48話 集落を探したら亜人に会いました
ノフソの森での野営は正直、野営か?と思いたくなるくらいの快適さだった。
ランカが作る料理はどれも美味しく、多分ジョージから伝わったレシピや調理法を独自に改良して野営向きにしたのだろう。
天幕も【空気清浄】、【温度調整】、【害虫駆除】、【認識遮断】などの魔法がかけられており虫とか気にせず寝ることができる。
昔アメリカでボーイスカウトの経験があったからあんな感じでキャンプをするのだと、少しは楽しみにしていたのだが何の苦労も無く進んでしまった。
「コウキ様、我々は見張りをしていますのでどうぞお休みになってください」
「なら、俺もやるよ。特にエドとオウカはずっと走っていたんだし疲れているだろ?」
「お心遣い感謝します。しかし我はフロアボス、この程度では散歩にすらなりません。それにオウカも余力を残しています。先に休ませていますので大丈夫です」
オウカ・・・ダンジョンに生息していたグレートウルフが進化した魔物住民。フロアボス達は一度ダンジョンに生息する魔物たちを住民として生活しやすくするために進化させた。ほとんどが人型となって進化したが中には魔物の姿のまま進化したのもいる。もちろん知能を身につけたら住民として生活をしているが。
こうして考えると魔物って本当に不思議な存在だなと思った。
「そうか・・だけど明日が本番だ。無理は絶対させるなよ」
「御意」
そう言い残してエドは天幕から出てグンナルやランカに見張りのローテーションを組み始めた。俺はもう疲れたのでそのまま、沈むように睡眠へと入り込む。
・・・・・・・・・・・・・・
これは夢・・・いや、以前エイミィからノフソの森について話を聞いた時の記憶だ。
「ノフソの森にある集落?」
「ああ。以前トレスアールに行った時に聞いてな。おかげで世間知らずのこともすんなり受け入れられたんだ」
「そうか、そういえばそんな人たちがまだここに住んでいたのね」
「エイミィは知っているのか?その集落のこと?」
「まあね、大昔に人間が獣人やエルフ、ドワーフや魔人たちと一緒に生活していた時期があったの。でも人間の数が圧倒的に多いせいもあって次第に人間至上主義になってきたのよ・・・その後は当然奴隷だの、争いだのが連発・・・私にとって一番嫌いな時代だったわね」
大昔・・・それがどれくらい前の話なのかは分からない。だが彼女が寂しそうな顔を見た瞬間やはりエイミィは神なんだなと思った。彼女はこの世界が好きだ、だけど彼女が世界を変えることは許されない。彼女はただ自分を信じてくれる人たちに【スキル】を与えることだけが役目なのだから。
「光輝は魔人と獣人の間に子供ができたらどんな種族が生まれるか知っている?」
「え?・・・獣耳の生えた悪魔尻尾を持つ子供?」
「うん、そういう子供もできるね・・・でもその子の種族は何?」
「ん〜・・・獣人でもないし、魔人でもない・・」
そういえば、そんなこと一度も考えたことも無かったな・・・今後ダンジョンの街が発展すればそういう子供たちも出るかもしれないが。
「正解は『亜人種』・・・獣人でも、人間でも、魔人でもない・・他種族同士に生まれる子供たちは全て『亜人種』って枠にまとめられているの。それはステータスからでも確認できるわ」
なるほどな・・ヒトならざる者、たしかに亜人とまとめるのがいいかもしれない。ということは、この世界にはハーフエルフとかハーフビーストとかそういう分け方はしないということか。だけど亜人と言った瞬間彼女は凄く悲しそうな顔をしていた。
「まさか、そういう亜人ってどこも迫害を受ける宿命なんじゃ・・・」
「まさにその通り。当時はそれはもう酷かったわ。奴隷にされて酷い扱いを受けるわ、亡命しようと必死に訴えるも石を投げつけられて追い返されるわ。それはもう見ているこっちが辛くなるわ」
たしかに聞いているだけど何か胸が締め付けられる気分になった・・・俺のいた世界でもそういう時代はあった。奴隷がいた時代・・・アメリカの学校にいたからこそ余計そういう歴史の勉強はかなりさせられた。奴隷や人種差別・・・正直目を逸らしたい内容だったがそれが歴史だ。
「それから何百年もの時代が流れ、種族同士が再び交流が生まれても『亜人種』という存在は今も根強く忌み嫌われる存在なの。だから多種族の交流が増えた今でも他種族同士で交配することは無くなった。それはこのアルヴラーヴァにおいて禁忌とも言える行為と考えているから」
なるほどね・・・人種差別ってどの世界にでもあるものなんだな。できれば俺の街では自由に恋愛だのして欲しいが。
「つまりあれか・・・集落の住民ってその亜人の末裔ってこと?」
