弁なんて聞かないもんな。
「分かった、じゃあ作ってもらうものをリストアップしたら取り掛からせてくれ」
「了解したで」
これで、魔法具の輸出は何とかなりそうかな。
「後は食料ですね。昨日の食事もそうですがここで取れる作物の品質はとても良いものです」
セレナがそういうと才が頷く。主にこれは才の要望でもあるな。
「分かりました。ではこちらで採れた作物の一部を送ります、一応季節関係なく作物は採れますがどれがいいですか?」
それを聞いたセレナは『え?』という顔をしていたが、農場を見学していた他の三人は少し苦笑いしていた。
「サイ、どういうことですか?」
「ここでは、季節関係なく様々な野菜が採れるんだ・・・お前も後で農場エリアを見学したらいい。絶対驚くぞ」
実物を見ていない彼女は想像できないみたいだが、とりあえず外の季節とあわせた作物を出品することにする。
「ではとりあえず魔法具と食料を出すことでよろしいでしょうか?」
「ええ、よろしくお願いします。ではそちらは何を要望しますか?」
こちらが出す品が決まると次はこっちの要望を聞いてきた。だが、困ったことに何をお願いすればいいのか分からない。今のところこちらで必要な物は大体揃ってしまう。ダンジョンに登録してしまえば簡単に量産できるし、これといってほしいものは・・・・
「なあ、才。テオの特産品ってなんだ?」
「テオのか・・・菓子や芸術品などが有名だな」
おや?大国だからてっきりもっとすごいものが出るかと思ったが案外普通だ。
「忘れていると思うが7年前までテオは滅亡寸前だったんだぞ」
あ・・・そういえばそうだったな。トレスアールとか凄く活気があるからそんなイメージが全然しなかった。
「一応資源に恵まれた国で観光名所が沢山あるのが自慢だが正直輸出できるものはそこまで多くない。食文化と芸術方面には力を入れているからどうしても出せるのはそういうものになってしまう」
才の説明に納得した俺は、「じゃあそれを頼む」と言った。まあ、テオの食文化の凄さは俺も良く理解しているからこちらの食事の質を上げるためにもそういうものは欲しいかな。
「後、本はどうだ?ギルドで売られていない参考書や学校の教科書とかもあるが」
「あ、ならそれもお願い」
参考書や教科書とかはエイミィの学校とかで使いそうだから買っておこう。ここの子供達の学習能力は結構高いからそろそろもう少しレベルの高い教科書が欲しいと思っていたんだ。
「なら、それで決まりだな。見積もりとかはどうする?」
「それはそちらに任せるよ。正直そういうのは得意じゃないし、才たちならちゃんとやってくれるでしょう」
正直面倒だから押し付けという部分があるが、未だに常識が足りない住民達に正当な対価は分からないだろう。
「了解した・・・じゃあ、肝心の輸出経路だが・・・どうする?」
「ああ、それが問題なんだよな」
交易を結ぶのは良いがどうやって出そうかが問題なのだ。トレスアールの別荘に転送させるのもありだが、量が量だしいずれバレる。それにオバチャンたちには迷惑はかけられない。
出来れば街の存在はテオ意外にはあまり知られたくないから、外に堂々と門を設置することは今はできない。いずれは検問とか作って存在を広めるつもりではあるが。
「なあ、光輝。お前の能力でどうにかできないのか?」
「能力って【迷宮創造】のことか?確かにトレスアールみたいにダンジョン化させれば自由に門を作ったりすることはできるが。それには土地を購入する必要があるんだ」
「なら問題はないな。俺の屋敷の一つを売るからそこを自由に使え」
はい?今なんて言った?・・・屋敷?
