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ダンジョン作ったら無理ゲーになりました(旧)  作者: 緑葉
第四章 ダンジョン侵略編
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39話 vs大地の巨人・グラム

ヒュウがダンジョン攻略を開始してから10日、とうとう11階層に到着した。


「ヒュウ様、明らかにこの扉今までのとは違いますよね?もしかしてこの先にエイミィ様が?」

「いや、おそらくフロアボスだ・・・しかも今までの魔物とは比べ物にならないくらいとんでもなく強い奴がいる」


ヒュウを含め11階層に到着できた冒険者は8名、ここにいる冒険者はダンジョンを通し幾度もの苦難を乗り越え、間違いなく冒険者として恥じない実力を身につけていた。


だがそんな冒険者達もヒュウがいなければここにたどり着くことは不可能だったという事実を受け入れなければならなかった。これまで何度も脱落しそうなトラップやモンスターに遭遇してもヒュウによって助けられたのだ。もし、今の実力でダンジョンを最初から挑んだとしても再びここに来れる自信はなかった。


だからこそ全員はヒュウを信じここまでやってこれたのだ。


『冒険者よ、よくぞここまでたどり着いた。儂の名はグラム。このフロアを守護するものだ!勇気あるものはこの扉を潜るがよい』


拡声魔法によって響く声に腰を抜かす冒険者は1人もおらず、全員がヒュウについていく形で扉を潜る。


・・・・・・・・・・・・・・

管理室


「冒険者、計8名がボスエリアに入りました」

「ボスエリアに配置済みの映像全て正常に作動しています。地下45階層の巨大モニターも異常ありません」

「いよいよか・・・8人だとキツイだろうが・・・どんな戦いを見せてくれるか楽しみだ」


管理室はまるでテレビ局のような慌しい状態になっていた。フロアボス、大地の巨人・グラム、その初の戦いが始まろうとしていたため、その準備に取り掛かっていた。


本当ならこんな風にするつもりは無かったのだが、グラムの初の戦いが行われる噂が広まり、住民の厚い要望で街に巨大モニターを設置してフロアボスの戦いを生放送で見れるようにした。


「各フロアボスの担当部署のモニターも異常ありません・・・いつでも初めて構いません」

「よし、グラム。こちらの準備はいいぞ。今回はお前の初の挑戦者だ、気合を入れていけよ!」

『もちろんです。この日をどれほど待ち望んでいたことか・・・大地の巨人・グラム、その戦いをコウキ様の目に焼き付けてみせます!』


グラムの気合の入った返事に俺は少し冷や汗が出た。


本気出しすぎて一瞬で終わらせるなよ・・・


・・・・・・・・・・・・・

11階層


「すげえ、これが本当にダンジョンかよ」

「とても綺麗です」


冒険者たちは目の前の建物の規模にあんぐりした表情をしていた。

扉を潜るとそこには巨大な空洞、そして巨大な宮殿が建てられていた。真っ白な石柱で支えられた建物、壁には芸術ともいえる装飾が施されていた。


宮殿の中に入ると、広間らしき場所に1人の男性が待ち構えているのが見える。


アロハシャツにジーンズ、サングラスをかけた角刈りの男性。だが身体から溢れる魔力は桁違い・・・かつて、ヒュウが才たちと共に戦った魔王に匹敵するくらいの魔力を持っている。


おいおい、無理ゲーすぎるぞ!明らかに魔王クラスじゃねえか!