「そう・・・当時迫害を受けていた亜人やその親達を私とセフィロトが保護したの。ほとぼりが冷めるまでと匿おうと思ってね・・・だけど、彼らは何世代もこの森に住み続けた。今では『亜人』という存在は忘れられただ『ノフソの森に住む住民』としか認識されなくなったけど、彼らは今でも外の世界に怯えて森の中で暮らしているの」
なるほど、ノフソの森の住民が滅多に目撃されることも、森から出てくることもないのもそれが理由だったのか。
「光輝・・・お願いがあるの。今すぐじゃなくてもいい・・・あの子たちを救って欲しいの。あの子たちはこの森に閉じ込められているの・・・あの時の私じゃ保護することしかできなかったけど、今ならあの事たちを受け入れられる場所を『与えること』ができそうなの!」
あの時見せたエイミィの顔は今でも明確に思い出せる・・・ノフソの森の住民。それは歴史に囚われた『時縛人』なんだと・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・朝か・・・ってなんじゃこりゃあああああ」
目が覚めると俺はオウカの背中の上でロープでよって縛り付けられていた。
「お目覚めですかコウキ様?」
「ランカ!これはどういうことだ?」
俺の前にはランカが平然とした顔で座っており、その後ろには顔を真っ青にしたグンナルがいる。
「エドワード様が、集落の方で何か爆発音を聞き取ったそうでマリーさんと共に先に向われました。我々も急いでそこに向かっているところです」
「なるほど・・・俺を起こすのも悪いと思い、寝た俺を縛りつけて現在に至ると・・・納得いくか!つーか、解けよ」
「でも、今解いたら振り落とされますy『ゴメンナサイ・・・でも近くまでついたら解いてください』・・・御意」
それから数十分後、俺達は爆発が起きたと思われる現場に到着した。辺りの樹は炭のように真っ黒、爆発の中心点にあった樹などもなぎ倒されている。近くにはすでに調査を終えたエドとマリーの姿が見えた。
「コウキ様、何も告げずに出てしまい申し訳ございません」
「理由は分かっている・・・それで何が起きた?」
「はい、おそらく爆裂魔法が発動したのかと思われます・・・ですが妙なのです」
「妙?」
「はい、近くを散策したのですが。怪我人も死体も確認できなかったのです・・・まるで何もないところで爆発させたような」
それは確かに妙だ・・・肉体が粉々になった可能性もあるが、エドが探しても肉片すら見つからないのはおかしい。となると、爆裂魔法が自動で発動した?あるいは遠隔操作?
「エド、マリー、刻印魔法に時間設定や遠隔操作は可能か?」
「え?はい、かなり高度な技術ですが刻印の構造を理解していれば時間指定は可能です。遠隔操作も、連動する刻印を用意すれば可能です」
そうなるとこれは・・・
「エド、急いで皆に【認識遮断魔法】をかけろ・・・皆も隠れて!」
「御意!」
俺の指示に従いエドが魔法をかけ、近くの樹に隠れた。すると、奥の方から二人の人影が現れた。
「すごい威力だったね。ナギ・・・これって成功したんじゃない?」
「ああナミ・・・これなら・・・」
容姿が似ているから双子のようだが、一人は少年、もう一人は少女だ。見た目は獣人のようにヒョウのような尻尾を生やしているが少年は右腕が有鱗族が持つ鱗、少女の方は左腕に鱗・・・つまり、有鱗族と獣人の特徴を持つ。
あれが亜人なのだろうか・・・
「コウキ様、どうされます?このままあの子たちを捕らえますか?」
「いや、待てもう一人来る」
俺は【五感強化】のスキルを発動して奥からやってくる男を見た。どこかの兵士だろうか、子供と違って鎧をまとっている
「お前ら!こんなところで何をしている!さっきの爆発は貴様らのしわざか!」
「っげ、グリザンド兵!」
「貴重な刻印兵器を勝手に持ちだして!どうやら死にたいらしいな」
男が刻印が刻まれた水晶玉みたいなのを取り出すと子供たちが身につけていた首輪が光り出すのが見えた。すると子供達が急に苦しみ出した。
「あれは・・・マズイ!」
エドが瞬時に何が起きるのか理解したのか、魔法で男を束縛する。
「ッグ!なんだこれは!」
まるで強力な磁石みたいに石や木の枝などが男にまとわりつき見事に動きを封じる。首輪の光が落ち着くと子供達は息を荒くしながらエドがいる方角を見た。
「クソ!身動きが取れない!誰だこんなことしやがるのは!」
「大地の進撃、海の激流、陸の咆哮、天の怒り、悪魔を退き、未知の世界。6つの試練の先に原初が立ちはだかる・・・我の名はエドワード!」ドドーン
っちょ、エド!なにそのお仕置き人みたいな決め台詞!しかも決めポーズと共に背景が爆発したぞ!こいつ絶対フロアで練習していただろ!
