4話 フレイバーテキストを作ったら個性が生まれました
書いていたら長くなったので、二話に分けて投稿します。
感想、誤字などありましたら是非お願いします。
フレイバーテキストとはトレーディングカードゲームのカードの文章欄に書かれている、ルール文章でない文。雰囲気や世界観をあらわすために使われる。
俺がダンジョンを作っているとき、このフレイバーテキストはすでにいくつも書き込まれていた。元々エイミィが作っていたプログラムを俺が完成させていたため、彼女が書き込んであるものはそのまま残した状態にしてある。フロアボスのデータも殆ど彼女がすでに作っていた。彼女が書いたフレイバーテキストは主に、フロアボスたちの性格や趣味など、戦闘には関係ないものばかりだった。そういう裏設定があるのも面白いと思い、俺も新たに追加したフロアボス達にフレイバーテキストを書きこんだ。
そのボス達が俺の目の前に現れるとは思いもしなかったが。
全員が着席すると俺はテーブルの中央にスクリーンを映し出した。
「今回、初めてのダンジョン挑戦者がきた。その映像を皆に見てもらいたい」
映像には今日入ってきた兵士達の戦いっぷりが映し出されている。
「軟弱だな」
「こんな弱さでよく、ここに挑もうとしましたわね」
リンドとカルラがそれぞれ兵士たちの戦いに呆れながらコメントしている。他のボスたちも思っていることを口に出しては真剣に見ていた。そして、最後の兵士がサラマンダーに倒されて光の粒子になって消えたところで映像が切れた。
「とまあ、こんなところだ。それぞれ思うことがあるだろうがまずは聞いてくれ。正直言って、俺はこの世界のこと、ダンジョンのことを知らなかった。知らないでお前達を生み出した。だからまずは謝らせてほしい。自分の身勝手でお前達を作ったことを本当にすまなかった」
俺が皆の前で頭を下げると全員が驚いた顔で動揺していた。
「コウキ様!コウキ様が謝ることはございません!むしろ我々は感謝しています。コウキ様に授けてくれたこの命、そしてこの住処を与えてくださったことを」
代表としてメリアスが言い出す。
「そうです!私達がここにいられるのはコウキ様のおかげです。どうか顔を上げてください」
「我々は常にコウキ様と共に歩むことを誓っております。ですからそのようなことで頭を下げないでください」
カルラとリンドも頷きながら言い出す。
「コウキ様。コウキ様はこのダンジョンを作るとき何をお考えになったのですか?」
俺に質問してきたのは地下11階層のフロアボス、魂魄の悪魔姫ミーシャだった。ヴァンパイアのような白い肌に真っ黒いドレス。二つ名を考えるとき、悪魔か吸血鬼にするか迷った。
「私にはこのダンジョンに込められた感情、想いなどを視ることが出来ます。このダンジョンはコウキ様、エイミィ様の思いが込められています。私達はコウキ様、エイミィさまの望むダンジョンへ近づけるお手伝いがしたいのです」
魂魄の悪魔・・・その二つ名のとおり精神と肉体を司る悪魔で、彼女には特殊能力として『心眼』という目に見えないもの、主に感情、心、想いなどを見透かすことができる。そういうフレイバーテキストに書き込んでいるのを思い出した。設定のつもりだったが、まさかこんなチートスキルになるとは思わなかったが。
ミーシャの言葉に再び全員が頷く。
「俺はゲームプログラマーとして絶対クリアできないダンジョンは作りたくない、だがそれだとエイミィを守るダンジョンとして矛盾ができる」
エイミィを守る要塞のダンジョン。だがゲームプログラマーとして無理ゲーは作りたくない。今のダンジョンではエイミィを守ることはできるが、このダンジョンに挑戦する冒険者は減っていくだろう。
「なるほど、確かにそれは難しいですね」
「挑戦者の目的がエイミィ様の可能性がある限り、攻略はさせたくはない。かといって手を抜くのも」
「あの、すみません質問をいいですか?」
手を挙げたのは地下33階層のフロアボス、カルラだった。
「なんだい、カルラ?」
「こういう質問は失礼かと思うのですが。そもそも、何でダンジョンなのでしょうか?守ることを意識するのでしたら、お城や砦でも構わなかったのでは?」
カルラの質問にほかのフロアボスたちが睨みつける。それを見たカルラが縮こまってしまった。
「カルラ!なんてことを言うのだ!それはコウキ様とエイミィ様へ侮辱とみなすぞ!」
