60話 別荘に帰ったから楽しみました
才たちがトレスアールに到着した報告を受けた俺はその日、メリアスにダンジョンを任せてトレスアールに向かった。本当なら翌日に迎えに行くことも可能なのだがせっかくだしマリーも連れて合宿メンバー達に会いに行くことにした。もちろん護衛としてグンナル、ランカ、オウカを引き連れている。
技術開発部門にはオウカ専用の鞍を作ってもらい設置済みだ。最大六人まで乗ることができ、振り落とされないためにシートベルトも完備。これでオウカもある程度スピードを出しても振り落とされないで済みそうだ。
「それじゃ、明日には戻るから準備の方を頼むなエイミィ」
「ええ、気をつけて」
女神モードのエイミィに見送られる形で門を出現させてトレスアールへ出発した。
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ダンジョンからトレスアールまで徒歩5時間以上はかかる道をわずか10分で目的地付近まで到着。これでもオウカは俺達の配慮でスピードを落としてくれたらしい・・・本気で走ったらどうなるんだ?
トレスアールに到着する前に俺達は一度オウカから降りて普通の狼サイズになってもらった。走っている途中で色々と質問し、普通の狼くらいの大きさまで小さくなれるのを知ったので彼女には街の中では普通の大きさになってもらうことにした。流石にあの巨体で町中を歩くのは目立ちすぎる。
門番に俺のステータスモニターを確認すると特に厳しいチェックも無くすんなりと護衛メンバーも一緒に入れてもらえた。どうやら町長であるオバチャンがすでに門番に俺のことを伝えていたのだろう。
久々に見るトレスアールは更なる活気で満ちており屋台や路上パフォーマンスとかが目に入る。出来れば色々と回りたいが今回の目的は才の出迎えと合宿メンバー達に会うこと。興味津々に見ているグンナル達には悪いが俺達は真っ直ぐ別送へ向かった。
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別荘
久々に別荘を見ると合宿があったのがついこないだみたいな気分になった。あれから2ヶ月近く経過している。以前はちょくちょく合宿組から連絡が来ていたが、俺に遠慮しているせいでここ最近はゾアからの報告のみとなっていた。そうしているうちに入り口から藍色のワンピースを着たプラムがやってくるのが見えた。
「コウキ様、マリーさんおかえりなさい!」
おかえりなさい・・・そういわれた瞬間何故か目が潤っときた。ああ、ここもやっぱり俺の家なんだな・・・・
「ただいま、プラム。皆はもう揃っている?」
「はい!コウキ様が来るって聞いて皆午前に仕事を切り上げました」
ニッコリ笑うプラムに引き寄せられ玄関に入ると、ジョージ、ワイト、テスラが待っていてくれた。そして後ろには大量に並べられている料理。
「凄いな・・・これ全部ジョージが作ったのか?」
「はい、ゴリランチのパーティ用ランチを用意させていただきました」
自慢げにいうジョージ・・・相当腕を磨いたに違いない。匂いを嗅いだだけで食欲がそそる。
「コウキ様、お帰りなさい。ゾア様から報告は受けています。ダンジョンの方で色々とあったみたいで・・・」
心配そうな顔をするワイトに俺は笑いながら頭を撫でた。
「大丈夫だよ・・・お土産もあるから後で渡すよ」
「あ、ありがとうございます!」
「テスラも家の管理ありがとうな。新しい住宅の方も進んでいるそうじゃないか。資金や材料とかは大丈夫か?」
「はい。コウキ様と一緒に考案した設計図を元に既に作業は進んでいます。資金はコウキ様が用意してくださったので十分ですし、資材もダンジョンから送られてきますから予想以上に良い家が建てられそうです」
テスラにはこれからトレスアールで技術を学ぶダンジョンの住民達の住宅の設計を任せていた。イメージ的には社員用のアパートであるが、テスラも色々と手を加えて凄いアパートになっている。材料などはダンジョンから通して彼女専用のアイテムポーチに入るように設定してあるから何か必要になればすぐに彼女のポーチに転送できる。
合宿メンバーが勢ぞろいしたのを嬉しく思い、今度は護衛メンバー達を紹介した。
「妖人族・鬼種グンナルだ」
「ウチは獣人族・虎種のランカ」
「魔天狼のオウカだ、よろしく」
簡単な挨拶をした後はダンジョンお馴染みの宴会ムードになった。外も良い天気ということもあり、外でパーティをすることになった。テスラの職人としての腕も上がったようで庭の手入れとかも行き届いており、まさに富豪の庭という感じだった。
同じダンジョンの住民というのもあって、護衛メンバーも合宿メンバーたちもすぐに打ち解けて色々と話し合っている。特にランカはジョージの料理データを元に野営料理を作っているためジョージから細かく料理の説明を聞いていた。マリーも久々に会えたテスラやプラムと楽しそうにダンジョンのことを話している。
グンナルとオウカはただ夢中になってジョージの料理を食っていた。
