63話 英雄が来たので農場エリアを案内しました
広場に戻ると宴はかなり盛り上がっていた。
「おかわりにゃ!」
「すげー!あの子の胃袋どうなっているんだ?」
「おい!食い過ぎで倒れた奴らを急いでタンカで運べ!」
何やら大食い対決をしていたらしく、マヤちゃんが圧勝のようだ・・・ってか後ろに積まれている大皿あれ全部マヤちゃんが食ったのか?
「っよ、用事は済んだか?」
「ああ、結構盛り上がっているみたいだな・・・皆、馴染んでいるみたいで良かった。ちょっとその辺が心配だったから・・・ほらここ色んな種族がいるから」
特に亜人とかもいるから差別な眼で見られたらどうしようか迷っていた。まあ、才の仲間なんだしという気持ちもあったから今回は勇気を持って招待をしたのだが。
「ああ、亜人のことか・・・俺達は色んな種族を見てきたからそんな偏見は持たないが、確かにそういう奴はまだ多い・・・特にトジュオやハルモニアは種族差別が激しいからな。小国もいくつか差別意識が残っているみたいだし・・・」
その顔はまさにいくつもの国を渡り歩き、現実を直視してきた人物の顔だった。何とかしたい、だけど無理やり正そうとすると必ず争いが起きる、それだけは避けるべき事だと才は判断している。
「そういう話はまた聞くさ・・・才から聞いたほうが色々と知れるし。とりあえず今は楽しもう、酒は飲めるのか?」
「ああ、一応な・・・そこまで強いのは飲まないが」
こういう時は美味い酒を用意するのが一番!さすがに『マナの実酒』は飲ませられないが良い酒はいくつかある。
俺はモニターを開き、大きめの樽を出現させた。
「ほれ、ダンジョン44階層にある、龍酒の泉から汲んできたやつだ」
龍酒の泉・・・それはリンドのフロアに湧き出る酒の泉。桃源郷のようなフロアの上に君臨する天空城に溜まっているリンドのお気に入りの酒。これがかなり美味い酒でたまにリンドのフロアに行って少し汲ませてもらっている。
「『龍酒』ですって!それが?!」
それを聞いた瞬間一番最初に反応を見せたのはセレナだった。彼女は恐る恐る酒の入った樽を見た。おそらく、鑑定スキルで見ているのだろう。
「・・・本物ですわ!まさか幻の龍酒がこんなに!」
「そんなに、珍しい酒なのか?」
「ああ・・・龍族が生息する谷にしか実らない果実があってな、それを原料に酒を作るためか生産量が限られている。この前テオ王国のオークション会場で瓶一本出品されていたな。値段は確か2億エーヌで落札されたはず」
二億・・・瓶一本で二億かよ。そりゃ酒樽を見たら驚くわな。
「セレナは飲めるのか?」
「当然です。淑女としてお酒は嗜んでいます」
そういえば、王族だったな。パーティとかに参加しているから結構飲む機会があるのかな?
「もしよかったら、瓶に入れてプレゼントしてあげるよ」
「え?よろしいのですか?」
「あ、なら俺も一本貰っておいていいか?トレスアールに差し入れしておきたい」
それならどうぞどうぞ。まだ沢山あるし、魔力があれば好きなだけ出せるからな。
・・・・・・・・・・・
「ううぅ・・・食い過ぎた」
「こんなに美味しいお肉を食べたのは久々にゃ」
「いつに増してだらしないですよ兄さん。マヤもそんなところで寝ないの」
宴の料理は満足していただいたみたいで良かった。
「それじゃあ、どこか行きたいところはあるか?一応街の中だったら案内できるが」
「そうだな・・・ここの特産品とかあるか?」
特産品か・・・そんなのあったか?
