72話 ダンジョンの宿泊施設はコテージ
才達の歓迎の宴はゾアたちの技術開発部門による花火によって幕を閉じた。宴が終わった次は才達が寝泊りする宿泊施設へ案内する。
宿泊施設は商店街エリアを少し抜けた草原には二階建てのコテージがいくつも建てられており、ちょっとしたキャンプ場みたいになっている。最初は旅館を作ろうとしたが、才に先を越されたのと、技術不足なところがあったので没となった。まあ、その代わり俺とエイミィの要望を詰め込んで魔改造されたものなので、多分他の国と比べても十分上位の方にあると思う。
フィロがセレナたちと一緒に泊まると言い出したので、男性陣に二軒、女性陣に一軒という形で使ってもらうことにした。
コテージの中には魔法具の冷蔵庫やシャワー、ドライヤーにウォシュレットなどを設置してある。それを見たケイトは興奮した様子だったが、セレナたちに落ち着かされる。
「それじゃあ、後は大丈夫かな?」
「ああ、正直ここまで設備が整っているとは思わなかったさ。色々とありがとうな」
「なに、才たちは大切な客人だからな。明日は予定通りこっちの要人たちと一緒に会議でいいんだよな?」
「ああ、内容は以前の通り、ダンジョンについてだ・・・まあ、多分セレナが交易について話を持ちかけてくるかと思うからその辺も考えてくれるとありがたい」
才も今回の見学でいくつもの発見をしたことで、もっと強い繋がりを持ちたいと思ったのだろう。こちらとしては願ったり叶ったりだがそれはつまりダンジョンの街の存在を大々的に知らせることになる。
「わかった、一応エイミィたちと話しはしておくけどまだ確認しないといけないことがあるから明日話そう」
「そうか・・・じゃあ明日」
そう言って、俺はコテージを後にして作業部屋へ向かう。途中ケイトの嬉しい叫び声が聞こえた気がするが気のせいにしておこう。
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作業部屋
「よ、エイミィ。才たちはかなり喜んでいたぞ」
「そうなの?それは良かったわ」
「ああ、それで予定通り明日は才たちと会議を行うんだけど、お前はどうする?」
「もちろん私も参加するわ、才たちに邪神のことについても話しておかないといけないし」
「あ、やっぱり話すんだ」
「当然よ・・・これはダンジョンだけで何とかできる話じゃないし」
「そうだよな・・せっかく楽しんでもらっているから少し話しづらいのはあるけど」
「光輝駄目だよ、自分達で何とかしようと思っちゃ」
「・・・分かっている」
自分で何とかしないといけない・・・確かにエイミィの言うとおり自分達なら何とか出来るのではないかと思ったりしていた。グラムたちに『神格化』があるから浮かれるなと言ったが俺もどこか浮かれていた所があったのかもしれない。
「それで?明日話す内容はダンジョンと邪神についてだけ?」
「いや、あちら側から正式に交易を持とうって話が来るかもしれないって才が言っていた。そうとう気に入ったみたいだねここが」
「ふふふ、当然よ。私たちが作った街なんだから・・・いずれ、大国に並ぶくらい凄いところにしてみせるわ!」
なにやら変な野望を持った神様がいるのだが・・・まあ、確かに大国に並ぶくらいの凄い場所にしたい気持ちはあるな。
「そうなると住民とかもっと増やさないと」
「それって今いるダンジョンモンスターたちを人型にするってこと?」
「いや、彼らはこれまで通りダンジョンで戦いをしてもらう予定だ。希望があればこちらに住むのは構わない。俺が考えていたのは交換留学みたいに・・・いや、やめておこう」
「えぇ?何よ、最後まで言いなさいよ」
「・・・交換留学みたいにこちらの住民とあちらの住民を交換して交流を深めようかと思ったんだけど」
「いいじゃない、トレスアールで学べる人も限られているしそういうのはやったほうがいいじゃない!」
「・・・だけどお前を狙う奴も出るかもしれないじゃないか」
「あ・・・」
それを言った瞬間エイミィが一瞬固まった。今回才たちをここへ招待したのはあくまで才達がエイミィを狙わないと分かっているからに過ぎない、またフィロも才たちから信頼されているみたいだし、グラムの責任ということで許可を出している。
