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ダンジョン作ったら無理ゲーになりました(旧)  作者: 緑葉
第六章 ダンジョン観光編
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59話 英雄 トレスアール到着

英雄のターン

今回は英雄一行がトレスアールで観光している話です。

「・・・久々のトレスアールですわ。サイ、今日はここで一泊するのよね?」

「姫、ケイトの認識阻害のお守りを持っているからといってはしゃがないでください」

「あらサイ、今回は英雄の仲間、『聖女・セレナ』として行動しているのです。『姫』とは呼ばないでください。それと言葉遣いも昔のままで・・」


トレスアールに到着した才一行。かつてアルヴラーヴァを救った若き英雄達が堂々と街中を歩いていられるのは宮廷魔導師団・団長、ケイトによる『認識阻害』の効果を持った魔法具を身につけているからである。


「はぁ・・・それじゃ俺とスイはギルドに行っている、お前達は先に旅館に行ってくれ。仕事が終わったら旅館に行くから」

「あいよ・・・終わったら連絡をくれ」


ヒュウ達と一度別れた才たちはギルドホールがある方角へ向かった。


「トレスアールも以前と比べてさらに活気付いてきたな」

「そうですね、やはりダンジョンに近いというのがあるのでしょうか?冒険者関係の物を売っている店が以前より増えています。品質もかなり上がっていますね」


ギルドの市場エリアでもないのに祭のように道端には屋台が陳列。そこに並べられている道具や武具は王都に匹敵するほどの品質や性能を持った商品が並べられている。


そんな時、才は果物屋の店長が持っていたナイフに目が止まった。


「・・・スイ、ちょっと待ってくれ。店主、このナイフを見せてもらえないか?」

「ああ・・・すまない兄ちゃん。これは売り物じゃないんだ。この前鍛冶師の少年が『いつも沢山果物をサービスしてくれるお礼』と言ってな。これが凄い切れ味で使いやすいんだ」

「そうか。邪魔をしたな、そこの右端のりんご2つくれ」


才はナイフを少し見ると、残念そうな顔のフリをして並べられている一番品質の良いりんごを購入した。


「おや、良い【鑑定スキル】を持っているね。まいど」


・・・・・・・・・・


「才様、今のナイフがどうしたのですか?」

「ああ・・・今の果物ナイフ、ユニーク武器だったから珍しいなと思って」


ユニーク武器。それは【鍛冶スキル:レベル5】以上を持つ者だけが極稀に生み出される激レアの武器。これまで才もいくつものユニーク武器を見てきたが果物ナイフのような家庭向けのユニーク武器は見たことがなかった。


「たしかに、基本的にユニーク武器は戦うために生み出されたものですから・・・もしかして食材と戦うための武器だったのでは?」

「はは・・・確かに料理人とかだったらそうなるな」


そんな風に話しているとあっという間にギルドに到着し、認識阻害のお守りを外して受付嬢のミルに挨拶をする。


「やあミル。ウィリアムはいるか?」

「あ・・ギルマスでしたら・・『社長!お待ちしておりました!』・・もう来ています」


巨体の老人はズシズシと音を立てながら階段を降り、才たちの元へ走ってくる。


「ウィリアム。ギルドの中では走るな。お前はここの支部長なんだぞ」

「これは失礼しました。しかし、社長がいらっしゃるのに急がない理由はありません!到着したときに連絡をくだされば我々が迎えに行ったのに」


まるで過保護な老人、ウィリアムは嬉しそうに頭を下げながら才と話している。ウィリアムのような有名人・・・いや存在感のある人物が街中に現れたら『認識阻害』の魔法具でもすぐに正体がバレるから連絡を入れなかったのは才たちだけの秘密である。