「そういえばコウキ様、先ほどワイトに何かお土産があると言ってましたよね?」
マリーの質問に全員が興味深そうに俺を見た。まあ皆に見せてもいいかと思い俺はマジックポーチから虹色の光を放つ金の延べ棒を取り出した。
「ヒヒイロカネ、ダンジョンのドロップアイテムにすら登録されていない伝説の金属」
美しい光を放つヒヒイロカネは特に女性を魅了させた。
「あの・・・これ本当に僕が貰っていいのですか?」
「ああ、俺が持っていても仕方ないし。鍛冶師のワイトならきっと有効に使ってくれると思ってな」
俺がそういうとワイトは大事そうにヒヒイロカネを持った。
武器の材料に使うといった瞬間、女性陣からなんか不満そうな顔をさせられたが気付かないふりしておこう。まあ、アクセサリーとかそういうのも作れるがやっぱり伝説の素材で作った武器は見てみたいじゃん・・・ダンジョンの魔力に余裕が出てきたらまた作るけどさ。
「あ、ありがとうございます!絶対この金属で最高の武器を作ってみせます!」
新しい目標が出来たかのようにワイトの瞳は輝きを増した。
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「それじゃあ、俺達は一度ギルドに顔を出してくるから。マリーたちは自由にしていていいよ。久々に買い物とかしてきな」
「はい!ありがとうございます」
あまり大勢を連れて行くと目立つだろうから俺はグンナルとオウカを連れて行き、ランカは留守番・・・・もとい、ジョージの下で料理の勉強に励んでもらった。
ワイトはしばらくヒヒイロカネを眺めていたいそうなので自室に篭っている。
マリーは久々に女子三人で買い物に出かけると言ったので楽しんでもらうことにした。もし何か起きたら遠慮なく連絡するように言っておいた。
「へぇ・・・集落はなんというかただの村って感じでしたけどダンジョンの外にはこういう所もなるのですね」
見るもの殆どが初めてなためグンナルやオウカは周りが気になっていた。まあ、合宿メンバー達も似たような反応だし、当然といえば当然か。
「お、串焼き売っているじゃん・・おじさん、バトルバイソンのカルビ串3本お願い」
「あいよ」
屋台から串焼きを三本買い、グンナルに一本渡し、もう一本をオウカに食べさせるように差し出した。
「コ、コウキ様。我々が護衛ですよ!それにギルドという所に向かわなくてはいけないのでは?」
「いいから、いいから・・・別に急いでいるわけじゃないし。こういう場所は楽しみながら行こう」
ジョージのランチを食った後のはずだがこういう祭の屋台みたいなのがあるとつい食べたくなるんだよな・・・うん、美味い。
オウカも嬉しそうに串焼きを食べ、口の周りについたソースを拭いてあげる。グンナルも少し悩んだ様子だったが食欲には抗えず美味しそうに食べた。
その後も屋台とか寄り道しながらギルドへ到着した・・・いやー、やっぱ祭とかいいな。ダンジョンにもこういうの作ろうか・・・あ、でも毎日祭り騒ぎじゃ住民のためにはならないな。
考え事しながらギルドのエントランスに入るといつものように仕事をしているミルさんの姿があった。
「お久しぶりです、ミルさん・・・・ウィリアムさんはいますか?」
「あ、コウキさん・・・申し訳ございません。ギルドマスター今、忙しいみたいで商談ですと今日は無理かと」
ああ、忙しいのなら仕方ないか。それに今日は軽く挨拶しに来ただけだし・・・特に売るものは無いな。
「そうでしたか、では日を改めます。今日は挨拶しに来ただけですし」
「後ろの方は新しくギルドに登録される方ですか?」
ミルさんが俺の後ろに立つグンナルを見ると少し困った様子で首を振った。
「ああ、彼は違いますが・・・そうだなグンナルもギルドに加入するか?」
「いや、自分はコウキ様の護衛ですし」
「コウキ様?」
グンナルが様付けで呼んだことにミルさんが不思議そうに俺を見た・・・あ、そういえば、グンナルたちには様付けはしないように、というの忘れてた
「様じゃなくて・・・さんね。グンナル、以前偉いヒトに使えていたからついそういう呼び方をしてしまうんだ!」
なんか苦しい言い訳だが、ここは押し通す・・・
「そうですか・・・あ、そういえば知っていますか?ゴリランチの店長ぎっくり腰になったそうですよ」
「え?オッチャンが?」
あの巨体でぎっくり腰か・・・かなり大変だろうな。後でお見舞いに行くか。
「ええ・・・町長もつきっきりで看病しているそうです」
「じゃあ、ゴリランチはしばらく休業?」
「いえ、獣人族のアルバイトの方が店長代理として何とかやっているみたいです。今日は定休日なのでお店自体が休みですが」
ジョージお前どこまで出世したんだ!
「へ、へぇ。アルバイトで店長代理とか凄いですね」
「ですよね。料理も店長と互角とまで言われていますし。最近の新作料理もその人が作っているそうですよ・・・私も審査員として食事をしたことがあるのですが、あのラーメンは美味しすぎて、昇天してしまいそうでした」
まさか、あまりの美味しさに『おはだけ』になったのではないよな?
