38話 挑戦者が来るのでフロアボスがスタンバっていました
10階層
『うぉおおおおおお』
巨大な金棒を振るうのはジャイアント・・・つまり巨人族。8mを超える巨体によって冒険者たちが次々と吹き飛ばされるが後衛の魔導師による『エアクッション』によってすぐに体制を整える。
このダンジョンで戦闘を繰り広げたことによってヒュウを含め冒険者たちのレベルは大幅に上昇した。平均して30半ばだった冒険者のレベルはすでに40を超えている。身体能力、魔力、スキル、連携、それらが上がったことにより、目の前にいる巨人にも臆すること無く立ち向かえていた。
「前衛撤退!デカイのを打ち込むぞ!ガカロ流!紅氷拳!」
ヒュウの武器が紅色の氷に覆われまるで巨大な手甲のように巨人の腹を直撃させた。
それは氷塊のミサイルと言えよう。紅色の氷が散るのと同時に巨人も仰向けに倒れこむ。
巨大な地響きと共に光の粒子となって消える巨人を見ると、冒険者たちは歓声を上げて騒ぎ出す!
「すげー!さすがヒュウ様!」
歓声をあげる冒険者たちだがヒュウは息を荒くしてドロップアイテムを見た。
「・・・予想していたがこれはヤバイな」
9階に到着したヒュウ一行。
ドロップアイテムもだいぶたまり、冒険者たちにもドロップアイテムの武具を装備させ強化をした。そのおかげもあってか巨大なモンスターとの戦闘でも被害を大きくせずに攻略を進められた。
だがモンスターとの連戦、宝という誘惑に仕掛けられた罠、複雑な構図となっている迷宮。
いくらベテランの冒険者や歴戦の戦士でもその疲労は隠せなくなっていた。
「8階からもそうでしたが、巨大モンスターと遭遇する率が高くなっていますね・・・大群では無いのが幸いですが」
そう、8層から巨大モンスターとの遭遇が頻繁になってきていた。これまでも、巨大蛙、巨大猪、巨大蛇・・・どれも巨大がつく魔物ばかりだ。決め手が先ほどの巨人族・・・
「・・・おそらく、もうすぐでフロアボスなんだろう。明らかに遭遇するモンスターに統一が見えている」
「では、フロアボスというのは」
「おそらく、巨人族かそれと同等な巨大魔物だろうな・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
管理室
「やはり、気付きましたね」
「まあ、巨大モンスターばかり遭遇しているからそう考えるのが普通かな・・・そういうヒントを含めてポップモンスターは巨大モンスターばかりにしてあるし」
管理室でヒュウたちの攻略を監視している俺とタマモはいつも通り彼らからのデータを採取していた。冒険者がどれくらい成長したのか、どう戦って魔物を倒しているのか、実に面白いデータがとれている。
「このペースなら明日か明後日ぐらいには11階層に到着しそうですね」
「そうだな、グラムにもそろそろ報告するか」
11階層、フロアボス・グラムの初の挑戦者となるんだ。ここで脱落されると正直こっちが困る。
「・・・それが、コウキ様。グラム様は3日前からすでに11階層で待機しているそうです」
「は?最近見かけないと思っていたらずっと待っているのか?」
よく、ゲームとかでボスの部屋に入るとボスが挑戦者を待ち構えていたり華麗に登場したりするシーンがある。グラムにも冒険者に対して待ち構えていたように演出するように伝えていたが早すぎだろ。
「グラム様の部下から聞いたところ、『筋トレした状態で待ち構える!』と言っていたらしいので、おそらく三日三晩ずっと筋トレをしているのかと・・・・」
それを聞いた瞬間俺は無言でグラムに連絡を入れた・・・映しだされるのは汗でテカりながら踊る筋肉・・・もとい、グラムの腹筋
『フン、フン!冒険者よ待っていたぞ!この肉体美を見よ!』
どうやら、筋トレしながら冒頭のセリフの練習をしているようだ
「グラム、何をしている」
『コウキ様!冒険者はあとどれくらいで来ますかな?儂張り切ってしまい、11階で待機しているのですが』
「アホか!最前線組はまだ9階に入ったばかりだ・・・今のペースを考えても速くて明後日だ!」
『なんと、では儂の3日間はいったい・・・・』
「ただの筋トレタイム!アホ!・・・張り切るのはわかるが、もう少し落ち着け。子供じゃないんだから」
そうだな・・・まるで遠足を楽しみにしている子供が前日にお菓子を詰め込んだリュックサックを背負うような状態だな。
『申し訳ございません!急いで仕事に戻ります!』
「ああ、10階を突破しそうになったら連絡を入れる。その時まで休んでいろ・・・万全な状態で挑むようにな」
