6話 ステータス見たら大魔王でした
会議が終わり、俺はひとまず玉座に戻っていくつかの部屋を作った。ダンジョンのスペースは有り余っているから、好きなだけ部屋を作れる。
「よし、ここなら集中して作業ができる」
俺たちは最初に作った部屋に入り、扉を閉めた。中は俺が地球で作業していた職場を再現してある。やはり慣れている場所の方が仕事ははかどるものだ。違いがあるとすれば部屋には防音効果を施されており、たとえ玉座で5万人のライブが行われていても一切の音が漏れない。さらに、俺の作業スペースは部屋すべてという贅沢(?)な使い方だ。
「とりあえず、まずはグラムの階層から始めるか」
俺がモニターを開くと、複数のモニターが周囲に出現した。
「すげー、マルチディスプレイも可能なのかよ。じゃあ、こっちの画面には出現モンスターのデータ・・・こっちはにはアイテムリストで・・・・」
俺はもう一度確認するつもりで、ダンジョンのデータを細目に見た。
「しかし、改めて見ると本当にすごい量のデータだな。没頭していた時はあまり気づかなかったがこれ、普通にゲームとして使っても大ヒット間違いないと思うぞ」
ダンジョンの構造、モンスターのデータ、事細かに記されたデータは言わば芸術と呼びたいほど綺麗に並んでいた。
「まあ、そのダンジョンは異世界にできて、俺たちは今その異世界でダンジョンの運営をしているんだが・・・」
俺はあくまでプログラミングを専門にしている。ゲーム運営とかそういう知識はそこまで持っていない。
「それで?グラムの階層はどうするの?」
「ああ、会議でも言ったがモンスターのレベルを下げて、ドロップアイテムの質を下げるつもりだ」
現在11階層のモンスターの平均レベルは50だ。これは人間の最高レベルに匹敵する数値で、普通の成人した人間の平均レベルは大体20あたりだそうだ。ならそのレベルの人でも攻略できるようにレベルを下げなくてはならない。
「そういえば、俺にもレベルがあるのかな?」
俺はモニターを開くと『ステータス』という欄を発見した
コウキ・エドワード・カンザキ
種族:人間
レベル:10
称号:大魔王
おい、ちょっとまて
なんだよ!大魔王って!レベル10とダンジョンマスターなのは分かるよ!ダンジョン完成させたのは俺だし、レベルも仕事はデスクワークだからそこまで鍛えていないし。だけど大魔王って・・・・あれか?魔王並の強さを持つフロアボスを従えているから大魔王なのか?まさか大魔王ネタ(※2話参照)の正体は俺だったとは・・・・
とりあえず、エイミィに相談だ
「なあ、エイミィ俺の称号が大魔王なんだが、これって・・・」
「どれどれ?・・・ップ!レベル10で大魔王ってwwww」
おい、草生やすな。
「うるせえ、そういうお前は同なんだよ」
俺はエイミィをよく見てレベルとかを確認した。
エイミィ
種族:神
レベル:5
称号:追われる神
「レベル・・・たったの5か・・・雑魚め」
「うがああああ、レディのステータスを見るとかデリカシーなさすぎ!ってか雑魚はないでしょ雑魚は!あんたはどこぞの戦闘民族か!」
まあ、このレベルだったらダンジョンを作らせる理由もわかる。暴れるエイミィは俺に噛み付く勢いで俺にとびかかった。ってか、この構図ものすごくデジャヴなんだが。俺は暴れるエイミィを抑えて、再び作業に戻る。
「さて、これでレベルとドロップアイテムの調整は終わったな・・・モンスターの確認をしたいが・・・俺のレベルじゃすぐに倒されるな」
第一階層のエネミーのレベルは45から25まで下げた。数人の冒険者がかかれば何とか攻略できるはずだ。部屋の構造も初めは壁を取り払った巨大な空間にサラマンダー10体だけだったが、今回はサラマンダーの代わりにホーンラビットや岩トカゲを配置してみた岩や木を配置して障害物を置いたりして、見栄えも最初より大分雰囲気は出ている。石畳だったフロアは砂漠で埋め尽くし、枯れた草木を設置して雰囲気を出しておく。クリア条件もサラマンダー10殲滅したら階段が出現する設定だったけど、それを撤廃して普通に階段をいくつか用意しておく。上がった階段から2階層が始まる。
「じゃあ、グラムに確認してもらったら?画面にある『連絡』からつなげることができるから」
エイミィに従って、俺はモニターを開くと確かに『連絡』という文字があり、タップすると各フロアボスたちの名前が記載されていた。俺は『GRAM』という文字をタップすると、モニターが俺から少し離れ、大きなスクリーンになった。
そして映し出されたのは、踊る筋肉。
「( ・ω・)……」
『2万32回!2万33回!2万34回!』
上半身裸、引き締まった肉体に煌めく汗。俺の画面に映っているのはボス部屋で一人スクワットしているグラムの姿だった。まるで、エキササイズビデオに登場するマッチョメンさんのようだった。
「おーい、グラム、ちょっといいか?」
俺に気付いたグラムは顔を真っ青にして直立した。いや、ヤーさん顔のグラムにそうされたら俺はどこの若様だよ。
「こ、これはコウキ様!御見苦しいところを見せてしまい申し訳ございません!」
グラムは慌てて、アロハシャツを着はじめた。汗かいた状態で着るのって気持ち悪いよな。そんなことを気にせず、グラムは俺の方を見ていた・・・・かなり緊張している様子だった。
「ああ、気にするな。お前の趣味が知れたのは面白かった。身体を鍛えているのか?」
「っは!コウキ様にいただいたこの身体。ですが、私の力はこのダンジョンの末席。日々の鍛錬で肉体を鍛え、コウキ様を支えられるようになりたいと考えています」
いや、あんたも十分強いから!魔王といい勝負できるレベルだから!せっかくダンジョンのモンスターのレベルを下げたのに、あんたが強くなってどうするんだよ!出来ればレベル30くらいの加減で相手してほしいんだが。会議の内容ちゃんと聞いてた?!