「コウキさんも今度食べに行くべきです!」
「そうだね・・・機会があれば行きます」
もうその人の料理は食べてきたんだけどな・・・・
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市場エリア
一方その頃、買い物を楽しんでいるマリー、テスラ、プラムはというと
「わー、以前よりも服の種類やアクセサリーの数が増えているわね」
路上以上に活気で溢れる市場エリアを見て少し興奮状態になっているマリー。
「最近はダンジョンからの素材も流通するようになったのですよ」
「プラムちゃん、詳しいわね。市場にはよく来るの?」
「はい、Cランクになったので商業ギルドの方達と直接依頼を受けられるようになったのです」
「ってことは、プラムちゃんの服も店のどこかにあるってことね、どれどれ?」
「あぅ・・・少し恥ずかしいので探さないでください」
からかうようにマリーは服を売っている店を片っ端から探そうとするとプラムは恥ずかしそうに彼女を止める。そして呆れたようにテスラは彼女達を見守る。
「あら・・・このアクセサリー。いい素材を使っているわ」
プラムとじゃれ合っていると、宝石店で自分好みのブレスレットを見つけたマリー。高価な宝石はついていないが、細かい装飾はまさに芸術品と呼べた。
「裏に刻印魔法を付与すれば、アクセサリー型の魔道具も作れそうね。お爺さん、これ買うわ」
「ホホホ、お嬢さんベッピンじゃの・・・よし大サービスじゃ、2割引してやるが、尻を触らせてくれたら半額にしてやるぞ」
「あら、ありがとう・・・でもセクハラはよくないわよ。お爺さん・・・」
「お・・おお!そこまて!9割引きじゃ!」
まるで『いけない子ね』という風に人差し指で店長の頭を突くき、モニターで購入ボタンを押した。店長はまるで初心な子供のように顔を真っ赤にして『まいど』といった。
「マリー、今お前・・・」
「え?マリーさん何かしたのですか?それにお爺さんの顔が真っ赤ですよ!」
テスラはマリーが何をしたのか気付いたようで呆れた様子で彼女を見た。プラムは気付いていないようで店長が顔を真っ赤になった理由が分かっていない。
「ふふ・・・ちょっと、老人には強すぎる刺激をね『魅せた』だけ」
夢魔族が得意とする【幻惑魔法】・・・今頃老人は天国にいる気分を味わっているのだろう。
※店長がどんなのを見たのかはご想像にお任せします。
「市場も冒険者の数が増えたみたいだね」
「ああ・・・ダンジョンからの戦利品で大金を手に入れた冒険者がチラホラ出るようになってな。最近じゃ冒険者専用の高級店まで出ているそうだ」
「Aランクの職人さんたちも冒険者さんたちから直接依頼が来るようになったって言ってました」
「ダンジョンの効果がここまで出るなんてね・・・コウキ様はこういうのを狙っていたのでしょうか・・・あら?何かしら?」
マリーたちが歩いているとどこかの店で人混みができているのが見えた。
「あそこってもしかして・・・」
何か気付いたプラムは急いで人混みへ走り出す。
「・・・この服は私が先に購入するのです!後から割ってきたあなたに権利はありません!」
「なによ!いいじゃない!ケチ!」
どうやら商品の取り合いで喧嘩をしているみたいだ。一人はやや高級な服を着た人間の少女、もう一人は軽装な装備を身に纏った冒険者風の魔人の少女。
「やっぱり、ハンクさんの店だ」
「ハンクってたしか、プラムが初めて契約した店長だよな」
「うん・・・是非作って欲しいって言われていくつか作ったの・・・困っている様子だけど大丈夫かな?」
もし、他人であれば素通りして騒ぎには関わりたくない3人だが、プラムの知り合いとなれば放ってはおけない・・・
「というか明らかに二人の仲間っぽい人達、悠長に話をしているぞ・・いいのか?」
2人が言い争っている後ろには似た装備をした魔人族が5人、そしてその隣には魔術師らしき女性と楽しそうに話している姿が見えた。
「あわわ・・・ハンクさん、困っていますよ」
言い争っている二人の間に入ろうとする店長だが、二人の気迫に圧し負けて止めようにも止められない様子だった。
「あ・・・ちょっと待って。魔人の子の様子がおかしいわよ?」
言い争っている二人のうち、魔人の少女は急に顔を真っ赤にしてその場を去ってしまった。何が起きたのだろう?仲間の魔人たちも急いで追いかけに行った。
「どうやら、解決したみたいですね。あら?あの服、もしかしてプラムのじゃないですか?」
「そうです!あれ、あたしが作った服です」
少女が持っていたのは二着のワンピース。現在プラムと同じデザインだったのですぐに気付いた。
「まさか取り合いになるほどとは・・・また依頼が来るんじゃないか?」
「今度は多めに作っておきます」
嬉しいような、困ったような様子のプラムは力が抜けたように返事をした