「あんたがフロアボスのグラムか?」

「いかにも、よくぞここまでたどり着いた、出来れば歓迎してゆっくりと話をしたいがこちらも理由があってすぐに戦わないといけない」


何を言っているんだ?という風に首をかしげる冒険者達だが始めから戦う気であったためすぐに武器を構える。


全員の準備が整ったのを確認するとグラムが指パッチンをした瞬間どこからかドラが鳴る音が聞こえ、戦闘が開始したことを告げた・


「「先手必勝!」」


2人の冒険者、ニックとセレスの速攻組がスキルを駆使して猛ダッシュでグラムに接近する。


【肉体強化スキル】による加速、これまでのモンスターもこの戦術でまずは力量を測る・・・一撃でしとめれば良し、ムリだったら即離脱というヒットアンドアウェイの戦い。このダンジョンで考えた戦術パターンの一つ。


「なかなかのスピードだが・・・」


迫る剣を軽がると握り潰し、冒険者たちを唖然とさせた。


「ふむ・・なかなかの武器だな。流石に素手で握ったせいで切り傷がついてしまったか」

(((素手で剣を握りつぶす奴なんているか!)))


「さあ、儂を楽しませてくれよ!」


この魔力、そして迫力。間違いなく魔王クラスの強さをこの男は持っている、ヒュウはグラムの迫力を肌で感じそれを確信に変えた。


「全員距離を取れ!接近戦は危険だ!俺が時間を稼ぐから魔法を詠唱しろ!」


剣を失った二人はヒュウの指示に従い、距離を取って杖を取り出し詠唱を始める


「ほお、剣術だけでなく魔法も使えるのか・・・優秀な冒険者だな」


グラムが関心しているとヒュウの猛攻が襲い掛かるも、ボクシングのスパーリングのように攻撃を受けている。


「おらおら!よそ見している暇は無いぞ!」


グラムもヒュウの実力を瞬時に把握し警戒し始める。

この男だけがこの中で飛び抜けていると


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

管理室


「グラム様、少しは警戒しているようですね」

「まあ、相手があのヒュウだからな。さすが英雄の仲間であるだけはある・・・街の様子はどんな感じだ?」

「かなり熱狂しているみたいです。もう完全に宴状態で、外でバーベキューパーティを開始しているようです」


呆れた様子で言うタマモだがこういう日もあって良いと思う。ここ最近街作りばっかりだったし息抜きには丁度いいだろう。


「冒険者の詠唱が終わりました・・・詠唱からして複合魔法かと」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『エレメンタル・メテオ』


複合魔法・エレメンタル・メテオ。本来は複数の属性魔法を扱える宮廷魔導師クラスの魔術師が1人で行う魔法であるが、ダンジョン攻略の中で彼らがお互いの魔法を把握し魔力を調整して複合魔法を扱えるようにした。


