66話 魔人族が挑んできたので巨人が防衛しました
街中に響き渡る住民の歓声。彼らのテンションはまさにアクセル全快となっている。しかし、そんな中スタートダッシュが遅れている者達がいた・・・
「おい、ちょっと待てグラムってまさかあの巨人のオッサンのことか?!」
冷や汗をたらしながら、引きつった顔で画面を見るヒュウ。かつてグラムと戦った彼だからこそ分かる、フロアボスの強さ。それをまさかこんな形でまた見るとは思ってもいなかっただろう。
『それでは、今回11階層に挑む冒険者達はこちらの30名!』
モニターは切り替わり、冒険者たちの顔写真が次々と流れてくる。
・・・管理チームいつの間にこんな演出技術身に付けたんだ?
次々と流れてくる冒険者達の写真。見るからに曲者と言いたいような冒険者もおり、ケイトやヒスイたちが映る冒険者の映像を見て反応している様子からして知っている人物が何人かいたみたいだ。
「にゃ!フィロだ!」
マヤちゃんが叫んでモニターに指を指すとそこにはあの悪魔姫の少女の姿もあった。そういえば、11階層まで到達したけど一度戻ったみたいだったな。今日また戻ってきたんだ。
「彼女って才達の知り合いなのか?」
ヒュウのことをライバル視しているのは知っているが、なぜなのかは知らない。
「ああ。魔国ゼノの第一王女・・・つまり、姫様だ。あと、ヒュウの婚約者」
な!
『婚約者』その言葉を聞いた瞬間住民達の視線は一気にヒュウに突き刺さる。
「ば!あれはあっちが勝手に決めたことで俺は認めていないぞ!」
顔を真っ赤に否定するヒュウ・・・あ、これは完全に照れているな。女子たちなんかキャーって嬉しそうに黄色い声を上げているし。
「へぇ・・・」
ニヤニヤ×住民の数
うん、皆凄く良い顔してヒュウを見ている。
「ああ!もう、戦いが始まるぞ!」
ヒュウがそう叫びモニターに指を指すとグラムの姿が映し出される。相変わらず仁王立ちで待ち構えているポーズだった。
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11階層
「よく来たな、冒険者たちよ。儂の名はグラム。このフロアを守護する者だ」
グラムの目の前には30人の冒険者たち。そのどれもがヒュウを除いた前回の冒険者達よりも各上だとすぐに理解したグラムは今回も楽しめそうだと気持ちを昂ぶらせながら構える。
だが様子がおかしかった。全員が一斉にかかって来るのかと思ったグラムだったが、何故か10人の重装備兵が二列になって前に出ただけだった。前衛が巨大な盾を構え、後衛は隙間から毒々しい液体が塗られた槍を構える。
この世界の常識では、対巨人戦では毒が最も有効な攻略手段なのだ。ヒュウのように高い魔力を持った実力者なら真正面からぶつかることも可能であるが一般的にはそれは愚行と言える手段。
だからこそ、大抵の冒険者は相手が巨人なら『毒』を用いることが当たり前なのだ。
「ではまずは我々、マルク騎士団から挑ませてもらうぞ!」
「・・・何のマネだ?全員で挑まないのか?」
グラムが兵士達の後ろにいる冒険者達を見るが彼らが参戦しようとするそぶりは見せない。まるで戦う順番をあらかじめ決めていたかのように。
「貴様の情報はすでに知っている。前回、テオ王国のヒュウを含めた冒険者8名は攻略できなかったらしいが、それは貴様の情報を知らなかったこと。その差がどれほど戦況を動かすか今から照明してみせよう!」
グラムは知らないだろうが、ここに来ている冒険者達は11階層に到着すると一度帰還し、対グラム用の武器を持ち込んで来たのだ。グラムの情報はすでに世界中に知れ渡っており、対巨人用の武器などが開発されていた。英雄の左腕、ヒュウが負けたのは情報不足だったに過ぎない。だが今の自分達にはそれがある、だから大丈夫なのだ。そう考えた冒険者達は挑む前に話し合い、誰が先に挑むかを決めていたのだ。
