64話 英雄たちに自慢するため牧場エリアを案内しました
才たちのダンジョン観光はまだまだ続いた。
畑エリアの抜け、次にやってきたのは牧場エリア、畑エリアよりもさらに広い土地を使って動物達を放牧させている。
「次は牧場です。ここでは魔物化した家畜の飼育を行っているのです」
見渡すと生産部門の住民達がしっかりと動物たちの世話をしているのが見えた。
「魔物か・・・確かに魔物化した動物は成長速度が普通のよりも格段に早いし畜産物の品質も上がるから家畜向けといえば家畜向けだが、手懐けるのはそうとう大変だと聞いているが」
どうやら、ダンジョンの外でもそういった農業はあるらしいが結構難しいみたいだ。それなのにここでは何百頭もの魔物化した動物は実に大人しく普通の動物と変わらず生活をしている。
「基本的に魔物は自身が認めないものに対しては反抗的です。家畜として育てる場合は子供の頃から手懐けるか、力を示して屈服させる必要があります」
それを聞いて納得した才たち。だがそれはつまりこれらの動物達は全て屈服されているという意味なのだろう。
「見てください才様、マッドシープですよ・・・黒いのもいます、もしかして黒鉱を食べさせたのでしょうか?」
スイちゃんがマッドシープの群れが羊舎へ向かって歩いて行くのを発見した。色とりどりの毛を持つマッドシープ達、その中でもかなり目立ったのが黒光りする毛を持つマッドシープだった。
「いや・・・纏っている魔力が高い。あれは魔石を食わせているな」
「正解です。真っ黒のマッドシープにはダンジョンで採掘できる魔石を食べさせてみました。おかげで貴重な魔糸の生成も可能になっています。他にも宝石を食べさせたマッドシープもいますよ」
それを聞いた瞬間スイちゃんとヒスイは見開いた状態で黒いマッドシープを見た。
「な!あの貴重な魔石をマッドシープに食べさせたのでござるか?」
「そんな勿体無いこと・・・いえ、ここなら可能ですか」
「なるほどな・・・そこまで資源をつぎ込むことは考えなかったな。流石にそれはテオでは真似できないか」
「魔鉱石はをマッドシープの餌と言ったら暴動が起きますよ」
才は少し悔しそうな顔をしていたが、かなり楽しそうにしている。
「ご興味がありましたら毛刈している羊舎へご案内しましょうか?」
「ああ、頼む・・・出来れば刈り取った毛とかも触らせてくれないか?」
「はい、喜んで」
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羊舎
羊舎の中には百匹以上のマッドシープたちが集められていた。普段は放牧しているから分からなかったけどかなり数が増えていないか?
羊舎の中には数人の作業員たちがせっせと毛刈り道具を持ちだして刈りを始めている。そしてここの責任者の獣人族・狼種のガブがこっちに気づき挨拶をしてきた。狼なのに羊の毛刈りって・・・
「これはコウキ様にアルラさん・・・後ろにおられる方達はもしや英雄の方々でしょうか?」
「ああ、牧場エリアを見学したいから一緒に回っていたんだ。ガブ、これから毛刈りか?」
「はい、この子達のコンディションも良好なので品質が良い今が刈り時なのです」
見た目のせいで「刈り」を「狩り」と判断してしまいそうな発言だな。
「それにこの子達の身体はかなりデリケートですからね。しっかりと管理しておかないとすぐに病気になってしまうのですよ。特に魔鉱石とか珍しい鉱石を食べたマッドシープは偏食になりやすいので栄養管理とかもしっかりしないといけません」
へぇ・・・ただ食べさせればいいって訳じゃないんだ。飼育も結構大変なんだな。某牧場ゲームとかだとただ餌を上げて外に出して毛刈りするだけだから、実際の飼育とかはよく知らない。
「ガブ、邪魔するようで悪いがお前の毛刈りを見学しても構わないか?」
「ええ、構いませんよ・・・待っていてください」
俺の要望に応えるかのようにガブは一匹のマッドシープを連れてきて毛刈り道具を取り出した。なんというかまさに毛刈り師って感じだ。
「よーしよし、いい子だね・・・すぐにスッキリさせてあげるよ」
そう言って、ガブは手際よくマッドシープの毛を刈り始める。背、腹、脇・・・育っている毛の部分は可能な限り刈り取り、マッドシープはあっという間にスッキリした姿になった。
「なかなかの手際だな」
「凄いです、余すところ無くあんなに刈り取りました」
まるで解体ショーを見ている観客のようにガブの刈り姿を見て拍手していた。
「こちらが刈りたての毛です・・・触ってみてください。凄く気持ちいですよ」
ガブに手渡される毛の一部を持つと、本当に持っているのか?と錯覚するくらいの軽さそして程よい柔らかさはとても気持ちよい・・若干牧草の匂いが残っているがそこは放牧していたんだし仕方ない。
「へぇ・・・上物だな、これで衣服とかになるのなら十分な特産品になるぞ」
「そうですね、ですがこれだけの品質だと値も相当かと」
才たちも毛に触れてそれぞれ感想を述べていた・・・たしかに、これで作った服だったらかなり良い物が作れそうだ。
「ありがとうなガブ。もし牧場関係で要望があったら遠慮なく言ってくれ。出来る限り支援はするから」
「は、はい!ありがとうございます!」
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「さて・・・そろそろ戻るか。流石に戻らないと皆が心配するし」
農場エリアに到着してからすでに三時間が経過。まだまだ回れる場所はあるがそろそろ頃合いだろう。魔物化研究所も見せずに済んだし。
「そうだな・・・あいつらにも色々と教えたいし」
見学し終えた才たちはかなり満足そうな表情だった。これはかなり高評価に違いない。ユーア・ユニコーンに乗り街へ向かおうとした瞬間、俺とアルラのモニターが急に映し出された。そういえば、そろそろだったな・・・。
牧場の方を振り向くと天井にはいくつもの巨大スクリーンが映し出される。
「あの、一体何が起きているんですか?」
「ヤバイ・・・もう始まるか。アルラ、急いで街に戻るぞ」
俺が指示を出すとアルラが口笛を吹いて、才たちの馬を走らせる。
「おい、光輝。何が起きるんだ?」
「街に戻ればすぐに分かるさ。多分、あっちでももう準備が取り掛かっている」
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街 中央広場
中央広場に到着すると、すでに住民達の準備は完了していた。持ち込まれた椅子に座り、手元にはお菓子と飲み物、まるで映画を見ているような感じで真っ暗なスクリーンを楽しそうに見つめていた。
「おい、才。やっと戻ってきたか、遅いぞ」
広場の特等席といえる場所には大きめのソファーが置かれてあり、ヒュウ達がお菓子を食べながら寛いでいた。
「ヒュウ、一体何が起きているんだ?」
「知らん」
ヒュウの淡白な返答に才が呆れて、今度はこっちを向いた。
「すぐに分かるよ・・・ほら映った」
俺が中央広場の上にあるスクリーンに指を指すとマイクを持ったタマモの姿が映し出された。
『皆さんお待たせしました!これより!ダンジョン11階層のフロアボス・グラム様の防衛戦が開催です!』
「「「な、何!!!!」」」
タマモのアナウンスによって引き起こされる住民達の歓声、そして未だに現状を飲み込めていない英雄一行たち。




