67話 大地之鎖(フェオドゥジョ・プ・ラテソ)
11階層
「中々面白い技を使うな」
以前戦ったヒュウとは真正面からぶつかり合う、いうなればボクシングみたいな戦いだった。だが今度は違う、謎の攻撃によって確実にグラムへ攻撃を与えている。
どんな攻撃なのか、どう対策するか・・・それを考えただけでグラムのアドレナリンが高まりだす。
汗を拭うフリをして劣勢の状態を装い相手の出方を見ていると、さっきまで逃げ回っていた冒険者たちが勝機が見えたと判断しグラムへ接近してきた。
「よくやった、魔人共!後は俺達が!」
そう言って、毒を塗った武器を構えグラムに接近した。
「馬鹿!うかつに近づくな!」
アッシュたちが止めようとするもの、聞く耳持たずにグラムへ接近する。さっきの騎士団のことをもう忘れてしまったのか、冒険者4人が一斉に圧し掛かりグラムに斬りつける。
「よし!入っ『効かんな』・・・え?」
毒は確かにグラムの傷口から侵食したが、【状態異常耐性:レベル7】のグラムにとって冒険者が塗った毒など真水に等しい。
「毒で儂を制するならヒュドラ以上の毒を用意しておくんだな!」
そう叫びグラム冒険者たちが薙ぎ払われる、一人は魔法で何とか致命傷を避けるが、残りの三人は地面に叩きつけるわ、壁に直撃するわで脱落する。
「くそ!馬鹿が・・・戦えるのは俺達だけか?」
現在11階層にいる冒険者は7名、つまりさっき生き残った冒険者とここから離れているフィロ、そしてアッシュ達5人のみ・・・
「・・・ヒュウ殿が負けた理由が今なら理解できる・・・これをたった数人で相手にするなど馬鹿げている」
アッシュがそう呟き、再び仲間に指示を出して攻撃を仕掛ける。彼らの目的は2つ。フィロが無事にボス部屋から出て行く事、そして次に活かすためにできるだけ攻略手段を探すこと。
「やるぞ、お前ら!」
『応!』
アッシュの気合の一言で仲間たちに勢いを付け再び攻撃を仕掛ける。まずは確実にダメージを与えて動きを鈍くさせる。
「・・・その攻撃はもう見飽きた」
グラムがそう言い放ち、後ろを振り向き巨人の姿から元の姿へ戻る。
「しまっ!」
「ぎゃあああああ!」
何もないところにアッシュの剣が突き刺すと、さっき倒れた冒険者が突然悲鳴を上げて光の粒子へと変わってしまった。
「もう少し周りを見るべきだな『影使い』」
「っく!」
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地下45階層
「やっぱり影だったか」
住民の殆どがまだ理解できていないようだが、何人かは気付いたようだ。
アッシュの仲間はそれぞれ光の水晶でグラムの影を引き伸ばし、アッシュは自分の影の攻撃が当たるように攻撃をしていた。一発の攻撃で二回のダメージを受けたのも分裂した影それぞれに違う箇所に攻撃が当たったため。
巨人の巨体では影の面積が広まってよい的になってしまう。だからグラムは攻撃を仕掛けた瞬間に身体を元の姿に戻し攻撃を回避した。そしてその影の攻撃はグラムの後ろで倒れていた冒険者に突き刺さりトドメを刺されたわけだ。
「まさかこんなに早く見破られるとか。あのオッサン巨人のくせに頭回りすぎだろ」
ヒュウが何か失礼なことを言っているが、否定はできない。確かに巨人という種族は力任せというか、脳筋な思考が多い。大抵は力でねじ伏せるというような感じだ。だが、グラムは違う、アイツは頭の回転が早く臨機応変に戦いに順応できる。
「そういえば・・・あの姫は逃げ切ったかな」
さっきから映像に映らない様子からしてそろそろ入り口に到着しているはずだ。一応ボスフロアは出入り自由になっているから、一度入ったら出られないという設定にはしていない。逃げ切って体勢を整えるのもありなのだ。
「いや、あのフィロが仲間をいていくはずは絶対に無い」
ヒュウがそう言うと急にモニターの映像が切り替わった。
あれ?急にどうしたんだ?
