68話 妹を救おうとしたら姫でした
5年前
かつて才たちがまだ英雄と呼ばれていなかった頃、丁度東の魔王の封印が弱まったなんともゲームではありふれた時の事。
「ここが魔人の王・・・魔王が治める国、魔国ゼノの領土か」
才は東の魔王の封印のために同じ魔王と呼ばれている北の魔王に会うためにスイ、ヒュウ、ケイトを一緒にゼノへ旅立っていた。
「・・・凄くのどかな場所ですね」
「はい、魔王の領土というとてっきり毒沼や荒れた大地、厚い雲に覆われた薄暗い場所というイメージがありましたが」
才達の目の前に広がるのは500年にも渡る長い歴史の中で争いも無く平和を維持していたという証拠を見せつけるかのような広大な大地。所々に小さな小屋が建てられ、魔人たちが畑を耕している姿が見える。
「噂通り、北の魔王は温厚で政治などに力を入れているみたいですね」
「魔王が政治とか・・・凄くイメージしづらいぞ」
「ヒュウ、そんなことこの国では言うんじゃないのよ。侮辱罪で処刑って可能性もあるんだから」
これから国王に会うというのに緊張感の無い奴らだなと呆れる才だが、逆にリラックスできてホッとしている。
「お前ら気を抜くな。王は温厚でも国民が全員そうとは限らない。最近ではこの辺りにも盗賊が現れたって話だぞ」
「さすが才様、情報が早いですね」
ニコリと笑い才を賞賛しているスイ。それを見たヒスイは面白く無さそうに不機嫌になる。
「ったく、スイは残っていてもいいんだぞ。才の護衛は俺とケイトで十分だし」
「それには同意だが、スイがいない場合我々ではサイの補佐は務まらんぞ。ヒュウ、お前予定などしっかり把握できるか?」
「ぐ・・・クソ。優秀な妹を持つと辛いぜ」
そんな愚痴をこぼしながら4人が歩いていると、空から人らしき影が飛んでくるのが見えた。
「ん?親方、空から人が降ってきたぞ」
「誰が親方だ・・・あれは『鳥人族』か?」
才は【ゴッドスキル:万能鑑定】で落ちてくる人を判別する。このスキルを発動しているときは相手の情報に加えどんな人物なのか拡大して見ることができる。
「ハーピーだと!ってことは妖美な女性か?」
「いや、トサカモヒカンにマスクをした厳つい男だ」
才の冷静な分析にヒュウは一瞬にして固まる。
「ヒャッハー!人間!痛い目に会いたくなければ荷物を置いてとっとと立ち去れ!」
ヒュウたちも肉眼で確認できる距離まで降りてまるで三下の盗賊のようなセリフを吐くトサカハーピー。
「さすが、魔国だな・・・人外の姿を持つ奴にさっそく遭遇出来たな」
「才様、冷静に言っている場合じゃありません!相手は盗賊ですよ!」
才のボケにスイがツッコミを入れると、トサカハーピーはスイにロックオンした。
「おお、カワイ子ちゃん見っけ!」
「え?きゃあああ!」
目がハートになったトサカハーピーはダイブするようにスイに襲いかかり鳥の脚で彼女を持ち上げて飛び去ってしまった。
「「な!スイ」」
「荷物の代わりにこの子をもらっていくぜ!」
「待ちやがれ、ニワトリ野郎!」
ヒュウは背中から真っ黒な翼を出現させるとすぐさま追いかけに行った。
「サイ、私達も追いかけるわよ」
「ああ」
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数十分後
「クソ!アイツどこに行きやがった」
山の奥まで追いかけに行ったヒュウは濃い霧に遮られスイを見失ってしまった。
「畜生!スイ!どこだ!」
ヒュウは辺りを必死に探すると、山の麓に怪しげなトンネルを発見した。
「・・・あやしすぎる」
堕天使としての直感なのか、洞窟から禍々しいオーラを感じていた。
「待ってろスイ!今兄ちゃんが助けに行くぞ!」
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洞窟の中
洞窟に入ろうとすると急に才から連絡が入った
『ヒュウ、お前どこにいるんだ!』
「才か・・・悪いが後にしてくれ!俺は今からスイを助ける!」
『ちょっと、待てスイは!』
才の話を最後まで聴かずモニターを消して洞窟の奥へ進む。
すると中から数人の魔人の姿が見えた。牛人種やオーガのような巨体を持つ者もいる。見るからに盗賊団というメンツばかりだった。
「おい、さっき捕まえてきた女はどうした?」
「ああ、あの褐色の少女ですか?今は薬でおとなしく眠っているそうです。運ぶ途中でかなり暴れたらしく」
「そうか・・・粋のいい女はいい。その分楽しめそうだからな」
「後で俺にも楽しませてくださいよ」