「そういえば、ヒュウ殿や姫様は来てはいないのですか?」

「あいつらは一度宿に行ってから観光してくるって言ってた。俺は先にここでの仕事を済ませて宿に戻る予定だ」

「そうですか、ではすぐに済ませましょう。部屋の準備はカンナがすでに整えていますのでこちらへ・・・」

「相変わらず仕事が速いな」


・・・・・・・・・・・・・・・・

旅館


「こちらが男性部屋、あちらが女性部屋となっております。何かございましたらすぐにお申し付けください」

「サンキューな、ミキティさん・・・さて、ここに来たからにはさっそく温泉だな」

「それには同意。ここの温泉は滋養効果が高い、日々の疲れを癒すにはもってこいでござる」

「だな・・・そうだヒスイ、後で卓球もやろうぜ。たしか娯楽部屋に設置されていたはず」

「望むところでござる」


ヒュウとヒスイが温泉に行くことに盛り上がっていると、女性陣はすぐに買い物に出かける計画を立てていた。


「カイナ、マヤ、さっきお店で綺麗なアクセサリーを見つけたのですけど。すぐ見に行きませんか?」

「そうですね・・・久々に色々と買い物を楽しみましょう」

「マヤ、美味しいご飯が食べたいにゃ!」


・・・・・・・・・・・・・・

ギルド


「・・・なるほどな。ダンジョンの魔物の成長。調査部隊はそう踏んでいるわけか」

「はい、5階層以上を探索している冒険者たちからは成長した魔物に遭遇した報告は受けておらず。目撃されているのは特に冒険者が多い1~3階層なので」


才はダンジョンに挑んだ冒険者たちが集めた大量の資料に目を通しながら現状の分析を行っていた。


「その読みは多分あっているだろう。おそらく今までダンジョンに生息していた魔物たちは何かしらの理由で成長しなかったあるいは出来なかったのかもしれない。だがある日を境にその枷が外れ今まで貯めこんでいた経験値が入り、上位種へと進化」

「しかし、それが本当でもこの数は異常です。冒険者側もこれまで数多くの魔物の討伐に成功しています。そんなに生き残りがいるとは」

「もし、魔物も冒険者と同じ条件だったらどうだ?」

「・・・どういう意味でしょうか?」

「つまり、今まで何千も生まれたと思っていた魔物が実は何度も復活していた百程度の魔物だったら」


それを聞いた瞬間ウィリアムはハッとした表情で資料をもう一度見直した。


「魔物の固体の姿なんて冒険者は見ていないからな。同一のゴブリンに出会ったとしても以前と同じゴブリンとは思いもしないだろう」

「た、たしかに。それならこの数には納得がいきます。しかし何故・・・こんなことを」

「その確認のために今回俺達がやってきた。一応、これはまだ仮説段階だからまだ公表はするな・・・まあしたところで信じる奴はいないだろうが」


挑むたびにダンジョンに生息する魔物も強くなる。しかも、いくら討伐が出来ているからといっても未だに毎日何千もの冒険者達が敗北し転送されている。一体どれだけの戦闘経験をあそこの魔物は繰り広げているのだろうか・・・そう考えただけでウィリアムの背筋が凍りつきそうだった。


・・・・・・・・・・・・

市場


「可愛い服!これがこの値段なんて信じられませんわ。少なくともあと5割値段が高くても買ってますわね」

「お嬢さん良い目しているね。その服はCランクの職人が仕立てたものさ。まあ本当ならもっと値を付けたいんだけど、Cランクの職人が作った物だとその値段が決まりでな」

「店主、その職人が仕立てた服は他にもありませんか?」


買い物を楽しむセレナたちは市場に並べら得ている服やアクセサリーを見回りながら楽しんでいた。


「ええ・・・たしか、もう一着あったね・・・ああ、あったこれだ」

「あら、素敵・・では『店長!その服私が買うわ!』・・・この声は」


セレナが嫌そうな表情で後ろを向くとそこには悪魔尻尾を生やした軽装備に色んな宝石を身に着けた少女の姿があった。そして後ろには大量の荷物を持たされている部下たち。


「あれ?テオ王国の姫じゃない?何でここに?」

「・・・戦闘姫バーサーカー・プリンセス・・それはこっちのセリフです」

「あたしはもちろんダンジョンに挑戦しにね・・・まあ11階まで行ったんだけどこいつらがへばっちゃったし、道具も色々と貯まったから一度ここに戻って換金を済ませに来たの」

