30話 出会ったので弟子になりました
ワイトの捜索事件が解決してから翌日、俺とワイトは鍛冶ギルドのギルドマスターであるトーマス・ドゥーリーの部屋にいた。
他のメンバー達には自分達が受けたクエストをこなしてもらっている。
トーマスの部屋はまさに職人の部屋といいたくなるくらい質素な部屋で仕事に関係なさそうなものは殆ど無かった。壁にはいくつかの立派な武器が並べられている。おそらくトーマスの作品なのだろう。
「それで、本題に入る前にもう1人この話し合いに参加させてもらってもいいでしょうか?」
「構わないが儂は一度決めたことは最後までやり通す男だ。どんな奴が相手でもその子を弟子にするぞ」
トーマスは何か勘違いしているのか、俺がワイトの弟子入りを反対していると思っている。
俺はモニターを操作してゾアと連絡を取る
「ゾア、今大丈夫か?」
『コウキさん、ええ大丈夫ですで。昨日話していたワイトの弟子入りの件でしたな』
「・・・ダークエルフだと?」
モニターに映し出されたゾアを見たトーマスは一度目を見開いた状態で驚いたがすぐに冷静に戻った。ダークエルフってそんなに珍しいのかな?
『あんさんが、トーマスはんですな。始めまして、コウキさんの部下、そしてワイトの上司のゾアと申します。今回、うちのワイトがご迷惑をおかけしてホンマ申し訳ございませんでした』
ゾアとは事前に打ち合わせをしており、フロアボスであることは伏せるように言ってある。
「いや、気にすることはない。こちらとしては素晴らしい鍛冶師とめぐり合えたことに感謝しているほどだ」
『そんで、コウキさんから詳しい内容は聞かせてもろうたが、ワイとしては大事な助手を手放さないといけないっちゅう話なんやが』
「気持ちは分かる・・だが、彼の才能を見た瞬間儂はこの才を伸ばしたいと思った。頼む、ホワイトリー君を儂に譲ってくれ!」
なんだこの、娘を嫁に出す父と交際相手のような話は
「・・・これを見てもらいたい」
トーマスが取り出したのはワイトが打った5本のアイアンソード。一本だけは形が異なっており、禍々しい形をしている。
「これはホワイトリー君が打った剣だ。どれも名剣と言っても過言ではない剣だ・・・そして・・・」
トーマスはアイアンソードを手に取り、部屋に飾ってある剣を取り出すとワイトの剣でたたきつけた。
鉄と鉄のぶつかる鈍い音が部屋に響くと、ワイトの剣が砕けた。
あれ?こういうパターンだとワイトの剣が勝つ流れじゃないのか?
「・・・見よ儂が半年かけて打った剣が一日・・・しかも素材は屑鉄で作った剣によって傷が入った」
確かにトーマスの剣を見ると刃の一部か欠けてしまっている。
「この剣は儂の中でも最高傑作の部類に入る・・・だが、その剣にホワイトリー君の剣が傷をつけた・・・この意味がどういうことか分かるか?」
『・・・剣を弁償しろと?』
「違うわ!」
分かってはいるが、この緊迫した空気をどうにかしたいために一発のボケをかますゾア。そしてトーマスはしっかりとツッコミをしてくれた。
「儂の半年間がたった一日に傷をつけた・・・それだけこの剣は素晴らしいってことだ!」
「・・・でも、折れたのは僕の剣です」
お、さっきまで黙っていたワイトが少し悔しそうな表情で言った。
「当たり前だ・・・この剣の素材も儂がかき集めた貴重な素材で作った物だ・・・だが、もしこの剣の材料が屑鉄で無ければ・・・」
まあ、傷だけじゃすまなかっただろうね。トーマスはそう考えると凄く悔しそうに自分の剣を見ていた。
『・・・ワイト、君はどうしたい?』
ゾアが話をワイトに振ると彼は急に固まった
「・・・僕は」
口ごもるワイト。まあ、だが最終的に決めるのはワイト自身だ。ワイトがやりたいようにさせればいいと思った。
「僕はもっと鍛冶の勉強がしたいです・・・ゾアのところでも沢山のことを学べるかと思います。でも、僕は色んな人から知識を得たいんです。そしていつかこの技術でコウキさんの役に立ちたいのです」
ワイトの本心を聞いた瞬間、ゾアは少し寂しそうな顔をしたがどこか安心した様子でもあった。
『ちゅうわけや・・・トーマスはん、うちのワイトよろしゅう頼みます』
