52話 集落を救ったら住民が増えました
邪神・ザズムフを退けた後、集落は慌しくなった。
まずこれまで作った刻印兵器の廃棄。これは意外とスムーズに進み、マリーやナギたちが一つずつ刻印を書き換えて処理をしている。
次にザズムフとの戦いで倒壊した建物の残骸の掃除。これは護衛メンバーたちが率先して手伝ってくれている。何でも「今回の護衛は殆どエドワード様に任せていたのも同然」と言って少し落ち込んでいたから、掃除の手伝いを頼んだ。元々力自慢のメンバーだったからかなり張り切ってやってもらっている。
エドは未だ魔力が回復していないから俺用に用意していた天幕で休んでもらっている。そして、俺はもう一つ用意してある大きめのテントで三人の集落の長たちと話を行っていた。
なんでも、亜人の集落はこの森にあと二つ存在し北、東、西、計3つの集落があるそうだ。今回俺達が救ったのは北の集落で、東と西の集落の長たちは事態を把握すると深く謝罪と俺達にお礼を述べた。
「「この度は我らの同胞を救っていただき真に感謝します」」
西の集落の長は有鱗族とドワーフ族のハーフのオジサン、東の集落の長は妖人族と獣人の混血女性で、タマモみたいに複数の尾を持っているがそれぞれ違う動物の尻尾を持っていた。ちなみに北の集落の長は獣人とエルフのハーフエルフ・・・かなり長い兎耳が特徴だ。
「そんな・・・俺達こそもっと早くここに来ていればこんなことには・・・」
照れ隠しでもなく、これは本心だ。ノフソの森にある集落のことを知ったとき、俺はダンジョンを作るよりも先に彼らに会うべきだった。森には多くの冒険者達がやってくるにも関わらず俺はしっかりと彼らとコンタクトを取ろうとしなかった。
「何を言いますか!救世主様たちのおかげで我々は邪神に遭遇してもなおこうして生きていられたのですから!」
「「じゃ・・邪神ですって!」」
邪神と聞いた瞬間、2人の長達は目を見開いて驚いた・・・やっぱりそんなにヤバイ奴だったのか?ちなみに、救世主とはエドのことで俺達は救世主の仲間と勝手に勘違いしているが、面白そうだからそのまま放置にしている。
「邪神に遭遇したらまず命は助からない・・・奴らが通る道は全て死と言われていますから」
「ですが、そんな邪神の攻撃もエドワード様は我らをお守り・・・しかも、倒してしまわれた!これを救世主と言わずなんと言うのですか!」
北の長は興奮した様子で、エドの武勇伝を語る。まあ、邪神の攻撃を防ぐあの結界・・・あれはかなり高密度な結界で【絶対防御】のスキルが付与されている。もちろん消費する魔力も半端無いのだが、エドは躊躇せず俺達全員に結界を張った。もし、あの時俺達がいなければもっと戦いやすかったのかもしれない。
・・・本当、今更思うがあいつもある意味邪神クラスにヤバイ魔術師だなと思う。
「それで、コウキ殿。救世主様の御様態は?」
「ああ、魔力の使いすぎで今は眠っている。少しすれば目は覚めるさ」
そう説明すると長達は「おおぉ」と言って安心した。
「それより、これからのことを考えましょう・・・現状、集落は壊滅と言っていいくらいの被害が出ています。しかもザズムフが放った呪詛もわずかに残っており作物が育つまで回復するにはまだ時間がかかります。北の集落はこれからどうする予定ですか?」
俺が話を持ち出すと長たちは暗い表情になる。それもそのはず、もう直冬になるのだから。食料はルヌプ兵たちが食い漁ったせいであまり残っていない、東と西の集落もダンジョンに挑む冒険者達が増えた聖であまり外に出られず自分達のことで精一杯なのだ。北の集落を半分ずつ受け入れたとしても食料が圧倒的に足りない。
「・・・そこで提案なのですが。北の長、東の長、西の長・・・集落の住民全てダンジョンに移住しませんか?」
『え?』
俺の提案で目を丸くさせる三人の長。
「ダンジョンとは・・エイミィ様がおられる『聖域』のことですか?」
「そうです・・・あそこには食べ物も住める領地も十分にあります」
彼らにとっては願ったり叶ったりの提案・・・だが北の長は断った。
「その提案はとてもありがたいです・・・ですが我々にはその資格がありません・・・こんな汚れた血を持つ亜人がエイミィ様のそばにいることなんて許され『資格など必要ありません』・・・え?」
北の長が俺を見ると目の前に表示されているモニターにエイミィの姿があった。彼女には事前に報告してあり、念のため彼女にも隠れて話を聞いてもらっていたのだ。
「「「も、もしやエイミィ様?!」」」
三人がエイミィに気付くとひれ伏すように頭を下げる。そのスピード、わずか0.5秒・・・
『頭を上げなさい・・・ノフソの住民よ。今回の騒動の責任は私達にあります。私達がダンジョンを作り上げたせいであなた達の生活を苦しめてしまいました・・・本当に申し訳ございません』
珍しく頭を下げるエイミィの姿に三人の長が慌ててしゃべり出す。
「そ、そんな!我々の先祖はエイミィ様、セフィロト様に救われました。我々も今もこうして生きていられるのは3大神様のおかげなのです。我々はエイミィ様に深く感謝しております!」
「その通りです、我々は一度たりともエイミィ様を恨むようなことも、疑うこともありませんでした!どうか頭を上げてください!」
必死に弁護する亜人達・・・本当、この人達はエイミィのことを崇拝しているんだな。・・・素の状態はあれだが。
『ありがとう・・・ですが、せめてあなた達の身は守らせてください。今回の騒動、裏で邪神が動いていました。再び邪神があなた達を狙うか分かりません。それに、ルヌプもいつまたやってくるか・・・』
それを聞くと、三人の長達は不安な様子を見せた。
『先ほどあなた達には、ダンジョンに住む資格は無いと仰いましたね。・・・そんなことはありません。あんた達はどの国よりも長くこの森に住み、どの種族よりも私のそばにいました・・・どの国よりもあなた達には住む資格はあるのです』
ニッコリ微笑むエイミィを見た三人の長は感激のあまり泣きながら頭を下げる。
「「「我らノフソの森に住む者!エイミィ様と共にあります!」」」
どうやら話は纏まったみたいだ。俺は外を見ると覗き見していたナギとナミを発見してこっそりと外に出た。
「っよ、ナギ、ナミ・・・これからは一緒にいられるな」
そう言ってあげると、双子は無邪気な笑顔を見せた。
「ねぇ!コウキさんって、もしかして神様の御使い?」
ナミが興味津々に質問してきたから俺も笑顔で答えた
「・・・いいや、『大魔王』さ」