何か不手際かと思った瞬間、金色に輝く手甲を装備した少女が爆走している姿が映しだされる。
「・・・やっぱり」
魔人少女、フィロが今グラムに向けて走りだしていた。
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11階層 入り口付近
フィロは必死に逃げていた、今の自分たちではあの巨人には勝てない。それはあの時マルク騎士団を殴り飛ばした瞬間から感じた。
久々に感じた恐怖。かつて父親に戦場に出て戦いたいと言い出した時、温厚な父親はかつて見せなかった怒りの形相を見せた。その一瞬で彼女の心は折られてしまった。圧倒的な力を持つ者だけが見せる気迫・・・それだけで生半可な覚悟を持った者達は心を折られてしまう。
「・・・あの気迫。父上と同じ・・・まさに魔王」
ダンジョンで死んでも入り口に転送されることはすでに知っている。だがそれでも人は生へしがみつこうと必死に逃げ出そうとする。
「・・・アッシュ、皆」
後ろでは眩い光が照らされているを肌で感じ、今彼らはあそこで戦っているのが分かる。
そして次に思ったことは自分は何をしているのかだった。
冷静に考えてもあの巨人には勝てないと分かっている。だからこそ撤退という選択肢しかなかった。
他の冒険者たちも恐怖のあまり撤退している。
だけどアッシュたちはフィロを逃がすために戦っている。
では、前回戦ったヒュウはどうしたのか・・・それを思い出した瞬間、自分は逃げ出した瞬間で彼に負けたことを意味していることに気付いた。
「・・・あたし馬鹿なの?・・・ここに挑んだ意味はアイツに勝つためじゃない!」
悔しさのあまり彼女は自分にビンタをくらわせて目を覚まさせる。
「アイツは最後まで戦った・・・ならあたしだって負けられない!」
フィロは気持ちを高ぶらせ、腕に身に着けて手甲に魔力を注ぎ始める。
「最後まで戦う、それが『戦闘狂姫』よ!」
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11階層 広間
「さて、タネも分かったことだしそろそろ決着を・・・・ん?」
余裕の表情を見せるグラムは正面から黄金色に輝く手甲を身につけた少女が走って来るのが見えた。
『姫様!』
護衛全員が口を揃えて叫ぶとグラムは再び笑う。
「そういえばお前もいたな!逃げたんじゃないのか?」
「うるさい!ここで逃げたら負けも同じなのよ!『魔王之鉄拳』!」
フィロの一撃を片腕で受け止めた瞬間、グラムの腕が弾かれる。そしてその隙にもう片方の手甲でグラムの腹に一撃が入り、吹き飛ばす。
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地下45階層
住民達は空いた口が塞がらない状態でモニターを見ていた。
俺だってビックリだ。あのグラムの巨体をものすごい勢いで吹き飛ばされたんだから。
「ちょっ!何だよあの姫さん!あの怪力異常だろ!」
正直グラムが力負けしたことが未だに信じられなかった。
「・・・ハハハ。正直オレもビックリだわ」
「フィロ、以前よりも格段に強くなっているな。やっぱダンジョン効果なのか?」
ヒュウは乾いた声で笑い、才は冷静の彼女の力量を分析していた。もしかして、二人も知らなかったのか?
「凄いにゃ!さすがフィロにゃ!」
「見事の一撃でござる」
「さすが魔王の娘と言うべきでしょうか?」
「相変わらず馬鹿力ですこと」
才の仲間たちも感想を述べている。
・・・大丈夫だろうかグラム
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11階層
「姫様!何故戻ってきたのですか!」
「うるさいわね!姫として部下を見捨てることはできないの!それにここで逃げたらヒュウに負けたと同じなのよ!」
フィロが叫びながらそう言うと、護衛達は笑いながら納得した。
「分かりました、では最後まで戦いましょう。我々ゼノの誇りを見せつけるのです!」
活気づくゼノ組・・・だがその瞬間吹き飛ばされたグラムから魔力が爆発的に上昇したのが感じた。
「・・・ふぅ。流石に今のは効いた。今の一撃は見事だったぞお嬢さん」
腹を抑えながらゆっくりと起き上がるグラムを見て、フィロ達は警戒心を最大限まであげる。
「嘘でしょ・・・あの一撃を食らって何でそんなに平気そうなのよ!」
「いやいや、かなり効いたぞ。そこの魔人の影攻撃よりも効いたさ」
嬉しそうに首をコキコキ鳴らしグラムはサングラスを外した。
「お前たちの勇姿をたたえ、儂の奥の手を少し見せてやる」
グラムの魔力が右腕に集中するとそのまま地面に叩きつける。すると広間の地面から大量の鎖が出現して、フィロ達を拘束した。
『大地之鎖』
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今回初めてグラムが武器を使用したことで住民達のテンションが上がっていた。
「凄いにゃ凄いにゃ!あのオジチャン凄くカッコいいにゃ!」
興奮状態のマヤにジュースを飲ませて落ち着かせる才もマジマジとグラムを見ていた。
「ヒュウ、もしお前が本気を出して再戦したら勝てそうか?」
「・・・俺一人だったらまず無理。第三騎士団を引き連れて戦ったとしてもあんなの出されたらほぼ壊滅。才達と戦って何とか勝機を見いだせそうってレベルだ」
かつて英雄と呼ばれた者達ですらグラムの強さは圧倒的と感じたのだろう。
「以前俺が戦ったときはあんな武器は使っていなかったぞ。そこまで手を抜かれていたのか?」
武器を使わなかったことにかなりショックを受けているヒュウだが、実はあの武器を渡したのはここ最近なのだ。一応、グラムにも専用の武器を持たせようと考えいくつかの武器を試させている。
俺は感心したようにモニターを見ると、グラムはカメラ目線でこっちを見てる。そして何を訴えるかのような熱い視線を送っている。
あいつまさか・・・・・・
「まあ、そういうのは後で考えよう・・・それよりいいのかヒュウ。フィロがやられそうだぞ?」
才がヒュウに問いかけながらモニターに指を指す。モニターに映るフィロはまさに絶体絶命、鎖によって身動きを封じられ、アッシュたちもフィロを助けようとグラムに襲い掛かるが次々と地面から出現する鎖によって拘束されていく。
『・・・・・・・・・・・・・』じー
住民達が何かを期待するかのようにヒュウを見つめている。
「ほれ、助けにいきな、許婚」
「はぁ?!何で俺が!ってかさっき俺が行っても勝てないって言ったろ」
「『男は理屈じゃない』・・・ヒュウがよく言っていた言葉でござったな?コウキ殿、途中参戦可能でござるか?」
「・・・まあ、今回は特別ってことで」
途中参戦も面白そうだと思い俺はモニターを開き、グラムのいる部屋へ通じる扉を出現させた。グラムもきっとそれを望んでワザと武器を使ったのだろうし。
そして才とヒスイの2人によって腕を掴まれたヒュウは投げ飛ばされるように扉のほうへ放り込まれた。
「テメェら!後で覚えてろよ!」
11階層 生存者6名+1




