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ダンジョン作ったら無理ゲーになりました(旧)  作者: 緑葉
第四章 ダンジョン侵略編
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特別編 英雄の一日

地天才


6年前この世界にやってきて、滅亡寸前だったテオ王国を見事に復活させ、戦争で職を失ったヒト達に仕事を与えるために人材派遣会社ギルドを設立、さらに国を滅ぼそうとする魔王を討伐、その他の功績etc…


いつしか、彼はアルヴラーヴァの英雄と呼ばれるようになった。


だが民衆の殆どは知らない、彼の本当の素顔を・・・・


・・・・・・・・

「い・・ま・・・才様!」


目が覚めると俺はテオ王国にあるギルド本部の執務室にあるソファーで横たわっていた。


今では見慣れた広い部屋、大量に積まれた各支部からの報告書、新入社員ギルドメンバーのリスト、貴族からのパーティの招待状、お見合い相手の写真、その他もろもろ・・・


未だフル稼働していない脳から自分の記憶を辿り、どうやら昨日届いた冒険者たちの資料を読みながら執務室で寝てしまったらしい。


ソファーの横には褐色肌の小柄な少女が可愛らしい落書きが描かれたスケジュール帳を手に持ち俺を睨んでいる。


彼女はスイ。俺がこの世界にやってくる時、神・シンが護衛として付けた天使の少女だ。褐色肌に黒髪で正直天使というより子悪魔と言ったほうが外見的にしっくり来るが、種族はれっきとした天使。羽も出そうと思えば純白の羽を出すことが出来る。


今は人間の姿になって俺の秘書として立派に働いてくれている。


「おはよう、スイ。今何時だ?」

「朝の6時10分前です。また屋敷に戻らず徹夜で仕事をしていたのですか?」

「ああ・・・目を通さないといけない資料が大量にあるからな。屋敷に戻ったら待ち伏せしている貴族や商人たちの相手をしないといけないし」


アルヴラーヴァの英雄なんて呼ばれているせいもあってか、貴族や他国の重鎮だのが俺とパイプを持とうとしている者は非情に多い。別に話し合うのが嫌いなわけではない。しっかりとアポを取ってお互いのスケジュールが合えば俺はちゃんと対応するつもりだ。だがここ最近、アポなしでいきなりやってくる人達が多く、正直無理やり時間を調整して相手をしている時間は無い。


「いつも通り、そういった方たちにはしっかりとアポを取るように伝えて追い払いました・・・まあ、才様の予定表では三ヶ月先までスケジュールが埋まっていますから待っていられないでしょうが」


スイが呆れた様子でスケジュール帳を開き俺の予定表を見直している。本当、優秀な部下ですこと。


「今日の予定はどうなっている?」

「本日は8時に城に向かい姫様と朝食を取り、我儘の相手。その後屋敷に届いている資料に目を通して判を押してください。16時に王立学校の特別講師、その後教授たちと食事。19時からアーリントンハイツ侯爵とローリン子爵婦人のアポが入っています」


姫の我儘って・・・まあ、間違っていないが。今日もいつも通りってわけか


「了解、それじゃちょっとシャワーを浴びてくるから待っていてくれ」

「・・・かしこまりました。ここにある書類は全て屋敷に運ばせます」


・・・・・・・・・・・・


「サイ、仕事の方は順調?」


セレナ・V・テオプア・・・ここ、テオ王国の姫にして一番の権力者、そして、人材派遣会社ギルドの創立メンバーの1人。


セミロングの銀髪縦ロール、凛とした姿はまさに王族の姿。初めて会った時はおどおどした弱気な印象だったが、今はその間逆となっている。


俺と姫は防諜結界が張られた部屋で朝食を取っている。テーブルの上には質素ではあるが栄養バランスを考えられたしっかりとした食事。どれも俺がアドバイスを出して作ってもらったもの。英雄と王族の食事がこんなのだとは一般の人には考えられないだろう。


「ええ、ご存知かと思いますが神・エイミィがダンジョンと呼ばれる、試練の場を作りました。現在ギルドでは冒険者育成のための機関を設立しているところです」

「そう、それは楽しみ」


姫が何を持って楽しみと言ったのかはすぐに理解できる。6年間の付き合いもあってかこの姫の腹黒い性格は『万能鑑定』を使用しなくても手に取るように分かる・・・もちろん悪い方にだ。


「姫・・・一国の主がダンジョンに挑もうと考えていませんよね?」

「あら?私が考えているのを分かっているから釘を刺しているのでしょ?」


まったく、この我儘姫は・・・初めて会った時の気弱な姫の方がまだ可愛げがあったのに・・・一体どうしてこんな性格になったのか・・・


「もちろん、今すぐという訳ではありません。私だって国の立場を考えて行動するつもりですし。今は情報が少なすぎますから、ギルドからの情報は常に目を通しています。思ったよりも進んではいないみたいですが」


王族という地位とギルドの創立メンバーという立場もあるため、ギルドの情報は筒抜け状態。それなのに何故彼女がギルドのことを聞いてくるかというと、ダンジョンに行くための駆け引きをするため・・・この姫はそういう勝負が好きなのだ