「そうですか・・・それより、この服は私が購入するので譲れません」

「何よ、さっき似た服を買ったの見たわよ。一着持っているなら譲りなさいよ!」

「譲れないものは譲りません!そもそもなんですそのアンバランスな格好は。軽装な外見に派手な宝石・・・あなたは王族なのか冒険者なのかどっちなのですか!」

「両方よ!この腹黒銀髪!」

「お黙り、戦闘狂悪魔!」


2人がいがみ合っているうちに周りには野次馬が集まり出し完全に見せ物状態になっていた。そんな彼女達の部下と仲間達はいうと・・・


「アッシュ久しぶりね。相変わらずフィロ様のお世話を?」

「ええ・・・待機命令が解除された瞬間に引っ張られる形で。ダンジョンでも振り回されまくりですよ」

「お互い、破天荒な王族を持つと苦労するわね」

「そうですね・・・ところで、皆さんがいるということはもしやヒュウ殿もご一緒に?」

「ええ・・・今頃旅館で温泉に浸かりながらゆっくりしているわ」


ヒュウの名前を聞いた瞬間フィロはいがみ合っていたことをすぐに忘れ、思考が停止した。


「ヒュ・・ヒュウが温泉」


一体何を想像したのか分からないが。やや色黒の肌が真っ赤に変色し頭から湯気みたいなのが出始めた。


「・・・今回の勝負は私の負けで構わないわ。皆!急いで旅館に向かうわよ!」


フィロは急ぎ足でその場を去り、お供のアッシュたちも一度お辞儀をして荷物を抱えながら追いかける。


「・・・ふぅ、やれやれ。店主、その服を包装して魔国ゼノまで送っていただけるかしら?」

「毎度ありがとうございます」


・・・・・・・・・・・・・・

旅館


「ふぅー、気持ち良かった。やっぱり温泉は最高だぜ」

「そうでござるな・・・カグツチにも温泉はあるが。ここの温泉もなかなか・・・」


温泉を堪能したヒュウとヒスイはそのまま娯楽部屋に入り設置されている卓球で遊んでいた。


「くらえ!『紅氷弾』!」


玉を打つ瞬間、冷気を纏ったラケットによるスマッシュ・・・いったい何のい意味があるのか分からないが、キメ顔で言うヒュウ。


「なんの・・『避雷針』!」


電気を帯びた玉はまるで磁石のようにラケットに吸い寄せられる。


「あ!ズリィ!」

「先に魔法を使ったのはそっちでござる!『緑雷撃』!」


そして、まるでレールガンのように緑色の電気を帯びた玉がテーブルにバウンドしヒュウをすり抜ける。


「まず一点」

「汚い・・・さすが忍者汚い」

「・・・意味が分からんでござる」


そんなやり取りをしながら魔法卓球を続けている2人。いつの間にかギャラリーが増え二人の戦いを観戦していた。


「よっし、次のポイントを取った方が勝ちでいいな?」

「よかろう・・・負けた方が若の顔に『社畜』と落書きでござるな」


20代とは思えない低レベルな罰ゲームを決め、ヒスイのサーブを返そうとした瞬間。


「ヒュウ!やっと見つけたわよ!」


悪魔少女のドロップキックによって吹き飛ばされるヒュウ。もちろん玉はそのまま床に転がっている。倒れるヒュウにまたがるように乗っかったのは浴衣姿のフィロ。悪魔娘に浴衣というマッチにグッと来たの気持ちはヒュウの胸の中にしまう。


「うげ!フィロ!何でここに!」

「ひ、久しぶりねヒュウ。あんた汗だくじゃない、これから温泉に入るの?」

「いや、もう温泉には入ったから軽くシャ『温泉に入るわよね?』・・・はい」


フィロの気迫に圧し負けたヒュウは何も言い返せずフィロに引っ張られる状態で娯楽部屋を出る。その時すれ違った浴衣姿のフィロの部下達と目線が合うが『後はお願いします』と言いたい風に合掌された。


・・・・・・・・・・・・・・・

旅館


「ふぅーただいま」

「ただいま戻りました」


ギルドの報告書が予想以上に多く才が戻ったのは夕方頃だった。


「おかえりなさい。どう?新しいダンジョンの情報は得られた?」

「ああ、明日エイミィにあって最終確認だ。・・・ところで、ヒュウはどうしたんだ?」


褐色肌のヒュウはまるで茹蛸のように真っ赤になってのぼせていた。


「ゼノ王国のフィロメール姫もこの旅館に泊まっていたそうで。ヒュウは彼女と一緒に温泉に付き合わされたのでござる」

「フィロが?・・・まあ、あの性格を考えたらここにいるか。っでヒュウは混浴を楽しんだのか?」

「・・・いいや、途中でフィロが『何アホなこと考えているのよ』とか言って俺を男湯に突き飛ばした。その後ずっと風呂に入りながら長話につき合わされたわけ」


つまり、フィロメールは最初勢いで混浴に連れて行こうとしていたが途中で理性が戻り恥ずかしさのあまりヒュウを男湯に突き飛ばす。その後、ヒュウと話をしていたいがために女湯からずっと話をして4時間ぐらい拘束されていたそうだ。


「あんたも律儀に相手していたわね・・・その辺は素直に褒めてあげるわ。堕天使のくせに」

「うるせぇケイト・・・ってかあいつ俺に恨みでもあるのか?マジで死にそうだったぞ」


そんなことを言うヒュウにその場にいた全員が深いため息を吐いて呆れた。

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