42話 ストレスが溜まったのでフロアボスが暴れました
ヒュウのダンジョン攻略が終了して数日後、グラムの噂は一気に広まった。
「凄い噂になっているな『ダンジョンのフロアボスは巨大な魔王』・・・無慈悲な一撃で冒険者を潰す」
「こっちは酷いよ『神・エイミィ、魔王を使役する』だって・・・グラムは魔王じゃなくて、巨人族よ」
いつものように仕事部屋でダンジョンのコンテンツ作りに励む俺とエイミィは中休憩としてギルド出版の記事『ピクスト』を読んでいた。
ギルドに登録することで、ギルドから配信される情報などがモニターに配信されるようになっている。簡単に言えば会員限定のメルマガみたいなものだ。
「だけどこれでフロアボスの存在は明るみに出たわけだ。今後はグラム対策で攻略を仕掛けてくるだろうね」
ヒュウを含め8人の冒険者たちは脱落後無事に入り口へ転送されたがヒュウ以外の冒険者たちは大きなトラウマを抱えダンジョン恐怖症になってしまったようだ。
まあ、あんな戦闘があったわけだし彼らが復活するのはまだ先になりそうだ。他の冒険者たちもグラムの存在を聞いて、中層辺りに残って狩りをしている者が多い。まあ、少しずつ実力を付けていけばいいさ。
魔力も順調に溜まってきているだろうし、ポップするモンスターの魔力消費を計算に入れても問題は・・・・
あれ?
「なぁ、エイミィここ最近何か大量に魔力を消費することなんてあったか?」
「え?コウキが持ってきた魔法本を量産するためにスキャンで結構使った覚えはあるけど、それ以外は無いわよ」
おかしい・・・俺がダンジョンの魔力ゲージを確認すると明らかに増え具合が少なすぎる。
ダンジョンの魔力が消費されるのは俺かエイミィがアイテムを出現させた時あるいは、ダンジョンのモンスターを回復させるために使われる。
いくら冒険者達がグラムのフロアで戦闘を行っているからといってこの消費はありえない。
となると他のフロアの供給が行われていることになる。
俺は急いでダンジョンのマップを開きグラムの担当フロア以外の状況を確認した。
「・・・何しているんだあいつら?」
俺がマップで確認するとカルラとリンドが暴れるようにモンスターと戦闘を行っていたのだ。まるで今まで溜め込んでいたストレスを発散させるかのような暴れっぷり・・・だがその表情は怒りという感じではない。
俺は急いで2人に連絡を入れる。
『おい!カルラ!リンド!お前ら何をしているんだ!』
「「コ、コウキ(主)様!」」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
フロアボス会議室
「ということは何か?グラムの戦いに触発されていてもたっていられず戦いに乗り出したと?だけど冒険者と戦うのは物足りないから自分のフロアで戦っていたと?」
「「・・・・はい」」
フロアボスの緊急会議を開き、フロアボスを終結させる。そして俺の目の前にはしょんぼりと正座をさせられている2人のフロアボス。
「はぁ・・・まあ・・・あんな戦いを見たらそうなるか」
「「申し訳ございませんでした!」」
正座からの土下座。これを住民には見せられない姿だな。
「気持ちは分からないわけでもないな。俺もあの戦いを見て暴れたい気持ちはありましたから。まあ、部屋に戻って思いっきり泳いで発散させましたが」
「せやな・・・あの盛り上がりは凄かったで。興味無いと思っていたワイの職場にいた部下達も釘付けやったし」
「ふむ、特にグラムと最後に戦ったあの戦士の攻防は素晴らしいと思う。我の内に秘められた第五の魂がうずいたのを感じた」
カーツ、ゾア、エドの男性陣はそれぞれ意見を述べ二人をフォローする。・・・てかエド、第五の魂ってなんだ?お前の魂は5以上あるのか?
