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ダンジョン作ったら無理ゲーになりました(旧)  作者: 緑葉
第六章 ダンジョン観光編
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69話 vs. 大地の巨人・グラム 再び

フィロが天井を見上げるとヒュウが急降下でグラムに接近しているのが見えた。


「ヒュウ!」


彼女はうれしそうに彼を見るとさっきまで絶望だった気持ちが一瞬にして消えた。彼がこの場に来てくれただけで彼女にとって希望だった。


「前回よりも本気でやらせてもらうぞオッサン!『アイス・エイジ』」


落下の勢いを利用してヒュウは全力で魔力を溜め込み、腕の武器に氷を纏わせた。まるで氷塊の隕石のように降り注ぐヒュウをグラムはフィロたちの鎖を解き、自分の腕に巻きつけた。


「うぉおおらあああ!」


グラムの気合の入った一撃によって氷塊は一瞬にして粉々になってフィールドに広まる。だが次の瞬間、この技がグラムを倒すための攻撃ではないとすぐに気付いた。ヒュウが作った氷塊にしてはあまりにももろ過ぎると感じた。


「・・・最初からそっちが目的か」


グラムがヒュウのいる場所を見ると身動きの取れないフィロたちに回復薬を飲ませていた。


「おい、お前ら立てるな」

「・・・はい、ヒュウ殿ありがとうございます」


回復薬を飲み傷が癒えた魔人たちは体力や消費した魔力が全快していた。


「・・・ヒュウ、何でここに?」

「その話は後だ。今はコイツを何とかするぞ・・・まだ戦えるな?」


魔人たちが頷き武器を構える。


「フィロとアッシュと俺が前衛で戦うから、残りの四人は後ろから援護を頼む・・・大まかな作戦は・・・・」

『了解』


軽く話しをしてヒュウ達はさっそく行動に移す。


「さあ、どう楽しませてくれるか楽しみだ!」


グラムは分散したヒュウ達を目で追いながら様子見をした。まずはどのような技を仕掛けてくるかが楽しみで仕方ないのだ。


「おりゃあ!『アイスキャノン』!」

「フンこんなもの!」


まずはヒュウが周りから氷の塊を作り出しグラムに目掛けて打ち出す。ヒュウの後ろには水晶を持った魔人たちが照らしグラムの視界を狭める、だが跳んでくる場所はすでに分かっているグラムはタイミングを合わせて氷塊に殴りつける。


そしてグラムが氷塊を殴った瞬間、氷は粉雪へと変化した。


魔王ニューア鉄拳ヴィリップ


赤い粉雪はグラムの視界を奪い、その隙に真上から飛んできたフィロが急降下して最大魔力の一撃をグラムに叩き込んだ。


「見事です、フィロ様!」

「ナイスだ!」


・・・・・・・・・・・・・・

地下45階層


「うぉおおお!スゲーぜあの嬢ちゃん!」

「いいぞ!かっこいいぞ!」


ヒュウが参戦しさらにヒートアップした広場ではすでにヒュウやフィロたちを応援する者が出始めた。


「おいおい、いいのか?一応あのグラムはこのダンジョンの守護者だろ?応援しなくて良いのか?」


才が尤もな疑問を呟いたが、ここの住民にとって純粋に頑張っている人は応援したくなる性格なのだ。まあもっとも、その相手がエイミィを狙うような敵じゃないと知った場合に限るが。


「まあ、才たちの知り合いなんだし。ゼノはエイミィを狙う奴らじゃないのは知っているからいいんじゃない?」


それがここの住民の良い所なんだし、俺は嫌いじゃない。


まあ、もしグラムが負けたらなんかその後が怖いが。主に他のフロアボスたちの反応が・・・


ここにはまだフロアボス達は来ていないがおそらく自分達の持ち場で観戦しているだろう。


・・・・・・・・・・・・・

11階層


「ふはは!楽しいな!・・・まだまだやれるぞ!」


グラムが笑いながら立ち上がる。正直あの攻撃をくらってまだあんな顔をするあたり本当にバケモノだとその場にいた三人は感じた。フィロの腕を見ると少し腫れており、もう一度あの攻撃を放つのは厳しいと判断した。


「っち、やっぱあのオッサンバケモノだぜ・・・アッシュ!次の作戦だ・・・いけるか?」

「了解です」

「あ、あたしもまだ戦えるよ!」


怪我をしたフィロを見てヒュウは優しく彼女を撫でた。


「よくやった、フィロ。少し休んでいろ」


そう言って、ヒュウはグラムの周りを走り出し彼に目掛けて大量の氷の塊を撃ち出す。


「ふん、今度はそうはいかんぞ!」


グラムはヒュウの氷を全て避けると、氷塊は砕けずそのまま地面に突き刺さる。


「む?目くらましではない?『今だ!』」


ヒュウが叫ぶと隠れていた護衛たちが一斉に氷に向けて光を照らす。すると氷に当てられた光は反射し、分散していく。


「そういうことか!」


氷に隠れていたアッシュが走り出し次々とグラムの影に攻撃を仕掛ける。光の反射によって分散した影を貫くように走り出し、グラムに次々とダメージを与えていく。


「だがこれしき!」


痛みに耐えながらグラムが大地を踏みつけると地面から鎖が出現する。だがその数は一本二本というレベルではない・・・千本以上もの鎖が地面から出現しグラムの周りを囲み光を遮断していく。


