50話 住民を救ったら邪神が現れました
「・・・よし、作戦決行だ。頼むぞランカ、オウカ、マリー」
『御意!』
俺が合図を送ると入り口のほうからオウカの咆哮が聞こえた。
「何だ?!一体何が起きた!」
「隊長!集落の入り口に巨大な狼が出現しました!」
「っち!こんな時に・・いや、丁度良い。お前ら!さっそく新兵器を使う時が来たぞ!すぐに準備しろ!」
『っは!』
隊長らしき人物が兵士達に指示を出し、新作の兵器を手にとって入り口に出る。すると、目の前には全長6メートルを超えそうな灰色の毛を持つ巨大な狼がこちらに突進してくるのが見えた。
「あれは・・・グレートウルフか?くっ!撃て!撃つんだ!奴をこの中に入れてはならん!」
男が構えたのは巨大な大筒。中には刻印魔法が刻まれた爆弾が敷き詰められている・・・ルプヌにとって最新の兵器、そして光輝の世界、つまり地球ではその武器をこう呼んでいる。
『爆弾発射機』
男がまず大筒に刻まれた【放出刻印魔法】を発動させ、中に詰まれている爆弾を飛ばす。このとき、爆弾には【二度目の衝撃】に爆発する条件付きの刻印が刻まれている。つまり、放たれた爆弾は対象に触れた瞬間爆発する。
まるで、大量の爆弾が降り注いだかのような爆発音の連鎖。辺りの土は巻き上げられ、地形がみるみる変わっていく。
「よし今だ!たたみかけ『無駄だ!』・・・んな!」
土煙がおさまるとそこには無傷のオウカの姿があった。だがさっきまでの毛の色が異なる。灰色の体毛は闇の如く真っ黒に染まっている。
「ふむ・・コウキ様から警戒するようにと言われていたが思ったほどたいしたことは無かったな」
余裕の表情を見せるオウカ。
「うぁ・・・アレを耐えちゃいますか。さすが魔天狼ですね、攻撃が殆ど通じていない」
「うん・・・ウチもさすがにあれをモロにくらって平然としている自信はないな」
魔天狼の特徴・・・それは毛を魔力を通して硬化させる能力。全身を覆う美しき毛は鋼の如くの強度を持ち、柔軟性も備わっているため一部の商会では貴重な素材としても取り扱っている。
「さて・・・ウチ等も行くか!」
「了解!」
兵器が使い切られたのを確認すると後ろにいたマリーとランカが兵士に向かって突撃する。
「な!まだいたのか・・・ええい!相手は女だ!怯むな!」
「そっちが刻印を使うならこっちも使いますよ!」
マリーが取り出したのは二丁の拳銃。それは技術開発部門の担当者、ゾアが開発した魔法武器である。光輝の護衛としてマリーも同行したことを知ったゾアは彼女に技術開発部門の秘密兵器を手渡していたのだ。今度はしっかりと光輝を守るようにと・・・・
銃の先端にはいくつもの刻印が刻まれており、魔力を注ぎ込むことで弾の種類を選び発射することができる。チャージ弾、拡散弾、レーザー弾、誘導弾、更に専用のアタッチメントをつけることで属性も付与が可能。
次々と放たれる魔弾の雨に翻弄される兵士たち、そしてその隙をついてもう一人の女性が兵士たちを狩り始める。
「オラオラ!よそ見してんじゃないよ!」
獣人・虎種のランカの格闘術によって兵士たちは次々と宙を舞う。
「ば、化け物どもめ!」
「うげ!まだ持っていてのか!」
兵士の一人が隠し持っていた小型の爆弾を投げつける・・・不意を突かれたランカはとっさに見を守る体制に入る。
だが次の瞬間、爆弾はマリーの拳銃からはなられた『特殊弾』が命中し不発となった。
「んな!何が起きて・・・なんで爆発しない!」
「マリー?!今のどうやって」
「ふふふ・・・刻印を封じさせていただきました」
ランカが足元にある爆弾だった弾を見るとまるでペイント弾のような液体がくっついていた。そしてその上から光る刻印が浮かび上がっている。