下品な会話を聞いた瞬間、ヒュウの怒りが爆発する。
「おい、テメーらさっき連れてきた女をどうするだって?」
「あん?誰だテメェ・・・っひ!」
大男の魔人がガンを飛ばすように睨みつけた瞬間、二人の胴体は紅色の氷によって氷漬けにされていた。
「もう一度聞く、捕らえた少女はどこだ」
「ち、地下牢だ!この先に進んだ所に階段がある!」
魔人が白状して、ヒュウは急いで階段を駆け下りる。途中で何人か盗賊と遭遇するが、あっという間に氷漬けにしたり殴り飛ばしたりして突き進む。
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牢獄へたどり着くとそこにはオークかと言いたくなるくらい肥満体型の巨体を持つ魔人がいた。そして後ろには複数の女性たちが毛布に包まって怯えていた。スイもこうなるところだったのかと思うとヒュウの怒りの炎がマイナスへと変化されていく。
「あんたがここのボスか?」
「そうだ!俺こそこの辺りを縄張りにしている盗賊団の頭!『暴食のギザム』とは俺のこ『うるせえ!』・・・ぶべら!」
最大級の氷をぶつけ、最後まで名乗れなかった哀れなギザムという魔人は完全に凍りついた。
「よし、いっちょ上がり。お前らついでだから助けてやる、からどいていろ」
そう言って、檻から女性たちを救い出し、未だ毛布に包まっている少女を発見するとヒュウは優しく抱き上げた。
「もう大丈夫だ、少し寒いからそのままでいろ」
毛布に包まった少女はゆっくり頷きヒュウにお姫様抱っこされる形で外へ運ばれる。他の捕らわれた女性達も無事に解放でき、これからどうしようかと考えていると遠くから才、ケイト、そしてスイが何やら偉そうな魔人の兵士の大群と一緒にやってきくるのが見えた。
・・・あれ?
「っちょ!何でスイがそこにいるんだ?え?・・・」
「スイならサイがモニターで追跡してすぐに救ったのだぞ・・・お前だってできただろ、アホ」
「ああああ!!!」
兄であるヒュウならモニターを使えばスイの居場所などすぐに分かったはず。必死に追いかけていたせいでそんなこと頭に入ってこなかった。
「ちなみに誘拐したトサカ野郎はもう兵士に引き渡している。っで、俺がその連絡を入れたらお前が勝手に切るから今度はお前を追ってきたわけ」
「なるほど・・・じゃあ後ろの兵士たちは?」
「ああ、この辺りを縄張りにしている盗賊団がとある人物の娘をさらったそうでな、その捜索部隊と討伐部隊だ」
なるほどと言うと、では自分が抱えている少女は?っと恐る恐る毛布を解くと顔を真っ赤にした魔人の少女がヒュウを見ていた。
「た、助けてくれてありがとう・・・あんたがあたしを助けてくれたんだよね?」
少女が恥ずかしそうにお礼をいうと兵士たちが一斉に片膝をついた。
『フィロメール様!ご無事でなによりです!そしてヒュウ殿、姫を救っていただき誠にありがとうございます!』
「・・・・え?姫様?」
これはまだ、英雄の仲間と呼ばれる前のヒュウとゼノの『戦闘狂姫』と呼ばれる前のフィロの出会いだった。
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ダンジョン 11階層
「うう・・・あたしは?」
フィロが目を覚ますと隣にはアッシュや護衛たちが気を失ったまま鎖に縛られており状態になっていた。
「目が覚めたか・・・といっても、気を失ってからまだ銃数秒しか経っていないが」
フィロの目の前にはサングラスに角刈りの巨漢が見下ろすように立っていた。
「あんた、何のつもり!あたし達をどうするつもりよ」
「・・・いや、済まない。儂もできればしたくないのだがのだが、こうでもしないと動かない奴がいてな。再び戦いたい人物が来るんだ」
「再び・・・ってまさか」
フィロが気づくとグラムは真上を見上げ、笑い出す。
「久しぶりだな!ボウズ!いや、ヒュウ・ガカロよ!」
フィロも天井を見上げると、真っ黒な翼を生やした青年が飛んでくるのが見えた。
「・・・ヒュウ」
フィロは嬉しそうに落下してくるヒュウを見た。
「オッサン!覚悟はできているな!」
ヒュウはそう叫びながら武器を構える。
「来い!」
ヒュウのリターンマッチ、そしてグラムの第二ラウンドが今始まった。
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地下45階層
・・・これグラム完全に悪役だよな?
光輝を含むその場にいた全員が同じ考えだった。