リンドの怒りで体中の皮膚に龍鱗が浮かび上がっている。相当怒っている証拠だ。
「落ち着けお前ら!リンド、鱗を抑えろ!カルラ、お前は何も間違えていない!その疑問は正しい」
皆を落ち着かせるために、一括いれて場を沈めた。そしてその質問を答えたのはエイミィだった。
「その質問は私が答えるわ。カルラ、確かに私を守る意味ならダンジョンという形じゃなくてもいいの。・・・・・・でもダンジョンじゃないと意味がないの」
「ダンジョンじゃないといけないって・・・どういう意味だ?」
俺が質問すると、エイミィは真面目な顔で皆に顔を向けた。
「私にはこの世界の住民に恩恵を与える役目があります。私を信仰してくれる者たちに生きていくために役立つ『スキル』を与えること」
それは以前にも聞いた。その与える力を独占しようと各国で『神狩り』が広まっている。
「だた与えるだけではないのです。私は人々が成長させるために『試練』も用意しないといけないのです。それが、ダンジョンでなくてはならない理由」
なるほど、エイミィはそういうことを考えて俺にダンジョンを創らせたわけか。
「なるほど、そこまでお考えでしたか。では我々はエイミィ様を守るだけでなく人々の成長を担う役目もあるということですね」
カルラの言葉にエイミィが頷く。それを見たフロアボスたちの表情はやる気に満ちていた。
「それにこちらの方が重要なのですが、このダンジョンを維持するには魔素が必要なのです」
「魔素?」
聞いたこともない単語に俺が首をかしげるとエイミィが答えた。
「ええ、魔素というのはこの世界に存在する魔力の源。人々はこの魔素を操りスキルや魔法を行使します」
なるほど、ゲームとかに登場する『マナ』みたいなものか。
「その魔素ってのはどうやって生み出されるんだ?」
「魔素はヒトの生命エネルギーが放出されることで生み出されます」
・・・スマンがその説明だと分からない
「簡単に説明すると、戦うことで魔素が出来るのです。先ほどの兵士達の戦いでも少しではありますが魔素が放出されダンジョンに取り込まれました」
エイミィが総説明するとフロアボス達が感心した反応を見せる。
「つまり、より多くの挑戦者がこのダンジョンに入り戦えばそれだけ魔素が貯まる訳か」
「その通り、ダンジョンの維持もありますが、それに魔素はダンジョンの魔力として貯めておくこともできますから、余った魔力でダンジョンの改造などが自由に行えます」
なるほどダンジョンの内部をカスタマイズするには魔力が必要となるわけか。より多くの冒険者達を呼びこむためには今の難易度だといずれ誰も寄り付かなくなるのは目に見えている。
ゲーム開発の経験者だから言えることだが、初回から難易度の高すぎるゲームはユーザー離れの一因となる。例えエイミィという宝があるとしても無理だと判断されたら誰も寄り付かなくなる、それはエイミィを守ることに繋がってももう一つの目的が達成できない。
その後、フロアボス達と色々と話し合いまとめに入った。
「さて、話をまとめるが。俺たちはダンジョンを運営していかないといけない。そのためにも多くの冒険者たちがここを目指す必要がある。それと同時にエイミィを狙う輩を排除しないといけない。今のところ、ここはエイミィの住処と認識されている。危険な行為ではあるがダンジョン運営のためより多くの挑戦者を呼びこもうと思う」
「具体的にはどのようなことをするのですか?」
俺が話すとミーシャが申し訳なさそうな顔で質問してきた。
「まずこのダンジョンには財宝があると広める」
「財宝・・・ですか?」
「ああ、このダンジョンにはエイミィではなく宝や貴重な鉱石が出ることを広めるんだ」
ここのモンスターは倒すとアイテムをドロップするようになっている。どうやってアイテムが落ちる仕組みなのか分からないが、エイミィ曰く、ゲームと同じように倒されたモンスターは消えて、アイテムが地面に落ちるそうだ。落ちるアイテムもプログラムで登録したとおりの物がランダムで落ちるらしい。ドロップアイテムの中にはレアな武器や鉱石も入っている。
「それはどうやって広めるのですか?」
「もちろん、この教会発信機で広める」
俺がエイミィの顔をチラッと見ると全員が納得した表情だった。当の発信機はキョトンとした顔でいたが。
「・・・・はい?」