47話 調査に向かったら護衛はフロアボスでした
ノフソの森・・・今ではダンジョンの存在が大きいが、かつてはいくつかの集落が存在し他国と接触しない者たちが集まることで有名だった。
ダンジョン運営とかギルドとかで頭の隅においておく程度にしていたが、本来なら真っ先に知っておくべきことだったのかもしれない。
『いかがしましょうか?神に仇なす存在として我が抹消してきましょうか?』
「いや、駄目だ・・・それよりそれが本当に集落の総意なのかを確かめてくれ俺もエイミィと相談して集落に向かおうと思う」
『しかし、危険では?』
「護衛は連れて行くよ・・・それにこれは俺が解決しないといけないことな気がするし」
『御意・・・こちらが集落の座標です。新しい情報が入り次第連絡を入れます』
エドからの通信が途絶えると脱力したようにベッドに倒れこんだ。
「・・・集落か。そういえば俺達もそこ出身という設定だったんだよな」
以前、食料調達のついでに森の詮索をカルラに頼んだことはあったが集落とかそういうのは発見できなかったらしい。俺のマップにも集落の反応は無く、正直本当は集落なんて存在していないんじゃないか?と思ったほどだ。だが、今回エドの報告で集落が実在しているのを確認できた。
「とりあえず、被害が出ない内に何とかしないと・・・森のことはカルラの部隊がいいかな・・・座標からしてかなり遠いから支度も必要だし・・・人数は少数だな・・・後は」
そうと決めたら俺は集落に向かうためにさっそく計画を建てた。
・・・・・・・・・・・・・・
数日後
合宿の時のように俺の目の前には二人人と一匹の護衛として選ばれた住民が集結している。
「8階層出身、妖人族・鬼種のグンナル。本日からコウキ様の護衛として同行します」
「31階層出身、獣人族・虎種のランカです。食事や野営などはウチにお任せください」
「30階層出身、魔天狼のオウカだ。グンナル殿と同様、コウキ様の護衛として同行させてもらいます」
一人は二本の角が額に生えた赤髪の青年、もう一人は金髪と黒髪のグラデーションに染まった女性。そして一匹は狼の10倍の大きさはありそうな巨大な狼・・・あんた犬神様?バト○ウルフ?
「分かったよろしく頼む。今回はノフソの森にある集落を目指す」
「集落って・・・あそこ本当にあったのですか?ウチら探したのに見つからなかったのに」
ランカが驚いた様子で食いついてきた。どうやら彼女はカルラの調査部隊の一委員だったみたいだ。
「まあ、そうだ今回の目的はその集落での調査。そしてこれは極秘だが、そこで作られている兵器の目的を探ることだ」
兵器と聞いた瞬間二人と一匹は一瞬見開いて叫びそうになったがなんとか堪えた。
「っちょ!そんな危ないこと、コウキ様が出る必要ありませんよ!そういうのは調査部隊だけでやりますから!」
「そうです!コウキ様に何かあったらウチ等カルラ様に殺されてしまいます!」
「うむ・・・カルラ様だけでなくフロアボス全員に殺されるだろうな」
こいつらかなりフロアボスのことを怖がっているな・・・あいつら普段部下にどんなしごき方しているんだ?
「まあ、何か起きないために君たちがいるわけだし。よろしく頼むよ」
信頼していると伝えると張り切る素振りを見せるがやはり気が進まないのか複雑な様子だ。
「それともう一人俺の護衛として同行してもらう人がいる『コウキ様・・・お待たせしました!』・・来たようだな」
振り向くと、空から蝙蝠の翼を生やした美女が飛んでくるのが見えた。
「マリー、忙しいところ悪いな」
「いえいえ、コウキ様からの要望でしたからゾア様も快く承諾してもらえました」
合宿から戻ってからマリーは技術開発部門で『刻印家具』の開発に取り組んでいた。そのおかげもあって、現在の街もかなり生活しやすくなっている。
「彼女はマリー、刻印魔法の専門家で今回の任務に同行してもらう」
「コウキ様、確かに刻印魔法は得意分野ですが、私の仕事はインテリアデザインですよ」
親しげに話せる彼女を見て二人と一匹はポカンとした様子だった。
「はじめまして、地下6階層出身、魔人族・夢魔種のマリーです。現在は技術開発部門の刻印家具の開発課に所属しています」
マリーも軽く挨拶をしたことでこれで今回のメンバー全員が集結した。
「それじゃあ、出発を『コウキ様、我も同行します』・・・え?」
これから出ようとしたとき、俺の影からニュッと出てきたのはエドの顔だ・・・そういう演出はいいから!マジで心臓に悪いぞ。
「エド!お前も来るって・・・フロアボスの座はどうするんだ?」
「既に代役は任せております。エイミィ様には任務とだけ伝えていますのでご安心ください」
いや、そういう問題では・・・まあ元々コイツに任せていた仕事だし、一緒にいてくれれば心強いか
「分かった。よろしく頼むぞエド」
「御意・・・コウキ様の身は我らが必ずお守りします」