「屋敷って・・・いいのか?」
「別にいいさ。ここ最近仕事ばかりで行っていないし、光輝に使ってもらった方がよっぽど有効だ」
才がモニターを開き屋敷の詳細を映し出した。見た目はやや豪華な洋館。家も立派なのだが、所有する土地の広さが半端なかった。
「ちょ!洋館だけじゃなくて辺りの土地も付いているのか?」
「まあ、開拓目的で買ったものだからな。ここも自由に使って構わない」
この広さだったら色んなことが出来そうだ。俺の所有物になれば簡単に畑や研究所とか作れそうだし。
「分かった、料金はいくらだ?」
「タダで構わない。今後の利益を考えたらこれでも安いほうだし」
まさかのプレゼント。しかし屋敷と土地を丸々くれるとか、才ってどんだけ金持ちなんだよ。
「ただ、条件がある」
「まあ、当然あるよな。何?」
「現在そこで住み込みで働いている使用人3名を雇って欲しい。一応仕事はこなせるように教育はしてあるし、お前達の秘密をバラすようなことはしない」
まあ、それくらいは問題ないかな
「分かった。一応会ってみたいから今度案内してくれ」
「了解した・・・なら今度はこっちがお前たちを歓迎する番だな」
才がニヤリと笑い、今後の計画を立てていく。
・・・・・・・・・・・・・・
交易の話も進み終わりに入った頃に才のモニターが突然出現し、そこには知識の神・シンの姿が映し出された。
『才、話は大体進みましたか?』
「分かっていて連絡を入れてきたんだろ?この覗き魔」
嫌々そうな顔をしながら見る才とエイミィ、そして目の前に二人目の神が出現したことで動揺を隠せないセレナとヒスイ、部下であるスイちゃんと知っているメリアスはお辞儀をする。一方、彼のことを知らないフロアボス達は『誰?』という風な顔でシンを見ていた。
『やれやれ、タイミングを見計らって連絡をしたのですが酷い言い方ですね』
「それで?連絡を入れたってことは以前は言っていた重要な話ってことか?」
どうやら邪神のことについては才は知らないみたいだ。おそらくシンがここに集まって改めて話すつもりだったのだろう。
『ええ、実は邪神の力の一部が発見されたのです』
なんというか、重要のことをサラッと言ったぞ。しかも物凄く不意打ちみたいに言ったせいでセレナたちなんかポカンとしている。
「え?邪神ってまさか、昔話とかに登場する世界を滅ぼす存在?」
「まさか、あれは御伽噺ではないのでござるか?」
この世界の住人であるセレナとヒスイは動揺しているが、全く知らない才は何のことなのか理解していない。
「邪神ってことはお前たちみたいな存在か?」
『まあ、その通りですね。しかし彼らは我々と対をなす存在。彼らの目的はアルヴラーヴァの壊滅。言うなればアルヴラーヴァに住む人類の敵みたいなものです』
シンは才たちに邪神についての説明をした。内容は俺が聞いたのと同じであったので割愛。と思ったのだが内容が以前聞いたのと少し多めの情報があった『彼ら』?
「彼らってことは邪神はザズムフだけなないのか?」
『ええ、災害の邪神『ザズムフ』、疫病の邪神『ゾフィ』、疑心の邪神『ジック』・・・僕達が三大神であるのなら彼らは三大邪神とでもいえるでしょう』
ってことはザズムフ以外にも後、二柱邪神が現れるってことか?なんというか凄く面倒だ。
「・・・なるほど、っでそのザズムフって奴は光輝たちが倒したのか?」
『正確には力の一部です。ですからいずれまた現れるかと思います』
「そんな、せっかく国が平和になってきたというのに、何でそんな恐ろしいことが・・・」
交易の話が纏まってきた明るい未来を描いていたセレナにとっては酷な真実だったのだろう。顔色が徐々に暗くなっていく。
「だが、一部ということは邪神は本来の力を持たないということだよな?」
『ええ、そこにいるエドワードさんは負傷者を一人も出さずに倒すことに成功しました』
「・・・なら少なくともフロアボス単体に近い戦力をぶつければ何とかなるということか。ヒュウや俺なら何とかなるか?」
「ちょ!サイ、まさかあなた邪神に挑むつもりですか?」
才が何かブツブツ呟いているとセレナが言葉を広い彼に叫んだ。
「当然だろ?仕事に支障が出る障害なら排除するまでだ」
なんというか、邪神を商売敵みたいに言っているが大丈夫なのか?
「あなたね!東の魔王討伐のときも似たようなことを言っていましたよね!?今回はそれとは違うのですよ!」
まさかの魔王討伐理由の事実!才そんな理由で魔王を倒したのかよ?
『・・・はぁ、相変わらず仕事熱心な人ですね。ですがくれぐれも自分達で何とかしようとか考えないでくださいよ』
「分かっている・・・そのためにわざわざ光輝たちがいるここで説明したのだろ?」
嫌々そうな顔をしてシンを見る才。ここに来て彼はダンジョンの規格外の強さを目にした。かつて回りが敵だらけだったテオとは違う。心強い助っ人がいるのだとシンは伝えたかったのだろう。
『話が早くて助かります、今後は定期連絡以外でも連絡を入れるかもしれませんからよろしくお願いします』
「了解した」
『では、僕はこれで失礼します。皆さんどうかアルヴラーヴァをお願いします』
そう言い残しシンが映っていたモニターは消える。今回は特に嫌味とか言われることがなかったためなのか、エイミィは少し安堵した様子だった・・・どんだけ苦手なんだよ。
その後、嵐が過ぎ去ったかのようにセレナたちも落ち着き邪神対策の会議が続き、予定していた時間よりも2時間オーバーとなった。




