32話 合宿をしたらスキルアップしました
合宿を開始してから2週間が経過しようとしていた。
全員がそれぞれクエストをこなし、スキルレベルも上昇したという報告を受けている。
俺はリビングに置かれているソファーに寝そべりながら全員のステータスを確認していた。マリーが調達した家具も大分揃ってきてリビングやダイニングには彼女によって立派にコーディネートされていた。
とても落ち着く雰囲気になっていて、正直ダンジョンにある部屋よりもいい気分がした。
「どうやら、順調に進んでいるみたいだね・・・でもやっぱり凄いのはワイトのほうだな」
ワイトが伝説の鍛冶師、トーマス・ドゥーリーに弟子入りしてから彼の成長はまさに水を得た魚のようで鍛冶スキルがレベル5から6に上がったらしい。
鍛冶スキルのレベルによって鍛冶師の実力が分けられている。基本的にレベル1,2は単純な研磨作業や小道具を作ることしか出来ない。3,4に上がると初めて鍛冶師として一人前と認められ自分の店を持つことが出来る。そして5,6に入ると巨匠クラス、ユニーク武器とかもこの段階から極稀に誕生するらしい。
ちなみにトーマスは人類最高峰のレベル8らしい。さすが伝説の鍛冶師、圧倒的な差を感じさせられる。そんな人物に眼を付けられるとなるとワイトの成長が楽しみだ。
「コウキさん、朝食の準備が整いました」
「ああ、ありがとう」
キッチンの方からジョージの声が聞こえ作業を一度中断してダイニングに向かった。この部屋もテスラの作業のおかげで立派な場所になっている。所々細かい彫刻が施されていてとてもおしゃれだった。
ダイニングにはジョージしかおらず、プラム、テスラ、マリーの女子三人は今日は休暇として朝早くから買い物に出かけにいった、外食もしてくるそうで帰りは遅い。女の子だけで少し心配だが、何かあったらすぐ連絡するように伝えてある。たまにはこういう日もあっていいのかもしれない。
「本日はトーストサンドにトレスアール様から頂いた野菜のサラダです」
そうそう、あのオバチャン・・・トレスアールさんにワイトのことでお礼を言いに行ったら『町長として当然のことをしただけよ』と言われて初めてあのオバチャンが偉い人だと知った。
只者じゃないとは思っていたがまさかこの町の町長だったとは・・・なんで、門番のバイトなんかやっていたんだ?
「いただきます・・・美味いな。ジョージ、また腕を上げたんじゃないか?このサンドイッチについているソースとかメッチャ合うよ」
「ありがとうございます・・・それはトレスアールさんの旦那さんから頂いたレシピで作った物です」
ああ、そういえばあの人の旦那さん確かゴリランチっていう有名な食堂の店長だったな。料理とかも上手なんだろうな。・・・久々にあそこのラーメン食いたいな。
「なぁ、ジョージ昼は空いているか?」
「申し訳ございません、この後クエストで出かけないといけないのです」
そうだった。女子三人は休暇だけどジョージは修行のために大量のクエストを受けていた。今日もクエストのために出かけるようだ。
「そうか、クエスト頑張れよ」
「はい、ありがとうございます」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
午後
冒険者ギルドのクエスト報告も終わり、懐が少し暖まった俺は久々にあのラーメンを食べに行こうと思った。
「あら?コウキさんこれからお昼ですか?」
「ええ、これからゴリランチに行こうかと」
「そうなのですか?コウキさんもすっかりあそこのファンになったのですね」
まあ、確かに一度あの味を覚えたらまた食べたくはなるな。
「ええ、でも最近クエストばかりやっていたので行っていなかったのですよ」
「そうなんですか・・・なら、行ったほうがいいですよ。最近あそこの味また一段と美味しくなったので。特に麺・・・あのコシは今までに無いくらい素晴らしい歯ごたえです!」
ラーメンマニアのミルさんがそこまで言うならかなり期待が出来そうだ。
「そうですか、じゃあさっそく行ってみます」
「いってらっしゃい」