「・・・ヒュウが今度有給を取ってダンジョンに挑むと言っていました」


ヒュウとはギルド創立メンバーの1人で、俺の仲間。現在は王国の第3騎士団の団長を務めているほどの実力者。・・・俺の左腕とか言われているがそう名乗らせた覚えは無い。


「そう、あの人が出るなら有益な情報が手に入りそうですね。彼が出向いたと知ったら他の国も本腰を入れると思いますから先手を打つのもいいかもしれません」


ヌケヌケと・・・ヒュウにダンジョンのことを話していたことはすでに調べ済みだ。アイツの性格を考えれば面白そうな場所だと考えすぐに行動に移す。この姫は自分がダンジョンに行きたいがためにヒュウを向わせたのだ。本来の目的とは別に・・・・


だが、ヒュウを送ることについては俺も賛成といえばそうと考えている。テオ王国を含めこの世界の大国は未だにダンジョン攻略に有能な者を送り込んでいない。一番の理由は国の戦力が減るということ。現在は協定を結び平和な事態を結んでいるが裏切る可能性が無くなったわけじゃない。だから、各国はにらみ合いをした状態でダンジョン攻略をしている。


別の言い方をすれば、出し惜しみをした状態でダンジョン攻略をしているのだ。だから未だにダンジョンの攻略が上手く進んでいないのは当然と言えば当然だ。


「しかし、彼が出るとなるとこちらの戦力が手薄になるのでは?その辺は大丈夫なのですか?」

「そこまで長期滞在する予定ではないはずです・・・それに今のテオ王国なら問題ないでしょう」


ヒュウの実力は誰もが知っている。あいつがこの国にとって大きな戦力なのは間違いない。だが、彼がしばらくいなくなったからってこの国がピンチになるわけではない。あいつの代わりはいないが、あいつがいなくても国は維持できるほどこの国は成長したのだ。


「ところで才?今日こそ勝たせてもらいますわよ」


朝食を終え、おしとやかに口を拭く姫は悪そうな笑みで俺を見る。彼女が取り出したのはテオ王国の国印が描かれたトランプ。テオ王国を立て直してから4年、姫は政務などで忙しいが時間を見つけては俺や城の使用人たちと一緒に遊んでいる。始めは暇つぶし用にと俺が作った物なのだが、いつの間にか城中の大ブームとなった。


中でも姫が一番はまり、既に彼女と対等に勝負できる者は数える程度しかいない。これまで俺と姫の勝負は530戦中280勝250敗で俺が勝ち越している。もちろん『万能鑑定』無しでの勝負だ。


一度、『万能鑑定』を使って姫と勝負した時、50戦やって全勝してしまったため、以降使用禁止と命令され、勝負を無効とされた。


「今日は学校に行くまで付き合ってもらいますからね」

「・・・はいはい、ご命令とあらば」


俺は諦め、次のスケジュールまで姫の我儘に付き合うことになった。ちなみに姫とはポーカーで対決し、30戦19勝11敗で俺の勝ち越しを伸ばした。


・・・・・・・・・・・・・

王立学校


「マッドシープの毛の品質は土の栄養素によるものだと言われていましたが、ギルドの調査の元、実は土に含まれる砂のように細かい鉱石によって変化することが新たに分かりました。こちらが、実験に銀を混ぜた土を食したマッドシープ、こちらが銅を混ぜた土を食したマッドシープの映像です」


王立学校には子供から大人まで老若男女、人種問わず誰でも通っている。基本的にこの世界では15歳になれば大人として見られ、働くようになるが、まだ勉強したいと考えている人は継続で学校に通うことが出来る。


俺が担当するのは大人の学者向けの講義。主にギルドで調査した内容を発表する授業だ。講義の部屋には偉そうな学者ばかりで、マッドシープの映像を興味深く見ていた。


この情報は5年くらい前に『万能鑑定』で知っていたのだが、特に利用する情報でもなかったため保留にしていた。そして最近になってギルドメンバーが調査して解明されたため、俺が変わりに発表することになったのだ。


・・・・・・・・・・・・・

食堂


「いやー、サイ殿の発表は実に興味深い内容でした・・・まさか、マッドシープがあのような特性を持っていたとは」

「この事実が広まればより品質の高い衣類が開発されるでしょうな」

「ギルドの調査団には本当に優秀な学者が多くいて羨ましいです」


食堂には有名な学者や研究家たちが集まり食事をしている。それぞれが、今日発表した講義の感想を言いながら食事をしている。・・・できれば、静かの食事をしたいがこれも接待の一つだと考え学者たちの声に耳を傾ける。


