46話 挑戦者が多すぎたので新フィールドを開放しました
ここ最近ダンジョンの運営はうなぎ昇りだった・・・理由は単純にダンジョンに挑む冒険者の数が跳ね上がったこと。そして、ダンジョンを甘く見た高レベル冒険者たちが次々と抗難易度のフロアに挑み脱落していったこと。
既にエイミィを通してダンジョンに新しいフロアを追加したことは伝えてある。ギルドにも新しいダンジョンが誕生したことでかなり盛り上がっている様子。だがレベル調整とか殆どやっていないせいもあって、34階に真っ先に挑んだ冒険者たちにはご愁傷様としかいえなかった。
「12階層にて冒険者20名ほどが洪水トラップによって溺死・・・無事転送されました」
「34階層にて冒険者40名がワイバーンの軍勢と戦闘に入り殲滅、全員転送されました」
「23階層の森林エリアにて冒険者12名がサーベルウルフと戦闘にて死亡、無事転送されました」
管理室に映し出される映像・・・それは一見すると地獄絵図なのだが見慣れた管理室のメンバーたちは平然とした様子で報告し合っている。うん、馴れって怖いな。
「34層はソウキ部隊に回収を向かわせろ。襲ってくるワイバーンはお灸を据えても構わない。D班は12階、B班には23階に回収を向かわせるように」
脱落する冒険者が増加したことによって管理チームは大忙しだった。部屋を拡張して新しいメンバーを加入させたがそれでもギリギリ何とか凌いでいる感じだ。管理チームの統括リーダーに昇格したタマモもかなり忙しそうに指示を出している。
「そこ、F班への指示が遅れていますよ。もっと全体を見なさい!ちょっとあなた、その先には落とし穴トラップがあると言いましたでしょ、すぐに回収班に指示を!フライ!G班の指示が終わったら急いでJ班の指示を!そこ!もっと集中しなさい!」
うん、凄く頼もしく成長したな・・・
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34階
「・・・おかしい、情報ではゴブリンとかオークが出現するはずなのになぜワイバーンがいるんだ?というか、ここは本当にダンジョンなのか?」
冒険者が見渡す限りそこにはゴブリンやオークといった初級モンスターの影は無い。ダンジョンの構図も迷宮では無く平地で目視で確認できる魔物は亜竜種と呼ばれるワイバーンやランドドラゴン。明らかに一般の冒険者数名が戦って倒せる相手ではなかった。
「リーダー、すぐに戻りましょう!俺達間違った入り口に入っちまったんですよ。入り口に他の門があったじゃないですか!」
「だがまて、ここでワイバーンを倒せばきっと凄いお宝が手に入るはずだ!ドラゴンには宝、それが鉄則だろ?」
「そ、そうですが」
自分の命よりも勝利したときの宝を優先する冒険者。そして、そんな冒険者たちは大抵あっさりと敗北して入り口に飛ばされるのであった。
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「脱落者は多いけどやっぱり腕の立つ冒険者はかなりいるね」
そう言いながら俺はモニターに映し出されるある一団の冒険者たちを見た。
魔国ゼノからの魔人冒険者たち。ヤギのような角を生やした男性や、小悪魔のような可愛らしい尻尾を持った女性など、見るからに魔人というイメージの人達だ。ダンジョンに入った初日から既に3階に到着。ヒュウに匹敵する攻略スピードだ。
装備は皆軽装で動きやすさを重視、隊列が乱れていないところからして兵士達だろうか?ここ最近そういう冒険者たちを見てきたせいかそういうのが見分けられるようになってきた。
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3階層
「みてみて、アッシュ!この宝石凄く綺麗だよ!」
「姫落ち着いてください・・・どこに罠が仕掛けられているのか分からないのですよ!」
「別にいいじゃない。あのヒュウが突破できた階層なんだからあたしにだって出来るわ」