それは並ならぬ努力と結束が必要であるが、ダンジョンでの戦闘経験がそれを可能にさせた。強敵との戦いの中で冒険者たちは間違いなく成長していたのだ。


火・風・雷の属性を持った魔法弾がグラムの頭上から降り注ぐ。


「「やったか?」」

「馬鹿!それフラグ!」


冒険者達のフラグ発言に怒鳴るヒュウだが、彼の視線は真っ直ぐグラムに向いていた。


「ふぅー、なかなかの魔法だ。寄せ集めの冒険者が複合魔法まで使えるようになるとは・・・さすがエイミィ様のダンジョンだ。よく育っている」


余裕の笑みを見せるグラムを見て冒険者たちは唖然とした。複合魔法という秘策を用意しても、あの男は倒れない。それどころか肉体の損傷も見られなかった。


「お前達の戦いに敬意を表して儂も少し本気を出そう」


そう言った瞬間、冒険者達の絶望が始まる。


・・・・・・・・・・・・・・・

管理室

「グラム様の魔力が急上昇しました。おそらく巨人化します」

「あれが大地の巨人・グラムの姿か」


映像にはグラムの姿がみるみる膨れ上がっていくのが映し出されている。身長2mを超える巨漢・・・その巨体がさらに大きくなり10mを超える巨人へと変貌した。


「初めて見るがやはり壮観だな」


・・・・・・・・・・・・・・・

11階層


「な、巨人だと?!」


「儂こそ、11階層のフロアボス、大地の巨人・グラム!ダンジョンを守護する者だ!」


それからはもう一方的な戦い・・・いや、蹂躙といえよう。


フロアボスということだけはあり、9階や10階で遭遇した巨人とは実力が桁違いだった。

冒険者達は必死に恐怖に立ちむかい切りかかるものの巨人の皮膚は非情に硬く傷ひとつつけることが出来ない。

あの姿になったグラムにとって冒険者の武器はスポンジで叩かれているようなものだ。


グラムは次々と冒険者たちを殴り潰し、脱落させていく。


「どうした?儂がこの姿になったのだ!もっと楽しませろ!」


どこの悪役だよ?!そうツッコミたくなるセリフを吐くがまあ、初の戦いで気合が入っているせいか加減というものを忘れているな。


一人また一人と冒険者が脱落し光の粒子となって消える。冒険者が半分消えた時点で残りの冒険者たちの心は完全に折られていた。


「む、無理だ!勝てるわけが無い!」

「た、たすけ・・・」


まさに、魔王というべきか。グラムの容赦ない戦いはまさに無慈悲な魔王の姿といえよう。グラムが次々と冒険者たちを光の粒子へと変え、残ったのはヒュウのみとなった。


「残りはお主だけか・・・どうする?続けるか?このまま続けるのも良し、門から出て撤退するのも良し。あの冒険者たちをここまで育てたお主にはその権利がある」


もはや勝ち目が無い、それはヒュウが重々に理解していた。幾戦もの死線を乗り越えた戦士だからこそ分かる、今の自分ではこの男には勝てない。


だが、戦士だからこそ引くわけにもいかない。


「俺は、はなっから腕試しのためにここに来たんだ!諦めるなんて言葉は俺の辞書にはねえよ!」



戦士としてヒュウは最後まで戦った。己の肉体が限界に来ていることを理解しながら魔力を限界まで搾り出しグラムに挑んだ。


グラムもまた戦士として認めたヒュウに敬意をもって攻撃を受け止め反撃をする。まさに戦士の戦い、白熱した戦いは住民たちを熱狂の渦にへと引き込んだ。


・・・・・・・・・・・・・・・

地下45階 大広場


「すげー!さすがグラム様だ!」

「いいぞ!そこだ!冒険者も頑張れ!」


大広場では住民たちが大集合しており、巨大モニターに映しだされている二人の戦いを観戦していた。

手元には串焼きの肉に最近作られた果実酒。

広場はまさにお祭り騒ぎとなっていた。


・・・・・・・・・・・・・・・


満身創痍・・・ヒュウにはもう武器を握る力も魔力を出す精神力も残されていなかった。もう気力で意識を保っているようなそんな状況だった。


それに対しグラムは姿はボロボロになっているがまだ余裕があるように見える。


これがフロアボスの力・・・神エイミィを守護する者の実力なのだと、ヒュウは戦いを通してそれを知った。


「いつでも挑みに来い。儂はここで待っている」

「・・・分かったよ」


今は負けてもいい、いずれ超えればいいのだ。このダンジョンとはそういうものなのだ。そうヒュウに伝わったのか、ヒュウは最後はやりきったかのように笑みを見せながら光の粒子となって消えた。


・・・・・・・・・・・・・・

管理室


「終わりましたね」

「ああ・・・グラム、そっちは大丈夫か?けっこうやられたみたいだが」


映像に映るグラムの服はかなりボロボロだった。


『ええ、問題ありません。コウキ様、儂の戦いしかと見てもらえましたか?』

「ああ、素晴らしい戦いだ・・・住民たちもかなり盛り上がっていたぞ」


これの感想を聞くと嬉しそうに照れるグラム。正直、オッサンのテレ顔はどうかと思うが、今回は良しとしよう。それだけグラムはよくやったのだから。


「そういえば、エイミィ様は?」

「あれ?さっきまでいたのに」


管理室にはエイミィの姿はいなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・

ダンジョン入り口


「くあー!なんだよあのオッサン。強すぎ!無理ゲー!無理ゲー過ぎだろ!才たちがいても勝てるかどうか分からんぞあの強さ!」


ダンジョン入り口に転送されたヒュウは五体満足、傷一つ無い状態だった。未だに戦いの興奮が残っているせいなのか感想だの愚痴だのを叫びまくった。だが悔しさというよりかは全力を出して負けた清々しい気持ちでもあった。