「では、ダンジョンの自慢の一つである農場をご案内します」
才の要望に答えたのはアルラだった・・・大丈夫か?あそこには確か魔物化の実験研究所もあったはず。
「農場か・・・遠くからも見えたが結構の広さだったな。料理も美味かったし良い食材を使っているのはよく分かる・・・流通したら絶対取引していたな」
才から高評価を得た料理、その秘訣は食材にあると見て興味を示した。
「俺はこれから農場に行くがお前たちはどうする?」
「私はセレナ様と一緒にこの街を見て回りたいわ。かなり興味深い魔法具があったから」
「俺はもう少し休んでいる・・・ちょっとキツイ」
「マヤもにゃ・・・」
「私は当然才様と一緒にいきます」
「拙者も同行するでござる」
というわけで、スイちゃんとヒスイが才と一緒に農場に行くことになった。俺もアルラがどんなん説明をするのか興味があったから付いて行くことにした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
農場エリア
「近くで見ると壮観でござるな」
「・・・はい、これほど立派な農場はテオ王国の領地でも少ないかと」
才たちがさっそく立ち寄ったのは野菜や果物を育てている畑エリアだ。畑には季節ごとに育てられる野菜や果物に分けてその周りに結界を張っており、結界の中は湿度や温度調整を行って育てている。簡単に言えば結界型のグリーンハウスなのだ。
「畑の周りに結界を張っているのか・・・なるほど、結界ごとに温度や湿度が異なっている」
才もさっそく興味深く【ゴッドスキル:万能鑑定】で畑を見た。
「しかも、結界に使われている魔力はダンジョンから供給・・・なるほど、ダンジョンで死んだ奴らの減ったスキルが魔力に変換されて蓄えられているのか」
相変わらずチート鑑定でダンジョンの秘密の一つを暴きやがった。
「ああ、他にも住民やダンジョンモンスター、ここで育てている魔獣などから溢れる魔力もダンジョンが吸い取って蓄えているぞ」
どうせ才にはバレるんだし、こっちから色々と説明するか。
「アルラ、この辺の説明は自由にしていい。存分にウチの自慢を言ってくれ」
「かしこまりました」
俺の許可も出たことで、アルラは丁寧に説明しながら畑を案内した。
「才様の言う通り、畑ごとに結界を張り作物ごとに適切な温度湿度を保った状態で育てています。おかげで定期的に同じ品種の作物が収穫ができ、住民の食事は十分にまかなえるようになっています。現在はさらに倍の広さへ拡大させる計画が進められています」
「今でも十分に足りているのにその倍にさせるのか?」
「はい、ダンジョンモンスターの分が未だにドロップアイテムの食材に頼る部分があるのでそちらの分を育てる予定です」
ダンジョンモンスターと聞いた瞬間ハッと思い出したかのように俺を見た。
「分かっている・・・後で説明するよ!今は見学を楽しんでくれ」
そう言って納得したように前を向いて畑を眺め始める。
「スイ、この技術をテオで行うとしたらどれくらいが限界だ?」
「そうですね、ギルドで開発した結界装置をフル稼働させてもこれの10分の1ぐらいでしょうか?」
「わかった・・・原動力の魔石の使用は俺が許可するから帰ったらさっそく技術班に連絡だ」
「かしこまりました」
本当に仕事熱心な二人だなと思う俺がだ隣にいるヒスイはなんか嫌そうな顔をしていた。
「どうしたのですか?ヒスイさん?」
「む?拙者のことは呼び捨てで構わんでござるよ、コウキ殿。いや・・・若はいつどこでも若なんだなと思って・・・少しくらいの間仕事のことは忘れて欲しいでござる」
「・・・なるほど。いつもあんな感じなのか?」
「そうでござる・・・一日の半分以上は仕事、移動している時も食事の時も仕事ばかりで見ているこっちが心配になるでござる。上が休まないと下の者達も困るというのに」
ヒスイは休みたいから愚痴をこぼしたわけではない。だた、素直に才には休んでもらいたいと願っているのだ。
「聞こえているぞ、ヒスイ。俺のことは気にせず休めばいいじゃないか」
「それができないから困っているのだ!若はもう少し自分の身を大切にすべきでござる!」
それに同意しているスイちゃんも激しく首を縦にふった。
「といってもな・・・疲れはそこまでないし。やれる時にやらないと気がすまないというか・・・」
「スイ殿!もう少し若の予定を調整できないのでござるか?」
「これでも十分に調整しているのですよ・・・なのに、才様が勝手に仕事を入れて・・・」
なんと言うか、二人ともいい人だな・・・振り回されて可愛そうだけど。こんなに才のことを心配してくれるんだから。
「はぁ・・・わかったよ。なるべく仕事のことは頭の隅に置いておく。だがな、ここには間違いなく学ぶべきものが沢山ある・・・観光で楽しむのもいいが、それを活かすのも大切だと思うぞ」
まあ、言っている意味は分かるしその通りなのだが・・・・
「この仕事中毒者め」
「こればかしはその通りですね」
呆れる二人は「今更か」と少し笑い才についていった。
「・・・・・」
「光輝様、どうかされましたか?」
「ん?いや、ああいう仲っていいなと思って」
大の大人が旅の仲間とかいうと少し恥ずかしいが、少なくともああやって軽口を叩ける仲は簡単には見つからない。俺にとってそういう相手といったらエイミィぐらいしかいないが・・・
「大丈夫ですよ、光輝様は光輝様でしっかり周りに支えてくれる方たちがいるじゃないですか。いつかきっと、ああいう仲になれるかと思いますよ」
「・・・そうだな。もっとあいつらと仲良くならないとな」
そんな気持ちを胸に秘め、俺達も農場エリアを歩き始めた。