・・・・・・・・・・・・・
ゴリランチ
前回もそうだったが相変わらず、物凄い人気だ。以前は外に並べられている椅子が満席程度だったが、今回はその3倍くらいの人が並んでいる。
「うわ・・・コリャ、長くなりそうだ・・・だけどここまで来たんだし、食わないと」
店の前には相変わらず今日のメニューが殴り書きされた看板が一つ置かれていた。だが、今回違ったのは、店員の人が後ろのほうに並んでいる人にメニューらしき紙を配っていた。
「こちらがメニューですのでご覧ください」
店員から渡されたメニューを見ると以前よりも料理のバリエーションが増えている。
サラマンダーチャーシューと溶岩塩ラーメン
オークチャーシュー麺
マンドレイクの山菜ちゃんぽん
カグツチ産、妖怪婆ソバ
角兎肉の餃子
・・・よし、オークチャーシュー麺と角兎肉の餃子。
これしかない・・・てか、これしか本当に食える気がしない
それから一時間以上が経過してやっと俺の順番が回ってきた。
「へい、いらっしゃい!ご注文をどうぞ!」
相変わらず元気のある店長・・・町長の旦那さんの声が響く
「オークチャーシュー麺と角兎肉の餃子」
俺が軽く注文すると『豚チャーシュー1、餃子1』と店員の声が響き、他の店員たちの相槌か響く。本当、元気だよなここ。
「へい、おまち。オークチャーシュー麺に角兎肉の餃子!」
それから10分ぐらい経過してカウンターから運ばれる料理から漂うにおいに脳が刺激される。だが、それ以上に衝撃だったのが料理を出したのがゴリラだったこと・・・
「ジョージ、何してんだ?」
獣人族・ゴリラ種のジョージが手ぬぐいを巻いた状態で料理を運んでいた。イケメンゴリラのような強面のジョージがラーメンを作っている姿は意外とサマになっていた。
俺に気付いたジョージは動揺を隠せず俺を見てきょどりだす。
「なんだい?ジョージの知り合いか?」
「店長・・・は、はいそうです」
俺を見た店長・・・オバチャンの旦那。この場合オッチャンだながニヤリと笑いながら俺を見た。以前見たときは後姿で巨体なのは分かっていたが近くで見ると迫力ある男性だ。
虎髭に肥満体系のようなややマルッとした身体だが、腕や足の筋力は半端ない・・・引退した傭兵みたいな外見だ。
「どうも、ジョージの仲間のコウキって言います」
「ああ、シャーリーの言っていた兄ちゃんか」
シャーリーってあのオバチャンの名前か・・・
「はい・・・ジョージは調理ギルドのクエストか?」
「はい。ここのアルバイトとしてやっています」
「ジョージの腕はいいぞ。アルバイトとして雇っているがウチにとっては即戦力だ。このままウチで雇いたいほどだ」
それは少し困る。ジョージが強い意志で働きたいのなら別だがジョージにはダンジョンに店を構えて欲しいのだ。
「店長、その話はお断りしたはずです」
どうやら、既にジョージは断っているみたいだ。
少し安心した。
「なんだ、お前ほどの料理人だったらすぐに俺の跡継がせられるのに」
おい、オッチャンそれは心許しすぎだろ。ワイトといい、合宿メンバー本領発揮しすぎ。
「ゴリラ種のジョージのゴリランチ・・・名前的にピッタリだね」
「だろ?俺もコイツが来たときにビビッと来たんだ」
オッチャンも嬉しそうに話しているが今は仕事中、俺も話をしていたいがラーメンが伸びてしまうのですぐに食べる。
うん、上手い。
オークの肉って普通の豚肉と変わらないんだな。たしか、ダンジョンにいるあいつらからも肉を落とすから今度料理してもらおう。
角兎肉の餃子も独特な風味を持っているが結構いける。
結局、餃子はお代わりして俺はジョージたちに一言声をかけた後に店を出た。
・・・・・・・・・・・・・・
「ふー食った食った。しかし、ジョージの奴があそこでバイトしていたとは・・・そういえば以前似たクエストあったな」
ジョージの料理上達の理由も理解できたし今後もあそこで料理の腕を磨いてくれれば嬉しいものだ。
そんな時、マリーから連絡が来た
『コウキ様!大変なんです助けてください!』
・・・なんか、面倒なことが起きそう