「こちらこそ、感謝する。いつかあなたと直接会ってお礼をしたい」
直接ね・・・ダンジョンの地下22階層まで行けば会えるぞ。
「そういうわけで、俺からもワイトのことをお願いします」
「ああ・・必ず立派な鍛冶師にしてみせるさ」
俺とトーマスが固く握手をした後、トーマスとワイトはさっそく作業場に向かい、俺はクエスト報告のためにギルドに向かった。
ちなみにワイトの納品クエストだがトーマスが品質が高すぎるという理由で別の剣をこっそりと納品させたのは俺達だけが知っている秘密だ。
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ギルド
「はい、確かに薬草ですね。こちらが報酬の2000Eと前払いした料金です」
薬草は既に俺のアイテムポーチに入っていたので、特に外に出て探しに行くことも無くクリアできた。ワイト捜索のために薬草を探している暇など無かったし。
クエスト報告をすると、俺のモニターから料金が加算され、『クエスト』と書かれた欄が消えた。どうやら、クエストを終了すると消える仕組みになっているようだ。
クエストの報告が終了した後、俺は適当に納品クエストをいくつか受け入り口まで戻った。
「あら?コウキさんもうクエスト終わったのですか?」
受付嬢のミルさんに呼び止められ少し雑談をすることになった。この人、仕事はまじめだけど暇なときはかなりマイペースなんだなと思ってきた。
「ええ、といっても簡単なクエストなのでそこまで収入は無いんですけどね」
「ふふ、コウキさんならすぐに上級ランクまで上がると思いますよ。なんたってあのダンジョンから戦利品を持ち帰った1人なんですから」
まあ実際は俺がアイテム化させて持ち込んでいるだけなんだけどね。冒険者としての実力は初心者中の初心者なんだが。
「そういえば知ってます?鍛冶ギルドのギルドマスターのトーマスさんが弟子を取ったそうですよ」
「トーマスさんってそんなに有名なのですか?」
ドワーフだし、見た雰囲気もまさに職人って感じのオッサンだったし、ギルドマスターなんだから腕は相当なはず。
「有名も何もうちのグランドマスターの武器や数々の英雄が持つ武具を作ったのあの人ですよ」
うわ・・なんだこの定番な展開は。大物だとは思っていたがかさか伝説の鍛冶師だったとは。普通弟子入りするのって俺のポジションじゃないのか?
「グランドマスターが英雄になって、その知名度は爆発的に上がって、弟子入りしたい人たちが星の数・・・でも、誰も弟子を取らなかったそうよ」
「そんな人が・・・なんでこんな所の鍛冶ギルドのギルドマスターに?・・・あ、失礼」
俺の疑問を聞いた瞬間、彼女がジト目で俺をにらむ・・・ちょっと、可愛いと思った。
「確か、ギルドの本部ってテオ王国でしたよね。普通、そんな凄い人だったら本部で作業しているんじゃないんですか?」
以前、マップで確認したがここトレスアールからテオ王国までかなりの距離がある。簡単に行き来できるような距離ではない。
「確かにそうですね。以前は王都にいたのですが、トレスアールが流通の中心地になってからはここに移動してきたそうです」
なるほど、確かにあの市場とか見たら必要な物は大抵手に入りそうだ
「王都でも流通は盛んなのですが物価の高さと大抵のものが貴族達が買い漁ってしまうこともあってなかなか回ってこないと、会った時愚痴っていましたね」
「なるほど・・・それだけ有名な人の弟子となるとかなりの実力者なんでしょうね」
「そうなんです!何でもまだ子供なのに目の前でユニーク武器を作ったのです!」
そういえば、工房にいた鍛冶職人たちがそんなこと言っていたな。
「ユニーク武器って?」
「知らないのですか?!ユニーク武器とは武器の中でもレア中のレア武器。普通鍛冶師はスキルを使って武器を作ります。ですが鍛冶スキルが一定以上に上がるとユニーク武器という特殊能力が追加された魔武器が極稀に作れるようになるのです。しかも、作る人によってデザインが変わるため、他の人が真似して同じものを作ることは不可能なのです」
なるほど、だからあんなに驚いていたのか・・・ってことはあの禍々しいアイアンソードにも特殊能力が付いているのかな?