「現在はダンジョンの方に力を入れているのでおそらく、新たな発見が出てくるかと思いますよ」

「ほぉ、あのエイミィ様がおられるダンジョンですか・・・あそこには謎が多くて実に興味深い」

「しかし、殆どの冒険者達が失敗して戻ってきているそうではないか?神の加護で死なないそうではあるが、失敗した場合なにかペナルティが起こると聞いている」


ダンジョンでは確かに死なないように細工されている。だが、ダンジョンで死んだ場合ですペナルティとして様々な代償が支払われる。


中でも多くの者が恐ろしいと思っているのがスキルのレベルが下がること。この世界ではスキルとはステータスそのもの。スキルあってこそ生活が出来ていると言っても過言ではない。だから、失敗したときのリスクはかなり高いと感じている。


「安全ばかりに気をとられて調査しては十分な情報は手に入りません。冒険者も学者も関係ありません、求めるモノがあるのなら多少リスクを背負っても挑むべきです。多くの偉人達は挑戦と失敗を繰り返してきました・・・だから、我々も挑戦し続けなければならないのです」


俺がそういうと学者達の顔色が変わる。


「そ、そうですよな!我々は学者なのです!恐れをなしたら前へ進めません!」

「そうだ!サイ殿!今度ギルドでダンジョンの調査するときは是非私を連れてってください!」

「抜け駆けするな!お前はポイズントードの毒でも研究していろ!」

「黙れ!引きこもりが!」


食事から一転、衝動は学者達の論争の場になってしまった。


「・・・とりあえず、これで学者側で調査員の補充は出来そうだな」


・・・・・・・・・・・・・・・・・

地天邸


王立学校から戻り、俺の部屋にはギルド本部に負けないくらいの大量の書類が積まれていた。だが、その半分が仕事関係のものではないのがすぐに分かった。


「おいこれって」

「はい、才様のお見合い相手の写真とその資料です」


この世界に来て6年。俺の外見は18歳で停止しているがもう24歳だ。元いた世界なら普通に生活していても問題なかったがここでは違う。16歳で結婚は当たり前、早ければ12歳で嫁入りする子もいる。簡単に言うと俺は婚期を逃しかけていると世間から見られている。


「だから、俺はまだ結婚する気も無いって言っているだろ!」

「仕方ないですよ、才様はこの世界では英雄、加えて大企業と呼ばれているギルドのグランドマスター、しかも貴族で大公の地位にまで昇った実力者。周りから見たらこれほどの大物はいませんよ」


まあ、そうだろうが。別に偉くなりたくて大公の地位に就いたわけではない。始めは貴族からの嫌がらせとかあるだろうから、ある程度の地位は必要だと思っていた。だが放り込まれてくる難題を解決していくうちにいつの間にかこの地位に就いてしまったのだ。当初は俺を邪険に扱っていた貴族たちが今では俺に媚を売ろうとするようになり、パーティの招待だの娘や親戚との見合い話だのが来るようになった。


俺は結婚する気は無いって伝えているのに何故毎日こんなに届くのだろうか。俺はお断りのための手紙を書き始める。


「才様も律儀に返事を書かないで『お断りします』って突っぱねればいいのでは?それくらいの発言は許されると思いますが」

「下手に突き帰すと、相手に不快感を与える。俺は別に縁を切るために手紙を書いているわけじゃないし、これからも友好的な関係は続けていきたいしな」


縁談を持ちかけてくる貴族や商人はどこも有数の実力者たちだ。この人達との繋がりは必ず必要となるのだ。


「では、写真のほうは処分しておきますか?」

「いや、顔と名前は覚えておくから置いておいてくれ」

「・・・かしこまりました」


写真を見ると言った瞬間、彼女は不機嫌そうな顔をしていた。『万能鑑定』を使えば彼女の考えなどすぐに分かるが、友人や仲間には使わないことを決めている。


「何かお手伝いできることはありませんか?」

「そうだな・・・ギルド関係の書類がそこに詰まれているから優先度順に選別してもらえないか?それによってスケジュールを組まないといけないし」

「はい!かしこまりました!」


仕事を頼んだ瞬間彼女は嬉しそうな表情になる。本当女というものはよく分からない。

・・・・・・・・・・・・・・


「いやー、実に有意義な商談でした。これからも良い関係でいましょう」

「ええ、我々もローリン商会と関係も持てて光栄だと思っています」


今日のアポイントメントも終了し、スケジュールに入っていた仕事はようやく終了した。商談でローリン婦人を見送り俺の一日も終了した。


「これで今日の仕事は終わりだな」

「はい、これが明日の予定表です。朝早いのですぐに睡眠を・・・って才様!」


スイから渡された予定表を頭に入れて俺はすぐに私室に戻り書類を読み始める


「またですか!今日こそ寝てもらいますわよ!」

「いや、大丈夫だろ。疲労回復薬とか用意してあるし、今日は比較的体力を使わない仕事だったからまだ余裕がある」

「ダメです!すぐに寝てください!」




才の身近にいる者しか知らない


地天 才・・・彼が重度のワーカーホリックであることに・・・


今回、テオ王国の姫が登場しました。今後は様々な国が本格的に動き出しそうです。

ちなみに才の一日最低勤務時間は合計で16時間です。

・・・神の加護で疲労知らずなのでこの仕事をこなせます。

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