62話 英雄が来たのでおもてなししました
トレスアールで一泊した翌日、俺の別荘に才達英雄ご一行様がやってきた。
「いらっしゃい、さあ上がって」
才の後ろにはヒュウやスイちゃんにマヤちゃん、そして会ったことが無い人が3人ほどいるな。これがかつてアルヴラーヴァの危機を救った英雄パーティか。
「ウィリアムから聞いていたがまさかあのオンボロ屋敷をお前が買い取るとは思わなかったぞ」
「まあ、安かったし。壊れたところは仲間が直してくれたからね。今では立派な屋敷になったよ」
元々、この屋敷はギルドが所有していた物だったが、買取主が全く現れず維持もされていなかったため、当初がお化け屋敷と表現したほうがしっくりくる外見だっがた劇的なビフォア・アフターを成し遂げた今の別荘は一等地に建つに相応しい外見と中身になった。
ちなみにマリーを含め合宿メンバー達はクエストを受けにすでに出ている。
才達の仲間達も少しテンションが上がった様子で中を見回していた。マヤちゃんなんか興味津々で走り回りだした。
「お前ら、関心している場合じゃないぞ。初めての奴もいるんだからしっかり自己紹介しな」
才がそういうと全員が我に返ったかのように俺の方を向いてそれぞれ挨拶した。驚いたことに才の仲間ってRPGゲーム定番の王道パーティじゃないか!と内心突っ込みたいが我慢しておく。しかし、ここまで国の重要人物が揃うとは思わなかった。
俺も軽く挨拶しようと思ったがその前に一応話していいかと才に眼を合わせると縦に振ったので自分が話していい範囲まで話すことにした。
「はじめまして、俺は神埼・エドワード・光輝。才と同じ世界から来た異世界人だ。この世界に来たのは約一年前かな・・・今はエイミィと一緒にダンジョンの運営をしている。才とは来てしばらくした後にトレスアールで会って、それ以降も何度か連絡を取り合っていた。今回は皆をダンジョンの地下にある街へご招待したいと思っている」
とりあえず俺が異世界人であること、エイミィと繋がりがあること、ダンジョンの関係者ということを軽く説明した。まあ、当然才の仲間たちもびっくりした様子で俺を見た。
「サイ、あなたそのことを知っていたの?何故もっと早く言わないの!」
「そうでござる、若!拙者の部下がどれだけ苦労してダンジョンの情報を集めていたか!」
「仲間にまで秘密にしていたとか正直ショックなんだけど」
うわ、さすが英雄の仲間。英雄に対してエリ掴みで尋問かよ、そして才は至って冷静・・・あ、これよくあることなんだろうな。
「別に隠していたわけじゃないが、光輝を国の政治とか国関係に巻き込まないために黙っていただけだ。どうせセレナのことだからまだ殆どこの世界のことを知らない光輝をとり込もうとか考えていたはずだ」
「う・・それは・・・」
「第一、今回だって俺の仲間として同行を許したんだ。政治がらみで光輝を誘うのは禁止だからな」
「・・・分かったよ!分かりました!今回は観光なんだから思いっきし楽しむわよ!」
何か吹っ切れたのか、セレナは変な気合を入れていた。
「それじゃあ、さっそく皆をダンジョンに連れて行くね」
「これからノフソの森まで歩いていくんじゃないのか?」
「ああ、最初はオウカに乗っていこうと思ったんだけど人数が思ったより多いから昨日試しておいたもので連れて行くことにした」
そう言って俺はモニターを開き地下45層へ続く門を出現させた。
「な!転移門だって・・・そんな高等魔法が簡単に」
へぇ・・・やっぱり『転移魔法』って相当レベルが高いんだ。ケイトって人もかなりの魔術師らしいけど簡単に出したことに驚いていた。エドもこんな感じに出しているんだけどな。
「光輝・・・まさかお前この屋敷をダンジョンにしたのか?」
「正解、新しいダンジョンを作れるようになったからさっそく試しにここをダンジョンに登録してみたら結構簡単にいけてな」