それが技術開発部門が生み出した『封印弾』。元々は研究していた刻印魔法などが暴走しかけた時のストッパーとして使用していたがそれを武器として使えないかと考えて開発されたもの。偶然今回の任務で使えそうだと思い、ゾアからデータ採取という目的も含めて手渡されたものであった。
「そ、そんな・・『テメーは寝てろ』・・・ぐふ」
最後の兵士を倒れたのを確認すると全員が一度集結する。
「むぅ・・・殆どマリーとランカが倒してしまったか。自分は盾しか活躍が無かったぞ」
「まあ、いいじゃない。オウカ凄くカッコよかったよ」
「そうそう、ウチも惚れそうになりそうなくらい勇ましかったで。絶対女性獣人にモテるよ」
「むぅ・・・雌として喜んで良いのだろうか?」
「「え?雌?」」
今になってオウカの性別を知った二人であった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
集落裏側
マリーたちが戦闘を開始する少し前
「・・・よし、作戦決行だ。頼むぞランカ、オウカ、マリー」
『御意』
俺が合図を送るとオウカの咆哮が聞こえ
「よし、グンナル今だ!」
「御意!おらあああああ」
グンナルの拳による一撃によって集落を覆っていた壁は大きな風穴を開けた。破壊される音もオウカの咆哮によってかき消され、こちらに気づかずに済んだ。
「よし、いくぞ」
・・・・・・・・・・・・・・・
収容所
「入り口の方でデカイ狼が出たらしいぞ」
「へぇ、まあ最新の兵器を試すには丁度いいんじゃないか?俺も試したかったぜ。こんな気持ち悪い奴らを見ているより戦ってりうほうが何十倍もマシだ」
「だな・・・」
収容所として使われいる建物に潜入すると予想通りまだ見張りが数人残っていた。兵士たちはお気楽に談笑をしている様子でこっちには気付いていな。
そして兵士達の奥には爆裂魔法の刻印が刻まれた首輪をつけた亜人達たちが集められている。皆かなり衰弱している様子だ、殆ど気力で持っている状態じゃないのか?
「あれが捕まっている亜人ですね・・・早く何とかしないと!」
「待てグンナル。エド、あの兵士が持っている水晶って・・・」
「はい、おそらくあれが首輪と連動している物です」
兵士の一人が水晶球を放り投げたりして遊んでいるのが見える。そして、投げるたびに亜人ちの反応を見て楽しんでいる。
ああ・・・まただ。なんか頭の中が真っ白になりそうな気分。
「エド、グンナル。分かっていると思うがまずは救助が先だ、暴れるのはその後だぞ」
『御意』
俺はモニターを開き、『スキャン』を行使する。水晶球のデータは思ったよりも容量が多く少し時間がかかったが完了する。
「よし、『削除』!」
エンターボタンと同時に水晶球が消滅。驚いた兵士たちにグンナルの突進が直撃し壁もろとも破壊した。
「エド!皆に回復魔法をかけてくれ・・・かなりヤバイ」
「っは!『領域回復』!」
エドの回復魔法によって意識を取り戻した亜人達。
「あ、あなた達は・・・」
「今すぐ、その首輪を外します・・・エド、グンナル、誰も近づけさせるなよ!」
俺の指示でエドは結界を貼り、グンナルは向かってくる兵士たちの相手をする。俺はモニターを開き、全員の首輪にスキャンをかける。
「数が数だな・・・もう少し待ってくれ『そこまでだな、侵入者』」
モニターでロード時間を確認していると、後ろから立派な鎧を身につけた男がやってきた。どうやらこいつがここの責任者みたいだな。しかも後ろにはまだ兵器を持った兵士たちが次々とやってくる。
「はじめまして・・・私はルヌプ軍・ダンジョン攻略部隊所属のコーザ・マッカートニー中佐だ。ずいぶん単純すぎる手だな・・・そんなものが成功するとでも思ったか?」
マッカートニーと名乗る男が取り出したのはさっきオレが消した水晶と同じものだった。