「そ、そうか。だが、鍛えすぎて挑戦者を泣かすなよ」
「御意!それで、コウキ様、儂に何かご用件があったのではないのでしょうか?」
ワシ?・・・グラムの一人称って儂なのか。
「ああ、今お前の担当する10階層までのモンスターのレベルを下げたんだが確認して来てもらえないか?」
「お任せください!この肉体にかかれば10階層の確認など半日で出来ます!ついでにモンスターの実力も確認してきます」
「お、おぅ・・その前に水浴びでもしておきな。確か10階層に水浴びできる池スポットがあるから」
爽やかな顔で答えるグラムに俺は顔を引きつった。
「お心遣い感謝します。では、行ってまいります」
そう言い残して、画面が真っ暗になった。通信が切れたのだろう。
「なんか、グラムの意外な一面が見れた気がする。後で、あいつのフロアに筋トレルームでも作っておくか。・・・あと、消臭剤も」
フロアボスの部屋が汗臭かったらさすがにマズイし。
それから、俺はプログラムの整理や今後のことについてエイミィを打ち合わせに入った。
「それじゃあ、私の居場所を教会に知られるのを逆に利用してダンジョンの宣伝をするってことでいいのよね?」
「ああ、エイミィは人々に恩恵を与えることが出来るのを利用してダンジョンの情報を流してもらう、出来るか?」
「可能よ。私の『信託』を使えば居場所は明確に知られるけど、確かにその宣伝効果は大きいわね。恩恵を与えるのではなく、試練を乗り越えた者には特別な力を授けるとか言えば、きっと食らいつくよ」
始めは欲の猛者たちが集まってくるだろうが、いずれは冒険者という職業で出稼ぎに来る者も出てくるだろう。標的をエイミィからダンジョンに移せればエイミィを狙う輩も減っていくはずだ。
「あ、ついでに私を狙うやつには本気のフロアボスがまとめてお相手しますって言っておくね」
あいつらをまとめて挑むくらいなら、東西南北にいる魔王を相手にしたほうがマシな気がする。
「よし、これでダンジョンの宣伝はなんとかなるだろう。だが細かい宣伝もやらないとな。」
俺はモニターを操作すると目の前には虹色に輝く魚が数匹出現した。水も無いのにまるで部屋そのものが巨大な水槽のように空中を泳いでいた。
「光輝、これは?」
「『幸運魚』このダンジョンの激レアモンスターだ。このモンスターは特殊で倒すんじゃなくて触れるだけでいいんだ、こいつに触れるだけで大量の経験地とレアなアイテムをドロップする。このダンジョンにはランダムで数匹だけ泳がせている」
俺がそう言いながら、一匹の幸運魚をタッチした。すると幸運魚の輝きが増して光の粒子となって消えた。
「え?もう倒したの?」
「いや、さっきも言ったろ?幸運魚は触れるだけで効果が出るんだ。ほら俺のステータス見てみな」
俺はモニターを開いてエイミィに見せた。
コウキ・エドワード・カンザキ
レベル:25
「っちょ!さっき10だったじゃない!」
「だから言ったろ?経験地がウマウマだって。あ、でも今のは特別で取得経験地を5倍に上げたやつだ」
「そんなのを好きなだけ出せるなんて、ズルイよ。レベル上げ放題じゃない」
「別に、レベルを好きなだけ上げて、俺TSUEEEEなんて目指さないよ。ただ、今の状態じゃあちょっと弱すぎるからな」
「そんなこと出来るなら、わざわざグラムに調べさせなくても良かったんじゃない?」
「あ・・・・」
一方、その頃グラムは・・・・
「ハハハハハ!軟弱だ!軟弱すぎるぞ!」
1階層を目指し、現在6階を制覇中。
彼が通った道には大量のドロップアイテムが落とされていた。