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ダンジョン作ったら無理ゲーになりました(旧)  作者: 緑葉
第三章 街合宿編
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33話 バカを殴ったら裁判になりました

『コウキ様!大変なんです!助けてください!』


マリーからの急な連絡で一度混乱したがすぐに返事をする。声からしてかなり興奮状態になっている。いつも落ち着いた彼女にしては珍しい。


「まず落ち着け。何か起きたんだ?」

『はい、実はモーランという男がいきなり私を買うとか言い出して。それに怒ったテスラが殴り飛ばしてしまって・・・今警備のヒト達が集まってどうしたらいいのか』


・・・うーん、なんかやばそうな雰囲気だぞ。


「分かった、ジョージとワイトを呼んですぐに向かう。場所はどこだ?」

『市場の衣服エリアにいます』


俺は急いでジョージとワイトに連絡を入れる。仲間のピンチということで2人ともクエストや職場を投げ出してやってきてくれた。


・・・後でトーマスさんとオッチャンに謝らないとな


・・・・・・・・・

市場


「だから、そっちがいきなり襲ってきたのだろ!」

「黙れこの犯罪人が!」


市場に着くとなんか思っていた以上にやばそうな雰囲気だった。兵達が武器を構えてテスラたちを囲んでいる。服装からしてギルドの警備兵ではない、おそらく専属の兵士なのだろう。外には豪華な衣服を着た男性が腫れた顔を抑えながらテスラを睨みつけている。こいつがおそらく例のモーランっていう男だな。


「あ、あのすみません!そのヒト達の関係者です。何があったのか詳しく教えてください」


俺に気が付いたマリーたちは安心したような顔を見せ俺は彼女達に近づいた。


「あの、詳しい内容を教えてもらえませんか?彼女達は俺の連れなんです」

「彼女達は重罪人だ、貴族に手を上げるとか死刑ものだぞ」


俺が質問すると、兵の中で隊長らしき男が出てきた。


「重罪人?・・・何故です!確かに彼女は暴力行為を行ったでしょうが、それには理由があって!」

「理由は逃亡のためだろ?モーラン男爵は万引きしようとした彼女に注意したところ、そこの大柄な魔人に殴り飛ばされた」


っは?万引きだと?マリーの話と全然違うじゃないか?


「嘘よ!そこの男が急に私たちが万引きしたとか言い出して、『金払うから奴隷になれ』とか言い出したのよ!それでテスラが怒って!」


マリーが叫ぶが隊長は呆れた目で彼女を見る


「魔人風情が!貴様の言葉などに惑わされんぞ・・・お前達すぐに連行しろ!」


隊長が命令すると警備兵達が彼女達を取り囲み連れて行こうとする。どうやら、完全にこっちが悪となすりつけようとしているな。


「・・・まあ、まて警備隊長殿、少し彼と話をさせてくれ」


隊長を止めたのは左頬が物凄く腫れた男、モーラン男爵だ


「君、彼女・・・マリーが連れだと言ったね。私はモーラン・ドーバ男爵だ。私が出す条件を飲んでくれれば今回のことは不問にしよう」


なんだこの偉そうな態度は?後ろにいるワイトの目が青白く光っているのが見えた、おそらくこの男の魂を見ているのだろう。


「・・・条件とは何ですか?」


俺が聞くと、モーランは俺にしか聞こえないようにささやいた


「彼女を私の正式な奴隷として売ってくれ、言い値で買ってやる」


それを聴いた瞬間、俺の中でリミッターみたいなものが解除される『プツン』という音が聞こえた。目の前は真っ白、考えられたのは俺の中にある戦闘系スキルを全てオンにしたこと。