「これは今も兵器を作っている亜人共につけた首輪の分の爆破装置だ・・・残念だったな」
まさに漫画に出てきそうな外道がしそうな勝ち誇った笑み。そして魔力を注ぎ込み発動させる
「ふはは!残念だったな。助けたかった亜人たちは全員『コウキさん!作業員全員助けました!』・・・んあ!」
これもテンプレだろう・・・さっきまで外道の笑みから、ギャグ漫画顔負けのびっくり顔に変貌。
グンナルが空けた穴から、ナミとナギ・・・さらに、爆弾を作らされていた亜人たちの姿があった。
「馬鹿な・・・!何故爆発しない!あいつら今も首輪をしているじゃないか!」
現状を受け入れられないこの男は何度も『何故』と連呼している。
「その首輪を作ったのは誰だ?その気になれば『自分達』の首輪くらいすぐに書き換えられるんだよ」
そう・・・首輪なんてこの人たちにとってはただのアクセサリーに等しい存在。ただ、彼らはご先祖から言われていきた外からの恐怖によって逆らえなかっただけ。
マリーたちの陽動で多くの兵士たちが入り口に集中している間に、俺達は人質、そしてナギとナミたちには作業場に向かって、全員の首輪の刻印を書き換えるように指示をしたのだ。
「ふ、ふざけるな!我々はこの兵器でダンジョンを!・・・神・エイミィを手に入れる・・ぶふぉあ!」
男が言い切る前にまたリミッター解除して殴ろうとしたがその前に、エドの魔弾が男に直撃し、後ろにいる兵士もろとも吹き飛ばす。
「その程度の武器でダンジョンを攻略できると思うな・・・・我々のダンジョンを舐めるな!」
どうやら美味しいところはエドに持っていかれたようだが・・・まあ、また骨折しなくて済んだしいいか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
集落
「・・・さて、こいつらはどうしようか」
俺達の前には縄でグルグル巻きにされたルヌプの兵士たち。
「その前に聞いておかないとな・・・お前たち、何故あんな爆弾をダンジョンに仕掛けた」
「何のことだ?爆弾をしかけた?・・・確かにあの兵器はダンジョン攻略として利用するために開発したがまだ使っていないはず・・・」
「とぼけるな!ダンジョンでお前たちが作らせた爆弾がダンジョンで見つかったんだ!危うく被害が出るところだったんだぞ!」
「知らん!我々は知らない!」
必死な顔をするマッカートニーの様子からして嘘はついていない・・・じゃあ、誰が?
「もう良い・・・その男たちはもう用済みだ」
「え?」
俺が振り向いた瞬間、集められたルヌプの兵士たちが火柱によって包まれる。
「な!」
一瞬ルヌプ兵達の叫びが聞こえるが、すぐに火柱の轟音によってかき消される。そして、火柱を起こしたのは灰色の肌に山羊の角を持った老人だった。
「実にご苦労だった・・・とても良いデータが取れたよ、ルヌプ国の諸君。それに、思わない収穫もできた」
まさか、実は亜人側が黒幕?!何というか、ゲームとかでよくある展開だと思ったがそうでもない。他の亜人たちも動揺している・・・もしかして、こいつの独断か?
「はじめまして・・・聖域の住民。俺の名前はザズムフ・・・・『災害の邪神』でも言えばすぐに分かるかな?」
高笑いするザズムフがそう名乗った瞬間、怯える亜人達
・・・すみません、全く知りません
22話と23話の間に特別編『ダンジョンモンスターの初日』を差込で入れさせていただきました。今後も補足話として追加していく可能性があります。ご迷惑をおかけするかと思いますがご了承ください。
もし、『あのキャラの話が気になる』や『これはどうなっているの?』などありましたらコメントなどに書き込んでください。そういう話も書いていこうかと思います。
これからも「ダンジョンを作ったら無理ゲーになりました」の応援をよろしくお願いします。