【ゴッドスキル:迷宮想像】が強化されたことで新しいダンジョンを作れるようになったのだがどこに作ろうか迷っていた時に丁度別荘の存在を思い出しここに第2のダンジョンを作ろうと考えた。もちろん挑むためのダンジョンじゃなく、テスト用という意味で作った。合宿メンバーたちにも許可取ったし、町長のオバチャンにも転移門の設置の許可を貰ったから問題は無い。
ステータスを確認すると俺の所有物件のリストが『別荘』から『ダンジョン:大魔王の別荘』に変更された・・・なんと言うかダンジョンの名前っぽくなったな。
だがまあ、これで移動も楽になったし合宿メンバー達もわざわざ歩いて戻る必要も無くなったし、ダンジョン側もすぐにこっちに来れるようになった訳だから良しとしよう。
「それじゃあ、英雄ご一行をご案内します」
まるで観光外車のガイドのように言って門を開きダンジョンの地下45階へつなぐ門をくぐった。
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ダンジョン地下45階
「これは・・・」
「これがダンジョンの中というのですか?」
「これはまた面妖な」
「凄く広いにゃ!」
「まあ、エイミィ様だったら可能ですか」
「だよな」
ダンジョンの街を見た英雄一行はそれぞれ感想を漏らしながら大草原に建てられている街のを見た。
「あそこがダンジョンの街だ・・・まだ娯楽とかは少ないけどだいぶ形にはなってきている」
最初は街の中に繋ごうと思ったが、せっかくなら先に遠くから街を見てもらおうと思い合えてこの位置に設定した。まあ、上手くいったようで皆も感心した様子で街を眺めていた。
「っ!若、魔物の気配です、それもかなり上位種の!」
「魔物?・・・ああ、多分それは『光輝様、勇者ご一行様お迎えにあがりました』・・・来たみたいだ」
魔物の気配にいち早く気付いたヒスイはすぐさま戦闘体勢に入るが俺が落ち着かせて振り向くとアルラが魔物化した馬を連れてやってきた。
「アルラ、いいタイミングだな。もしかして分かっていた?」
「はい、転移門の魔力を感知したので事前に準備していた馬をここまで連れてきました」
にっこり笑うアルラに勇者一行たちは呆然とした。なんかこういう反応を見るのは面白い。才に至っては少し顔が引きつっていた。
「コウキさん、その魔獣がなんなのか知っているのですか?」
「何って、ケルビーだろ?あとユニコーンがいるな」
アルラは子供でも乗れる真っ黒いケルビーに乗っており、後ろには大きめなユニコーンが5頭いる。それを見たケイトは慌てた様子で俺に話しかけてきた。
「確かにケルビーですが、それは希少種の『ヴォイド・ケルピー』です!後ろにいるユニコーンも王者の名を持つ『ユーア・ユニコーン』!それが5頭も・・・」
どうやら魔物化した動物は予想よりも凄い姿になったようだ・・・まあ、レノ・ユニコーンという神獣を見た後だと希少種も王者もそこまで珍しく感じない。
本来ならこれが一般的な反応なのだろうが最近凄すぎるものを見続けたせいで感覚がおかしくなってきている。
「まあ、気にしないで。これで驚いていたら多分身が持たないよ」
「これで・・って、サイもそうだったけど異世界人の感覚はおかしすぎるわ」
この人、結構異世界人のギャップで振り回されたんだろうな・・・まあ、才の場合は多分仕事がらみだろうけど。
「大丈夫です、この子たちはちゃんと訓練を受けていますから暴れたりしません」
にっこり笑うアルラだが馬たちが何か怯えている・・・アルラにではなく別のなにか・・・あ、レノ・ユニコーンだな。
そんなこんなで馬に乗ってまっすぐ街へ目指すとあっという間に街の入り口へ到着、降りようと思ったがアルラに止められそのまま馬に載った状態で街に入ることになった。
『ようこそ、ダンジョンの街へ!』
まるでパレードのように住民たちが才たちを歓迎した・・・おい、エイミィここまで盛大にやれとは言っていないぞ!セレナはなんか満足気に見ているが才なんか俺を睨んでいるぞ!