「「な、ふざけすぎだろ!」」


圧倒的な数の前にヒュウ達は唖然とした。一本だけでも脅威なのに、何千もの鎖はそれぞれが意思を持っているかのようにヒュウ達に襲いかかる。


「うぁあああ!」

「ちくしょう!」


次々と鎖に捕まった魔人たちはグラムに目掛けて投げ飛ばされ、飛んでくる魔人たちをグラムが殴り飛ばす。魔人たちは悔しそうに叫びながら光の粒子となって脱落していく。


ヒュウ達も動く鎖を避けながらグラムに近づこうとするが、鎖の数が圧倒的に多すぎる。軽く数千本もの鎖が生きているようにヒュウたちを襲う。


「接近は肉弾戦、中距離は鎖・・・まともに近づけないぞこれでは。どうします、ヒュウ殿」

「・・・・・・・」


ヒュウは必死に頭を働かせ次の作戦を練っていた。元々強制的に参加させられるような形であったため、ヒュウ自身はあまり作戦を立てていなかった。最初の二つは観戦したときに即座に思いついたもので、これらが防がれた今、ヒュウの手はすでに使い切ってしまったのだ。


「・・・アッシュ、フィロ最後の作戦だ。これが駄目だったらもう諦めてくれ」


ヒュウが真剣に2人に作戦を伝える。正直それは作戦といえる代物かどうかは分からない。だが今彼らができることはそれしかないため、ヒュウの指示通りに二人は頷く。


二人はヒュウの肩に触れて魔力を流し込む。するとヒュウの背中から真っ黒な翼が出現し紅い冷気を出し始めた。


「オッサン・・・最後の最後に俺の奥の手を見せてやるよ・・・『天使の力』ってやつをよ!」


・・・・・・・・・・・・

管理室


管理室で監視をしているメンバー達は全員ヒュウが出現させた漆黒の翼に釘付けだった。かつて白銀に輝くその翼は地球での怠惰な生活によって醜く真っ黒に染まってしまった。だが、今誰もがその翼を見てそれが醜いとは思わないだろう。漆黒の翼に紅色の冷気を纏った翼はルビーのように美しく輝いていた。


「あれが天使・・・ダンジョンにいるのとは全然違います」


ダンジョンの地下10階層のフロアフィールドにはダンジョンモンスターとして天使たちが待ち構えている設定になっている。そのため、管理チームやそこ出身の住民達は天使とはどういうものなのかをよく知っているつもりだった。だが、今彼らが見ているのは紛れもなく、天使の姿だった。


あれこそ、三大神に使える天使の姿・・・力量の差がありすぎると誰もが思った。


「・・・やはり使うのねあの力を」


そして、管理室にいたエイミィは真剣な様子でヒュウを見ていた。


前回、ヒュウはグラムとの戦闘では天使の力を使わなかった。別に使ってはいけないというルールは無い。ただヒュウは天使としてではなくテオの『人間』としてダンジョンに挑んでいた。それは彼の意地というもので最後まで天使の力を使おうとしなかった。だが今、彼はその力を使おうとしている。つまりテオの人間としてではなく、天使ヒュウとしてグラムに挑むということ。


・・・・・・・・・・・・・


「うぉおおおお!!」


溢れ出る魔力は氷となってヒュウの翼を覆う。


天使ヴィプト吹雪ガカロ


ヒュウの翼が羽ばたいた瞬間、絶対零度の冷気がグラムを襲う。グラムのボス部屋、『巨神殿』は一瞬にして氷の宮殿へと変貌。グラムがいた場所には見事な氷山が出来あがり、目の前のグラムも分厚い氷に閉じ込められ一歩も動かない状態。


「はぁはぁ・・・やっぱ、この技はキツイ。魔力もスッカラカンだ」


膨大な魔力を一瞬にして放出する天使の奥義の一つを使ったことでヒュウの魔力と体力はすでに限界を越えて仰向けになって倒れこむ。


「ヒュウ!」

「ヒュウ殿!」


駆けつけたフィロは凍りついた地面にも関わらずヒュウの前に座り膝枕をさせる。


「凍傷になるぞ・・・やめておけ」

「これくらい平気・・・それにご褒美はあげないとね」


顔を真っ赤にさせながら笑顔を見せるフィロを見たヒュウもまんざらではない感じで目を閉じてつぶやいた。


「これで満足かオッサン」

「ああ、見事な一撃だったぞ」

「「「ぶふ!」」」


かっこ良く決めて、倒した男へ一言送ったつもりだったヒュウのつぶやきに目の前にいる氷漬けのグラムが返事をした。そして、氷山は「ピシピシ」と音を立てながら亀裂が入る。


「儂復活!」


凍傷など身体がボロボロになりながらもグラムは氷山から自力で出てきた。それがいかに馬鹿げていることなのかはグラムやダンジョンの住民たちは分からないだろう。


「・・・さて、もう一勝負と言いたいがその身体ではもう無理だろう。今回も儂の勝ちということでいいな?」

「・・・ああ、もう降参だ。あんたには勝てねえよ・・・強すぎ」


スッキリしたようにヒュウがそう宣言するとグラムは笑いながらモニターを開き光輝に連絡を入れた。


「コウキ様、見ていただけたでしょうか?」

『・・・ああ見ていたぞ。それで俺に連絡を入れたってことは、フィロたちのことか?』

「話が早くて助かります。ぜひ彼女たちにも街へご招待したいと思います」

『まあ、才たちの知り合いだし。エイミィを狙うような奴らじゃないみたいだからな。だが、責任はお前が持てよ』

「御意」


光輝との連絡が終わると、グラムの後ろから門が突然現れた。フィロとアッシュは何が何なのか分からずキョトンとした顔で見ていた。


「さて、フィロメール・ヴォルフとアッシュ・レヒよ。ぜひ我々の街へご招待したい」


こうして巨人対悪魔&堕天使の戦いは巨人の勝利で終わった。


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