そして、俺はモーランの顔面を思いっきり殴り飛ばす


何のひねりも無く、モーランという豚野郎は店の扉を突き抜け、壁を2枚破り、3枚目の壁にようやくめり込んだ状態で止まる。


俺の腕は真っ青に腫れており、見事に骨折していた。そういえば、グラムの【肉体強化】もオンにしていたな、エイミィに止められていたがまあ仕方ない。


「その腐った口で二度と俺の仲間の名前を口に出すな!この豚が!」


俺が叫んだ瞬間、テスラたちを囲んでいた兵士たちは今度は俺を囲む。


「貴様!何をしたのか分かっているのか!?」


隊長が剣を向けて叫ぶ。流石に限界が来たのか、ジョージとワイトも野次馬から飛び出して怒りをむき出しながら兵士達を睨みつける。


「あらあら・・・随分と派手にやっちゃいましたわね」


野次馬の方から緊張感の無い声がすると急に俺の回りにシャボン玉のような球体が包みこみ、宙に浮かんだ。何がなんだか分からず暴れるが破れる気配が無い。


「ほらほら、コウキちゃん。暴れないの、あとその腕も治さないと」


声の主はオバチャン・・・町長のシャーリー・トレスアールだった。


「皆さん、この場は町長である私が預からせていただきます。あなた達もいいですね?」


オバチャンがそういうと全員が納得したかのようにその場から離れだした。店で気絶しているモーランは警備兵たちに連れて行かれ撤退していく。


野次馬たちが去ったのを確認すると俺を包んでいたシャボン玉が消え地面に叩きつけられた。


「いつつ・・・オバ・・・町長すみませんでした」

「いいのよ、話は大体理解できたから。大丈夫、私はあなたの味方だから」


オバチャンが俺の肩をポンと叩くと右腕の痛みが急に走り出した


「いでええええ!ってかやば、これ骨折だよな!」

「ほら、泣かないの・・男でしょ・・・『リカバリー』」


オバチャンが何か呪文を唱えるとさっきまで真っ青に腫れていた腕は治り、折れた腕も元通りになっていた、だが傷みはまだ残っているため上手く動かすことが出来ない。


「これでよし、あと一時間ぐらいしたら動かせるようになるから。それまではウチにおいで。これからのことを話さないといけないし」


そう言い、俺達はオバチャンに従って着いていくことにした。


・・・・・・・・・

トレスアール邸


「「「本当に申し訳ございませんでした!」」」


女子三人組が頭を下げ俺に謝罪をした。


「結果的にこうなっちゃった訳だし。仕方ないよ」

「ですが、私が騒動を起こさなければこんなことには・・・」


テスラは自分が許せないかのように悔しそうな顔をしていた。


「でも、テスラがマリーを守らなかったら連れて行かれていたんだ。ありがとうなテスラ、マリーを守ってくれて」

「・・・っ、勿体無きお言葉です」

「マリー、あいつらに何もされていないよな」

「・・・はい、テスラがすぐに助けてくれましたから」

「プラム、怖い思いをさせてすまなかったな」

「・・・少し、怖かったですけどテスラ姉さんがいたから平気でした」


三人それぞれに言葉をかけ一度リラックスさせた・・・・さて、これからどうするか。


「・・・少しは落ち着いたかい?」


丁度その時お茶を運んできたオバチャンが入ってきた


「はい・・・それで、俺達これからどうなるのですか?」

「そうだね・・・モーラン・ドーバ男爵。・・・あまり言い噂は聞かないけど妙な騒動は起こしていないから気には留めていなかったけど、まさかマリーちゃんを買おうとするなんてね」


男爵、貴族の爵位の中では最下位だけど貴族は貴族、最悪テオ王国と敵対する可能性もある。


「おそらく、コウキ君とテスラちゃんに裁判官がやってくるだろうからそれまではここにいて頂戴。私の方からも何か出来ないか相談してみるから」


裁判か・・・この世界の法律を知らない俺達にとってはかなり不利な状態だといえる。

とりあえず俺達は町長に言われたとおり時が来るまで待機することに・・・


「・・・やるだけのことはやるか」


俺はモニターを開き連絡を取ることにした


・・・・・・・・・・・・・・・


「コウキ・エドワード・カンザキとテスラはいるか?テオ王国裁判の者だ!出て来い」


トレスアール邸を出るとやや立派な服装を来た男性兵士たちが入り口を取り囲んでいた。オバチャンは出て行ったきり戻ってきてはいない、ここにいつまでも留まっているわけにもいかないため、勝手だが出ることにした。