聞いているこっちはめっちゃ恥ずいんですけど・・・なのになんで後ろにいる護衛たちは関心したように拍手しているんだよ!しかも子供たちまでヒーローを見ているかのような眼差しで見ているし!
「貴様、今この子供たちの首輪に付与された『爆裂魔法』を作動させようとしただろ」
え?・・・たしかに、よく見たらこの子たちの首輪に刻印魔法が付与されている・・・
「っぐ!だったら何だ!所詮亜人だ!そんな気持ち悪い奴らこの世界からいなくなればいいんだ!」
そのセリフを聞いた瞬間、エドはこれまで見せたことも無い怒りのオーラを放つ。
「いなくなれば・・・いいだと?・・命を何だと思っていやがる!」
怒りによるエド・・・いや、地下33階層のフロアボス、原初の魔術師・エドワードの魔法が兵士に直撃する。
【サテライト・ボルト】
簡単に言えば落雷だが・・・何万ボルトもの電圧を圧縮、レーザーの如く男の脳天に直撃すれな身体と心に絶望を刻みつけるには十分である。
ギリギリまで抑えたのか・・・男はなんとか命までは落としていないようだ。
「良かった、まさか殺したのかと思ったぜ」
「ここがダンジョンであれば、本気の魔法をぶつけたかったのですが・・・この男から情報を引き出す必要がありますからギリギリに抑えました」
「そ、そうか・・それよりこの子たちを何とかしないと」
俺が子供たちの方へ振り向くと、双子の姿は無い・・・・まさか逃げられた?!
「ねぇねぇお兄ちゃん!凄くカッコよかった!さっきの魔法だよね!どうやったらあんな魔法使えるの?!」
「っちょ!ナミ、失礼だよ・・・助けてくれてありがとうございます」
気がつくと双子は憧れの眼差しでエドの前にいた・・・うぁ、まるでアトラクションパークにいるヒーローに会った子供みたいだな。
「あの・・・コウキ様、これはどうしたら・・・」
普段街の子供たちと接する事も無いからエドも少し困った様子だ・・・・なんか新鮮だな
「・・・とりあえず、その子たちの首輪を何とかしよう」
俺はモニターを表示させ、二人が身につけている首輪に『スキャン』をかける。首輪のデータが表示されると今度は『編集』を使い、データを全て削除する。するとさっきまでつけていた首輪が光の粒子となって消えた。最近になって知ったが【ゴッドスキル:迷宮創造】にはこんな使い方もあるのだ。
「あれ?首輪が無くなった・・・」
「嘘・・・あいつらしか外せないはずじゃ・・・」
驚いた双子は未だに混乱していた
「君たち、ノフソの森に住む子たち?」
「・・・はい、そうです」
「ちょ!ナミ、確かにこの人たちはアイツから助けてくれたけどさ・・」
「ううん、ナギ。この人たちは信用できるよ・・・あたしの直感がそう言っている」
少年はナギ、少女はナミという名前らしい。
「それで、ナギ君、ナミちゃん、この森で何が起きているんだ?それにここに来る途中で爆発があったよね?何が起きたんだ?」
俺が質問すると二人は深刻そうな顔をして、お互いの顔を見ると深く頷く。
「「お願いします!森の皆を助けてください!」」
どうやら、ノフソの森で何かが起きているみたいだ。