必死に否定したが遅い、なんか俺まで歓迎されている感じでこっちまで恥ずかしくなってきた。
街の大通りを歩いて行くと目の前にはエイミィが待っており才達を見ると女神モードで微笑んだ。
「ようこそ、ダンジョンの街へ。アルヴラーヴァの英雄達・・・あなた達がここに来ることを心からお待ちしていました」
本当、いつ見ても誰こいつと思いたくなる女神顔・・・今命名
エイミィの素を知っている才やヒュウなんかは顔が引きつっているぞ。スイちゃんはなんか憧れの人を見ているように尊敬の眼差して見ているが。
「久しぶりだな、神・エイミィ。今回、ここへ招待してくれたことを感謝する」
才も礼儀をもってエイミィに接している。こうして見ると本当に英雄と女神の会話みたいだ・・・まあ、本当なんだが。
「今回は初めてのお客さんとしておもてなしさせていただきます。存分に楽しんでいってください」
そう言ってエイミィが手を叩くとすぐさま宴の準備に入る。いつの間にと思ったがいまさらだろう。そういえばフロアボス達の姿は見えないな。
「光輝、皆がお待ちになっています会議室に向かってください」
「・・・分かった。じゃあ才、俺は少し行ってくるから食事とか楽しんでいってくれ」
「ああ・・・といっても、あいつらはもうすでに楽しんでいるみたいだが」
後ろを振り向くとすでにヒュウやマヤちゃんがバーベキューコンロの前でスタンバっており、ケイトやセレナたちも興味深そうに街を見ていた。
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会議室
会議室に入るとすでにフロアボス達とタマモが待機している状態で座っていた。俺に気付きすぐに立ち上がるが座らせる。
「皆、揃っているね。今、アルヴラーヴァの英雄である地天才がこの街に来ている。才たちにはこの街で楽しんでもらう予定だ。そこで事前に用意しておいたサプライズイベント『英雄vsフロアボス』のバトル大会を行うのだが・・・誰が出るか決まったか?」
才たちのサブライズイベントとして俺はコロシアムを街の外れに建設させる。そして、フロアボスの一人と英雄一行が戦いを楽しむイベントとなっている。まあ、もし戦わないとなっても戦いがっている住民同士の武闘会でも開催しようかと思っているが。もちろん回復薬のポーションも完備。もし死亡するようなことがあってもダンジョンの設定と同じくすぐに復活できるようになっている。
「はい、公平なあみだくじの結果俺が戦うことになりました」
ガッツポーズを決めるカーツ、そして不満そうに見ているリンドとカルラ。というかあみだくじで決めたのかよ!
「分かった、じゃあカーツにはこれを渡しておく。コロシアム用のサブアカウントだ、ステータスは大幅に下げてあるから、少し身体を馴らしておけ」
「御意、このステータスなら全力を出しても構いませんか?」
「まあ、わざと負けろとは言わない。だけど少しは見ている人たちを盛り上げてくれ」
「では、盛大に盛り上げて勝利を収めてみせます」
サブアカウントを渡すとモニターで色々と確認してみる。
まあ、基本的に総合ステータスを減らし、使える能力も制限してある。英雄ということもあるが人数の関係もあるしこのくらいのハンデは丁度いいかな?
「じゃあ、グラムはすまないが引き続き11階層で冒険者たちの相手をしてくれ。確か10階層に到達した冒険者が結構いるんだよな?タマモも管理室で冒険者達の監視を頼む。何かあったら遠慮なく連絡してくれ」
「御意、コウキ様は宴を楽しんできてください」
「ダンジョンの方はお任せください」
「他のフロアボス達も自分たちの持ち場に戻ってくれ。別に英雄に会いに来てもいいが、会う時は作っておいたサブアカウントを使ってくれ。あまり本来の力を見せたくない」
『御意!』
とりあえずこれで俺からの報告と聞きたいことは聞いたが。
「じゃあ、各部門からは何か報告する点はあるか?」
「あ、技術開発部門からなんやけどええでしょうか?」
「何だゾア?」
「はい、実は宴用として開発していた爆裂魔法を打ち上げる道具が完成しやしたのでそれをさっそく使いたいと思うんです。実験もすでに行って安全の方もバッチリですわ」
早いな・・・もう少し時間がかかると思っていたが。爆裂魔法の刻印兵器、あれは元集落の住民にとって負の遺産でもある。あれをどうにか良い方向に使えないかと考え、打ち上げ花火を思いついたからゾアに話したら喜んで開発に移ってくれた。
「分かった、細心の注意を持って準備に取り掛かってくれ」
「御意」
「他は無いか?・・・なら、これで解散。俺は才たちのところに行ってくる。お前たちも嵌め外しすぎない程度に楽しめよ」
これより、英雄一行おもてなし作戦を開始する!