「しっかし、本当に死なないんだな。腕とか明らかにバキバキに折れていたはずなのにもう治っている・・・いや、少し違うな・・戻ったという感じ・・」

『ヒュウ・・・聞こえる?』


ヒュウの目の前に出現したのは『AMY』と表示されたモニターだった。慌てて辺りを見渡すが彼女らしき人影はいない。すぐに防諜結界をはり連絡をとった。


「エイミィー様・・・お久しぶりです」

『まったく、あなたが来た時はどうしようか迷ったわよ。でもあなたが天使としての力を使わないのを確認できて安心したわ』

「ははは、まあ使ってもあのオッサンに勝てたとは到底思えないのですが」

『そうね・・・私の相方が考えた最強の守護者の一人だからね。それで?ここに挑んだのは腕試しだけ?』

「まあ、それもありますが。一番の理由は国からの勅命ですね。俺が動くことで他の国の出方を伺うみたいです」

『やはり、その様子だと他の国はまだ本気ではないということね』

「ええ、各国の名のある冒険者たちは未だに挑んだという情報は来ていません。俺が動いたことでテオ王国はダンジョン攻略に本腰を入れたと思われるでしょうね」

『そうか・・・じゃあ、ダンジョンの難易度をもっと上げておかないと』

「っちょ!俺でもきついダンジョンですよ!これ以上上げたらマジで無理ゲーですから!」

『まあ、その辺は相方や皆と相談するわ。今はこんな形だけど、いつかはあなた達を正式に招待して話し合いましょう』

「ええ、その時を楽しみにしています」


そう言い残し、モニターは消えた


「さて、トレスアールに戻って一泊休んでから帰るとするか」


負けて悔しい気持ちはある、だが次があると信じて気持ちを切り替えるヒュウ。そして、次に彼の目の前に浮かんだモニターには『SAI』と映っていた。


『ヒュウ聞こえるか?』

「お、才丁度いいタイミング。ダンジョンに挑んだぜ・・・見ての通り見事に負けてな、正直きつい。特にフロアボス、あれは無理ゲーだ!まあ、データとか色々手に入ったからギルドの役には立つとは思うだろうがさ」


モニターに映しだされたのはヒュウの上司にして親友の姿。


『そうか。他の冒険者からの報告でお前が記録を塗り替えた話は聞いていたが、それはいい報告が聞けそうだ』

「だろ?でだ才、俺からの提案なんだが『有給は延ばさんぞ』・・・え?」

『ってか早く戻れ駄天使。お前の有給もうすぐ終わるぞ』

「え?マジ?なぁ、才頼む!もう少しだけここに残っていいか?俺、フロアボスと再戦する約束したし。ここならかなりの額が国の収入になるし・・・」

『却下だ。お前が休んだせいで仕事がこっちに回ってくるんだ。お前にしか出来ない仕事があることを理解しろ・・・』

「へーい、そこまで言われちゃ仕方ない。仕事ジャンキーな親友のために戻るとするか」

『ああ・・・・ヒュウお疲れ様。帰ったら色々と聞かせてくれ』


モニターが消える前、才がヒュウに最後に見せた顔。それは上司が部下を褒める顔ではなく、同期に親しげに話すような穏やかな表情だった。


「さてと、俺も仕事に戻るか・・・俺堕天しているはずなのに・・・才菌ワーカーホリックが伝染ったかな」


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