「ああ、俺達だ」

「本人確認のためにステータスを見せろ」


兵士に言われるままに俺とテスラはステータスを見せた


「よし、我々と同行してもらう。拒否権は無い」


そう言って俺とテスラは兵士達と一緒に町の広場に向かった


・・・・・・・・・・・・・・・


広場には大勢のヒト達が集まっている。まるで野外で行う裁判所みたいだ。中央には裁判官みたいな偉そうな爺さんたちが3人いる、そして外側には顔面見事に腫れたモーランが座っている。俺とテスラ両方に殴られたせいでおたふくみたいになっている。


「それでは、これよりモーラン・ドーバ男爵を負傷させた件で裁判を行う」


おいおい、こっちが不利になりそうな件名だな。いきなり不平等な気配がするんだが。


裁判を開始して事態のあらすじを発表される。


市場で買い物をしていたモーラン男爵はいつものように買い物をしている途中、2人の女性と1人の少女を見かけた。


モーラン男爵は彼女たちが物を盗むのを見かけ、注意したところ大柄な女性・・・つまりテスラがいきなり殴りかかり二人を連れて逃亡しようとした。しかし、男爵の部下達が囲み逃げ場を封じた。


もう1人の女性が仲間らしき人物と連絡を入れると、新たに3人の男たち、俺、ワイト、ジョージのこと、がやってきた。


そして、男爵は寛容な交渉で盗んだ商品を買えば不問にすると言ったが、男(俺)が受け入れようとせず殴ったということ。



・・・・この話は二回目だがさらに話しに装飾されているな。


「意義あり!その話は全く持って出鱈目です!」

「静粛に!コウキ・エドワード・カンザキ、この話はその場にいた者たちから聞いたもの。それでも嘘だと申すのか?」


あの貴族!やっぱり買収しやがったな!


「その話は嘘だと断言します」

「では証拠はあるのか?」


不適な笑みを見せるモーラン・・・この男、絶対地獄を見せてやる。


「町長のシャーリー・トレスアールなら証言してくれます」

「現在、トレスアール町長・シャーリー・トレスアールとは連絡が取れない状況。そのため、この場に彼女を召喚することはできない。加えて、シャーリー・トレスアールは事件現場には居合わせていなかったため、彼女の証言では証拠不十分」


