73話 英雄が来たので合同会議をしました
「さて、才達が聞きたいのはダンジョンのことだよな?」
「ああ、まずダンジョンの急激な成長についての説明をしてもらいたい。それが今回俺がここへ来た目的でもあるからな」
フロアボスたちのプレッシャーをものとせず才は発言した。
「まあ、簡単に言うと俺が酔っ払って暴走してダンジョンモンスター達のレベルキャップを解除してしまった」
「・・・レベルキャップ?なんだそれは?というか、その説明では意味が分からん」
まあ、そういう反応だよね。というかレベルキャップを知らないのか?
「レベルキャップっていうのは、ゲームとかよくある上限のことさ。俺はこのレベルキャップのシステムでダンジョンモンスターの強さを一定に固定にさせていたのさ」
もしこの場にヒュウがいれば自信満々に説明してくれているのだが残念ながら彼は今頃フィロとデート中なのだろう・・・っく、リア充め!
「なるほど、それで光輝がそれを解除したことで今まで貯めていた経験値が爆発して魔物は進化したと?」
「まあ、そういうことだ。思ったよりも驚かないな」
「まあ、そこは予想してたからな」
予想できるものなのか?
「ということは、やはりダンジョンの魔物たちも冒険者たちと同じように復活していたということか?」
凄いなそんなところまで予想していたのか?
「ああ、その方が新しく魔物が誕生するよりも消費する魔力が少ないし、モンスターの命も犠牲にしなくて済むからな・・・あいつらも生きている」
俺がそう説明すると才は俺と最初に会ったことの話を思い出していたのだろう。
「そういうことか・・・しっかりやっているみたいだな。しかし、お前が酔っ払ってダンジョンを強くしたとか・・・ギルドにはどう説明するか」
「あ、でもそれはもう解決したぞ。ダンジョンモンスターたちにサブアカウントを持たせたから今は元通りのダンジョンモンスターの姿と強さになっている・・・シンから聞いていないのか?」
「いや、聞いてはいたがよく分からん単語が所々あって完全に理解は出来なかった」
ああ、そういえば才ってゲームとかそういう知識を持っていないんだよな。こいつ絶対学校とかで浮いた存在だっただろうな・
「まあ、簡単に言えばステータスをもう一つ作れるってわけ・・・ほらこんな風に」
俺が才たちに見えるように自分用に作っておいたサブアカウントを才たちに見せる。
カンザキ・エドワード・コウキ
レベル:35
種族:人間
出身:ノフソの森
とまあ、初期のステータスをそのままサブアカウントとして作ったものだ。外出する時にはこのアカウントにしておくと鑑定スキルでもばれないから実に便利なのだ。
そして、本来のアカウントにすると急に身体が軽くなり視界が鮮明になる。半神半人に変更されたことによって俺のステータスが急激に変わった証拠でもある。こっちの方が動きやすいのだが、慣れすぎると人間になったときのだるさが半端ないので普段も人間のサブアカウントにしている。
カンザキ・エドワード・コウキ
レベル:68
種族:半神半人
出身:ノフソの森
「半神半人ですって?それは伝説の存在じゃないですか!」
俺の種族を見たセレナたちは問い詰めるように迫った、まあ、見たらそういう反応するよな。そして予想外に才の驚いた様子で俺を見た。あれ?気付かなかったのか?
「才、【万能鑑定】で俺のステータス見ていなかったのか?てっきりもう覗かれているのかと思っていたが」
「あのな。勝手に除き魔みたいな言い方するなよ・・・ここに来てから【万能鑑定】は見学の時しか使っていない。もちろん魔物と畜産物にだけだ」
ああ、そういえばあの時才はけっこうマジマジ見ていたな。あれって【万能鑑定】を使っていたのか。全然気付かなかった。
「じゃあ、俺のステータスや住民たちのは・・・」
「もちろん見ていない。ったく、そんな風に見られていたのは正直ショックだぞ」
「んなこと言われても、お前初めて俺に会った時に勝手に俺のスキルとか見ていただろ」
「・・・それは、俺の能力をしっかりと知らせるためにだ。俺は知りたいと思ったものにしかこの能力は使わないことにしているんだ。少なくとも人にはあまり使わないようにしている」
才も少し悪いと思ったのか少しばつの悪そうな顔をしていた。
「それよりも、お前の種族について説明してもらおうか?」
「んー実物を見てもらったほうがいいかな?」
俺はモニターを操作して、『メリアス印のマナの実』を10個ほどストレージから出した。
「これは?」
「マナの実だ」
『ブフー!』
それを聞いたセレナとヒスイが噴出すようなリアクションを取った。
「な!マナの実ですって!それは伝説の果実ではありませんか!」
「・・・初めて見たでござる」
2人が恐る恐るマナの実を見ていると、才がそのまま手に取った
「っちょ!才何をしているの!伝説の果実ですよ!もっと丁重に!」
「・・・なるほどな。お前がそうなった理由はよく分かった」
才の目が一瞬、赤く輝いた。おそらく【万能鑑定】を使用したのだろう。鑑定し終えると才はそっと果実をテーブルの上において困ったように俺を見た。セレナも自信の【鑑定スキル】を使用して『マナの実』を見た瞬間、目を見開いて俺を見た。
「っちょ!なんなのですかこの魔力の数値は!異常です異常すぎます!」