本来、ダンジョンはエイミィを守る砦でもあるのだ・・・そんな砦に見ず知らずの人を受け入れるのはどうかと思う。
「・・・大丈夫よ」
「だけど、お前が不自由だろ?これまでみたいにちょくちょく街へ行ったりすることが出来ないんだぞ?街にお前を狙う奴が現れるかもしれないし」
「私が少し控えればいいだけよ。むしろ今までが行き過ぎたようなものだし。それに何かしでかすような人が現れても住民が守ってくれるよ」
「はぁ・・・」
笑顔で笑う彼女を見て俺の方が折れてしまった。
「分かった・・・だけど、その時は街に出るときは護衛をつけてくれ。お前に何かあうのだけは避けたい」
「もう、心配性なんだから・・・ありがとうね。」
エイミィが軽く微笑む。
ちなみに彼女の心の声はというと
(っちょっと!私に何かあうのだけ避けたいって・・・なにそのセリフ!ちょっとカッコいいんですけど!ヤバイ、【精神安定化ポーション】を大量に飲んでいなかったら絶対に顔に出ているところだった!キャー)
かなり乙女モードになっているエイミィであった。
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翌日
才達を迎えに行くため少し早いがコテージへ向かうと、外のベンチで優雅にコーヒーを飲んでいる才達の姿があった。なんというかこう美男美女たちがそろうと物凄く絵になるよな・・・っち、イケメン共が。
「お、光輝。おはよう」
「おはよう・・・皆揃っているみたいだな・・・って、ケイトたちはすごく眠そうだけどもしかして寝具が合わなかったか?」
ケイトやヒュウたちの顔を見るとクマがくっきりと出ていた。
「いや、昨日セレナにつきっきりでポーカーをさせられていたんだ。そのせいで寝不足で・・・」
才は平然な顔をしているが他のメンバーたちはどこか眠そうな様子・・・会議大丈夫か?
「今度こそあの狐女を・・・」
セレナは何かぶつぶつ呟いているが・・・・そういえば、昨日タマモがポーカーをやって圧勝したとか自慢していたな。セレナは相当悔しくて才たちに八つ当たりしていたのだろう。
「アハハ、なんかスマン・・それで、フィロたちはどうする?観光するなら、案内人つけるけど」
「そうね、お願いできるかしら?セレナたちから商店街エリアが凄いって聞いて是非見てみたいわ」
「分かった、手配しておくよ。それで会議に出るのは才たち全員?」
「いや、流石に人数が多すぎるから、俺、セレナ、スイとヒスイが参加する・・・ケイトとマヤは街をもっと観光したいそうで、ヒュウは昨日の疲れがまだ残っているから休んでもらう」
才がそう説明するとフィロは凄く嬉しそうな顔をして、ヒュウは嫌そうな顔でフィロを見た。あ、これはきっと買い物に付き合わされるパターンだな。
「・・・分かった。それじゃあ転送陣を用意するから入ってきて」
俺がモニターを操作して足元に半径10メートルクリアの転送陣を用意した。流石に昨日で驚きなれたのか今回はそこまで反応は見せなかった。
「な!転送陣が一瞬で!」
まあ、もちろん知らないフィロたちはお決まりの驚き方をしてくれた。
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会議室
会議室にはエイミィを含めグラム以外のフロアボス達が集結していた。普段だったら表裏のフロアボス達が向き合う形になっているのだが今回は才たちが参加するので、全員が向かい側に座っている。
そして、奥には相変わらずホワイトボードが設置されており『第一回、ダンジョン&テオプア王国合同会議』と殴り書きされている。
何この圧迫面接?
「・・・まさに会社の会議室って感じだな。なんか落ち着くこういうの」
才は落ち着いた様子で椅子に座り天井を見ながら呟いている。セレナたちも興味深そうに天井にあるLEDライトを見ている・・・まあこの世界には無いものだからね。
「よし、皆揃ったみたいだね・・・それじゃあこれより、第一回ダンジョン&テオプア王国の合同会議を行う」