「なめるなよコゾウ共!」
一撃・・・怒りが爆発し急接近したグラムはあっという間に盾兵士の前まで跳び、拳は命令をした兵士の盾を砕き、腹へ直撃。まるでタイムラグがおきたかのように男の身体がくの字になった瞬間、傍観していた冒険者達たちの上をかするように吹き飛ばされる。
何が起きたのか分かっていない冒険者たち。
「貴様ら!その程度でこの儂を倒せると思ったのなら二度とここに挑みたくないくらいの恐怖を植えつけてやる!」
グラムの・・・いや、大地の巨人の怒りが今彼らを襲おうとしていた。
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地下45階層
映像を見ていたヒュウは頭を抱えて「馬鹿すぎだろ」とつぶやいていた。
「マルク騎士団って確かハルモニアの所のメルド司祭の専属騎士団だったな・・・ヒュウ、お前から見てあいつらは勝てるか?」
「勝てる勝てないかという質問自体、愚問と言いたくなるくらい無理だ。俺があのおっさんとの戦いで毒を試していないと思ったか?あのおっさんにの【毒耐性】は少なくともレベル7以上・・・ヒュドラの猛毒をぶっかけたが身体が少ししびれる程度の反応だった。あいつらがそれ以上の毒を用意しているとは思えない」
ヒュウは悔しそうに前回の戦いを思い出していた。確かにグラムには【状態異常耐性:レベル7】と【自然回復スキル:レベル5】を持って言る。たとえ猛毒だろうとしばらくしたら治ってしまうのだ。
「唯一ダメージが通ったのを実感したのが魔法攻撃だったからな・・・一応、それもギルドに報告したはずなのに・・・」
マルク騎士団の余裕な笑みを見てすでに「ご愁傷さま」とつぶやいた。
「もし、あのオッサンと戦うのなら、オッサンの言う通り全員でかかる必要があるんだ。なのに、情報を手に入れたから後は大丈夫とか・・・」
なんというか、ヒュウが予想以上にグラムの分析をしていたことに俺は驚いた。確かにあの時の戦闘では最初の段階では色んな技を試していた。そして魔法が有効だと判断すると氷魔法を使ってグラムとの肉弾戦を始めたのだ。
「それは、一般の冒険者に対してだろ?少なくとも今回フィロにはアッシュがいる。アイツの能力はたしか巨人にはかなり有利だ」
「ああ・・・確かに」
二人は期待するかのようにモニターを眺めた。
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11階層
「・・・一体何が起きたの?」
フィロは未だに目の前の光景を受け入れられなかった。マルク騎士団が余裕に武器を構えていざ攻めようとした瞬間、グラムという男があっという間に騎士団の前に現れ、対巨人用として用意した盾をガラス細工のように砕いた。そして騎士の一人がこちらへ向かって飛んで来て壁に直撃・・・当然即死で、兵士は光の粒子となって消えた。
「う、うあああああああ!」
それに気付いた騎士団の一人が慌てて槍を突き刺すが、当然避けられ柄の部分を握られ投げ飛ばされ石柱へ直撃。
当然これも即死。
「儂に挑んできたのなら少しは楽しませろ!」
グラムが見下すように睨み付けると騎士団は恐怖のあまり動けず、成す術もなく次々とグラムによって殴り殺され、消え去る。
「魔王だ・・・やっぱりあの記事は本当だったんだ!」
一人の冒険者がその光景を眼にしてポツリとつぶやく。
魔王・・・以前、ギルドが発行した記事にそんなことが書かれていた。自分の父親と同じものがダンジョンにいる・・・そんな訳無いと思い、鼻で笑ったが今なら分かる、あれは魔王・・・かつて世界から恐怖の対象として恐れられた父と同じ存在。