「しかし、貴重なダンジョンの魔力を消費したのはよろしくないかと思いますわ。せめてコウキ様の許可は必要だったかと思いますが」
「そうですね・・・現在は街の生産の方に回していますから、あまり消費させるのは少し問題があるかと」
一方女性陣はダンジョンの魔力のことや街のことを考えて意見を言っている。
「まあ、今回は仕方ないがこの際聞いておきたいが、お前達は戦いたいのか?」
このダンジョンの本来の目的は忘れてはならない。フロアボスとはこのダンジョンを守護する存在。そして、神・エイミィを守る存在でもある。
「「それは・・・・」」
言葉に詰まるリンドたち。その時点で答えが出たも当然。
「はぁ・・・まあ、いいや。いずれ表ダンジョンはボスを倒さなくても行けるようにするつもりだったし」
『え?』
俺の言葉に全員がビックリした様子だった。
「エイミィから聞いたんだが今後、各国は本格的にこのダンジョンの攻略に挑んでくるそうだ。今の冒険者のダンジョン滞在日数も増えてきているし・・・正直、このまま冒険者の数が増えるとパンクしてしまう可能性が出る・・・なら他のフロアに移したほうがいいだろ?」
国が本格的に動き出す可能性があるのなら大勢の冒険者や兵士たちがここにやってくるはずだ。ダンジョンを広くすればいいだけの話だが正直、ずっとグラムのフロアに滞在されては面白くない。せっかく作った罠とかもそのまま埃を被るのは嫌だし、フロアボスたちにもそろそろ本職に戻ってもらおうかと思う。
「表ダンジョンの、12階、23階、34階への門を作ろうと思う。裏ダンジョンはまだ伏せておくが、グラム、カーツ、カルラ、リンドには本来の役目に戻ってもらう。裏ダンジョンのフロアボス、ミーシャ、ゾア、エド、メリアスは引き続き街の方をお願い」
『御意!』
全員の賛同を得たところで、次の議題に入る
「さて・・・一応カルラとリンドの件はこれで終了にして。次の議題だがそろそろ戦力を上げようかと思う」
「それはつまり、戦争の準備ということですか?」
「そんな物騒な話じゃない。ただ、正直見ていて目に余る冒険者達がここ最近増えている気がするんだ」
ヒュウの寄生攻略もあったが、いくらダンジョンの中で死んでも生き返るからといって何でもしていいわけじゃない。恐喝とか暴力系の事件を何度か見つけたからな。その時はポップモンスターを出現させて撤退させていたが、やはり何かしらの取り決めをこちらで決めないといけない。もし、安全エリアで起きた場合モンスターの出現が出来ないから直接取り締まる必要がある。
「だから、ダンジョンの中で警備部隊を決めようと思う。簡単に言えば対冒険者用の取り締まり部隊。ダンジョン内での犯罪を見かけたら即身包みを剥いで追放することにしようと思う」
「なら自分の警備部隊から使ってください。戦闘など一通りの訓練はしてありますし、俺の部下もそろそろしっかりとした仕事を与えたいので」
なるほど、リンドが担当している兵士育成部門からか・・・確かに屈強な冒険者たちを取り押さえるには丁度いいかな。対人の戦闘経験も色々と必要だろうし。
「なら、リンドの人選で管理部に回してくれ」
「御意」
これで冒険者の問題は何とかなりそうかな。エイミィの信託をした後で才に連絡してギルドからも報告を入れてもらおう。
「あの、コウキ様いいでしょうか?」
手をあげたのは 意外な人物メリアスだった。彼女は一度ミーシャと目を合わせるとモニターを出現させて俺に見せた。
「実はコウキ様に見てもらい映像がありまして・・・」
彼女が映し出したのは生産部門が管理している牧場だ。たしか森に生息している動物の魔物化の実験だったよな。魔物化した動物は繁殖力が強いから家畜にはもってこいなのだ。しかも味も格段に上がる。生物実験みたいで良い気分はしないがこれも街の発展のため、彼らの命に感謝しないと・・・
映像を見ると牧場に放たれた魔物化された馬達だ。普通の馬より一回り大きくなり、種族が、ケルビーとかユニコーンとかになっている。だが一体だけ違う姿の馬がいる。毛並みは白銀のように輝き、額には紅色に輝く角・・・一言で言えばユニコーンだが、正直他のユニコーンと明らかに違う。大きさも普通のより2倍近く大きい。
「これは?」
「種族名はレノ・ユニコーン・・・神に仕える馬とも呼ばれている伝説のユニコーンです」
「何でここに?」
「実はアルラが私の栽培していたマナの実を与えたことで進化を起こしてしまったらしいのです」
え?アルラって確かメリアスの部下の植人族の少女だったよね?ということはあれか、以前ポップモンスターを進化させるためにフロアボス達は魔力を与えた。それと同じように、アルラちゃんがマナの実を食べさせたことでこうなったわけね・・・
「なるほどね・・・ちなみにこのレノ・ユニコーンは暴れたりしないのか?」
「その辺は大丈夫です。現在はアルラが面倒を見ていますしそのようなことはないでしょう」
もし暴れたとしても私が何とかしますから、と暗に言っているように聞こえるがまあメリアスなら大丈夫だろう。絶対このユニコーンより強いから。ユニコーンってたしか、清らかな乙女にしか懐かないとか言われているよな。こんど見に行ってみようかな。
「分かった・・・念のために確認したいのだが、他に似たようなことは起きていないよな?」
「はい、突然変異種は何頭かいましたが。レノ・ユニコーンのような固体は確認されませんでした」
ミーシャがそう説明してくれたので一安心した。どうやらメリアスが育てた『マナの実』が原因だったらしいから、今後は気をつけてくれそうだ。
・・・まあ、戦力拡大とか言い出して強い魔物が生まれたんだから特に拒む理由は無い。もう既にとんでもなく強いやつらがここに集結しているんだし。
「よし、それじゃ今日の会議はこれで終了。お疲れ様」
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会議終了後
「「「・・・ふむ、戦力拡大か」」」
なにやら、面倒なことが裏で暗躍されているみたいだ