『は、お心遣い感謝します』
そう言って、グラムとの連絡を切り、なんとか休ませることに成功させた。
「グラム様は戻られましたか?」
「ああ・・・そういえば、タマモたちが考えたトラップは実装させたがどんな感じだ?」
「はい、冒険者たちは見事に引っかかりました」
・・・・・・・・・・・・・
とある下層フロア
洪水トラップ
「ぎゃああ・・・助けてくれ!」
「鎧が重くて・・・・ぶくく」
ミミックトラップ
「お、宝箱発見・・・『ガブ』・・・ぎゃあああ!腕が!俺の腕が!」
フラッシュ&落とし穴トラップ
「目が!・・・目が!・・・・『ヒュ!』・・・うぁあああああああああ」
トリモチトラップ
「『ベチョ』・・・うぉ!脚が動か・・・ぎゃあああ・・ゴブリンが!」
蜘蛛の巣トラップ
「・・・・・・・・・・・・・(何も話せない状態)」
・・・・・・・・・・・・・・・
管理室
「意外とえげつないな」
「そうでしょうか?コウキ様がお考えになった罠の方が掛かる率が高いですよ」
キョトンとしたタマモは黒い笑顔を見せながら下層フロアの冒険者たちの断末魔を楽しそうに見ていた。
この娘の将来が心配になってきた
「最前線組、落盤トラップを突破し安全エリアに到着しました」
どうやら、あちらの方は大丈夫そうだな
「それじゃあ、俺は仕事に戻るからタマモ後の管理を頼む」
「かしこまりました」
・・・・・・・・・・・
仕事部屋
仕事部屋に入るといつものようにエイミィが鼻歌歌いながら何かプログラミングをしていた
「エイミィ、頼んでいたやつ『スキャン』は終わったか?」
「あ、コウキ。うん今やっと終わったよ・・・ものすごい情報量だったわよ」
エイミィには才から貰った『鑑定辞書』を『スキャン』する作業にとりかかってもらった。
『スキャン』とは【ゴッドスキル:迷宮創造】の能力の一つで物の情報を読み取りコピーする能力。主にダンジョンにドロップするアイテムなどを登録するために使われる能力である。その代わりスキャンしてコピーしたモノはオリジナルと比べて劣化が出る。
今回、俺はエイミィに頼んで『鑑定辞書』をスキャンしてもらい、ダンジョンに『鑑定辞書』を登録してもらったのだ。
「でもこれ、そうとう魔力を消費するよ。あまり量産向きの代物じゃないね」
「ああ・・・『鑑定辞書』そのものは量産しないよ・・・一部だけを作るんだ・・『情報編集』で新しいアイテムを作る」
『情報編集』とは『スキャン』と同じく【ゴッドスキル:迷宮創造】の能力でスキャンしたデータを元にアイテムの見た目や能力、性能を変えることができる能力。ダンジョンの構造を変えるのもこの能力だが、最近になってアイテムも編集できることに気付いた。もちろん劣化データを元に作るためオリジナルより性能が良いモノは生み出せない。
俺は早速モニターを操作して『鑑定辞書』の情報を見た。複雑なプログラムの羅列をみて一瞬立ちくらみが起きたがすぐに読み取り作業にとりかかる。
「なるほどな・・・これが見た目データで、こっちがスキルとの連動コード・・・ならこっちをコピーして・・・」
俺の作業を不思議そうに見ているエイミィだが、彼女は俺の邪魔をせずただじっと見ていた。
「よし出来た!」
俺が『ITEMIZE』と表示されたボタンを押すとメモ帳のような紙束が出現した。
「光輝、これ何?」
「攻略メモ・・・これにモンスターの情報やダンジョンの情報を記して貰って、ドロップアイテムに登録する」
「ああ・・・なるほど」
俺の意図に気付いたのかエイミィも納得の表情を見せた。
そう、このメモは冒険者の攻略本の1ページとも言える物になる。これらを集めることで冒険者たちはダンジョン攻略を進めやすくする。さらに・・・・
「こっちは図鑑だな・・・鉱石専用、モンスター専用とかに分ければ魔力の消費もそこまで多くないし」
図鑑はメモよりも魔力消費は大きいが、これはコレクター魂に火をつけるアイテムになるだろう。
俺が手に取ると今まで鑑定していたモンスターたちの情報が載り始めた。もちろんダンジョンに出現するモンスターも全て記されている。
「スゴイスゴイ、これならもっとダンジョンに挑もうとする人が増えるよ!」
「そうだな・・・よし、さっそくメモの内容とか考えよう」
その後、俺とエイミィはダンジョン攻略の内容を考える作業にとりかかる・・・
俺達は時間を忘れ、タマモから10階層を突破しそうになったと連絡が入るまでずっとメモの内容を書いていたのだ。