騒ぎ出すセレナ。まあ伝説の果実とも言われたものだけでも驚き物なのに、そこに蓄えられている魔力は数倍もあるのだ。一体どうやって作ったのか俺も知りたいほどだ。
「光輝、これをどうやって手に入れた?」
「うーん、正確には手に入れたというより品種改良で作られたものなんだよね。ウチの最強フロアボスによって」
俺がそっとメリアスに目を向ける。神々しいオーラを放つ彼女を見て才はすぐに納得した様子だ。【万能鑑定】を使用せずとも彼女が異質なのはすぐに分かる。
「今更と思うが、お前のダンジョン異常だぞ」
本当今更だな、とツッコミ返しをしたいが才の気持ちはよく分かる。
「お前が半神半人になったのはこれのおかげということか」
俺はモニターを操作してマナの実を回収する。消えたマナの実を残念そうにセレナが見たが、正直これは人が持って良い物ではないと思う。
「そういうこと。普段は『サブアカウント』で人間になっているからトレスアールでもこれで通している」
「そのサブアカウントというのは、ダンジョンの魔物全てにつけているのか?」
「ああ、全員分用意しておいた。だから今はダンジョンモンスターたちは元通りになっているよ」
俺がそう説明すると才は少し安心したように椅子に寄りかかった。
「それなら、一時的なものと説明はできるな。上級魔物はヒュウ達があらかた倒したとでも報告すれば何とかなるし」
俺の存在は流石に公表できないから才たちが上手く誤魔化してくれそうだ。
「悪いな、お前たちに迷惑をかけて」
「いやこれくらいなら平気だ・・・だが、そのサブアカウントというものは魔物たちが勝手に戻すことはないのか?」
「一応、ロックをかけておいた。俺やエイミィ、あと担当フロアボスたちは解除させることが出来るようにしてある」
力の使い方とかを教えるためにフロアボスたちは担当フロアのダンジョンモンスターだけにサブアカウントの解除が出来るようにしてある。せっかく手に入れた力なんだし色々と知ってもらうことにした。
「そうか、それなら安心だな。ダンジョンに関してはこちらが聞きたいことは聞いた。後はこれからの関係についてだが・・・」
才がそういうとさっきまで固まっていたセレナがようやく我に返って発言をした。
「そうです!こことの交易を結ぶべきです!もちろん対等な関係として!」
セレナの力強い一言にヒスイやスイちゃんも頷いていた。一方フロアボス達は自分達の街が褒められていると知り少し嬉しそうな顔をしている。
正直ここで『YES』と答えたい気持ちではあるが今すぐに答えてはならない。俺はいくつか意地悪な質問をした。
「・・・なら、ここからは代表同士の話し合いでいいですね?」
いきなり他人行儀になったにも関わらずセレナはニコリと笑い冷静に話し合いを行った。
「はい、テオプア王国の代表として話をさせてください」
「分かりました。では自分もダンジョンの代表として話をします。こちらとしては他国との交易を持てることは願ったり叶ったりと思っています」
「では」
「ですが、まず何故我々と交易を結びたいと思ったのですか?」
「ここで生み出されているものは大国にも負けないほどの品質、そして技術力・・・いずれは大国に並ぶ存在になれると断言します」
なんか、エイミィが昨日言っていたような言葉が入っていたぞ。エイミィもそれを聞いて小さくガッツポーズを取っていた。フロアボス達も自分達の街がべた褒めされて照れ始めているし。
「そう言ってくれるとこちらとしてとても嬉しいです。しかし、信用できるのでしょうか?」
「・・・何が言いたいのです?」
少し言葉が悪いと思った。当然セレナもニッコリした顔であるが内心ではかなりカチンと来ているはずだ。
「自分が言いたいのは『神狩り』のことです」
俺がその言葉を口に出すと理解したかのようにセレナは一瞬エイミィのほうへ目を向けた。
「それは、こちらが信頼を置ける商人たちを送りますのでご安心ください」
「ですが自分達はこれまで多くの冒険者たちを見てきました。そして未だにエイミィを付け狙う冒険者たちは後を絶ちません。このダンジョンはそんな者達からエイミィを守る砦でもあるのです、見ず知らずの者を引き入れるのは流石にどうかと思いますが」
少し意地悪かと思うが、それでもエイミィの身の安全を考えたら当然の質問だ。
「・・・我々テオプアの国民はエイミィ様を手にかけるような愚かなことはさせません。もし我々の責任でエイミィ様に危害を加えた場合は交易を取り消すだけでなくどんな罰を受ける覚悟はあります」
かつて、人の強欲によって滅亡しかけたテオプア王国。人の欲深さを人一倍知っているセレナにとって必ず抑える自信は無かった。
「・・・姫もこういっている。光輝テオを信じてくれないか?」
才やスイちゃんまで頭を下げだし、流石にやりすぎたかと思った。才達が頭を下げるのを見たセレナは再び俺を見てお願いをしてきた。
「・・・姫様。始めに言いましたよね?『対等な関係』っと。なら頭を上げてください、これでは対等ではなくなります」
「・・・では?」
「こちらもよろしくお願いします。問題はいろいろとありますが、きっと良い突破口が見つかるはずです」
俺はそっとセレナの目の前に手を差し伸べると、彼女は嬉しそうに硬く握手をした。
ダンジョンとテオ王国の貿易協定が誕生した瞬間でもある。




