5話 修行のためにダンジョンを作りました
「さて、次の問題だが・・・お前たちは強い・・・俺が考えた高難易度のダンジョンとして相応しい強さを持っていると思っている」
俺が褒めると全員が満足そうな顔をしていた。
「だが、さっきの映像で見たように冒険者たちではダンジョンの1階層でリタイアは、ほぼ確実だろう。まず考えてグラムのいる11階層までたどり着くのは現状で無理だ」
せっかく作ったダンジョンも強すぎて近づかなければ本末転倒。財宝や珍しいものがあるからと言って、無理なものに挑戦する物好きはそうそういないだろう。たとえこのダンジョンで死んでも五体満足で入り口に戻るとしても。
「では、何かお考えがあるのですか?」
「まずダンジョンに出現するモンスターのレベルを変更する。そして、モンスターがドロップするアイテムの質も下げようかと考えている」
ダンジョンの構造を変えるだけでなく、ポップするモンスターやレベル、ドロップするアイテムの確率などはモニターで操作することができる。
「では、我々のレベルも下げるのですか?」
「そのことなんだが。ダンジョンにポップするモンスターは編集できるんだが、お前達の操作は出来ないんだ。だから、レベルを下げることは出来ない」
そう、ダンジョンモンスターは変更できるのだが、フロアボスの編集はロックがかかって編集することができない。ステータスなどを視ることはできるが、彼らのレベルやフレイバーテキストは操作できなくなっている。おそらく、フロアボスはそれだけ特別な存在なのだと思う。
「では、もし冒険者たちが来た場合どう対処すればいいでしょう?手加減するのも可能ですが、何度も手加減を続けて負けるのは正直厳しいかと思います」
「そのことだが、フロアボスに関しては今は保留にする。何とか打開策を探ってみる」
いろいろと考えてはいるのだが、今ここでその実験をするのは良くない。しっかりと研究してまとめた状態で発表することがいいだろう。
「さて、ダンジョンの難易度は何とかするとして。あとはダンジョンの構造をどうするかだ」
ダンジョンは基本的に迷宮なのが王道。そして、このダンジョンも王道どおり、迷宮になっている。最初のフロアはらくらくのつもりで障害物無しの一つの部屋にサラマンダー10体の殲滅戦にしてある。だが、2階以降は様々なトラップやモンスターの出現、さらに複雑な迷路ができているようになっている。
「モンスターのレベルを下げるのでしたら、今まで通りでいいのではないのでしょうか?」
グラムの質問に皆が頷く
「それはできない。俺はこのダンジョンをリアルとしてとらえないで作ったのが理由だ」
ゲームの中のダンジョンなら、自身の体力や魔力、体調など全く関係なく攻略に行ける。だが現実は違う、死んだら入り口に戻るが、死ななければ傷は残ったままだし、疲労も溜まる。それに、このダンジョンを1日で攻略なんて不可能だ。必ずダンジョンの中でどこか休める場所が必要になる。
「まずは、ダンジョンの中で安全スポットを増やそうと思う」
安全スポットとは、ダンジョンの中でモンスターが絶対に現れない場所、またモンスターに追いかけられていても、安全スポットに入ればモンスターは引き返すようになる。モンスターとの戦闘に疲れた冒険者たちが休める場所が必要だ。
「休憩場所ですか。確かにそれがあれば冒険者たちも何日でもダンジョンに滞在できますな」
「ダンジョンの安全スポットは難易度が低い場所は多く、難易度が上がっていくごとに少なく、あるいは狭くしようと思う」
「食料はどうします?冒険者でも、持ち込める食料には制限があります。長くて1週間ぐらいでしょう」
「一応、モンスターのドロップでたまに食料が落ちるようになっている」
モンスターのドロップには食料系がある。味はどうなのか分からないが。
「ダンジョンで現れるのが受肉したモンスターであれば、倒してもドロップアイテムの代わりに解体などができるのですが」
おや?カルラが重要なことを言ったぞ。
「受肉ってどういう意味だ?」
「モンスターには基本的に二種類の方法で誕生します。一つはダンジョンに溜まった魔素が圧縮して生まれる『ポップ型モンスター』、もう一つは普通の動物の肉体に蓄積された魔素の影響によってモンスター化する『受肉型モンスター』です。『ポップ型モンスター』は倒すと霧状になり「魔核」あるいは指定されたドロップアイテムを落とします。逆に『受肉型モンスター』は倒しても霧状になることは無く、自分で解体しなくてはなりませんが得られる部位は多いです」
なるほど、この世界にはそんな法則があったのか
「加えて、受肉したモンスターは繁殖力が強く、成長も早いですので、もしいればすぐに増えるでしょう」
たしかに、そうすれば食料の心配は無くなるな
「そうなると、動物を集めないとな」
「でしたらその仕事、私にお任せください!」
カルラが元気よく返事をする。
「いや、フロアボスがダンジョンから出たらまずいだろ?」
俺が止めると、カルラの尻尾が一気にたれる。
ダンジョンのフロアボスはダンジョンの外に出れない。フロアボスは自分が担当するフロアを守ることが使命ということになっているからだ。今はダンジョンに誰も来ていないから、全員がフロアを離れてここに集結することが出来ている。もし、今ダンジョンに冒険者やエイミィを狙う輩が入ったとしても、10階層までたどり着かなければ、グラムが戻る必要は無い。
「受肉モンスターのことも、もう少し冒険者たちの様子を見てから開始しよう。今はまだデータが足りない」
普通、ゲームならプログラムが完成した後、何度も初心者からベテランのゲーマーを使って調整する必要がある。だが、このダンジョンはそのテストやデバッグを済ませていない状態で開始してしまった。
「兵士達がやれたのを確認する限り俺が設定したダンジョンの仕組みは作動していると考えられる。だが、どこかしら不具合が出る可能性がある。フロアボスたちは時間があるときにダンジョンの中を見回ってほしい」
俺の指示に皆が頷いた。
「とりあえず、先にグラムが担当する11階層までのモンスターを先に編集するよ。モンスターがいないと、ダンジョンが開かないしね」
「ありがとうございます」
会議が終わり、フロアボス達はそれぞれ自分の階層に戻った。
「さて、忙しくなるぞ」
「光輝、うれしそうね」
俺はやれやれという風なつもりで言ったが、エイミィは俺がうれしそうにしているように見えたらしい。
「そうか?」
「うん・・・ごめんね。コウキに完成してもらったばかりか、ダンジョンを任せるような形になって」
「まぁ・・・ここまでやったんだ、最後までやり通させてくれ」
最後が何なのかは分からないがだけど、中途半端な状態で放り投げることは俺は許さなかった。