大袈裟なポーズを取るエドに少し不安がでるが、護衛メンバーたちは物凄く安心した表情をしている。
(((よかった・・・エドワード様が一緒なら安心だ)))
・・・・・・・・・・・・・・
人気が無い場所にエドの魔法によってダンジョンの外に出た俺達はさっそく目的地へと出発しようとしたが・・・
「コウキ様、まさか徒歩で向かわれるつもりですか?」
「そうだが・・・一応2,3日の野宿はする予定だぞ」
護衛メンバーたちもそのつもりで普通の顔をしていたが、エドは少し眉を潜めた。
「往復で一週間以上ダンジョンを離れるおつもりですか?・・・転移門では魔力感知でバレる・・・仕方ないオウカ、コウキ様たちを乗せて我について来るんだ」
「了解しました、エドワード様」
エドが何かオウカたちと話していると、魔法で俺を持ち上げオウカの背中に乗せた。
「おい、エド一体何を・・・」
「我とオウカが走れば今晩には到着します・・・オウカ、しっかり我について来るんだぞ!」
そう叫ぶと、エドは何か詠唱を唱え俺達に魔法をかけ、猛スピードで駆け出す。
重力魔法と加速魔法の応用なのだろう・・・エドが樹から樹へと飛び跳ねるたびに速度が加速していく。そして、そのスピードにオウカは余裕で付いて行っている。
「うぉおおおおお!っちょ、早すぎ!」
「きゃああ!落ちる!落ちる!」
「・・・・・」(余裕な表情で座っているランカ)
「・・・・・」(酔って何も言えないグンナル)
俺達は安全ベルトをしていないジェットコースターをかれこれ6時間乗せられたのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・
夜
「・・・よし、今日はここまでにしよう。オウカ、ここで野営にする、コウキ様たちを下ろしてやってくれ」
「っは!」
やっと到着したのか・・・俺達は力が抜けた上体で地面に寝そべった・・・途中でエドが魔法で固定されていることに気付いたが、今後絶叫マシンには乗らないと固く誓った。
「・・重力が重い。動いていないのにスゲー疲れた」
「ですね・・・でも、これで野営は一回で済みそうです」
マリーの言うとおりマップを確認するともう目的地まで眼と鼻の先だった。
「コウキ様、食事の準備が整うまでゆっくりしていてください、準備は我々で済ませますので」
「そうか・・・すまない」
「グンナルは野営の準備に取り掛かってくれ。ランカとマリーは薪を調達、オウカはこの辺りに危険な魔物がいないかを調査」
『っは!』
さすがフロアボス・・・指揮能力が高い。皆もそれぞれの仕事に取り掛かる。俺も何か仕事は無いかと思い、マジックポーチから食料を取り出そうとしたが。
「我の『異空庫』にも食料がありますので。コウキ様はそのままで大丈夫です」
そう言って、彼の右手から巨大なブロック肉が出現する・・・本当、コイツもある意味チートだよな・・・俺が考えたキャラだけど。だけどやはりフロアボスだからなのだろうか・・・今回の任務に彼が同行してきたのは正解だったかもしれない。
「そういえばさ、ダンジョンでは聞けなかったけど。なんで同行するなんて言い出したんだ?確かに最初にこの調査を任せたのはお前だけどさ・・・」
「・・・コウキ様に何かあっては困ります」
「いや、大丈夫だろ心配しすぎ『もうあんな思いはしたくないのです!』・・・エド?」
俺は少し楽観的だと思ったがそれは護衛達を頼りにしている意味で言った。だがそう発言した瞬間、エドは血が滲み出そうなくらい強く握りしめ叫んだ。
「・・・我は・・・我々はコウキ様をお守りできなかった・・・いや、しなかった。もうあんな惨めな思いはしたくないのです」
エドは今にも泣きそうな様子で必死に訴える・・・おそらく、合宿での騒動を思い出しているのだろう。あの時、俺が貴族をぶん殴って騒ぎを起こした時フロアボス達は何も知らずダンジョンで街作りや自身の仕事に勤しんでいた。
騒動を知ったのは俺がエドに情報収集を頼んだ時・・・俺は大至急情報や監視を依頼したからそんな様子を見せなかったがフロアボスたちは相当後悔していたようだ。もし、あの場に自分たちがいればこんなことにならなかったのではないか。
エドが今回、フロアボスとしての役割を投げ出してまでここにいるのはそういう意味なのだろう。
「エド・・・すまなかったな。苦しい思いをさせて。・・・だから頼む。今回の任務、俺を守ってくれ」
「・・・御意・・・我、オリジンダンジョン地下33階層フロアボス、原初の魔術師・エドワード。全身全霊で大魔王、コウキ様をお守りすることを、この場で誓います」
今回は護衛として新キャラを2人と1匹を追加。全開の合宿に引き続きマリーを同行。さらに、フロアボス、エドワードまで参加することになりました。
とうとう・・というかやっと新章『ノフソの森編』がスタートです。
光輝やエドワード、護衛メンバーたちの活躍をお楽しみにください。