天真爛漫にダンジョンを観光気分で見渡す悪魔少女。魔国ゼノの姫にして、戦闘姫とも呼ばれている少女、名前はフィロメール・ヴォルフ、愛称はフィロ。
ゼノの国王・・・つまりフィロの父親が国民にダンジョンへ行く許可を宣言したと同時に事前に準備していた荷物を掴み、声をかけていた部下を引き連れてダンジョンへ真っ先に向かったのだった。
「姫、そろそろ休みませんか?近くに安全エリアがありますし頃合かと・・」
「何を言うの!テオ王国のヒュウは初日で3階まで突破したのよ!あたし達は4階を目指すんだから!」
フィロがほら行くよ!という風に指を指すと部下達は呆れた様子でしぶしぶと姫の後を着いていく。
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「なんというか、変わった冒険者だな。というかあの子お姫様なんだ、随分とヒュウに対して対抗心むき出しだけど何かあったのかな?」
あの駄天使のことだから何かデリカシーの無い発言をして怒らせたに違いない。
「愛ですね」
「愛だよね?」
なにやらタマモや女子たちがヒソヒソと話しているのが聞こえるが内容はよく分からない。
とりあえず、魔人姫たちはこのまま順調に進みそうだ。その他にもゴッツイ鎧を着た重兵士集団や達人のようなオーラを放っている冒険者たちも次々と魔物を狩っている。
やっぱどこにもソロプレイヤーっているんだな・・・多分、一人でグラムにはかなわないだろうけど。彼らがダンジョンの中でどう攻略していくのか楽しみだ。
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会議室
「以上がダンジョンの現状の報告です」
タマモもだいぶ慣れてきたのか初めてのころと比べてだいぶ落ち着いて説明できるようになってきた。しかもしっかりと自分の意見なども伝えている。
「俺の担当フロアは殆ど全滅か・・・35層には誰も突破していないとは」
まあ、表ダンジョン最強ステージだからね。しかも相手はドラゴンやワイバーン・・・難易度でいえば上級冒険者集団でも厳しいステージだ。
「私のフロアも似たようなところね。安全エリアじゃなくて適当な場所で野宿する馬鹿な冒険者が沢山いて睡眠中に襲われて脱落・・・自然を舐めすぎよ」
カルラのフロアも似た感じで滞在している冒険者の数はそこまで多くない。カーツのフロアは海ステージだと知らず重装備で飛び込み、どざえもんになる冒険者が目立った・・・モンスター以前に環境に敗北している感じだったな。
思った成果が出ていないことにフロアボス、特にリンドとカルラは少し落ち込んでいた。
「まあ、情報が少しずつ流れるんだしこれからだよ。グラムのフロアはけっこう上の階にいる冒険者が増えたみたいだし」
現在グラムの担当フロア、8階層に冒険者が何組か滞在している。ヒュウの助力無しでここまで来れたんだし、よほど運が良いか実力者なのか分からないが確実に上に上がってきている。
他のフロアも徐々に対策とか練って上がってくるに違いない。
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作業部屋
『・・・コウキ様今よろしいでしょうか?』
「エドか、その様子だと何か進展はあったか?」
会議室では何も発言がなかったからてっきりまだ情報収集をしているのかと思っていたが、どうやら皆への配慮でわざわざこんな形で連絡してきたのだろう。
『例の爆弾について情報を得られましたのでその報告に』
「分かった、報告を続けてくれ」
『やはりあの爆弾は我々に当てた物で間違い無さそうです』
やはりか・・・だがそうなるとダンジョン側に敵意を持つものが仕掛けたことになる。まあ、敗北して八つ当たりとかそのへんを考えれば心当たりはゴロゴロある。
「そうか・・・それで誰が作ったのかは分かったか?」
『はい・・・生産される場所も特定出来たのですが・・・・』
さすがエド・・・だが珍しく歯切れが悪い
『生産された場所が・・・ノフソの森にある集落なのです』
それを聞いた瞬間、俺は自分の耳を疑った。