あの野郎、まさか町長にまでなにかしでかしたのか?・・・だが確かに、あの人が言っても物的証拠が無い。あるのは俺とテスラが殴ったという事実


「それでは罪人、コウキ・エドワード・カンザキとテスラは貴族に仇なす国家反逆罪として死刑と判決を・・」


・・・うわ、これはマジでヤバくないか?・・頼むから間に合ってくれ


「その判決に意義あり!」


野次馬の方から男性の声が聞こえた瞬間、女性達の黄色い悲鳴が響く。そして、野次馬の癖に統率の取れたような動きで一瞬で道を作り出した。


道の奥には褐色肌で体格の良い青年が堂々と歩いてくる。そして、隣にはニコニコしたトレスアール町長の姿があった。


「まさか・・・あなたは」


裁判長も驚いた様子で彼を見る・・・どうやら間に合ったみたいだ


「お前が、社長の言っていたコウキって奴だな。俺はテオ王国、第3騎士団団長のヒュウ・ガカロ・・・まあ、サイの仲間と言ったほうが分かりやすいかな」


才が以前言っていた、有給取ってダンジョンに挑む仲間とは彼のことか。


「ほれ、社長から送られてきた資料だ。モーラン男爵の汚職の数々が書かれているぞ」

「それで、こっちがモーランが買収した証人と密会していた証拠」


ヒュウとトレスアールさんが裁判長に渡したのは俺がサイに頼んでモーラン男爵のことを調べてもらった資料。そして、あの男の証拠写真は・・・


『コウキ様、ご無事でしょうか?』

「ああ、エド。お手柄だ・・・よくやってくれた」


地下33階層、フロアボス兼諜報部門の指揮官・エドワードがタイミングよくモニターから俺に連絡が入った。


エドには偵察としてモーランをつけてもらった。案の定、裁判で何かしてくると思っていたからな、その証拠を集めさせトレスアールさんに渡したのだ。もちろん、俺の仲間であることは伝えているがフロアボスであることは隠してもらっている。


「あ・・あああ」


モーランは絶望した様子でヒュウを見る。


「モーランさんだっけ?・・・悪いがあんたのことは社長が調べ済みだ。お前の爵位は剥奪は確定している、正式な処罰は姫の前で行うから覚悟しておけ」


おお、なんかかっこいいなこの人・・・


「むむむ・・・しかし、彼らが暴力行為を行ったのは事実、流石に無罪とは・・・」

「そ、そうです!あの達が私を殴ったのは変わらない事実であt『黙れオタフク豚』・・ひぃ!」


ヒュウの両腕に巨大な盾が出現した・・なんだあの武器は?トンファーと盾と剣を合体させたような巨大な武器だ。


「裁判長、資料にも書いてあるがこの男は過去に似たような手口で脅し、庶民の女性達に手を出しているぞ。その時も周りの者を買収した疑いがかけられる」

「テスラちゃんとコウキちゃんの行動もモーランの脅しによる正当防衛だといえるでしょう」


オバチャン・・・正当防衛は少し違う気がするが。だがこれにツッコミを入れたらなんか面倒な気がする。


「・・・判決を言い渡す!コウキ・エドワード・カンザキ、並びにテスラを無罪とする!モーラン・ドンは後日テオ王国にて裁判を再び行う以上だ!」


裁判が言い渡された後、モーランと兵士たちはギルドの警備兵達によって連れて行かれる。おそらく、これからテオ王国に連れて行かれるのだろう。


合宿メンバーたちも判決が言い渡された瞬間、野次馬から飛び出して嬉しそうに俺達に飛び掛った・・・流石にジョージはやらなかったが


「ヒュウさん、ありがとうございます。おかげで助かりました」

「いや構わんさ、俺は社長に頼まれた書類を渡しに来ただけだし・・・面白いものも見れた品」


ヒュウが爽やかに笑うとモニターに映っていたエドを見た・・・まさか気付かれた?


「・・・しかしコウキちゃんには驚かされたわね。まさか貴族に手を上げるとか・・・昔のサイちゃんを思い出すわ」

「ははは、そういえばあいつも王族に喧嘩売ったことあったな・・『全員土下座させてやる!』とか言って、本当に土下座させた時は俺もビックリしたぜ」


え?あの才が?


「さて、トレスアールさん俺は一度ウィリアムのオッサンに顔を出しにいくからこれで」

「ええ・・・ありがとうね」


そう言い残して、ヒュウという男はギルドの方へ向かった


「あの人、凄く強いのですか?」

「強いわよ・・・テオ王国第三騎士団の団長。英雄サイの左腕なんて呼ばれているわ」


左腕?普通右腕じゃないのか?


「サイちゃん、左利きだから勝手にそう言っているの」


あ・・・なるほど


「あの人、ダンジョンに挑むのですか?」

「そうみたい、わざわざ有給まで取って挑むみたいだからね・・・」


ヒュウ・ガカロ・・・俺のダンジョン最初の脅威といえる存在がまさかこんな形で会うとは思いもしなかった。


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