「ユニーク武器を持っている人はかなり限られているので冒険者にとっては喉から手が出るほど欲しがる物なのですが・・・・」
そういうと、怪しそうにミルさんが俺を睨む
「ほ、ほら、俺ノフソの森出身だし、そういうことあまり知らないんですよ」
世間知らずをアピールしてその場を誤魔化す。
「コウキさんも、冒険者である以上ユニーク武器を手に入れることは目標の一つにしたほうがいいですよ。優れた冒険者にはそれなりに見合った武具が必要なのですから」
確かに、俺の装備ってダンジョンからアイテム化させたローブと杖だけなんだよね。まあ、ダンジョン産だしそこそこいい武器なのは間違いないのだが。しかし、ユニーク武器か、確かにそういうの聞くと手に入れたい気持ちにはなるな。
「そうですね、いつか手に入れたいですね」
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別荘
「そうですか、ワイトはギルドマスターの弟子入りを」
「それじゃ、ワイト君合宿が終わった後もここに残るの?それは寂しいな」
ジョージが作ってくれたシチューを食べながら合宿メンバーにワイトのことを伝えた。以前の料理と比べたら味のクオリティーは上がっているのが分かる。おそらく、クエストで料理スキルを上げたのだろう。
「まあ、弟子入りしたからと言ってずっとトーマスさんのところにいるわけじゃないさ。合宿期間中も基本的にここから通うことになっているし、終わった後も暇を貰ってダンジョンに来ることになっているから」
「しかし、あのワイトにそれほどの実力があったとは。さすがゾア様の助手ですな。ですがそれだとダンジョンやゾア様の秘密が漏れてしまうのでは?」
ジョージの懸念は尤もだ。ワイトはしっかりしているとはいえまだ子供だ。もしかしたら何か滑らせてしまう可能性もある。だが、多分大丈夫だろう。あのトーマスさんも口は堅そうだし例え知ってもそれを広めるようなことはしないだろう。
それとゾアの武器は機械や近代兵器を用いた戦術。助手のワイトにも一通りの技術は教えている。もし、ワイトが鍛冶師として近代兵器を生み出したらゾアの戦い方を攻略されてしまう可能性が出る。それ以前に戦争の道具として量産されたら問題になる。
「一応、ワイトにも釘を刺してある。ゾアも『ダンジョンのことは漏らさせんで』と言ってたから何かあるんだろう」
「なるほど、それでしたら安心ですね。あいつが立派になって戻るのが楽しみです」
「・・・・・」
皆が楽しそうに食事をしている中、1人だけ食事が進んでいないメンバーがいた。
「どうした、プラム?スープ口に合わなかったのか?」
スープを眺めながら上の空状態のプラムに話しかけると電気ショックを与えられたかのように体が反応した。
「い、いえ。とても美味しいです・・・・」
ワイトが弟子入りしたことを伝えたとき一番喜んでいたのは彼女だ。ワイトが外の世界に興味を持っていたのは以前から知っていたらしく、ある意味ゾアの次に彼のことをよく知っているのは彼女なのかもしれない。
「寂しいのか?」
「・・・寂しいというよりも、悔しいです。私ももっと上手くなりたいのに。ワイトに先を越された気分です」
プラムに同意する合宿メンバーたち。確かにここに来て色々と知識を吸収しているため彼らが成長しているのは間違いない。だが、優秀な人の下で勉強するのと独学では大きな差が生まれる。
やることはそれぞれ別だがそれでもお互いに競争意識は持っていたのだろう。
「まあ、そういうのは縁だな。今回ワイトはトーマスさんという縁を得て弟子入りした。お前達にもいつかそういう縁があるかもな」
そして、数日後合宿メンバー2人目に新たな縁が生まれるのだった。