「・・・アッシュ、皆、撤退するわよ。こんなの私達が一斉にかかってもかなう訳ないわ!」
それは弱音でもなく、冷静な分析の元によって判断した結果。フィロの部下達も頷き、すぐに部屋から撤退しようとした。だがそれは誰もが同じ判断であり他の冒険者達も一斉に部屋から抜け出そうとした。
「逃がすものか!」
怒りを爆発させたグラムは10mもの巨体へと変貌し冒険者達を追いかける。
まるで鬼ごっこが始まったかのようにグラムは一人、また一人と冒険者の頭上から殴り脱落させていく。これはまさに狩り・・・自分達は怒らせてはならない人物を怒らせた。
「姫様!ここは我々が足止めします!」
「アッシュ!皆!」
残された冒険者は10名・・・半数以上があっという間にやられてしまった。次の標的を見定めたグラムはフィロたちのグループへ襲いかかる。
アッシュたちが武器を構え、グラムに迎え撃とうとするとグラムはニヤリと笑った。
「そうだ、その覚悟をした眼だ!そういう奴と戦いたかったのだ!」
待ってました!という風にグラムは上機嫌となってアッシュ達に襲い掛かる。
「そんな攻撃を受け止める馬鹿はいないさ!」
固まっていたアッシュたちは一斉に散り、紙一重でグラムの一撃を避ける。
「リック!」
「おう!【ブライト】!」
アッシュが仲間の一人に指示を出すと、リックという魔人が水晶を取り出し魔力を込める。すると、水晶はまるで太陽のように眩しい光を放った。
「目くらましのつもりか!だが無意味!」
グラムの言う通り、サングラスをかけている彼に目くらましは無意味。むしろ、闇属性魔法で視界を奪うのが得策のはず。
「隊長!今です!」
一瞬の隙を突いてグラムの懐に入ったアッシュが剣で突き刺そうとするがグラムはステップでその攻撃をかわす。
「良い攻撃だが、少し遅『ズキ』・・・ぐ!」
グラムは何が起きたのか一瞬理解できなかった。確かに攻撃は避けた、しかし脇腹には剣で突き刺されたかのような痛みが走った。確認すると、もちろん傷口などない・・・だが未だに痛みは残っている。
「貴様ら、何をした・・・」
「・・・ヒュウ殿の言う通り魔法の攻撃は通用するようだな」
手応えを感じたアッシュはニヤリと笑う。そして、今度は別の仲間二人が水晶を取り出し部屋を照らし、アッシュが攻撃を仕掛ける・・だが今度はグラムを狙った攻撃ではなく、何もない場所に剣を突き刺す。すると、今度は肩と右足に剣で突き刺される痛みが走った。
「・・・それが、お前たちの巨人対策とういうことか」
グラムはそう呟き離れたアッシュの仲間たちを睨みつける。
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地下45階層
グラムに対して謎の攻撃が放たれたことで住民たちは番狂わせが来たかのように驚いた様子だった。
「へぇ・・・あのアッシュって人かなりやるね。グラムにダメージを入れるなんて」
俺は関心した様子でグラムとの戦闘を見ていた。予想通り、冒険者の殆どがあっという間にグラムによって脱落した。まあ、あんな風に挑発したんだし自業自得かな。
「光輝、やけに冷静だがいいのか?フロアボスが負けそうだが」
「ん?・・・まあ、大丈夫だよ。それにグラムの奥の手が見れそうだし」
「「奥の手だと?!」」
あれでも本気じゃないのか?!と言って二人はモニターを見た。巨人の姿になったグラムはまさに怪物と言っていいくらいの迫力を見せる。あれでも十分脅威なのに、さらにその上があるのか?
「まあ、見てみな・・・ここからが俺が考えた『大地の巨人・グラム』の本当の強さだから」
俺は期待するように苦戦したフリを見せるグラムを見る。
アイツは笑っていた。




